【ライブインタビュー】きいやま商店のライブは本当に「シャレオツ」だったのか?
とある調べによると、2018年公開映画の満足度ランキング1位は『ボヘミアン・ラプソディ』だったそうだが、12月15日にヒューリックホール東京できいやま商店のライブを観た人であれば、2018年満足度No.1ライブは<10th Anniversary きいやま商店 シャレオツLIVE>で決まりだったのではないか。
「お客さんに楽しんでほしい」という思いを自ら追い越して「いつの間にやら自分たちが楽しんでしまっている」彼らの生き方こそ、そこにいるだけで笑みが溢れてくるという穢れなきエンタテイメントの源泉なのだろう。「幸せの伝道師」とでも表現すべききいやま商店の立ちふるまいは、あらゆる人々を「ああ、楽しかった」という笑顔で明日への活力を引き出し、まるで音楽で身体を満たすデトックスのような心地よさを提供してくれる。
彼らは、ライブが終わったあとも会場口まで姿を表し、長蛇の列をなしていたファンの人たちと握手やハイタッチを交わし、ひとりひとりと笑顔の談笑を重ねた。握手会もファンサービスの一環と言われればそれまでなのだけど、まるで友達と会話を交わすように、キラキラとした眼で握手会をも楽しんでいる。屈託のない彼らの笑顔はどこにいようと一切変わらない。そしてきいやま商店のファンは、そんな彼らが好きで仕方がないのだ。
▲左からリョーサ、だいちゃん、マスト
さて、12月15日@ヒューリックホール東京のワンマンライブがどれだけ楽しく素敵なひとときだったのかは【ライブレポート】きいやま商店、<シャレオツ>公演が大成功「10周年の賜物、それが今日です!」でお伝えしたとおりだが、ひとつだけ腑に落ちない点もある。ライブタイトルには「シャレオツLIVE」と銘打たれていたわけだが、あれは本当にシャレオツだったのだろうか? 普段とは違う衣装に身を包み「シャレオツ!」と本人たちは言い張っていたものの、「おしゃれだった」「素敵だった」というファンの声は見当たらない。
2017年、東京ワンマンライブをEXシアターという六本木の地で行うことで「シャレオツLIVE」と名目を掲げてしまい、そのまま後に引けなくなった感もあるが、2018年「シャレオツ」の真偽を問うべく、握手会が終わった彼らを直撃、話を聞いた。
──10周年を祝したライブ、最高に楽しかったですね。
マスト(Vo / G):いつもとは違ったねー、衣装が(笑)。
──シャレオツってことで?
リョーサ(Vo / 三線):靴も履いていたし。
マスト:長ズボンと長袖ってのが、いつもとは違うんで。
──普段Tシャツなのに長袖を着ると、楽器とか弾きにくいでしょう?
リョーサ:そうそう、三線って長袖だと滑るんですよ。
──滑る?
リョーサ:腕で挟むんですけど、そこが滑って、めっちゃ弾きにくい。
だいちゃん(Vo / G):へえー。
──完全に失敗じゃないですか(笑)。
リョーサ:ぶはは、いやいや袖をめくればよかったんですけどね。
──MCで、あの衣装は「お友達に作ってもらった」と言っていましたね。
だいちゃん:僕らが考えるとダサくなるんで、友達におまかせしたんです。
リョーサ:あれね、全部刺繍が入っているんですよ。
──え、そうなんですか?マジでオシャレだったんですね。客席には全く伝わっていなかった。
マスト:がはは(笑)、俺らが着てるからかな。さっきお客さんに「おゆうぎ会の衣装みたいだった」って言われた。
リョーサ:メンバーそれぞれで刺繍も帽子も違ったんだけど、大ちゃんが一番良かったって言ってたよ。
──ここまで10年ライブを重ねてきたわけですが、どんな10年でしたか?
リョーサ:曲は変わっていきますけど、この3人は変わらないですよね。
マスト:変わったと言えば、曲が増えてMCが減ったかな。最初はMCだらけだったんですけど、10年もやっていると曲も増えてきて、しゃべるより曲を演奏したほうが良いのかな?とか。
──きいやま商店にとって「いいライブ」とはどういうものでしょう。
マスト:僕らとお客さんが一緒に楽しめた時が、共有できた時かなと思います。
だいちゃん:一体感だね。
──今日は最高でしたね。
リョーサ:はい、もうめっちゃ楽しかったです。
マスト:僕らが楽しんでいるとお客さんも楽しんでくれるのは間違いないです。
リョーサ:そうそう、俺らが緊張していると、その緊張がお客さんに伝わるしな。
──え?きいやま商店も緊張するんですか?
マスト:舞い上がったりすると、ふわふわしたりするかな。
──プレッシャーはなさそうですね。
リョーサ:そうですね、結成した当初から「僕ら、ドリフターズみたいになりたいねー」って言っているんですけど、そういうのは未だ一度もやったことがないんですよ。これからは、ほんとにやりたいなと思って。数年前からガレッジセールさんと一緒に、よしもとのおきなわ新喜劇の舞台にも立たせてもらっているんです。
──それはミュージシャンとして?
リョーサ:歌も歌いますけど、コントもやらせてくれて、それがもう楽しくて仕方ない。だからもう、自分たちでもやりたくて。今、ドリフターズがやっていたようなことをやっているバンドっていないでしょう?
──音楽の表現力も必要だし、コントセンスも欠かせないとなると、誰でもできるものではないですね。
だいちゃん:ドリフターズもクレイジーキャッツも、音楽をやりながらコントもするけれど、もともとはミュージシャンですよね。ならば、それってきいやま商店でもできるんじゃないの?ってね。逆に今なら新しいかな?と思ったり。
──それが2019年の新基軸ですね?
だいちゃん:できたらいいな。形になればいいなぁ。
マスト:それでツアー回るとか。
リョーサ:とりあえず一回やってみたいですね。やらんと分からないんで。
──それはまた幸せな気持ちになれそうで、とても楽しみです。
リョーサ:あ、その「幸せな気持ち」というのは、お客さん方もよく言われます。それがめっちゃ嬉しくて。
だいちゃん:今日もいっぱい言われたね。
マスト:「元気になった」「幸せになりました」って。そう言われるとやったかいがあったなって思います。
──それがきいやま商店なんですね。
マスト:そうなってきた…のかもしれないね。
リョーサ:僕らが楽しんでやっていることが伝わってね。でも実は、お客さんの顔を見ていると僕らが幸せになるんですよ。
──握手会すら楽しそうでした。
だいちゃん:ひとりひとりの意見がストレートに聞けるので、僕らも楽しいんですよ。
リョーサ:来てくれるだけでありがたいので、もう「ありがとう」ですよ。
ライブ終了後、長時間にわたって握手会をこなしたあとも、きいやま商店の3人は冗談を言い大きな声で笑い、周りを明るく楽しませていた。ポジティブで陽気なパワーは、人の心をじんわりと温め疲れを癒やしてくれる。沖縄の石垣島に降り注ぐ太陽のパワーをそのままお客さんに振り注ぐようなきいやま商店は、新元号時代を象徴する新たなエンターテイメント・ミュージックの水先案内人になってくれるかもしれない。
取材・文:BARKS編集長 烏丸哲也