【インタビュー】イトヲカシ、「王道の音楽を作りたい」
抜群の歌唱力を持つボーカリストの伊東歌詞太郎と、ギター、ベース、キーボードと多彩なスキルを持つ宮田“レフティ”リョウによる音楽ユニット・イトヲカシ。2017年9月にメジャーデビューをし、2017年6月には1stフルアルバム『中央突破』を完成させるなど精力的な活動を続ける彼らが、11月3日に新作『アイオライト/蒼い炎』をリリースし、オリコンデイリー4位を記録した。
◆ミュージックビデオ
「アイオライト」は山﨑賢人と広瀬アリスによるW主演映画『氷菓』の主題歌、「蒼い炎」は週刊少年ジャンプの人気漫画『ブラッククローバー』のTVアニメエンディングテーマという豪華タイアップ両A面シングルだ。ライブハウス生まれインターネット経由路上育ちの2人組のBARKS初登場を記念して、音楽的な観点から彼らの活動を遡っていった。ふたりの音楽に賭ける熱い想いの断片を感じ取ってほしい。
◆ ◆ ◆
■普遍的で、100年先も200年先も残るものを作りたい(宮田)
――もともとおふたりは中学のときに同じバンドを組んでらっしゃったんですよね。
伊東歌詞太郎(Vo/以下、伊東):はい、そうです。とは言っても2回ライブをして解散してしまったんですけどね(笑)。学園祭でライブをするためにコピーバンドを組んで。学園祭の前に秋葉原のライブハウスで企画ライブをしたんです。
――中学生でライブハウスデビュー、おまけにそれが初ライブだったんですか。驚きの経歴です。
宮田“レフティ”リョウ(B&G&Key/以下、宮田):他校に僕が仲良くしていた同い年のギター少年がいたんです。彼がライブハウス事情に詳しくて、「あのライブハウスは自分でイベント持ち込みできるから」と…。当時の僕らは「企画ライブって何!?」というところからで(笑)。
伊東:いま考えるとどこのライブハウスでも持ち込み企画はできるんですけどね(笑)。彼は中学生のなかでは抜群のギターの腕を持っていて、本当にすごいやつだったんです。彼に相談をしていくうちに「バンドを組んだらまずは企画ライブをしたほうがいいんだな」と思ったので、初ライブも「ライブハウスデビューだ!」と意気込んでやったわけではなかったんですよね。企画ライブにはクラスメイトや同じ学年の生徒たち、その保護者の方々まで、200人くらい来てくれました。そのあとに学園祭でライブをして、そのバンドはパッと解散しました(笑)。
宮田:彗星のごとく解散したね(笑)。初ライブはライブハウスに出入りするきっかけになる出来事でした。
――そのときはもうおふたりは真剣に音楽をやっていくモードだったのでしょうか。
伊東:僕はなぜか、何かきっかけがあったわけでも、誰かに憧れていたわけでもなく、物心ついたときから「歌を唄って生きていく」と思っていたんですよね。だからバンドを組んだのも、そのあともバンド活動をしていたのも当たり前の流れだったんです。
宮田:僕も小学校6年生くらいで「キーボーディストになる」と言っていたんですよね。だからふたりでバンドを組んだ中学生のときには、音楽を目指す夢は固まっていたというか。楽しいことを早い段階で見つけられたのはラッキーだったなと思います。
――イトヲカシとして活動を始める前、伊東さんは下北沢系のギターロックバンドを、宮田さんはミクスチャー系のロックバンドを組んでらっしゃったんですよね。当時のおふたりの交流はいかほど?
伊東:シーンが全然違ったので対バンすることはなくて、年に1回くらい連絡を取って「最近何してるの?」「バンドやってるよ」「どんな感じ?」という話をするという感じでした。
宮田:やっぱり彼(伊東)の活動は気にはなっていましたね。友達のバンドが彼のバンドと対バンをしたりもしていたし、ホームページを覗いては「頑張ってるな」と思っていて。そういう感じの距離感でありながら、たまに会ってどこに発表するでもない曲を作ってみたり。
伊東:そうこうしていて、お互い当時やっていたバンドが同じ時期に解散することになって。
宮田:どちらからともなく連絡を取り合ってご飯に行って。そこで「せっかくふたりとも音楽をやってきたんだから、なんでもいいから何かやってみようよ」という話になって、いまに至る…という感じですね。
――畑の違うバンドを組んでいたおふたりが組んだイトヲカシ。いまおふたりは“王道の音楽”に挑戦しています。その音楽性を固めていったのはどういう流れだったのでしょう?
伊東:質問と少しずれた回答になるかもしれないんですけど…いま僕らは「イトヲカシの音楽性をもっと固めないといけないな」と思っている段階なんですよ。ふたりとも「王道の音楽を作りたい」という気持ちはすごくあるので、その王道の音楽をどう表現していくか…それをいま固めなくちゃいけないな、と。
宮田:“王道の音楽”ってめちゃくちゃ漠然としているものだと思うんです。いまの10代の子たちの王道は、大人には全然想像のつかないものかもしれないし、自分たちと同じ世代でも“王道”には細かい違いがあると思うんですよね。このふたりで曲を作っていても感じることもある。だからこのふたりが混じり気なしで「これは王道だ」と思う音楽を探し続けている、という感じです。イトヲカシは発展途上。これからもずっと王道の音楽を見据え続けたいですし、検証し続けたいし、考え続けたいですね。
――ではいまおふたりが思う“王道の音楽”とは?
伊東:ポップスが生まれたのが1920年くらいなので、もう100年くらい経つんですよね。「100年くらい前にもみんなが聴きたいと思っていたもの、これから先の100年もみんなが聴きたいと思う、需要のあるジャンルはなんなんだろう?」と考えたとき、僕はどうしたってそれは“歌もの”だと思うんです。歌は心がこもっていないと意味がないから、それを入れ込むための器である歌詞とメロディは最大限にいいものにしたい。いい歌詞といいメロディを支える編曲はそのうえで存在している。そのピラミッドが作れているものが、王道の音楽だと思います。
――すべてに妥協はしたくないけれど、なによりも大事なのは“心”ということですね。
伊東:「大事にしたいものを輝かせるために、すべてのものが輝いている」という状態が望ましいと思いますね。その優先順位をしっかり作っておけば、僕らが音楽を通して伝えたいことをしっかりと伝えられると思うんです。「何が大切なのか?」ということは絶対に見失わないようにしたい。ふたりでしっかりその話し合いをしながら活動できていると思いますね。
宮田:イトヲカシも作品ごとにアップデートしていて、そのときの全力を詰め込めている。そしてもっと高みを目指せる、もっと本質を目指せる気がしています。普遍的で、100年先も200年先も残るものを作りたい。それが王道の音楽だと思っています。
――昔は音楽を聴く手段が限られていました。ですがいまは様々なメディアが存在し、リスナーが選択する音楽は以前よりも多種多様になり、時代的にも“王道の音楽”が生まれにくくなっている状況とも言えます。
伊東:それが王道の音楽が避けられている原因でもあると思います。でも、10歳の子が「いいな」と思って、その60年後にも「いいな」と思える音楽は、どの時代にも必ず一定数存在するんですよね。とはいえその一定数は本当に僅か。相当本物じゃないと残れないし、そこに挑戦するのはすごく難しい。それはわかっているんです。けど、僕らは全然それに対して諦める気はない。
宮田:うん。みんながみんなThe Beatlesになれるわけじゃない。でもそこを目指していくのが、僕らがミュージシャンとしてやりたいことなんですよね。
伊東:むかしは360度いろんなところから頂上に登れていたとは思うんです。でもいまその頂上に登るための道がないかというと、そうではないと思うんですよね。だからその入り口を見つけられていれば、頂上に登るための頑張りはいつの時代も変わらないんじゃないかなって。だから折れずに、諦めずに、しっかりと歌を伝えていきたいですね。
宮田:山を見ちゃったら頂上まで登りたいし、山を登って頂上に到達した大先輩の後ろ姿をたくさん見てきた。そこを辿る人がいなかったら音楽は伝承されていかないし、先輩たちから受け継いだバトンをちゃんとつないでいきたい。だからその高みを目指すのは、やめられないですね。バカ真面目にそこに突き進んでいくだけです。
◆インタビュー(2)へ