【インタビュー3/4】グラハム・ボネット「レインボー編」
2017年3月に来日公演を行ったグラハム・ボネット・バンドへのインタビューの第3回(全4回)。今回はグラハムが1979年から1980年にかけて在籍したレインボーについて語ってもらおう。
◆グラハム・ボネット画像
レインボー時代に参加したアルバムは『ダウン・トゥ・アース』(1979)のみだったが、その驚異的なボーカルは鮮烈なインパクトをもたらした。マイケル・シェンカー・グループ、アルカトラス、そして最新アルバム『ザ・ブック』へと繋がる栄光の軌跡は、ここから始まったといえる。
グラハム、ベス=アミ・へヴンストーン(ベース)、コンラド・ペシナート(ギター)、ジミー・ワルドー(キーボード/アルカトラスのオリジナル・メンバー)、新加入のマーク・ベンケチェア(ドラムス)が同席したインタビューで、グラハムの熱弁が冴える。
──グラハムは2016年にリッチー・ブラックモアがレインボーを復活させたことについて、あなたは「レインボーを再結成するよりもディープ・パープルと仲直りするべきだ」と語っていましたが、その発言にはどんな真意があったのでしょうか?
グラハム・ボネット:リッチーがロックに戻ってくるんだったら、レインボーではなく、ディープ・パープルが彼の戻るべき場所だと思うんだ。彼が世界の音楽リスナーに最もよく知られているのは、ディープ・パープルのギタリストとしてだからね。レインボーを名乗っても、彼は固定したラインアップで長期間活動したことがないから、新しいレインボーに飽きたら、また別のラインアップでレインボーを作ることになる。そうすることでリスナーは食傷してしまう。「またかよ」となって、レインボーの伝説そのものが薄れてしまうんだ。それよりもディープ・パープルの仲間たちと和解して、オールド・ファンのためにステージに立つべきだと思う。
──なるほど。
グラハム・ボネット:中途半端な形でレインボーをやるぐらいだったら、ルネサンス・ミュージックだか何だか知らないけど、嫁さんとやっている音楽を続けた方が良いと思う。リッチーはジェスロ・タルとか、そういう音楽が大好きだからね。彼は1979年当時からレインボーもそういうバンドにしたいと考えていたんだ。彼は俺に「君がギターを弾いてくれ。私はチェロを弾くから」とか言って、そういうタイプの曲を書き始めていたんだ。だからリッチーがブラックモアズ・ナイトで心から演りたい音楽をやっているのはわかる。でも、たまにロックンロールが懐かしくなることもあるのかもね。とはいってもリッチーが嫁さんと一緒に「アイズ・オブ・ザ・ワールド」をやる姿は考えられないから、新しいバンドを組む必要があったんだろう。
──あなたはレインボーに加入してハード・ロックのボーカル・スタイルに順応しましたが、髪型は順応することなく長髪にすることを拒絶したそうですね。それは何故でしょうか?
グラハム・ボネット:俺はずっと俺であり続けたんだ。レインボーに入ったからといって、自分の歌い方を変えたりはしなかった。ヘヴィ・メタルというとバカみたいな金切り声を上げるみたいだけど、俺はシャウトはしても、そういう歌い方はしたことがなかったよ。元々俺はR&Bを歌うにしても、ソフトに歌うことはなかった。常にロックと共通するエッジがあったんだ。19歳のときに作った最初のレコードにも、同じエッジがあった。それをそのままレインボーに持ち込んだんだ。ロニー・ジェイムズ・ディオみたいに歌うこともなく、自分らしく歌った。ロニーみたいに歌おうとしたって出来ないからね。自分のスタイルをまったく変えていないのに、突然“ハード・ロック・シンガー”扱いされるようになったのは困惑した。俺は“シンガー”、それだけだ。どんなスタイルの音楽でも、俺らしく歌うしかないんだよ。
──レインボーは「シンス・ユー・ビーン・ゴーン」と「オール・ナイト・ロング」がイギリスのナショナル・チャート上位に入り、最大の“ポップ・バンド”のひとつでもありました(それぞれ全英チャート6位、5位。なお1981年にはジョー・リン・ターナーが歌う「アイ・サレンダー」が3位となる)。
グラハム・ボネット:うん、当時のチャートは多様性が許されていたと思う。ABBAもいればレインボーもいる、健康的なシーンだったよ。俺はマーブルズの「オンリー・ワン・ウーマン」をヒットさせて、ポップ・チャートとは無縁ではなかったんだ。リッチーがその曲を聴いて、俺に声をかけることにしたわけだから。
──一方でレインボーは1980年の第1回<モンスターズ・オブ・ロック・フェスティバル>でヘッドライナーを務めるなど、ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル(NWOBHM)を代表するバンドでもありました。レインボーがヘヴィ・メタルと捉えられることについてはどう思いましたか?
グラハム・ボネット:ヘヴィ・メタルは好きではないし、まったく聴いていなかった。どれも類型的で同じにしか聞こえないし、何もインスピレーションを得なかった。『パートリッジ・ファミリー』みたいなもので、リスクを冒すことがないから、次に何が起きるか簡単に予測できる。俺は音楽から刺激を得たいんだ。そういう意味で、スティーヴ・ヴァイがアルカトラスに入ったとき、新鮮な風が吹き込んできたように感じた。彼はバンドに新しい要素を持ち込んだし、『ディスタービング・ザ・ピース』は刺激的なアルバムだった。実際のところ、ハード・ロックやメタルに限らず、あまり他人の音楽は聴かないんだ。感銘を受けたらコピーしたくなってしまうかも知れないし、そうしたら失敗する可能性が高いからね(笑)。俺はラジオから流れる音楽でなく、自分のハートにある音楽を表現したい。
──1950年代のポピュラー音楽は聴き続けていますか?
グラハム・ボネット:うん、家で聴くのは当時の音楽だ。プラターズやファッツ・ドミノ…リトル・リチャードは最も偉大なロックンロール・シンガーだった。なんて声だ!あれこそが“歌う”ということだよ。リアル・シンギングだ。バディ・ホリー、それからもちろんザ・ビートルズ…。
──1984年1月、アルカトラスの初来日公演ではエディ・コクランの「サムシン・エルス」を披露しましたが、2017年のグラハム・ボネット・バンドでも昔のロックンロールをノーリハーサルでカバーできるでしょうか?
グラハム・ボネット:もちろん。最初に集まったときも、何曲かザ・ビートルズの曲をジャムしたんだ。みんなすぐに弾けたし、今後のライブで突然やるかもね。1984年に中野サンプラザで「サムシン・エルス」をプレイしたのはよく覚えているよ。イングヴェイはあの曲を知らなかったけど、パンクみたいなドラムスを聴いて、「この曲はクールだ」と言っていた。
──ザ・ランナウェイズのシェリー&マリー・カリーが歌う「シンス・ユー・ビーン・ゴーン」は聴いたことがありますか?
ベス=アミ・へヴンストーン:私は聴いたことがあるわ。ほとんど別の曲ね。レインボーの方がずっと良いと思う(笑)。
グラハム・ボネット:レインボーのメンバーの誰もが「シンス・ユー・ビーン・ゴーン」を好きではなかった。みんなレコーディングするのに抵抗していたんだ。いかにもラジオ・ヒット狙いの曲だろ?確かにヒットはしたし、結果として成功はしたんだろうけど、コージー・パウエルは「こんな曲をやるんだったらバンドを辞める」と言って、本当に脱退してしまったんだから。リッチーも嫌がっていた。ロジャー・グローヴァーはアルバムのプロデューサーだったからマネージャーと話をつけて、若干ハード・ロック風のアレンジにすることができたんだ。
──当時リッチーはレインボーをポップ路線にシフトさせていましたが、彼も「シンス・ユー・ビーン・ゴーン」を嫌っていたのですか?
グラハム・ボネット:そうだよ。当時マネージャーだったブルース・ペインのアイディアだったんだ。我々が最初に聴いたのはクラウト(Clout)というガールズバンドのバージョンだった(邦題「恋はあなただけ」)。俺たちにこの曲をやれっていうのか…?と、頭を抱えたよ。結局何とかプレイしてシングルとして発売することになった。
──コージーのレインボー脱退は、「シンス・ユー・ビーン・ゴーン」が引き金なんですね。
グラハム・ボネット:それも理由のひとつだね。ただ、コージーはレインボーでやることにもう飽きていたんだよ。もう何年もやってきたし、バンドは彼の望む音楽性とは異なった方向に進んでいった。リッチーとの人間関係もうまく行かなくなっていたし、別のバンドからいろんなオファーがあった。彼は新しいことをやりたくなったんだ。
──続くアルバム『アイ・サレンダー』にあなたはどの程度関与したのですか?
グラハム・ボネット:「アイ・サレンダー」1曲でバック・ボーカルをやっただけだよ。その時点で他の曲はなかったし、当時住んでいたロサンゼルスに戻ったんだ。もうコージーもいないしレインボーにいても仕方ないと思った。その後、マネージャーから電話があって、バンドに戻って欲しいと言われた。興味がないと答えたら「2人シンガー制にする。君が歌いたい曲だけ歌って、残りをもう1人が歌えばいい」だってさ。…いや、バンドってそういうものじゃないだろ?って思った。今から思えば、もうしばらくバンドに残るべきだったかな。もう1枚、レインボーでアルバムを作るべきだった。それが唯一の後悔だね。
取材・文:山崎智之
Photos by Mikio Ariga
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