フジロックはアウトドア低迷時代の光明だった!?【検証】フジロックが20年愛され続ける理由 ~キャンプよろず相談所編~

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■ 昔は、キャンプ=安い宿泊施設に過ぎなかった部分もあった
■ でも今はキャンプそのものを楽しむ人が増えてきている

──アウトドアの専門家から見て、フジロックでキャンプを楽しむコツは何ですか?

滝沢:まず、調べること。その情報を踏まえて準備をする。何より気象情報は知っておく必要があると思います。あとは、細かいところで言うと、ステージを観に行く時はテントの戸締まりをして、風で飛んでいかないようにペグでしっかり止めてくださいね。良い天気だからと酔って油断して出かけて、夕立に降られて帰ってくるとぐっちょり、なんて悲しいことにならないように(笑)。次に道具。それなりのものをちゃんと買いましょう。安物は値段相応なので、テントを立てている最中に新品なのにポールが折れたりします。普通に立てれば水が漏ることは絶対にないし、多少の雨でも全く問題ない。本来そう作られているのがテントなんですよ(笑)。

──なるほど!

滝沢:ちゃんと張っているのに雨が降って浸水したら、それは道具自体の問題です。フェスの増加に合わせて若い子たちのお財布事情につけこみ、粗悪品を作る業者もいるんですよ。1泊2日だから某量販店で見つけた4980円のテントを一人千円ずつ出し合って買って、帰りは捨てるというのは悪い傾向ですね。あとは、忘れ物をしないように。「調べる」「道具」「忘れ物をしない」さえ気をつければ快適だと思います。

──コツは基本的なことにありそうですね。

滝沢:あとはやはり、経験者と行くのが一番いいと思いますし、経験のない人はSNSなどのツールで経験者に聞けばいいと思うんですよね。他にいいのが、アウトドアショップ。行けば丁寧に教えてくれるはずですから。

──初心者は、そうしたコミュニケーションからもアウトドアに対する気分が高まりそう。

滝沢:山登りだと、上級者〜中級者〜初心者…とヒエラルキー的なものが少しあるけれど、フェスはそんな高みを目指すところじゃないから。わからなければ教えてもらえばいいんです。

──フェスエコも教科書のような存在ですね。

▲フェスエコ最新号


滝沢:今年発行したフェスエコでは、キャンプサイトのマニュアルを英語と中国語でも作りました。よろず相談所に来る外国人のお客さんもすごく増えているんですよ。

──外国人の方が相談に来たとき、言葉の壁は生まれないんですか?

滝沢:ハートです(笑)。こっちも相手も人間力が試されます(笑)。でも、一生懸命やってくれたってことで外国人の方も喜んでくれたり、よくわからない同士で頑張ることで妙な絆が生まれることを楽しみにしてくるお客さんも多い。日本の方も外国の方も、そういったウエットなコミュニケーションができるところがフジロックの魅力だと思います。

──であれば、ひとりでも十分楽しめますね。

滝沢守生:フェスエコでアンケート企画をやったところ、ひとりで来られるお客さんが実際非常に多かったですよ。よろず相談所もありますが、本当に困ったときはやっぱりお互い様の関係が効いてきます。最近、盗難や戸締まりのことを聞かれることが多くなりましたが、周りのテントの人たちとお友達になってください。挨拶がてら一声掛け合うだけでムードが良くなるし、自分が留守の時に変な人が来ても隣人に気付いてもらえる。衆人環視が一番いいんです。もし忘れ物をしても、助けてくれるかもしれない。周囲の人とのコミュニケーションを大切にしながら、自分をもっと楽に置いて、困ったときはお互い様の精神でキャンプもフジロックも楽しんで欲しいです。

──キャンプを楽しむことは、フジロックを十二分に楽しむことに繋がりそうですね。

滝沢:昔は、キャンプ=安い宿泊施設という手段に過ぎなかった部分もあったけれど、今は金銭的な意味ではなく、キャンプそのものを楽しむ人が増えてきています。キャンプサイトでうだうだしているのも含めて会場の雰囲気が好きで、フジロックの全部が楽しいタイプと、このアーティスト死んでも絶対観るみたいな、車中泊でもいいからお金を抑えてでもというタイプがいますが、キャンプサイト利用者では前者が増えています。

──子連れキャンパーも多くなってきましたね。

滝沢:かなりいますね。僕はファミリーサイトを作りたいと思っているんです。お子さんがいるテントの横で、若者たちが夜中まで呑んでいたりすると、少し思うところもあるじゃないですか。フジロックのお客さんには文句を言う人は少ないと思いますが、ファミリーサイトがあればそういった無駄な確執はなくなるし、子連れで参加する敷居も下がるでしょうしね。最近僕らが子連れに薦めているのはムーンキャラバンです。会場からは多少離れますがオートキャンプなので車で乗り入れられますし、苗場プリンスホテルの大浴場も利用できる。ただ、車両の出し入れが出来ないので滞在期間は長くなりますが、ピラミッドガーデンは近いし、平地で快適ですよ。

──滝沢さんが実際にお子様を連れて行ったことは?

滝沢:去年と一昨年、小学校5年・6年の2回、娘を連れて行きました。キッズランドを始め、子ども向けのコンテンツもフジロックにはいくらでもあります。ケロポンズなんかもそう。子どもが退屈なんじゃないかという人がいますが、いやいや、フジロックは子どもが行ったらワンダーランド。夜だってあんなに遅くまで起きてていいんですからね。

──あの3日間だけは特別という親御さんも多いですよね。

滝沢守生:お祭り騒ぎの3日間です。ディズニーランドよりも楽しいんじゃないの? って。つまらない塾の夏期講習なんかへ行かせるよりもお父さんと1週間フジロックへ行った方が学びになると思いますよ。周りにも面白い大人がいっぱいいますしね。とてもいい人生勉強。いろんなことが仕掛けられてはいるけれど、遊園地のように受動的に楽しめるわけではなく、積極的に参加することで主体的に楽しめる仕組みもいいんです。ステージ間も遠いし、エイやって行かないと目的のステージまで辿り着けない。僕らも、代わりにテントを立ててあげるようなことはせず、参加者が自分で立てられるように教えています。サービスではないし、自分でできたという達成感も感じてもらえるでしょうし。あとね、ここでも女の子は積極的に聞きに来るんだけど、男は後ろでぼけーっと見てるだけなんだよね(笑)。

──そういう男性はやだなぁ(笑)。でも彼の本質が見ることができますね。

滝沢:自然の中では人間性が出ちゃう。それも面白いんじゃないですかね(笑)。

  ◆  ◆  ◆

フジロックは、アウトドア低迷時代に見えた光明であったという。誰にだって「自然は大切にすべき」という倫理は備わっているが、それをポーズとしてではなく、“自然と音楽の共生”という哲学を第一に掲げ、実際に活動し、さらには思想を人々にナチュラルに促したのがフジロックだった。

キャンプよろず相談所やフェスエコといった道しるべによって、その精神は確実に浸透していった。参加者側の意識が高まったことで、多くのキャンプ利用者が金銭的な意味ではなく、キャンプそのものを楽しむという現象にまで至ったのである。便利さが行き渡り、日常では自然を相手に悪戦苦闘することもなくなった現在、敢えてフジロックの現場に身をおくことの価値は言うまでもないだろう。

また、今回の取材からは、キャンプという非日常であっても、やはり人間同士のコミュニケーションが安全や快適さに繫がるということを再認識。特に、「隣の人と助け合う」という人間関係における基本中の基本のことを思い出しハッとした。そして、「フジロックでのキャンプは決してキツくない。むしろ環境としては最適」とアウトドアのプロに断言してもらえたことは大きな収穫だ。フジロックでのキャンパー・デビューを躊躇していた人が、それなら参加してみようと第一歩を踏み出してもらえるのではないだろうか。

取材・文=早乙女“ドラミ”ゆうこ、BARKS編集部

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