炸裂する才、プリンス、ライブフィルム『プリンス/サイン・オブ・ザ・タイムズ』日本上陸

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2014年1月より順次全国ロードショーとなるプリンスのライブフィルム『プリンス/サイン・オブ・ザ・タイムズ』から、日本版予告編が公開となった。

◆ム『プリンス/サイン・オブ・ザ・タイムズ』予告編映像

本作は1987年の2枚組9thアルバム『サイン・オブ・ザ・タイムズ』のリリースにあわせて行なわれたヨーロッパ・ツアーを中心に撮影されたライブフィルムで、『パープル・レイン』『プリンス アンダー・ザ・チェリー・ムーン』に続く3作目の劇場映画となるものだ。自ら監督を務めており、ポップで演劇的な要素を持ったパフォーマンスが余すところなく捉えられた作品となっている。シーラ・Eの強烈なドラムワークやセクシーダンサー、キャットのパフォーマンスなど、バックメンバーも多彩で、当時恋人と噂されていたシーナ・イーストンも出演している。

HDニューマスター5.1chで25年振りにスクリーンに甦る『プリンス/サイン・オブ・ザ・タイムズ』は、1987年5月8日のストックホルム公演からスタートした<サイン・オブ・ザ・タイムズ・ツアー>の6月26日~28日オランダ・ロッテルダムと、最終公演となった6月29日ベルギー・アントワープの公演で撮影され、追加シーンはその後、ミネソタにあるプリンスのペイズリーパーク・スタジオで収録されたものだ。当ツアーがヨーロッパ・ツアーのみで来日は果たされなかった為、1989年2月の日本公開時には劇場に数多くのプリンスファンが殺到していたものだ。

当初プリンスはこの映画の製作を予定していなかったが、ツアー開始早々からその音楽とパフォーマンス、更にはパーフェクトに計算されて作り上げたステージが絶賛されたため、急遽映画製作を企画し撮影機材が運び込まれ撮影されたのだという。単純なライヴ・フィルムではなく、冒頭と途中にダンサーやプリンス自身による寸劇を取り入れる事で、アルバムで展開していた世界観が更に掘り下げられることとなったようだ。サウンドトラックのミックスはシーラ・Eが担当している。

1980年代を驚異的な速度で駆け抜けていき、同い年のマイケル・ジャクソン、マドンナと並び正に時代の寵児となったプリンスだが、代表的なアルバムを商業的な側面で『パープル・レイン』、音楽的な側面で『サイン・オブ・ザ・タイムズ』だとするならば、この映画はプリンスの音楽的昇華の瞬間をとらえたものといえるだろう。

前作となる映画『プリンス アンダー・ザ・チェリー・ムーン』の商業的な失敗と、そのサントラとして位置付けられたアルバム『パレード』の販売不振の後、自身のバンドであるザ・レヴォリューションを解散させたプリンスは、2枚組全16曲トータルタイム80分というボリュームを作詞・作曲・演奏・プロデュースほとんど全て自分ひとりで行った。そんな驚異のアルバム『サイン・オブ・ザ・タイムズ』だが、結果的にはセールスも振るわず、その後『ブラック・アルバム』という強烈なファンクアルバムを制作するも発売の1週間前に突如発売中止、方向性の異なる『LOVESEXY』をリリースする。

とは言え、この『サイン・オブ・ザ・タイムズ』は数多いプリンスのアルバムの中でもファン人気は高く、ロック、ファンク、ソウル、R&B、その他あらゆるポップ・ミュージックを独自の解釈で昇華させた不朽の名作として高い評価を得ている作品となった。このアルバムが1988年第30回グラミー賞ALBUM OF THE YEARにノミネートされ、本命視されていたものの惜しくも受賞を逃した時は、「何てことはない、だって僕でも彼等の曲は演奏できるけど、彼らには「Housequake」(アルバム収録の楽曲)は作れないだろ?」と発言したというのは有名なエピソードだ。彼らとは、受賞作『ヨシュア・トゥリー』を産んだU2を指している。

以下は、ライブフィルム『プリンス/サイン・オブ・ザ・タイムズ』への熱きメッセージの数々だ。

「異様(ビザール)な世界を体験(エクスペリエンス)出来、陶酔(トリップ)出来る映画「サイン・オブ・ザ・タイムズ」はまぎれも無い傑作。何度も観た。」――荒木飛呂彦(漫画家「ジョジョの奇妙な冒険」)

「映画オープニングの太鼓乱打から完全にヤられました。」――向井秀徳(ZAZEN BOYS)

「あの時代の暗号(サイン・オブ・ザ・タイムズ)が今解ける!いつ観るかっ? 今でShow!!」――安齋肇(イラストレーター)

「素晴らしい映画が、更に素晴らしい映像と音に!! 何も言う事がありません。ありがとうございます。」――及川光博

●ライブフィルム『プリンス/サイン・オブ・ザ・タイムズ』
新春2014年1月25日(土)より渋谷HUMAXシネマ、吉祥寺バウスシアター、109シネマズMM横浜ほか全国公開
監督:プリンス
製作:ロバート・キャヴァロ、ジョセフ・ルファロー、スティーヴン・フラグノリ
撮影:ピーター・シンクレア
編集:ポール・カイヤット
出演:プリンス、キャット、シーラ・E、シーナ・イーストン、ドクター・フィンク 他
1987年/84分/アメリカ/ビスタサイズ/BD上映

1.サイン・オブ・ザ・タイムズ
アルバムからの1stシングル(全米3位)。前作『パレード』に収録されていた「KISS」を更に進化させたようなシンプルな音の中に組み込まれた、斬新なリズムアレンジとギターのエッセンスが絶妙。没アルバム『クリスタル・ボール』を意識したのか、エネルギー球体のような大きな水晶玉(本編中に度々登場)や寸劇といったアバンタイトルの後、プリンスによるギターサウンドと無機質なマシン・ビートで映画の幕が上がる。劇中でのメンバー皆が太鼓を叩いて登場する演出がクール。余談だが、この曲のビデオ・クリップは歌詞の文字のみで構成されるという革新的なクリップだった。

2.プレイ・イン・ザ・サンシャイン
密室的でシンプルな1曲目からアルバムと同じ曲順で続く、タイトル通り開放的かつ爽快なロック・ナンバー。オーディエンスとのコール&レスポンスが素晴らしい。アルバムよりも映像の方が、プリンスとダンサー達の魅力によって楽曲のパワーが増大し、プリンスのステージの魅力を堪能できる。シーラ・Eのドラミング・パフォーマンスも凄まじい。

3.リトル・レッド・コルベット
インタールード的に1983年の傑作アルバム『1999』に収録された人気曲が続く。プリンスのピアノ伴奏と共にワンコーラスのみ演奏されたこの曲は、当時、MTV史上初めて黒人アーティストのビデオが流れるという快挙を成し遂げた。この曲を終えると、アルバムどおり「SHUT UP ALREADY, DAMN!」というプリンスの掛け声で次の「ハウスクウェイク」へ。

4.ハウスクウェイク
ドラムパターンがとても印象的な、強烈なプリンス流ファンク・ミュージック。まずこの斬新な曲がライヴで再現されている事に驚く。アルバムではプリンスの声を高回転させて(この声が架空のアーティスト「カミール」)収録されていたが、ステージでは通常の声で唄われている。繰り出されるダンス・ビートに思わず踊らずにはいられない。

5.スロウ・ラヴ
ジャジーでアダルトなスローバラード。ステージ上では、一組の恋人が寄り添い、そして分かれ、でも和解するという寸劇が繰り広げられる。演奏最後に、その二人をじっと眺めるプリンス。

6.プレイス・オブ・ユア・マン
結局恋人と別れたキャットがプリンスに色目を使って言い寄るが、プリンスはつれない素振りをするというステージパフォーマンスから唄われるのは、一転変わってノリの良いバンドサウンド。シーラ・Eのドラムからボニー・ボイヤーのキーボードの音色が絡んでくるイントロが最高に恰好良い。アルバムから4thシングルとしてカットされた(全米10位)。自虐的なタイトルとは裏腹に、楽しそうに唄うプリンスの表情も印象的なポップ・ロック・ソング。

7.ホット・シング
前曲「プレイス・オブ・ユア・マン」がシングル・カットされた際、両A面扱いだったこの曲、映画ではその並びが実現された。プリンス節を堪能できるファンク・ロック。プリンスのオルガンソロによるイントロの後、プリンスはジェローム(キャットの正式な恋人役)を呼び寄せ、短い会話を交わす。

「ねえ、ジェローム、彼女が欲しいかい? 僕もだ」 そして始まる「HOT THING!」

タイトルとは裏腹にクールなリズムトラックと、シンセサイザーの不思議なフレーズによる曲。プリンスのエロティックかつ粘着的なダンスも堪能出来る、世界広しと言えども女性ダンサーから剥ぎ取ったスカートを口に咥えてステージを走って許されるのはプリンスだけだろう。

8.ナウズ・ザ・タイム(インストゥルメンタル)
バンドメンバーのみによるインストゥルメンタル。チャーリー・パーカーの代表曲だが、テンポを速くアレンジされている。
メンバー皆のソロは、実はホーン以外のメンバーはアドリブではない。しかし、Dr.フィンク(キーボード)にせよミコ・ウィーバー(ギター)にせよ、あの格好で弾きまくるというのが演奏力を超えて凄い迫力。シーラ・Eの強烈なドラミング・パフォーマンスで楽曲が締めくくられる。

9.ユー・ガット・ザ・ルック
アルバムの中ではDISC-2の1曲目に収録されていたキャッチィなロッキン・ビート・ファンク。シングル・カットされ全米2位を記録、グラミー賞最優秀R&Bソングにもノミネートされた(受賞はビル・ウィザース「リーン・オン・ミー」)ものの、歌詞が人種差別的と非難された。
劇中ではバンドメンバーによるソロナンバー中、楽屋で待機しているプリンスが夢を見るという演出が成されている為、この曲だけ意図的に画質を粗くしている。また、この曲の部分のみシングルのプロモーションビデオも兼ねて製作された為、楽曲同様、当時恋人と噂されていたシーナ・イーストンがゲストヴォーカルで参加したりと豪華な作りになっている。

10.イフ・アイ・ウォズ・ユア・ガールフレンド
アルバムからの2ndシングル。ベッドに寝そべるキャット、その窓の向こうに映るステージ上のプリンス…というドラマチックな映像で始まる。この曲も前述した「カミール」プロジェクトの中核の曲だった。「僕が君のガールフレンドだったら」という屈折した恋愛感情を歌った名曲。何と言ってもステージ最後の、プリンスとキャットのベッド・イン・シーンが演出も含め色々な意味で凄い。鏡に映り込んだ「LOVE」と「SEX」の文字、プリンスのイメージする崇高な愛の概念を表す「LOVESEXY」という単語と共に、次のアルバムのタイトルを示唆していたのだろうか。

11.フォーエヴァー・イン・マイ・ライフ
カメラに向かって「もっとこっちに来いよ」と言ってショーウィンドウの指輪を見せるプリンスに続けて始まる、シンプルなラヴ・ソング。アルバムではドラムマシーンとヴォーカルのみによる構成だったが、ライヴではアコースティックギターのパフォーマンスが加えられている。キーボード&ヴォーカルのボニー・ボイヤー、シーラ・Eなどコーラス陣もステージを盛り上げる。ツアーではこの曲がアンコール1曲目であった。

12.ビューティフル・ナイト
アルバムでのこの曲は、解散してしまった「ザ・レヴォリューション」との「パレード・ツアー」パリ公演からのライヴ録音。映画ではテンポも速くなり、狂喜乱舞とも言えるプリンス達のステージアクションが凄い。宗教儀式のような「ロ~リ~ロ~、オ~オ~」でのオーディエンスとのコール&レスポンスも臨場感たっぷり。プリンスはオーディエンスをコントロールするのが本当に上手い。
シーラ・Eのラップや、途中、彼女と交代(交代する時の二人の仕草がとてもラヴリー)してプリンスがドラムを叩くなど見どころも多い。

13.ザ・クロス
映画のエンディングを締めくくるのは宗教的な歌詞が展開されるハード・フォーク的な曲。
曲の前半は暗く、徐々にヘヴィなロックへと盛り上がって行く。ここでのプリンスのヴォーカルは非常に緊張感があり、シーラ・Eのドラムもまた凄まじい。アルバムでは最後の曲では無く、ツアー中も実は前曲の「ビューティフル・ナイト」がアンコールラストの曲であったが、映画本編でラストに持って来ているという事は、オープニングの「サイン・オブ・ザ・タイムズ」のテーマを引き継いで結んでいるという事なのだろう。

 我々は皆問題を抱えている
 大きいものも 小さいものも
 やがてもうすぐあらゆる問題は
 十字架の力で一掃される

この世界は愛がすべて、これまでの喧騒は不幸な行き違いで、最終的には上手く行くんだと信じたいプリンス。彼の願いが込められた一曲で映画は終わりを告げる。

配給:日販
提供:是空+ハピネット
宣伝:ビーズインターナショナル
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