【ライヴレポート】サカナクション、誠実な音楽作りと未知の感覚を切り拓く挑戦の両面で時代のトップランナーを印象付けたライヴ@幕張メッセ
◆サカナクション、ライヴ@幕張メッセ~拡大画像~
チケットはソールドアウト。2万人を飲み込んだ巨大なホールに漂うざわめきと、10~20代を中心とした行儀の良い音楽ファンがかもし出す空気は、ライヴというよりフェスのそれに近い。そんな、やや雑然とした空気を一気に引き締めたのが、アクアリウムをモチーフとしたイマジネイティヴなオープニング映像と、それに続いて鳴り響いた「INORI」の爆音だった。メンバー5人がPCを前に並列するクラフトワーク・スタイルで、サウンドはキックの四つ打ちを基調とした強力なダンスミュージック。そのまま「ミュージック」へと雪崩れ込み、中間部のブレイクでビートが途切れたかと思うと、次の瞬間に全員が楽器を手にしてバンド演奏に引き継がれるという「早替わり」に大歓声が湧く。ダンスミュージックとバンドサウンドとの接点で刺激的な音を作り出してきた、サカナクションならではの鮮やかな演出だ。
5曲目「ルーキー」までは、ほぼノンストップのダンスタイムが続く。「アイデンティティ」ではサビのコーラス「LaLaLa…」を2万人が大合唱し、それをグリーンのレーザービームが美しく照らし出した。どこかオリエンタルなムードを持つ広がりのあるメロディと、テクノやハウスの作法を取り込んだ踊れるロックが合体し、非現実的な浮遊感覚を催すサカナクションのスタイルは、こうした大会場によく似合うとあらためて思う。
「multiple exposure」から数曲は、アクアリウムにたとえるなら「深海生物」のコーナーだろうか。深いブルーに沈む照明の下で、ミニマルなエレクトロのビートが淡々と続き、時折深呼吸をするかのようにリズムが跳ね上がる。カタルシスの少なさが逆にクセになりそうな、このパートに深く浸ることができたリスナーは、相当にディープなファンだと言えるかもしれない。
深海から上昇してきた魚がゆっくりと海面に近づいてゆくように、やがてリズムが徐々にアッパーな方向へと向かい、12曲目「僕と花-SAKANAQUARIUM 2013 VERSION-」の後半で一気に弾ける瞬間の感激を、何と表現したらいいだろう? 続く「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』-SAKANAQUARIUM 2013 VERSION-」の、オペラチックなコーラスが高らかに鳴り響くと、再びメンバーがPCの前に整列し、祝祭的ダンスタイムの再開だ。夜光虫のように宙を飛ぶ特殊照明、高く舞う銀紙吹雪、そして強烈な重低音が、広いホールをダンスフロアに変える。再び「早替わり」を経てバンドセットに戻ると、あとはラストに向けてひたすらアガるのみだ。
「みんなまだまだ踊れるか!」
山口一郎の呼びかけに2万人が大歓声で応えると、「アルクアラウンド」「Aoi」など、おなじみのシングル曲を連発して一気にラストスパート。「夜の踊り子」では、ミュージック・ビデオにも登場したあでやかな「舞妓ダンサー」が登場し、場内の盛り上がりは沸点に達した。スクリーンに映る山口の顔も、満足感にあふれたいい笑顔をしている。
「ありがとうございました!」
そしてアンコール。オーディエンスに「歌おう!」とうながして始まった「ストラクチャー」で、山口は指揮者のごとく両手を振り上げ、2万人のコーラスを耳にすると「GOOD!」とばかりにサムアップを繰り返す。表情はもちろん満面の笑みだ。
緊張感あふれる本編とは異なり、アンコールではメンバーもリラックスしていて、グッズ紹介や、ツアーを振り返る四方山話などに花が咲く。何か面白いことを言ってやろうとう気取りのない、そこになぜか親しみが生まれる山口の人間性と、彼を中心としたサカナクションの音楽性は、「誠実」と「挑戦」という言葉で結びついているように思う。
「これからも、みんなが新しい体験が出来るようなことに、チャレンジしていきたいと思います」
この日の会場には、ドルビー・サラウンド・システムを導入した228本ものスピーカーを設置。驚異的な立体音像で楽しませてくれたほか、斬新な照明、DJセットとバンドセットの併用など、まさに新しいエンタテインメント体験がそこにあった。夢現の境を漂うような「朝の歌」を聴きながら、誠実な音楽作りと、未知の感覚を切り拓く挑戦の両面において、サカナクションが時代のトップランナーであることは間違いないということだけを、独り静かに考えていた。
取材・文●宮本英夫
撮影●石阪大輔(hatos)
<SAKANAQUARIUM 2013 sakanaction>ファイナル公演
2013.5.19@幕張メッセ
<セットリスト>
INORI
ミュージック
M
アイデンティティ
ルーキー
multiple exposure
mellow
ボイル
アルデバラン
なんてったって春
ホーリーダンス
僕と花-SAKANAQUARIUM 2013 VERSION-
『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』-SAKANAQUARIUM 2013 VERSION-
ネイティブダンサー-SAKANAQUARIUM 2013 VERSION-
アルクアラウンド
アドベンチャー
Aoi
夜の踊り子
EN1.ストラクチャー
EN2.ナイトフィッシングイズグッド
EN3.朝の歌
◆サカナクション オフィシャルサイト
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