【ライブレポート】真の意味でオルタナティブなロックバンド、ヨ・ラ・テンゴ

2013年3月13日(水)ベルリン、ローザルクセンブルク・プラッツの伝統的なホール、フォルクスビューネ(Volksbühne)にてヨ・ラ・テンゴ(Yo La Tengo)のライブを観る。フォルクスビューネは、本当にヨーロッパ文化の伝統を感じさせる、僕の大のお気に入りのホールだ。
◆ヨ・ラ・テンゴ画像

ヨ・ラ・テンゴといえば、「現代のヴェルヴェット・アンダーグラウンド」「USインディーズロックの良心」などと形容される。彼らの音楽にはいつも、繊細で美しいメロディー、よいUSロックが持っている魅惑的なハーモニー、イデオロギー的な主張を持ち得ない現代の風景を描写して、それを美しいものに昇華するような歌詞が完備されている。そして彼らはロック通でもあり、ベルベット・アンダーグラウンド、フェアポート・コンヴェンション、フライング・バリット・ブラザーズ、トッド・ラングレンなどなどロックファンの琴線に触れる名曲をカバーすることを惜しまない。自分たちの聴覚を形成してきたロックやフォーク音楽の伝統に対する深い理解と造詣があって、その上で実験的なアバンギャルドな試みをしている。

20:00開演。第一部のステージはアコースティックなセットで、2012年の最新アルバム『FADE』からの繊細で白昼夢を見ているような珠玉の楽曲がメインのステージ。『FADE』は美しいメロディーとエレガントなノイズ、素晴らしいアレンジが光る、いつまでも聴いていても飽きない名盤だ。この『FADE』のおとなしい曲「Ohm」から始まり、ゆったりしたリズムとアイラ・カプラン(Ira Kaplan)の説得力あるヴォイスがUSアンダーグラウンド音楽の歴史を感じさせる「Two Trains」。2006年『I am not Afraid of You and I will Beat your Ass』からジョージア・ハブレー(Georgia Hubley)が歌う軽快なポップなナンバー「The Weakest Part」、ジェームスのソロ・フォークプロジェクトDumpでMorr Musicからリリースされている楽しいカントリーロック風ナンバー「Slow Down」、1989年10月にアイラとジョージアのフォークデュオで録音、1991年コンピレーション・アルバム『That is Yo La Tengo』や1996年『Genius+Love』に収録されているルー・リード風ポップ「Fog over Frisco」とファン心を気持ちよくくすぐる楽曲が続く。『FADE』からの楽曲に戻って、白昼夢を見ているような瞑想的なフォーク「The Point of It」、ジョージアのニコを彷彿とさせるシックなヴォイスと浮遊するギターフレーズが美しい「Cornelia and Jane」、アルペジオの響きとアイラのヴォーカルの“とつとつ感”が腹の底に響く「I'll be Around」。そして1995年『Electr-O-Pura』からのポップナンバー「Tom Courtenay」がジョージアのメイン・ヴォーカルでしっとりと奏でられ、とてもシックな第一部は終了。
打って変わって第二部のステージでは、アメリカのオルタナティブ・ロックの本領を発揮!2000年の『And Then Nothing Turned Itself Inside-out』からのナンバー「Night Falls on Hoboken」が、第一部のステージがまだ続いているかのような白昼夢から観客を、徐々にゆっくりと気持ちよいノイズ空間へと誘う。2012年『FADE』の「Stupid Things」のフリーキーな閃光のようなギターフレーズとアイラの歌の絡みが、スペーシーなフィーリングを醸し出す。1997年アルバム『I can Hear the Heart Beating as One』からの「Moby Octopad」のカッコいいベースリフにのって、クレイジーな音空間が展開される。2012年のアルバム『FADE』では最もビートが効いたナンバー「Paddle Forward」、1997年のヒットアルバム『I can Hear the Heart Beating as One』からの「Autumn Sweater」では、アイラの転がるようなハモンドオルガンの響きがとても美しい。ジョージアとジェイムスのドラムもとてもファンキーだ。『FADE』のジョージアの力強いドラムと歌が光る「Before We Run」は、バーズやソニックユースの名曲を想起させる。1991年4月ジェームスが加入後の初のレコーディング作品「Artificial Heart」の荒々しいカッティングギターと激しいビート、フィードバックとWall of Soundの嵐。2012年最新アルバム『FADE』から「Ohm」のエレクトリック・ヴァージョンを再演後、2006年『I am not Afraid of You and I will Beat Your Ass』の10分を超えるオープニングナンバー「Pass the Hatchet I Think I'm Goodkind」。ソリッドでミニマルなリフとビートが、スペーシーでフリーキーな美しい空間を構築!
興奮する観客に対して彼らは2回のアンコールで応え、2003年アルバム『Summer Sun』収録のジョージアの浮遊するハスキーヴォイスと、シンプルなギターリフがいいサーフィン風ナンバー「Today is the Day」、エレクトリック・イール(Electric Eel)のぶっ飛ぶようなカヴァーナンバー「Accident」、1997年アルバム『I can Hear the Heart Beating as One』からの牧歌的楽曲「Center of Gravity」を演奏。ジョージアのセピア色の歌声が美しい。そして、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのカヴァー「Who Loves the Sun」、『FADE』のさわやかな佳曲「Is That Enough」がしっとりと演奏されて、約3時間を超える充実したステージは締めくくられた。
個人的には『FADE』で一番お気に入りの楽曲、ブリンズリー・シュワルツみたいな「Well You Better」と、トッド・ラングレンの名曲カバー「I saw the Light」を聴きたかったが、いつまでも聴いていたいような素晴らしいステージであった。過去の音楽の良き伝統を継承しながら、新しい音楽を生み続けている1984年ホーボーケンにて結成されたこのバンドの姿勢は、1980年代という「全ての新しい試みは1960年代末のサイケと1970年代末のパンクで終わったのかもしれない」と感じた中途半端な時代に青春時代を過ごした同世代として、心底羨ましく敬意を感じている。真の意味でオルタナティブなロックバンドだ。
写真:Sebastian Nehen
文:Masataka Koduka
◆ヨ・ラ・テンゴ・オフィシャルサイト
◆Dump(ジェームス・マクニューのプロジェクト)サイト
◆Dump「Slow Down」soundcloud