増田勇一の『今月のヘヴィロテ(6月篇)』

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日々の取材攻勢と締め切り地獄に翻弄されて朦朧としているうちに、いつのまにか訪れていた7月がすでに半分どころか三分の二も消化されてしまっていた。やばい。遅ればせながら、というよりも読者からすれば「なにをいまさら!」という感じかもしれないが、6月にリリースされた新譜群のなかからヘヴィ・ローテーションで聴きまくった10作品のラインナップをご報告しておきたい。

●ドリーム・シアター『ブラック・クラウズ・アンド・シルヴァー・ライニングス』
●キルスウィッチ・エンゲイジ『キルスウィッチ・エンゲイジ』
●ソニック・ユース『ジ・エターナル』
●ダイナソーJr.『ファーム』
●プラシーボ『バトル・フォー・ザ・サン』
●イールズ『オンブレ・ロボ』
●カサビアン『ルナティック・アサイラム』
●マーズ・ヴォルタ『八面体』
●エターナル・ティアーズ・オヴ・ソロウ『チルドレン・オヴ・ザ・ダーク・ウォーターズ』
●ベル・オルケストル『窓景(シーン)』

というわけで、6月新譜もかなり充実していた。ドリーム・シアターの最新作については「収録曲全6曲中、4曲までが10分超」という事実に敷居の高さを感じてしまう人たちも少なからずいるはずだと思うのだが、彼らの大作主義というのはあらかじめ設定されたスタイルではなく、表現上の必然。そんなことを僕は改めて感じさせられた。実は僕自身も中学生時代などは“5分以上もあるような長い曲”はそのサイズだけを理由に“聴かず嫌い”していたところがあるし、今でも“意味もなく長い曲”は好きじゃない。が、“作風はポップだけど誰でも3分で作れそうな曲”ばかりが詰まった消費用ポップ・アルバムよりも、密度濃い長尺曲が並んだ作品のほうがずっと体感スピードも速いし、ある意味、聴きやすい。3枚組スペシャル・エディションにはクイーンやレインボー、キング・クリムゾンなどのカヴァーが並ぶボーナス・ディスクも付いてくるが、こちらも実に興味深い。この作品は確実に年間ベスト・アルバム10選に名前を連ねることになるだろう。

プロデューサーにかのブレンダン・オブライエン(パール・ジャムからAC/DCまで)を迎えて完成されたキルスウィッチ・エンゲイジの新作も充実していた。スタイルそのものはとうに確立されているバンドだけに、音楽性の劇的変化はないし、ひとことで言えば“らしいアルバム”なのだが、その“らしさ”が過去最高の次元まで研ぎ澄まされた状態で凝縮されているという印象だ。6月11日、パリで観た最新ライヴ(改めて言うまでもなくDIR EN GREYとのダブル・ヘッドライン公演)が超強力だったことも付け加えておく。

旧世代USインディというか、オルタナティヴの創始者たちの新作にも素晴らしいものがあった。言うまでもなくソニック・ユースとダイナソーJr.のことだ。前者はサマーソニックで観たいところなのだが、出演時間帯がカヴァレラ・コンスピラシーと重なってしまうのが残念なところ。後者はフジ・ロックに出演予定だが、同じ頃、僕はD'ERLANGERの台北公演を観に行っているはず。例によってフェスの季節は、こうした取捨選択に普段以上に悩まされることになるわけだ。で、やっぱり新作がとても良かったプラシーボもサマーソニックに出演するわけだが、これはなんとか観られそう。考えてみればこのバンドももうヴェテラン。初めて日本に来たときの初々しさが懐かしいな。リンキン・パークのチェスター・ベニントンは「俺にとってプラシーボはレジェンドなんだ!」なんてことを言っているそうなので(日本盤の帯叩きにもこの発言が引用されている)、今回、彼らと出演日も出演ステージも同じであることを喜んでいるに違いない。

イールズは結果的に平静を取り戻したいときのBGMになっていることが多かった気がする。普段は過剰に刺激を与えてくれるマーズ・ヴォルタも、この作品に限ってはむしろそんな感じ。カサビアンは、いい意味で“普通に”良かった。正直、もはや過剰反応してしまうような斬新さは感じないのだけども、それはおそらく僕の耳が慣れてしまった証拠であり、このバンドが“信頼のブランド”であることの証しだろう。しかしボーナス・トラックとして収録されている「ラナウェイ」(悲しき街角、といったほうが馴染み深いか)には不意打ちを喰らわされたけども。

エターナル・ティアーズ・オヴ・ソロウは、北欧フィンランド産の、メロディック・デス・メタル・バンド。そしてベル・オルケストルはアーケイド・ファイアのメンバーらによるインストゥルメンタル・プロジェクト。どちらも音楽的にはまったく違うけども、共通しているのは“美しさ”。気に入ったもの同士を強引に結び付けようとしているわけではないが、僕はどこか“これみよがしではない美しさ”に惹かれるところがあるのかもしれない。

これら以外に無条件によく耳にしたのが、ダニエル・メリウェザーの『ラヴ&ウォー』。我が家のCDプレイヤーを独占していたわけではないのだが、6月前半、欧州出張中にラジオでよく流れていたので、自然にあの歌声が耳に馴染んでしまったのだ。ドイツでもオランダでも、ラジオでは80年代のヒット曲ばかりが流れていたが、そんななかに違和感なく溶け込んでいたのが彼の楽曲だった。売れるのも納得、という感じだ。

というわけで、もはや夏本番。暑い日々が続いているが、そんな僕の毎日をさらに熱いものにしている『7月のヘヴィロテ』は、これから2週間以内にかならずお届けするつもりだ。チープ・トリック、チキンフット、デッド・ウェザー、デヴィルドライヴァーなどなど、7月も本当に豊作で嬉しいかぎり。8月にも、いろいろと美味しいものが控えているのでお楽しみに。

増田勇一
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