【ライブレポート】PIERROT×DIR EN GREYの“月戦争”「ピエラーも虜も関係ねえんだよ!」PIERROTワンマン公演開催も発表
“丘戦争”と呼ばれた2017年7月の衝撃的ライヴから7年。戦いはまだ終わっていなかった。火蓋が切られた最期の戦い–––<ANDROGYNOS - THE FINAL WAR ->。果たして、最終決戦の行末は…。
◆PIERROT / DIR EN GREY ライブ写真
1990年代後期にメジャーデビューし、シーンで人気を二分する存在だったDIR EN GREYとPIERROT。それぞれ独自の世界観を強く放つバンドゆえ、信奉者とも呼べる熱狂的なファンを増やし続けた。DIR EN GREYのファンは虜、PIERROTのファンはピエラーと呼ばれ、双方は過剰なまでに意識しあって、ついには敵視にも近いライバル視をする関係でもあった。
そんなファンたちに戦慄が走ったのは2017年。<ANDROGYNOS - a view of the Megiddo ->、<ANDROGYNOS - a view of the Acro ->という2日間に渡るPIERROTとDIR EN GREYのジョイントライヴが2017年7月に神奈川・横浜アリーナで行なわれるというものだ。長年、実現など不可能だと思われていたPIERROTとDIR EN GREYの初のジョイントライヴ。しかも、すでに解散したPIERROTが<ANDROGYNOS>のために復活する。天変地異の大事件である。ピエラーと虜の双方とも、胸の高鳴りと期待感を抑えるのは不可避。ちなみにライヴのサブタイトルは、PIERROTの「メギドの丘」、DIR EN GREYの「アクロの丘」が元になっており、このジョイントライヴは“丘戦争”とファンの間で当たり前に呼ばれることになった。
そして迎えた2017年7月、PIERROTとDIR EN GREYが繰り広げる全身全霊のライヴ、相手のファンに寄せることのない己を貫くステージだった。それを体感した虜もピエラーも、ただただ狂喜乱舞するのみだ。20年近く前に双方のファンにあった壁や緊張感もすっかり薄れ、互いにリスペクトし、ファンの間でも破壊的融合が起こっていく。多幸感が充満する横浜アリーナでもあった。
それから7年後の2024年に、DIR EN GREYとPIERROTが二度目となるジョイントライヴ<ANDROGYNOS - THE FINAL WAR ->を、国立代々木競技場 第一体育館で開催することを発表。奇跡が再び起こるのだ。初日である10月11日のサブタイトルが<- under the Blue Moon ->、2日目の10月12日が<- under the Red Moon ->。DIR EN GREYの「蒼い月」、PIERROTの「朱い月」という曲名から付けられたものだろう。今度は“月戦争”であり、ライヴタイトルが示すように最終戦争となる。
その一夜目、<- under the Blue Moon ->の開幕を告げる映像とSEが流れるなか、TAKEO(Dr)、KOHTA(B)、潤(G)、アイジ(G)、キリト(Vo)が姿を見せると、狂ったような歓声が会場内を飛び交った。左目に十文字メイクを施し、軍帽をかぶり、黒いコートを羽織った、この世界を我がモノにする独裁者のようなキリトが、腕をあげた瞬間だった。軍旗がはためくスクリーン映像をバックにPIERROTがまず食らわせたのは「自主規制」。さらに「Adolf」や「MAD SKY -鋼鉄の救世主-」が続くステージは、ピエラー全員を狂信者へと一気に変貌させていく。全盛期から何年経とうが、一人ひとりのDNAに記憶された曲ごとの振付けは絶景も生み出す。
「キ××イのみなさん、狂ってますか! 虜ちゃん、元気? かわいい~ね。今日は最高に楽しんで、気持ちいい戦争しましょう」
序盤こそストイックに演奏に入り込んでいたメンバーだったが、ここからは激しいライヴパフォームでも絡んでいった。潤とKOHTAが並んで前でヘッドバンギングを決めたと思えば、今度はアイジと潤が向かい合わせになってリフを刻む。それでいて演奏が破綻することはない。PIERROTらしいプログレッシヴなアレンジとフレーズを散りばめながらドラマも作っていく。しかもエネルギーが炸裂するものから切ないバラードまで、ストーリー性も感じさせながらライヴを展開していった。その様は、PIERROTとして長いツアーをやってきた末のツアーファイナルを思わせる仕上がり。これが約7年ぶりのPIERROTのステージなのが信じられない。
「帰ってきたぞ! 時代を超えて狂ってますね、いいね。こんなにキ××イのみなさんが、令和の時代に隠れてたんですね。たまには出てこないとおかしくなっちゃうんで、今日みたいな日は暴れちゃってください」とキリトが煽りながら「CREATURE」に突入すると、マイクスタンドを叩きつけ、グニャリと曲がったスタンドを構え、吠えるように歌い、叫ぶ。曲が続くなか、KOHTAの肩に手をまわして歌ったり、アイジの肩に手を置いて優しい歌声も響かせていく。それら一瞬ごとの全てがピエラーを発狂させ、感動させ、涙させる。こんなシーンを再び観ることができた喜びも会場に充満していた。ラストに「SEPIA」を披露するPIERROTだが、ファンにとって一生、セピア色の思い出にはならない貴重なライヴとなった。
PIERROTに続いて、19時50分、ジョン・ウェイン・ゲイシーの画像や手配写真がスクリーンに映った。“殺人ピエロ”との異名を持つ連続殺人鬼である。流れるSEも恐怖心を煽りたてる不穏な響きのなか、薄暗いステージに、怪しげな光と共に浮かび上がったのはShinya(Dr)、Die(G)、Toshiya(B)、薫(G)、京(Vo)だ。客席の遠くからでも視線をとくに奪うのは、京の異様なオーラだった。ライヴ写真で確認できると思うが、普通からは激しく逸脱したメイクや姿で、観た者にトラウマを植えつけるほどのインパクトである。
DIR EN GREYの登場に歓喜の大歓声が巻き起こるが、DIR EN GREYが響かせたのは喜びではなく、絶望、悲哀、不条理、怒り。ステージ後方の巨大スクリーンには歌詩の世界や情景をフィードバックした映像も映し出され、その前でシルエット状に浮かび上がった5人がエモーショナルに展開する。アーティスティックであり、壮観だ。虜はもちろん、ピエラーも圧倒されるばかりだった。
観る者を曲の世界に叩き落とすライヴだったが、DIR EN GREYが3曲目に用意していたのは「T.D.F.F.」。『鬼葬』に収録されていた「The Domestic Fucker Family」を再構築したナンバーである。さらに続いたのは『MACABRE』からの「脈」。初期の匂いを放つライヴ・ナンバーを、今のDIR EN GREYの激しさや猟奇的なエネルギーと共に轟かせると、発狂したように食らいついていく虜たち。そして、バラード「Ranunculus」からは心も感情を揺さぶり続けていく。バンドの進化ぶりを物語る緻密に練り上げられたアンサンブルと、溢れる想いが形になったメロディや歌詩。激しさとは対局にあるDIR EN GREYのもうひとつの真骨頂だろう。大作「カムイ」では感動の拍手が巻き起こった。
しかしライヴは感動のままでは終わらない。「鬼眼」からは獰猛なDIR EN GREYが牙をむく。「クビ持ってこい!」と煽りを食らわせながら、ヘヴィかつラウドに攻め続けていく。“月戦争”ではなく、DIR EN GREYとオーディエンス全員との死闘戦のようだ。<- under the Blue Moon ->でありながら、照明は真っ赤に点滅し、戦いっぷりを過激に浮かび上がらせる。さらにアンコールで京はこんなことも言う。
「ピエラーのみなさん、私たちを怖いバンドと思ってないでしょうか? そんなことありません。ヴィジュアル系の中で一番優しいです。その場でゆっくり観てていいんですよ。…なんて言うワケねえだろうが! クビ持ってこい!」
フロアを埋めつくす虜とピエラーを激しく揺らしながら、激熱のまま一夜目はエンディングまで突き進んでいった。
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