全米を虜にしたサーティー・セカンズ・トゥ・マーズの、日本での記念すべき第一歩

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観たいライヴが重なって何を選ぼうか迷うというのは贅沢すぎる悩みだが、5月7日の東京はすごいことになっていた。グッド・シャーロットとラム・オブ・ゴッド、サーティー・セカンズ・トゥ・マーズの公演がすべて都内で重なっていたのである。ちょっと歪んだ見方をすれば、これら3バンドすべてを「観たい!」と思ってしまう僕自身の雑食性にこそ問題があるのかもしれないが、とにかくどのバンドにも惹かれているのだからしょうがない。

そして結果、この夜に観たのはサーティー・セカンズ・トゥ・マーズ。カタカナで長々と書くと少々間抜けな気がするので、以降、30STMと記すことにするが、彼らを観ることにした最大の理由は「まだ一度も観たことがなかったから」。もちろん彼らのアルバム、『ア・ビューティフル・ライ』が自分的にストライクな1枚だという事実もある。が、同時に、このバンドの成功の理由が、ライヴに接することでよりリアルに理解できるんじゃないかと僕には思えた。だから過去に観たことのある他2組については、泣く泣く諦めることにしたのだ。

この日、たった一夜のスペシャル・ギグとして30STMの初来日公演が行なわれたのは、渋谷・DUO MUSIC EXCHANGEでのこと。『A TASTE OF CHAOS』ツアーのヘッドライナーとして全米各地の巨大アリーナをまわってきた彼らにとっては、小さすぎるほどの会場だ。

実際、日米における知名度/実績の不均衡は、現在の彼らが抱えている問題のひとつと言わざるを得ないだろう。具体的なことを言えば、バンドにとって2作目のアルバムにあたる『ア・ビューティフル・ライ』は、2005年8月にアメリカで発売されてから20ヵ月以上を経た現在も、『ビルボード』誌のアルバム・チャートに居座り続けている(5月19日付、68位)。最高位36位という記録にさほど派手さはないが、55週間にわたってランクされ続けているという実績には重みを感じるし、時間をかけながらプラチナ・ディスク獲得(100万枚突破)に至った事実は、このバンドを支えているのが瞬間風速的な人気ではないことを物語っている。それに比べたら、日本での彼らの知名度は、まだまだあまりにも低い。

が、結論から言えば、この夜のライヴはとても重要な切っ掛けになったのではないかという気がする。日本における30STMのサクセスストーリーの序章。大袈裟だと笑う読者もいるかもしれないが、僕は自分がその場で目撃した光景をそんなふうに捉えている。

たった1時間のコンパクトなショウではあった。が、そこにこのバンドの魅力がぎっしりと凝縮されていた。何よりも特筆すべきは、俳優としても知られるフロントマンのジャレッド・レトの存在感ということになるだろう。

端正な顔立ももちろんだが、むしろその眼力の強さ、オーラの色濃さに圧倒的な説得力を感じた。マスク着用という怪しい姿でステージに現れたかと思えば、すぐさま客席に薔薇の花を投げてみせた彼。そんなパフォーマンスがサマになるロックスターは、今や天然記念物級に貴重である。さらにはその歌声にも予想していた以上に艶と味があり、アコースティック・ギターの弾き語りが披露された場面では、かの故ジェフ・バックリーにも重なるものを感じてしまった。もちろん曲間の喋りもお手のものだし、ステージを飛び降りてフロアを徘徊し、もみくちゃになりながら歌うロッカー然としたワイルドさの持ち主でもある。

しかも30STMはジャレッド個人のプロジェクトではなく、あくまで“バンド”なのである。彼の実兄にあたるシャノン・レトが独特のフォームから繰り出す強靭なドラミングをエンジンとしながら、4人は終始、高い安定感と攻撃性、デリカシーの伴った演奏を聴かせてくれた。“小さすぎる会場”でその一部始終を目撃した人たちは、この夜のことをずっと忘れないだろうし、きっとこの公演自体が語り草になることだろう。

そして今回の短い滞日中、喜ぶべきことに“次”が決まった。なんと彼らの『サマーソニック07』参戦が決定したのである。5月7日の“記念すべき夜”を共有し損ねた人たちは、是非この夏、30STMとの接近遭遇を試みて欲しいところだ。もちろんその前に、今からでも遅くないから『ア・ビューティフル・ライ』をチェックしておくことをお勧めする。それからもうひとつだけ補足。今回の東京滞在中に行なったインタビューも近いうちにお届けする予定なので、どうぞお楽しみに。

文●増田勇一

■「2007.05.07 @ SHIBUYA DUO MUSIC EXCHANGE~写真編~」フォト・アルバムはコチラhttps://www.barks.jp/feature/?id=1000031596
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