――ずっと不思議に思っていたのですが、ソングライティングのクレジットは基本的にバンド名義になっていますよね? 実際に曲作りはどのようにして進めているのですか?
ウィン:曲によってやり方は様々なんだ。メンバーそれぞれがアイディアを持ちよって、それを組み合わせてみたり、誰かが持ってきたアイディアをみんなで合わせて発展させてみたりとかね。本当にその場次第だね。それだけにいろいろな曲が生まれる可能性も秘めてるってことさ。
――多くの楽器が演奏で使用されていますが、その楽器の特性や音色などをある程度意識して曲を作ったり、アレンジを考えたりすることもありますか?
ティム:う~ん、それはあまりないかなぁ。というのも、僕らはプレイヤーとしてはそれほど優秀じゃない。ヴォーカルのレジーヌはもともとピアノの腕も達者だけど、僕らはお世辞にも巧いとはいえないからね。つまり、“曲を作るために必要な音を出す道具”みたいな意識なんだ。管楽器のこととかを念頭に置いてることもそんなにないなぁ。そろそろ、そういうことを考えた方がいいのかもしれないけどね(笑)。
ウィン:そうだね。僕らは勢いとか雰囲気で曲を作っている。好きなタイプの音楽がそこにあったら、その雰囲気をうまく取り入れていくんだ。そういう意味ではまったく技術的じゃないんだよ。
ティム:ただ、楽器をいじってたらアイディアが生まれたってことはあるよ。例えば1961年型のグレッチのベースをいじっていて出てきたアイディアもある。ピック・アップの部分が壊れていたりするんだけど、出てくる音がすごく不思議で魅力的だから、そこからインスパイアされたりね。僕は古いフェンダー・ジャガーのベースも持っているんだ。普通だったら弾けないレベルのボロボロ状態なんだけど、意外に曲のイメージにつながっていくこともある。本当に一期一会みたいな気分で曲が生まれるんだ。
ウィン:ジーヌはメロディ・メイカーだから、もっとちゃんと作れるとは思うんだけど、バンドとしてまとめていく時はそういう思いつきが奏功することが多いな。意外かもしれないんだけど、ライヴで披露して、細かいところを確認したり、修正したりしてレコーディングに入ることも多いしね。ただ、アルバム『フューネラル』に収録されている曲の中では、「リベリオン(ライズ)」と「ハイチ」だけスタジオで完成させた曲なんだ。他の曲と違ってヴォーカルとメロディだけが完成していて、後から周囲の音を作っていくって流れだったから結構大変だった。でも、僕らはメンバー全員がパレットの上の色みたいなものだと思っているから、それぞれが絵筆になって曲を彩っていくのはなかなか楽しいもんなんだよ。
――音楽性の幅も広いですものね。しかも、その音楽の要素の多くがビートルズ登場以前の、つまりはロック以前の音楽だったりするのが面白いです。なぜ、そうしたオールド・スタイルの音楽に惹かれるのでしょうか。
ウィン:やっぱり心があるからじゃないかな。レジーヌは古いジャズやヨーロッパの民族音楽が好きだし、僕らも僕らで、ウディ・ガスリーやレッドベリーのようなフォーク、ブルースが大好き。昔の音楽には必ずそこにスピリチュアルなメッセージや魂が込められている。そういうところに共感するんだ。もちろん、ザ・キュアーとかニュー・オーダーなんかの方が回数からいくとたくさん聴いてきたけどね。そういう音楽の良さもわかっているし、アーケイド・ファイアの音楽に反映されている部分もあると思うよ。でも、不思議なことに、心に響いてくるのはそういうスピリチュアルな昔のフォークやジャズ、ブルースなんだ。テクノロジーの発達が音楽をダメにしたとは言わないけれど、昔の音楽には今にない“何か”があるのは間違いないところだろうね。
――楽器や機材でもヴィンテージのものを使用しているようですが、実際はどの程度こだわっていますか?
ティム:もちろん、できればどこまでもこだわりたいよ。マイクとかスピーカーは'60年代のものが多いね。ギターも60年代初頭のフェンダーだ。やっぱり音の響きが違うんだよ。もちろん、それ以外の新しい楽器や機材、スタジオは一切ゴメンだ、なんて頑固じゃないけどね。新しいものでもいいものは使っていきたいし。
ティム:アンプとかスピーカーとかの機材もそうだけど、やっぱり古いものはメンテナンスが大変なんだ(笑)。
――ところで、アメリカでのリリース先がマージ・レコードですが、このレーベルに決めた一番の理由は何ですか?
ウィン:理由はいっぱいあるけど、やっぱりオーナーのマック(スーパーチャンクのリーダー)の心意気に惹かれて、かな。彼らこそ真の意味でのインディペンデントだと思うよ。メジャーの力を借りずに15年以上頑張っているんだからね。あとは、ちょっと前までニュートラル・ミルク・ホテルってバンドがマージにいただろう? 彼らのことが大好きだったからっていうのもある。実は彼らからはものすごく影響を受けてるんだ。ジャケのセンスもそうだし、バンドとしての在り方もね。
取材・文●岡村詩野
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