「M-SPOT」Vol.051「AIは単なるツールが故に、楽曲は評価できてもアーティスト評価は難しい」

今や、楽曲制作にAIが利用されているかどうかは、さしたる問題ではないかもしれない。あくまでAIはツールであり道具にほかならないからだ。
とはいえ、その楽曲を生み出すアーティストを評価するとなれば、話は変わってくる。音楽を生み出す源泉が人間内部にあるのか、それとも生成AIに委ねてしまっているのか…。
素敵なジャズテイストな楽曲を多数発表する謎のアーティストの存在を通して、理解を深めてみたい。コメンテーターはTuneCore Japanの野邊拓実、そして進行役はいつも通り烏丸哲也(BARKS)である。
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──今回は、asa musicというアーティストを紹介します。とても素敵な音楽なんですが、ちょっとよく分からないところがあって謎なんです。まずは聴いていただきましょう。「Orange juice」という曲です。
──素敵でしょう?プロフィールには「レトロな喫茶店に訪れたかのような世界観をお楽しみください」とあるんですが、こういうテイストのライトなジャズテイスト楽曲をたくさん発表しているんですね。
──asa musicはどういうアーティストなんでしょうか。日本人?それともAIですか。
野邊拓実(TuneCore Japan):…分からないですね(笑)。調べてもSNSとか見当たらない。プレイリスト系の方なのか…。
──プロフィールには「レトロでダンディな洋楽playlistをお届け。”男性ボーカル限定”お洒落で粋な音楽を揃えました」とあって、この書き方だとただのプレイリスターみたいですけど、でもTuneCore Japanから楽曲を発信しているということは、この人の作品なんですよね。アートワークも世界観も一貫しており、音楽性という点では非常に稀有な存在だと思うんです。
野邊拓実(TuneCore Japan):生成AIでも、適切なプロンプトをかけばこういうテイストの曲っていうのは出力してくれるとは思うんですけど、どうなんですかね。プロフィールでも自身について何も触れていないので、わかんないな。
──そうなんです。だからなんかちょっとスッキリしないんですよ。プレイリスターなのであれば制作者は誰なんでしょう、ってなる。

野邊拓実(TuneCore Japan):僕もこういう音楽も好きなだけに詳細が知りたいところではありますね。例えば、いわゆるオルゴールアレンジみたいな作品ってあるじゃないですか。オルゴールで曲をいっぱいリリースされている方もいらっしゃる。僕もオルゴールアレンジを依頼されて作ったりした経験がありますけど、そういう仕事もミュージシャンの一部にありますよね。
──ええ、カラオケ音源とかMIDIデータを作るというのも音楽家の業務だったり、いろんな楽曲を何らかの形でアレンジしたりするのもミュージシャン/コンポーザーの仕事ですね。
野邊拓実(TuneCore Japan):AIが登場するまでは、それらの作業にもそれ相応の専門知識が必要で、実はオルゴール楽曲の場合は、独特のアレンジ・ノウハウがあるんですよ。
──普通の音楽アレンジと違うんですか?
野邊拓実(TuneCore Japan):オルゴールならではのアレンジで、例えば基本のメロディーに対して「ちゃららららん」みたいな32分音符の装飾音符を入れていたりするんです。1番盛り上がるところで多用されたり、音数を増やしてサビ感を出すみたいな独特な手法があったりするんです。
──確かに、オルゴールは音色もひとつだしアタックやサステインもコントロールできるわけじゃないから、音符の配置のみでメリハリをつけるしかないんですね。
野邊拓実(TuneCore Japan):そうなんです。それと同じように、ひとつの音楽性に特化した作品集というのは、その演奏形態や音楽手法をきちんと理解したうえで学ばないと、そもそもそれっぽくならないっていうのがあると思うんです。そのジャンルについて音楽理論的な知識としてちゃんと理解して、その上で各楽器の使い方…演奏の手法を各楽器ごとにちゃんと把握していないと無理なので、そういうところを考えると、すごく優れた方だと思いますよ。
──例えば、ドラマーじゃないメンバーが打ち込みで曲を作ったりすると、腕が3本必要なドラムプレイをしてしまったりしますよね。
野邊拓実(TuneCore Japan):あるあるですね。
──それって、AIに作らせた楽器にもあり得る症状なんですかね。
野邊拓実(TuneCore Japan):どうなんですかね。僕もちゃんとAIを触ったわけじゃないので正確なところはわからないですけれども、でも既存楽曲を学習対象としているので、多分基本的にはあんまり起こらないんじゃないかなと思いますね。生ドラムっぽい音色なのに、手が3本4本必要になるようなフレーズっていうのは、わざわざそういうことを指定しないと出てこないんじゃないかな。
──なるほど、そうですよね。
野邊拓実(TuneCore Japan):ツインドラムの楽曲もあるので一概には言えないですけど、それもイレギュラーなものですから、そこも理解してくれないとAIもまだまだじゃんって思っちゃう。もう僕は、AIに関しても「どうでもいいんじゃないか」って思ってきているんですよ。AIってただのツールだから。結局「どういうものをやりたいか」を決める人間がいることに意味があるのであって、手段としてAIを使うのか、音楽理論と管弦楽法を勉強して楽曲をゼロから構築していくのかは、手法の差でしかないなと思う。
──真理だと思います。
野邊拓実(TuneCore Japan):最終的なアウトプットがすごくいいもので、人が感動できるものだったりワクワクするものであったり、何かしら人に影響を与えられるものなのであれば、それは価値のあるものだろうって最近思うようになってきています。もちろん、AIはいろんな人たちの過去の才能や努力の結晶を学習の対象として用いられているので、その点を我々が自覚し偉人達へのリスペクトはあるべきだと思います。逆に、これが感じられないから、みんなAIに怒ってるんじゃないかって思うんですよね。
──使う側の倫理観ですね。
野邊拓実(TuneCore Japan):「学習の対象に使わせていただき、過去の音楽をやられていた皆さん、本当にありがとうございます。おかげさまで誰でも音楽が作れるようになりました」みたいな感覚で生成してくれたら、多分そこまで怒らなかった人も結構いると思うんですよ。
──確かに。「この楽曲は○○の影響を多分に受けています」的なカミングアウトがきっちりあったら、随分と印象も違ったかもしれない。
野邊拓実(TuneCore Japan):そこをすごくないがしろにするような「AI使えば楽勝、もう勉強するなんて馬鹿らしいぜ」みたいなテンションでAIが売り出されている感じがして、そこに怒りを感じるのかなと思います。もちろん職業作曲家の方にとっては職業的な危機もあるので、それはまたちょっと別の話だとは思いますけど、それ以外で考えたら、今までも何かが簡略化されたことなんてたくさんありますし、アナログ機材を使わなくなってデジタルに移行していったことも同じような話だったと思うんです。今でも「デジタルはダメ。やっぱアナログだよね」っていう人はいますし、実際にアナログ機材を使うと「うわ、音いい」「これが実機か…」って思いますけど、でも誰かの努力の結晶が再現性のあるシステムとして構築されて、誰にでも使えるようになったことに嫌悪感を感じているようじゃ、プリセットなんか使えないじゃないですか。
──ええ。
野邊拓実(TuneCore Japan):そういうことだと思うので、僕は最近AIだっていいじゃんって思っているんですよね。著作権侵害のAI作曲は、アーティストが本来受け取るべき収益を不当に奪ってしまっているものなので、これは文化衰退に繋がるものとして取り締まられるべきだと思うんですけれど、「AIで作られているから悪い」ということではないよな、と。作詞家や作家が、表現活動としてAIで楽曲を付加して自分の文章をリリースするというのは、AIを道具として使う好例ですよね。もちろんAIによるものなのかどうかの判別はできてほしいなって思いますけど。
──ウォーターマークはしっかり入れてほしいですね。
野邊拓実(TuneCore Japan):そうですね。現時点で僕が困っているのはオーディションとかです。その音楽の評価ではなくアーティストを評価する時に、応募作品がAIじゃないんだとしたらすごくクオリティが高いけど、AIなら審査を落とさなきゃ…みたいな、困ったりするケースが結構ある。
──また1年後に同じテーマで議論してみたいですね。びっくりするほど状況が変わっているかもしれない。
野邊拓実(TuneCore Japan):そうですね。引き続き注視していきましょう。よろしくお願いいたします。
asa music
レトロでダンディな洋楽playlistをお届け。”男性ボーカル限定”お洒落で粋な音楽を揃えました。 レトロな喫茶店に訪れたかのような世界観をお楽しみください。
https://www.tunecore.co.jp/artists?id=977342
協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.







