【インタビュー】文藝天国、変身を遂げたオルタナ的藝術徒党の行方「日本の美や文化を世界へ」

文藝天国が本日7月25日、株式会社文藝の設立を発表した。メンバーのko shinonomeとすみあいかが代表取締役を務める株式会社文藝は、“世界の捉え方の再構築”という壮大なミッションを掲げる彼らの、事業基盤強化と将来的なビジョン実現に向けた重要な一歩になるとのことだ。
作詞・作曲・演奏を行うko shinonomeと、映像やビジュアル面を担当するすみあいかにより、2019年に活動を開始した文藝天国は、音楽のみならず、映像作品や香水などのグッズ、喫茶イベントなど、五感で楽しむ多様なアートを繰り広げてきた。2024年2月17日に日本橋三井ホールで開催された2ndワンマンライブ<アセンション>は、koのギターとハル(Vo)のパフォーマンスに加え、あいかの映像表現など、演劇的要素を乗り込んだ意欲的な公演となった。
そして、ひとつの集大成と言えるライブを経て、新たなフェーズに進んだ文藝天国が、1年3ヶ月ぶりにリリースした最新シングルが「μεταμορπηοςε」(メタモルフォーゼ)だ。これまでのギター全開のサウンドプロダクツから進化を遂げた最新音源は、躍動するグルーヴや音空間の心地よさが楽曲の核を貫いている。同楽曲完成に至るまでの歩みを振り返りながら、会社設立の理由や、新たなクリエイティヴの深化について、すみあいかとko shinonomeに話を訊いた。
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■自分たちがこれを生業にしていく
■ひとつの意志表明だと思っています
──まずは、2024年2月に開催された<2nd one-man live「アセンション」>を振り返ってお話を伺えればと思います。細部まで演出にこだわったコンセプチュアルなライブでしたが、振り返ってどんな手応えが残っていますか。
あいか:もし自分が死ぬ時が来たら絶対走馬灯に出てくるだろうな、というくらい記憶に残っています(笑)。“このライブを終えたら私たちはどうなっちゃうんだろう”みたいな想いを心に抱きながら、準備にかなりの時間をかけたので。ライブが終わったあと、やり切った喜びと、お客さんにちゃんと届いた実感はあったんですけど、燃え尽きてしまったようなところもあったんですね。これから先どこに向かえばいいのか、ちょっと見えなくなってしまったというか。
ko:僕も、一言一句違わず同じような気持ちでした。たった1日、2時間くらいのライブのために、音響や演出のスタッフさんをはじめ、たくさんの企業の方にお声がけさせていただき、チームを作って挑んだんですよ。経験値が少ない僕らが仕切るという面で、たくさんご迷惑をおかけしたし、ムチャ振りもしてしまったと思うんですけど、ライブが終わってステージを降りたら皆さんが笑顔で迎えてくれて。舞台監督さんから、「こんなに裏方が楽しそうな現場は初めてだ」と言ってもらえて報われました。
──演者としてだけではなく、チームを率いて作り上げた作品だったんですね。
あいか:自分の記憶として残っているのは、むしろ裏方目線のほうが多いです。だから、あとから映像を見返しても、どこか他人事のような感じで“文藝天国、すごいな~”って(笑)。自分がそこに携わった実感もあんまりないんです。

──ステージで演奏した時の感覚は覚えてますか?
ko:はい。文藝天国の活動を通して、実はステージに立って演奏する機会があんまりなかったので、すごく緊張しました。当日はもうドーパミンが出まくっていたのか、ずっとふわふわしていて。今頭に残っている記憶がリハーサルか本番か、どっちかわからないくらい(笑)。でも、サウンド的には上モノがギターしかないから、何をやっても許されると思って、フレーズなどをキメキメにせずに臨んで、演奏を楽しめたと思います。最後、ギターソロを弾き続けるエンディングだったんですけど、それが終わった時は、“やり切ったー”という達成感がありました。
あいか:ギターソロを弾いてる時って、気持ちいいっていう感じなの? “俺のギターを聴けー!”みたいな。
ko:いや、気持ちいいというより、心ここにあらずって感じかな(笑)。自由なパートは頭より指が先に動くから、指についていくような感覚かもしれない。
あいか:そうなんだ!
──ライブを締め括ったエンディングのギターソロは、特にそのパッションが伝わってきて素晴らしかったです。ライブを終えた後は、どういうイメージで次の一歩に向かっていったんですか。
ko:<アセンション>が文藝天国にとって大きなセーブポイントであり到達点だと思っていたので、そのあとに番外編的な楽曲「初恋」のリリースはあったものの、その先に出す曲にはすごく気合が入っていました。今回のリリースに向けて、かなり作り込んで制作をやってきたんじゃないかな。
あいか:同時に、文藝天国を法人化する手続きを進めていたり、<アセンション>でお披露目したユニット破壊的価値創造のライブもリリースもあったので、そっちの制作やりながらですね。
──破壊的価値創造は、soanさんがボーカリストを務めるプロジェクトとして<アセンション>で発表されたものですね。おふたりはプロデューサー的な立ち位置ですか?
ko:そうですね。soanという主人公が歩いて行くのをうしろから支えるような。
あいか:自分たちの作品でもあるけど、文藝天国とはまた少し違って、ソウルの部分にsoanの生き様みたいなものを折り込んでいくイメージです。
ko:僕が曲を作っているから、リスナーさんには「ko shinonomeっぽい」と言われるんですけど、僕の中では結構違ってて。あくまでsoanという存在が前にいて、soanの意志も汲んだ作品になっていますね。今、2ndシーズンとして“(sekai)seifuku期”が始まったところなんですが、シーズンごとに音楽的にもいろいろ実験しながらやっていきたいと思っています。
──コンポーザーとしては、ko shinonome名義でのリリースもありましたよね。
ko: 2曲リリースしました。穂ノ佳さんをボーカルに迎えた「festina lente」と、西片梨帆さんからオファーを受けて作った「わたしがルキフェル」。ひとりで楽曲作りに打ち込むことが多いので、違う人と一緒に作るのもいい刺激になりました。

──いろいろな制作と並行して、文藝天国の法人化を進めていたということですが、法人化は以前から考えていたんですか。
あいか:2020年頃、2ndアルバム『夢の香りのする朝に。』をリリースする前から構想はありました。ただ、その時点で法人化しても自分たちが得られるメリットが少ないということで、タイミングを待っていて。その中で、<アセンション>での経験が大きなきっかけになったんです。<アセンション>までは、自分たちが法人か法人じゃないかの差は特に感じていなかったんですけど、あれだけ規模が大きい舞台となると、皆さん法人相手との取引が前提だったりするんですよ。法人化しているとしていないでは、できることが全然違うんだな、と実感しました。
──イベンターを介さない自主公演となると、ますますですよね。
あいか:はい。もうひとつの理由として……対個人の場合、“文藝天国を応援したい”という気持ちで関わってくださる方が多いんですね。でも、その厚意に頼る状態が常になってはいけないと思っていて。<アセンション>の準備を進めていく中で、“手伝っていただく”というボランティア的な関係ではなく、自分たち自身がもっと上に目線を持っていくべきだと感じたんです。今後は、法人格として、しっかり事業を成立させることで、今まで関わってくださった企業の方々にも、これからご一緒するであろう企業の方々にも恩返ししていきたいと思っています。

──たしかに責任への意識が変わりそうですね。営利法人という言葉から受けるイメージともニュアンスが異なると思いますが。
あいか:そうですね。音楽に限らず、“利益を生むために作品を作るのか?”みたいな葛藤って、ものを作る人は絶対通ると思うんですけど。我々も例外ではなく、その葛藤を経験してきて……私は特に、高校生の頃、“利益”という言葉を聞くたびに怒り狂っていたくらいで(笑)。
ko:金稼ぎアレルギー(笑)。
あいか:“金稼ぎのために作品を作るなんて! それは本当にお前の魂から生まれてきたものなのか!? そこに愛はあるんか!?”と思っていたんですよ。だから、文藝天国も最初は、本当に自分たちの気持ちや心だけを重視して、ただただ皆さんにわくわくやときめきをお届けしたいという気持ちをモチベーションに活動していました。でも、やっぱり続けていくことを考えると、それだけでは立ちゆかなくなってしまう。人を巻き込んでやっている以上、しっかり利益として還元できないとダメなんだということを改めて感じて。
──プロとしての意識ですね。
あいか:あくまで自己満足という意識だと、どうしても責任や覚悟が乗ってこないんですよね。事業にする、ビジネスとする、ということは、ただお金稼ぎたいからじゃなく、自分たちがこれを生業にしていくというひとつの意志表明だと思っています。法人化には、そういう気持ちも込めています。
──実際、会社を立ち上げてみての感触としてはどうですか?
あいか:法人化したあとで、ニューシングル「μεταμορπηοςε」の映像制作をスタートしたんですけど、法人相手じゃないと撮影許可が下りない場所をお借りできたり、フィルムコミッション(ロケーション撮影を誘致・支援する非営利団体)としっかりやり取りできたり。“こんなに景色が違うんだ”と早速実感しています。







