【インタビュー】文藝天国、変身を遂げたオルタナ的藝術徒党の行方「日本の美や文化を世界へ」

■電子音楽的なアプローチです
■ひとつの空間として面白いものに
──発表の前後はありますが、時系列的には法人化して初めてのシングルが「μεταμορπηοςε」になるわけですよね。
あいか:はい。ただ“法人化しました”と発表するよりは、シングルを中心にいろんなものをちゃんと用意したうえで発表するほうが、私たちの姿勢をリスナーさんに伝えられるのかなと思って。
──曲自体は、法人化発表を踏まえたものであったり、そういうコンセプトがあるわけではない?
ko:曲を作った時は、特にコンセプトは考えていなかったですね。
あいか:文藝天国はコンセプトありきで作品を作っているように見えると思うんですけど、どちらかというと、自分たちがやりたいことをバンバン入れ込んでいったら、根底にひとつのテーマが見えてきた、という順番なんです。それをあとから言語化することで、ひとつのコンセプトにまとまることが多い。
ko:考えたら、コンセプトありきで使った曲はあまりないですね。音や映像のイメージが先にあって、いろいろ作っていく過程で、その上流にあったものが見つかっていく。そういう流れで、今回は“変身”というテーマになりました。

──「μεταμορπηοςε」という曲は、どんなふうに生まれてきたんですか。
ko:結構衝動的に作った記憶があります。メロディを作り始めて、すぐに詞もできて、たぶん1日くらいでできました。曲によっては何ヶ月もかかることもあるんですけど、これはドーン!と勢いでできた曲でしたね。少しサイケな雰囲気を盛り込んで……これまでロックな曲はストレートで、テレキャスターがシャキーン!みたいな曲が多かった中で、今回は新しい要素が入っているかなと思います。もちろん、まっすぐなテレキャスサウンドも入っていますけどね。
──そういうサウンドと歌詞が相まって、夏にぴったりな曲に仕上がりましたね。
ko:夏の曲になったのは、去年の夏に書いたからかな(笑)。
──すみさんは、この曲を聴いてどうでした?
あいか:去年、この曲を初めて聴いた時、聴きながら踊ってた記憶があります(笑)。
ko:踊ってる動画が残ってる(笑)。
あいか:(笑)。今までの文藝天国はわりとキラキラなサウンドが多かったんですけど。この曲はベースとドラムで始まって、ちょっとダークな感じがありつつもサビはポップでキャッチーというバランス感がいいなと思いました。今までの曲よりも、ちょっと深度が増した印象があります。
──たしかにビートが強めですよね。
ko:そうなんですよ。ギターが鳴ってない部分もあるのはかなり珍しいです。自分がベーシストになった感覚で作ったところが少しありますね。文藝天国の曲はギターの低音版みたいなイメージで僕がベースを弾いているんですけど、今回は、もっとグルーヴ感を意識してベースを弾きました。
──ギターは音の隙間を活かしたアプローチで。リバーブが楽曲の空気感を作り上げています。
ko:エフェクティヴなイントロを含めて、サウンド的にはリバーブにこだわりました。

──さらに、「μεταμορπηοςε」は初のDolby Atmos立体音響ミックス、いわゆる空間オーディオ音源も配信されるそうですね。こちらはどのように作っていったんですか?
ko:レコーディングはいつも通り宅録なんですけど、ミックスで山麓丸スタジオを使わせていただいて、空間オーディオ用の音源を作りました。初めての経験だったので、すごく楽しかったですね。普段は自分の家の机で作業して、ヘッドホンかスピーカーから音が平面的に聴こえてくる状態なんですけど、そのスタジオでは上からも下からも音が聴こえて、自分が球体の中にいるような感覚になれるんですよ。そのうえで、ギターの音の定位などを調整しながらエンジニアさんと作っていきました。空間オーディオ用にミックスされているが曲はたくさんありますけど、ロックの場合、ライブ感を意識したものが多いのかなと個人的に思っていて。
──たとえば、ステージの上にいるようなミックスですね。
ko:それも素敵なんですけど、せっかくアバンギャルドさをテーマにした曲なんだから、もっと面白くてもいいかなと思って。ギターをパンさせたりグルグル回してみたり、ちょっと電子音楽的なアプローチでやってみました。実際のステージを想像すると変だと思うんですけど、ひとつの空間として面白いものになったと思います。
──空間オーディオ対応イヤホンなどで聴くとそれがよくわかるわけですが、普通にステレオのスピーカーで聴いても音の質感が違いますよね。
ko:僕も聴き比べたら、かなり違う印象がありました。やっぱりステレオでミックスするとあくまでも水平面なので、音がどうしても被るんです。それが360度になることで上下にも拡がるので、音のかぶりがかなり減って。逆にステレオミックスでは気付かなかったノイズも聴こえてしまうから、それを消すか、あえて残すかを考えました。ギターの裏メロもよりわかりやすくなっているし、曲全体の聴こえ方が変わると思います。
──ミュージックビデオは、今までのノスタルジックな世界観とはまた違ったスリリングな作品になっていて惹き込まれました。こちらは引き続き、すみさんが監督を?
あいか:そうです。先ほどお話したように、法人化によってできることが増えたので、エキストラさんを採用して撮影したり、ロケ地も過去最多数でいろんな場所を使いました。
──いろいろ考察できそうな映像になっていますよね。歌詞は片思いの女の子の感情が描かれているように思いますが、また全く違う解釈というか。
あいか:でも、登場する女の子が何かを待ち焦がれてる、恋い焦がれている、という要素が主軸にあると思います。映像も楽曲と同じで、コンセプトありきというより、曲を聴いて生まれたイメージを繋ぎ合わせていくような作り方なんです。その根底に“変身”というテーマがあって、どちらかというと自分自身が変身するより、自分が見ている世界が丸ごと変身してしまう、みたいな方向性で考えました。
──アニメーションが登場する場面もありますが、制作には数ヶ月かかったとか。
ko:制作は過去イチ大変でした(笑)。
あいか:基本的に私が撮影を担当したんですけど、フィルムのシーンでは初めて自分以外の方にカメラをお任せしたり、アニメーションを組み込んだのも初めてで。今まではモデルさんと私とkoくんともうひとり、くらいの最低限の人数で作っていたのに、今回は15人くらい関わっているんですよ。以前までは細かいディテールは自分の頭の中でさえわかっていれば良かったので、キービジュアルを3〜4枚くらい書いて伝えて、あとは当日考えながら撮っていましたが、さすがに全体の動きを全員に、その場その場で口頭で説明するのでは現場が進まないなと思って。だから、初めて絵コンテを30枚くらい描きましたね(笑)、全部で150コマくらい。そういう部分も含めて、事前の準備がすごく大変でした。
ko:チームで作るということについては、それこそ<アセンション>を経て学んだことだよね。人に任せるのは怖いと思っていたけど、それができるようになった。
あいか:そう。<アセンション>で、自分の頭の中をいろんな方に共有するということをやらざるを得なかったので。その経験を映像のほうにも、そのまま引き継いだ感じがします。

ko:あと、今回はジャケット写真にもこだわっていて。十字架の写真なんですけど、この写真を撮るためだけに神津島に、小型ジェットに乗って日帰りで行ってきました。







