| 統計的にみて、1年のうちで最も快適な天候に恵まれるのは5月の最初の週末だそうだ。その統計を示すように、恒例の大規模音楽フェスティヴァルの多くは、この時期に開催されることなっている。アトランタのMusic Midtownしかり、ナッシュビルのRiverstagesしかり、その他全米各地の数多くのフェスティヴァルがそうだ。そして、今年もアトランタではMusic Midtown Festivalが開催されたわけだが、その週末の3日間、母なる大自然は決してみんなを裏切ることはなかった。初日の金曜日は申しぶんのない天気で、午後6時頃、シンガーソングライターのPete Yornによる、Smithの“Panic”のカヴァーでフェスティヴァルは始まった。肩まで伸びた黒髪でパワーポップを炸裂させるYornの姿は、ビジュアル的にも音的にもまるで元ReplacementsのPaul Westerbergをすごく若くしたという感じだ。 ジョージア州自慢のミュージシャンたちも今年は顔を揃えている。先月のDogwood Festivalでは小さなアコースティック・ステージでソロセットを披露していたKevin Kinneyだが、今回は自らのバンド、Driving' N' Cryin'を従えて96 Rockステージに登場。“Down By Law”“Build A Fire”“Fly Me Courageous”などのおなじみのロックチューンに観客は拳を振り上げて大合唱したが、この日始まった今年のフェスティヴァル全体の雰囲気を象徴していたのは、それほど知られていない別のオリジナル曲だ。背景に立つBank Of America TowerとBell Southの2つのビルの間を、オレンジ色に輝く夕日が落ちていくなか聴こえてきた“Indian Song”は、彼がジョージア州の最も才能ある(しかし、相応の評価を得ていない)ソングライターであることを納得させるものだった。 反対側の99Xステージには、深い群青の夜空に浮かぶ少し欠けた満月の下、Georgia PowerビルとMarriott Marquisホテルの影に見下ろされたBlack Crowesの姿があった。彼らのステージは、ヴォーカルのChris Robinsonの声がほとんど聞こえないくらいの大音量で、サザンロックの泣きのギターの音色と共に新アルバム『Lions』からの2曲でスタートした。Robinsonが「古い曲もやるぜ」と言って『Southern Harmony And Musical Companion』からのシングル“Sting Me”を始めると、そのまま同アルバムからもっとハードな“Stare It Cold”や、『Amorica』から落ち着いた“Ballad In Urgency”“Wiser Days”などを立て続けに聴かせてくれた。 2日目の土曜日。Danny GoldbergのArtemis Recordsから新アルバムをリリースしたばかりのJosh Joplin Groupは、最近のアトランタでのライヴでは技術的なトラブルが続き、あまりツイていなかった。が、フェスティヴァル出演に関しては、地元のローカル・ステージから99Xのメイン・ステージへ昇格を果たした。「俺たちの後に、あっちでバンドが出るからな」と、Joplinが集まった観客の後方に見えるローカル・ステージを指して言う。「俺たちは4年、あのステージに出ていて、今回初めてこの(メイン)ステージに立ってるんだ」 「この曲はPhil Ochsのために書かれた曲だけど……」と、亡くなったソングライターの名がタイトルになっている曲を紹介しながら、彼は「……でも、今夜はJoey Ramoneに捧げる」と告げた。バンドは“Gravity”や“Matter”、せつないアコースティック・ヴァージョンの“I've Changed”など新アルバムからの曲をしっかり聴かせてくれた。 カーキ色のパンツに緑のTシャツ、同じく緑のサングラスというシンプルないでたちで登場したJohn Mayerは、Piedmont Avenue寄りの奥まった場所に設置された小さなFoxステージで大盛り上がりを見せている(観客のほとんどを学生連中が占めているFoxステージで、この週末の一番の動員数を記録した)。熱烈な歓迎ぶりにMayerのほうも「歌えなくなるまで、このステージを降りないぞ」と返す。彼の心に響く、思い入れのある歌詞に誘われて一緒に歌いだすものもいれば、彼のルックスの良さに誘われて黄色い叫び声を上げるものもいた。Mayerは明らかに心地よさげで、全米各地のツアーを終えてジョージアに戻ってきたことを喜んでいた。「じゃあ、この後はみんな俺んちに来いよ」などというジョークも飛び出すほどに。この日演奏したのはほとんどが、インディペンデントで出したアルバム『Inside Wants Out』からのものだった(“My Stupid Mouth”“Neon”“Love Song For No One”など)。メジャーからの新アルバム発売を今月下旬に控えているアーティストにしては、なかなか意味ありげである。 日曜日は、3日間の中で最も地元バンドが目白押しの日だった。まずは、Midtownのスポンサーである各ラジオ局の4つのメイン・ステージの出演権を勝ち取った、“Next Level”コンテストの優勝者たち。レトロでファンキーな10人編成のGurufishがV103ステージにクールなヴァイブを撒き散らし、Slangbangerは96 Rockステージで派手にぶちかました。99Xステージでは6 Against 7が飛ばし、Z93ステージでは4組の中で一番人気のGhost Trainが、セッション系でブルース色が濃く、ギターが主役といった感じの、まるで初期のAllman Brothersのような王道のロック・サウンドを繰り広げた。 ジョージアの人たちが誇りに思うべきバンドのひとつにEven and Jaronがいる。'N Syncのようなボーイズ・グループ並みのルックスと、Posiesのようなポップの名手に匹敵するソングライティングとハーモニーを兼ね備えた兄弟だ。一卵性双生児のこの2人は'93年から活動を始め、全米各地を地道にツアーしてまわりながら多くのファンを獲得し、今やっとメジャーでの成功と共に当然ともいえる評価を得られるようになった。彼らに99Xステージというのもそぐわない気もするが、彼らの若い(大半は女性の)10代のファンたちは大盛り上がりで、女の子たちはビーチボールを一斉に破裂させるのに“From My Head To My Heart”の曲が終わりきるのを待てないほどだった。「たまに楽しんでるのが、人の曲を演って台無しにすることなんだ」とEvan(だと思うけど、Jaronのほうかな?)が言うと、AC/DCの名曲“You Shook Me All Night Long”をカントリー・ヴァージョンで演奏し始めた。その後のアンコールはもちろん(お察しのとおり!)、ラジオでヒットした“Crazy For This Girl”で締めた。 Indigo Girlsはフェスティヴァルの期間中、2度のライヴを行なっている。土曜の夜に屋内会場のCivic Centerでストーリーテリング・スタイルのパフォーマンスを行ない、日曜日には屋外の99Xステージに立ったが、両日ともバンドなしのライヴだった。シンプルなステージは、彼女たちがまだデカターのEddie's Atticに出演していた初期の頃を思い起こさせる。新曲は1曲しかやらずに“Closer To Fine”“Thin Line”“Power Of Two”などのヒット曲を次々と聴かせてくれた。ラストは“Kid Fears”の耳に残るちょっと薄気味悪いヴァージョンで、観客は思わず静まり返ってしまった。 Indigo Girlsが終わりSoupが登場すると、会場は一変して熱気に沸きかえった。彼らの元気いっぱいのポップロック・サウンドに引き寄せられて、人々が99Xのローカル・ステージにぞくぞくと集まってくる。“Where Are You Now”“My Life Is Complete”などの新曲にあわせて、観客は揃って頭の上で手拍子をとったり、ビーチボールが飛び交ったりとにぎやかだ。“Marvin Wright”という曲も観客を大喜びさせた。悩み多き若者がアトランタの中部で開催されたフェスティヴァルに行き、そこでMarvelous 3、Trainのライヴを観て、Virginiaという女の子と出会うという歌だった。Soupはここのところ、スタジオにこもって新曲の曲作りやレコーディングをしている真っ最中で、たまに出てきては観客と新曲を分かち合ったりしていた。今回のフェスティヴァルでも演奏した6曲中4曲が新曲だったが、評判は上々だったといえる。なによりも、フェスティヴァルの最優秀宣伝大賞(そんなものはないが)は、間違いなく彼らのものだろう。バンドの名前とウェブサイトのアドレスを載せたステッカーを1万枚ほどバラ撒いていた。Soupがアトランタのベスト・パーティー・バンドと称される理由もなるほど納得だ。 総合的にみて、この3日間のMidtownフェスティヴァルは、大物ヘッドライナーたち(Ben Harper & the Innocent Criminal、Patti Smith、Bob Dylan)から地元のバンド、そして幸運にも会場に来られた音楽ファン全員にとってとてつもない大成功だったといえるだろう。 By Bill Clifford/LAUNCH.com | |