車を飛ばしてダウンタウン郊外のドジャー・スタジアムに着くと、駐車場は早くも寿司詰め状態。球場付近にはチケットを取れなかった人々がチケット請いをして歩いている。僕は日本からネット予約で運良くチケットが手に入ったのだが、いざ自分の座席についてみると2階席の最後列! やはり連中の人気は真実だった!
彼らは俗に“ジャム・バンド”と呼ばれる、長い即興演奏を売りにしたバンドということになっているのだが、その“ジャム・バンド”のライヴにつきもののマリファナは入場の時点で徹底的に検査されるため一切なく、会場の雰囲気はスタジアムにふさわしいほどに健康そのもの。そして、その土臭い親父好みされそうな渋い音楽性とは裏腹に、会場には決してリンプ・ビズキットのライヴにいてもおかしくなさそうな10代後半から20代前半の若者がひしめいていた。この辺りも全くもって予想外だ。
そしていざライヴが始まると、スタジアムは5万人分の声を集約したような物凄い声の壁に覆われた。その興奮の坩堝の中、彼ら5人は静かに演奏をスタートした。
別に大袈裟な花火があがるわけでなく、彼らはアルバム通りの渋いジャジーなロックを黙々と演奏。デイヴ・マシューズはアコースティック・ギターを持ったまま直立不動。特に煽るようなタイプでもないようだ。
ただ、さすがは全米観客動員No.1のバンド! 今さら僕が審査を入れるのが失礼な程にとにかく上手いのなんの。
デイヴのギター、スティーヴンのベース、名物黒人ドラマー、カーターの刻むファンキーなリズムには一切隙がない。そしてバイオリンのボイド、サックスのリロイという、縦横無尽に動き回る二人の黒人が曲中でソロ・パートを演奏すればもう必ずといって良い程に会場が割れんばかりの大喝采に包まれる。
| . | 特にティーンの若者、これがとにかく大騒ぎ!
日本で解釈されているような「大人向けなノリ」はこの観衆の中からはほとんど感じられない。この彼ら自身の圧倒的なカリスマ性と人気の前にはバック・ヴォーカルを主に担当したメイシー・グレイの存在でさえかなり希薄であった。
やはりこの人気と実力、本物だ。
この一回のライヴだけで、彼らのアメリカでの人気を説明するのはまだ難しい。しかし、ひとつだけ言えることがあるとするならば、この連中、やはりライヴでの立ち姿が圧倒的にクールなのだ。
比類なき演奏技術に、バイオリンやサックスといった非ロック的な楽器編成は普段キッズ向けのハードなロックを聴いている若者達からすればワン・ランク上のクールなものに、大人から見れば数少ない鑑賞に耐えうるロックに聴こえているのではないだろうか。それでいて、楽曲も誰もが口ずさめるキャッチーなもので敷き居の高さを一切感じさせない。
ズバリ、こんなバンド、今、世界のどこを探しても存在しない!
「なぜアメリカでデイヴ・マシューズが異常人気なのか。それはなにも、ブルース・スプリングスティーンのような民衆の心に響くような事を歌うからとかではなくして、ズバリ、“ワン・アンド・オンリー”の存在であるから。
そういう当たり前のようでいて、紛れもない事実を僕はこのライブで見出した。
「日本だとアメリカみたいには…」と躊躇する声もあるが、その真実味はやはり実物を生で確認する以外には味わえないのではないだろうか。
一刻も早い来日公演を期待したいところだ。 |