エクスターミネイター出動
エクスターミネイター出動 |
Gary“Mani”Mounfieldはたくましい。 ベーシストとしてThe Stone Rosesに参加したのは'87年のこと。それから怒涛のように過ぎた9年の間に、彼らはほとんど単独で、Charlatans U.K.からHappy Mondaysにいたるマッドチェスターのフォロワーたちに道を切り開いていったのである。そして彼は、この4人組のバンドが、ドラッグとエゴ、さらなるドラッグ、そしてしばしば語られる“音楽上の違い”にむしばまれ、ゆっくりと崩壊していく様を内部から見ていた。 Maniはしばらく迷っていた。音楽を続けるべきかどうかさえも決めかねていた。そして'96年、英国のトレンドセッター的存在で、これまた伝説的なグループPrimal Screamに参加した。 「Primal ScreamはRoses解散後に参加を考えた2つのバンドの1つだった。それは真実だよ」と彼はそこを強調して語る。 「この道から足を洗ってもおかしくなかった。がっくりきていたしね。でも、音楽が俺の人生を救ってくれたのさ」 Maniは参加後すぐに、Primalsの『Vanishing Point』の仕事に貢献することができた。 このアルバムは彼らが未知なるテリトリーに踏み入れた、陰気で、もやのかかったような作品である。'94年の『Give Out But Don't Give Up』のアメリカナイズしたロック&ルーツジャングルとは全くかけ離れ、古典的ハウスアンセムへのアンチテーゼともいうべき'91年の傑作『Screamadelica』に近いものだった。 Primal Screamの最新作『XTRMNTR』もまた、このバンドにとって大きな飛躍である。荒涼たる都会の風景、陰気な経済状況、目もくらむようなスピードで接近中の破滅的未来、といったものを無情に描き出し、社会政治性を持つ圧倒的な厚みを誇る音楽だ。 「危険なこと、不可解なこと、意外なことが俺は好きでね」と、彼らが切り開いた新境地について訊ねられてManiは答えた。 そして何ともふさわしく、ニューヨークにあるソーホー・グランド・ホテルでの彼の取材は、ふしぎな驚きと共に始まったのである。 頭のてっぺんからスニーカーまでざらついたブラックレザーづくめで、何気なくロビーをぶらついていたManiは、意外な、とはいえ確かに見慣れた風采の人物の姿を見つけ出した。サルのようなショートカットと歩き方の人物は、間違えようもない。その瞬間、この記事の取るに足りない書き手は、ロックの歴史の小さな1コマを目撃するという特権をまさに手にしようとしていた。なぜならロビーに入ってきた男は、元Stone Rosesのフロントマン、Ian Brownその人だったのだ。 まるでエクスタシーが効いてきたばかりという感じにManiは顔を輝かせると、方向を変えて、何も気づいていないシンガーに後ろから近づく。身をかがめたすばやい動作で、彼は以前のバンド仲間に抱きついた。一瞬驚いた後に、Brownも彼に力強い抱擁を返し、興奮しながら話し始める。2、3分後に2人は別れ、Stoner転じてScreamerのManiは私の方へと向かってきた。 「何てこった、ありゃあ奇妙だぜ」と彼は叫ぶ。 「やつとは1年半ぐらい会ってなかったんだ」 だが、私たちは過去の話をするためにこの豪奢なホテルに入ってきたわけではなかった。今日のテーマの焦点は『XTRMNTR』にある。 これはPrimalsの多彩な15年のキャリアの中で6枚目のスタジオアルバムであり、惜しくも休業になるAlan McGeeのCreationレーベルにとってブックエンドとなる作品だ。 アルバムのトーンを特徴づける激しいビートの「Kill All Hippies」には、Dennis Hopperの名作『Out Of The Blue』に使われたLinda Mannsのフレーズの一部を拝借した後に、リードシンガーのBobby Gillespieが熱情的にこう歌う。 「おまえには金がある、おれには魂がある/こいつは金じゃ買えない、人のものにはならない」 この辛辣な言葉がこのアルバムの核心であり、Gillespieは、際限ない情熱をあふれさせながら、わめき、ののしり、自信たっぷりに主張するのである。 この癇癪はタイトルトラックまで持ちこまれるのだが、ここでGillespieはオーウェルとカフカを足して割った社会を痛烈に描き出す。 「汚職警官に殺虫剤の注射を/刑務所は収容所、裁判官は賄賂づけ/だれもかれもが娼婦と同じ」 そして次にはChemical Brothers風なノリのあるダンス曲、バンドの表現するところの「あてこすりメッセージつきのゲイ・ディスコ曲」である。 Maniはこう語る。 「「Swastika Eyes」は俺たちの基準のすべて満たしている。本当さ。つまり、踊らせる音楽でありながら、同時に社会をひっくり返すようなメッセージがこもってるってことだ。アンチ企業ファシズム、アンチNATO、アンチビッグブラザーって具合にね。どこか特別な国に向けたものじゃないさ。くだらねぇ奴らが仕切る世界中の政府に対してのメッセージってわけ。俺たちも抵抗を見せようとしているんだ。でも俺は政治家じゃないから。俺はベース弾きだから」 David Holmes、Brendan Lynch、Kevin Shields、Automator、Hugo Nicholson、そして、もちろんChemical Brothersと仕事をすることで、見事なまでに手の込んだ、そして明け透けで思い切った表現法をPrimal Screamは生み出したのである。 「現在の英国における人生そのものだと思う」とManiは語った。 「真実を写し出していると思う。俺たちの見たまま、感じたまま、聞いたまま、だよ。このアルバムは史上最高に怒りに満ちた、最も暴力的で、不機嫌で、歪んでいて、はちゃめちゃで、妄想症的だって、たくさんの人が言ってる。それは多分すごく当たってるね。だって、それは今の英国の姿そのものだからさ。英国に限らない、世界中がそういう状態だよ」 彼は話を止めてビールを頼み、それからまた勢いづいた。 「英国だけのことじゃなくて、世界中のどの国でもね。どこの国でも同じ問題を抱えている。ガンの病みたいに広がっているんだ。アメリカも持ってる病さ。アメリカにも英国と同じで最低の低所得階級があるだろ。しらけムードが波のように押し寄せて、国民はへばってる。『おいおい、目を覚ませよ』って感じさ。人間は山だって動かせるっていうのにね。4人のオマワリが逃げおおせようとするところを、アメリカのストリートキッズに尻尾をつかまれたのはよかったぜ(ニューヨークの警官たちがアマドゥ・ディアロを撃ち殺して無罪になった事件を引き合いに出している)。あれには俺たちも大いに元気づけられた。『どこの国でも人々は俺たちと同じように感じるんだ』ってね。腹立つことをされて、頭にきて、それに対して行動を起こすってのは、黙って呑み込むより、ずっと健全だよ」 それがタイトル『XTRMNTR』(発音は「エクスターミネイター」)になった理由だろうか、この社会のガンを取り除こうという気持ちを込めて? ある意味でそうだ、とManiは言う。 「人々に押し付けられた理想を撲滅するんだ。そんなのフェアじゃないからね」 彼は興奮気味に話を続ける。 「一般市民には何もないってのが現状だ。持てる者との間に深いギャップが広がりつつある。今のイギリスではそうだ。17歳の子供たち、自分の半分の年齢の子供たちが、どこかの店先で暮らしているのを見たら、涙だって出てくるよ。そんなの間違ってる。俺たちはそういう状況についてしゃべりまくるつもりさ。でも、なんだかんだ言っても音楽が最優先だから。ただし、ちょっとばかりの知識を音楽で伝えたいってことなんだ。耳を傾けてもらうことができるんならね」 Nevin_Martell |
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