新作『Wasp Star』に聴くXTCサウンド復活の全容
新作『Wasp Star』に聴くXTCサウンド復活の全容 |
LAUNCHが前回インタヴューを行なった'98年末、XTCの主要シンガーでソングライター、ギタリストでもあるAndy Partridgeは、オーケストラとアコースティック・ポップを組み合わせたアルバム『Apple Venus Volume One』を完成させたばかりだった。 Partridgeと相棒のシンガー/ソングライター/ベーシストのColin Mouldingは、当初、XTCによる8年ぶりのこの作品を2枚組のアルバムにしようと計画し、1枚にはオーケストラを用いたマテリアルを、もう1枚には通常のロックバンド・スタイルでアレンジした曲を収めるつもりでいた。 ところが、さまざまな理由から計画の変更を余儀なくされた結果、このセットは2枚の別々のアルバムとなり、『Volume One』の1年後に『Volume Two』をリリースする運びとなった。 その時点で「(1年後に発売される)エレクトリックのマテリアルはどんなものになるのか?」というLAUNCHの質問に対し、Andyは「Generals And Majors」や「Respectable Street」などパワフルな曲を満載した'80年の名作を引き合いに出して、「『Black Sea』をソフトにした感じ」と答えている。 あれから1年がたち、ついに『Wasp Star (Apple Venus Volume Two)』が我々のもとに届けられた。 すると意外にも、それは'80年当時のXTCとは大違いだった。 怒りがレコードの溝から噴き出してくるわけでもなく、メロディが不協和に陥ることもめったになく、政治や社会をテーマにした歌詞は鳴りをひそめて、代わりに男女関係(それも非常に成熟した)に関する歌がめだつようになり、Andyはわめいたり吠えたりすることなく、まっとうに歌っている。 …でありながら、それはPartridgeの言葉が的を射ていたことをいろいろな面で納得させるアルバムだった。 心をはずませるエレクトリックギターやアコースティックギターの響き、迫力あるベースライン、ドスンドスンという原始的なドラムス。彼らがこの20年間に録音したどの作品よりも、『Black Sea』や『English Settlements』のころのXTCサウンドに近い。 「別に理屈があるわけじゃないけれど、聴けばすぐにわかる」 Mouldingの自宅ガレージにしつらえれたXTCの新スタジオでの初録音作品『Wasp Star』(タイトルは金星の古代アステカ名)には、『Apple Venus』でプロデュースとキーボードを担当したNick Davisが再び起用された。ドラマーは、4曲がPrairie Prince、その他の曲はベテランのセッションマンChuck Saboが務める。 『Wasp Star』と『Apple Venus』を聴き比べると、両者がもともと1つの作品として意図されたことがはっきり感じられる(「考えてもみてくれよ、2枚目のディスクの件で、携帯電話片手に1年も悪戦苦闘してたんだから」とAndy)。 2枚のレコードには、互いを映す鏡のような曲が散見できる。中でも表裏一体をなす感覚を特に強くいだかせるのは、それぞれの最後に収録された曲だ。 『Apple Venus』を締めくくるスローで重苦しい「The Last Balloon」は、混乱したこの世界で未来の子供たちが救われるためには、親の世代と、失敗してもなお彼らがしがみついている信念を捨てなければならない、と告白する。『Wasp Star』を締めくくるブリティッシュフォーク調のメドレー「The Wheel And The Maypole」は、さらに悲観的…“あらゆるものは朽ちてゆく”というキーワードは、Andy PartridgeよりもTrent Reznorのセリフのようだ…だが、覚えやすいメロディが、病弊と死を受容するこの歌詞に、奇妙な希望や歓喜のイメージを添えている。 「あの2曲は同じコインの表と裏だ」と作者は認める。 「片方は不幸そのものの現実を描きながら、僕らが残したものを引き継ごうとする子供たちに希望を与える。もう片方はシャンペンのことを歌いながら、死や衰退や崩壊を受け入れるしかないことを訴える」 いわく、トランペット奏者が道を歩いていると、チューバ奏者が加わり、ちょうど店から出てきたトロンボーン奏者に出くわし、次々にいろんな人が仲間入りして、しまいにはフル・ブラスバンドになって大通りを練り歩く、という具合。エンディング近くで入ってくるリズムギターが奏でるのは、それまでの各パートが暗示していたコードだ。 「スタジオですべてのトラックを注意深く聴くと、ちゃんと調和した音になっていた。1つの楽器で出してる音じゃなく、いろんな楽器のコンビネーションによって生み出される音だ。それで、どうせならギターで実際にその音を弾いて、曲の終わりに入れることにした」 「みんな変わった終わり方をする曲だった。そのままではバラバラなんだ。でも、あんな手法で曲を並べることで、バラバラだったものに不思議な統一感が出る。レコーディングの過程でこういうことに気づくのは、部屋の掃除をしていて、隅っこのほこりを払っておしまいにしようと思っていたら、実は隅っこのほこりを払う必要なんかなかったことに気づくみたいなものさ。そこにあるものはそのままにしておけばいいんだ、とね」 Colinがこの曲を書いたのは、XTCが'90年代初頭に計画していた'60年代風バブルガム・アルバム(XTCがArchiesや1910 Fruitgum Companyのような架空のバンドになりすましたDukes Of Stratosphereによる同名のサイケデリック・プロジェクトの続編ともいうべきもの)のためだった。 このコンセプトに、当時彼らがイギリス国内で所属していたVirginは困惑したという。「Standing In For Joe」は『Wasp Star』に収録される予定ではなかったが、アルバムのセッションが始まると、Colinがこの曲の録音を強く主張。Andyは、メロディの数箇所を変えるなら、という条件つきでこれに同意した。…というのも、Steely Danの「Barrytown」に似すぎていたからだ。 「Colinとはその件でずいぶん話し合った。ColinはSteely Danの曲を知らなかったので、どんなに似ているかがわからなかったんだ。彼はそんなのたいした問題じゃないと思っていたから、言ってやったよ、『これは確かに君の曲だけど、Donald Fagenは君を訴えるだろう。君のためを思って言うんだ』って」 『Wasp Star』でGregoryがプレイしたのは「My Brown Guitar」1曲だけだったが、彼が印税に関して「ひどく横柄なファクス」をよこしたことから、PartridgeとMouldingは結局Daveのギターをはずすことにした。 「あの癇癪持ちにはつきあってられなかった」とAndyは言う。 Colinも自分の曲ではリズムギターを弾いているが、今回のソロはすべてAndyによるものだ。どことなくブラジルっぽい「You And The Clouds Will Still Be Beautiful」や、気まぐれなポップ賛歌「Church Of Women」(いかめしいテンポとゴスペル風のコーラスが、'92年の『Nonsuch』に収められたPartridgeの曲「Books Are Burning」を思い出させる)のギターソロは、ことに味わい深い。 Partridgeは、過去10年ほどのあいだに自宅録音した未発表のデモを、一連のアルバムとしてリリースしようと考えている。 何年も前から熱狂的なXTCファンの噂にのぼってはいたものの、耳にする機会がほとんどなかった「Dame Fortune」「Bumper Cars」「Ship Trapped In The Ice」などが日の目を見ることになりそうだ。 新作については、今のところ予定がない。契約問題のこじれから、5年にわたってVirgin相手にストライキを張ったことが、いまだAndyの創作意欲に影響を及ぼしている。 「これを言うとビックリするだろうけど、'97年以来、1つも曲を書いていない。ずっと何にもしてなかったんだ。『Apple Venus』と『Wasp Star』が立ち往生していたし、それが解決しない限り、新たに音楽を作る気にはなれなかった。やっと2枚とも発表できたから、そろそろ曲を書きたくてたまらなくなってきたよ」 「もうバンドじゃない」とPartridge。 「バンドというと、18歳の若者が4人ってイメージがあるだろう。僕らはそれとはほど遠い。今まで使ってきた名前の商標か、ソングライター連合か、純然たるアマチュアのレコード制作集団かってところかな。好きで好きでしょうがないことをやっているという意味で、僕らはアマチュアなんだ。まあ、なんと呼ばれようと、活動は続けていくよ。やめちゃうなんてバカげてる」 by Mac Radall |