横浜がSchlafの音につつみ込まれた日 音に包まれる、という感覚。 それは鼓膜を振動させる物理的なものではなく、 皮膚を通過して浸透していく水分のように、 自然に身体の中へ音が入ってきたときに感じられる。 この日、4月11日の横浜7TH AVENUEでシュラフが鳴らした音は まさに「包み込む」という形容がピタリとはまるものだった。 髪を短くして少年のような佇まいになった名穂。 彼女が銀色に光るフルートを手にステージへ現れると、 ひと呼吸の静寂の後に音の洪水は訪れた。 半年前に観たときよりもはるかに逞しくなっている。 宙を漂うように緩やかな旋律と、轟く雷鳴のように激しいバンド・サウンド。 繊細さの中に潜む荒々しい側面を出しながら、 その荒々しさを単なる粗暴に見せないテクニックを、 シュラフはすでに手に入れているように見えた。 MCはほとんどなく、 演奏によってのみ客席とのコミニュケーションは交わされていく。 雄弁に語らなくとも、彼らが伝えようとしていることは十分に伝わってくる。 眠りと覚醒。この二つのキーワードは、一貫したシンプルな構成によって 明確に打ち出されていた。 音楽は人の心を癒したり感情を高ぶらせたりする麻薬のようなものだと思う。 常習性があって、純度が高いほど利き目もある。 シュラフの音に包まれたこの日、 私はいつもより深い眠りについた。そして目覚めたとき、 ふと頭の中に流れたのは前日に聴いたシュラフのメロディだった。 そのとき、自分の身体が彼らの音楽に侵されているのだと 認めざるをえないと感じた。 00/4/22 望木綾子 |