【インタビュー】Linked Horizonの物語音楽と『進撃の巨人』──ストーリーベストアルバム『進撃の記憶』に寄せて

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◼︎架空の歴史を描くことのエモーション

──『進撃』では、そういう物語の細部の細部にまでこだわる作り方があったと思うんですが、それは今までのLinked Horizonの作り方とは違うものだったんでしょうか?

Revo:どうなんだろうな。あんまり変わってないような気もするけどね。

──では、もともとRevoさんが物語を音楽にする場合には、メインキャラクターももちろん中心にあるわけですけれども、世界の端々まで掬い上げるようなイメージなのでしょうか。

Revo:物語を音楽にするっていう根本はどれも変わらないけど、『進撃』は原作があって、説明しないといけないことは原作側がしてくれている。だからその点に関してはサボることができるというか、みんな知ってる前提でやることができるんで、よりエモいシーンを描くことに注力はできていて。今言ったウォール教が例えとしては分かりやすいと思うんですけど、もし自分の作った物語を曲にするんだとしたら、その場合はウォール教の曲を書いてる場合じゃないんだよね。もっと他に伝えないといけないことがいっぱいあるから。

──たしかに、自作の物語となると、柱になるストーリーの部分を、そもそも自分以外だれも知らないわけですからね。

Revo:みたいなこともあるから、『進撃』では、そういう遊び心とかも発揮しやすい環境だったのかもしれない。

──一方で、これまでのRevoさんのディスコグラフィーとの関連で言うと、「14文字の伝言」ではSound Horizonの「Roman」へのオマージュが登場しますよね。なぜああいう手法を取られたのでしょうか。Sound Horizonの作品と『進撃の巨人』で、なにかシンクロするものを感じられたのでしょうか。

Revo:いくつかの要素があってそうなってると思うんですけど、まずシンクロするかどうかで言ったら、絶対シンクロする。というか、これは多分『進撃』に限った話じゃないんですけど、あらゆる感覚ってやっぱ繋がってるんですね、人間が作ってる以上。この作品の中にしかない感覚って、おそらくそんなに多くないんです。どういう切り口で行くかは違っても、抽象的な言葉で言ったら例えば「自由」だとか「愛」だとか、そういうのってどの作品の中にも大なり小なり入ってるじゃないですか。なら、例えば愛を表すメロディーがあるとか、自由を表すメロディーがあるんだったら、それは作品の垣根を越えて使っても齟齬はないはずっていうのがまずあるだろうと。



──確かに。

Revo:ただ、僕はひたすらSound Horizonのファンへのファンサービスで、引用しなくていいものまで引用してしまうのは、もう、過ぎたるは猶及ばざるが如しということでダメかなと思ってます。一部のファンが喜ぶからって理由で作品とマッチしてないものを入れることは、あり得ない。しかし、マッチするんだったら許されるよねっていう。初めて聴く人にとってみたらそんなもん何の関係もないので、そのシーンにその曲の歌詞やメロディーが合ってるのであれば、さらにそこに何らかの文脈を載せるのは自由。それで喜ぶ人がいるんだったらやぶさかではない。その全てに今気づかれなくても、込める意味はあると思うんだよね。作品は僕の命よりも先まで残り続けてゆくものだから。

──『進撃』の作品自体が、Revoさんが描く世界に近い何かを持っていたのかなと思いましたが、今のお話は、そうではなくて実はどんな作品でも、愛とか自由みたいな概念は通底するということですね。

Revo:そうですね。分かりやすい言葉で例えましたけど、そうじゃなくても、いろんな要素で繋がる部分がある。ただ、繋がりやすい作品とそうじゃない作品はあるでしょうけどね。



──『進撃』の場合、原作でも母親がすごく重要なキャラクターとか概念として出てくると思うんですけれども、ここまで掘り下げて「母」について語れる作品なのだとは、みんなあんまり考えていなかったと思うんですよね。しかし、やっぱり母親というものに光を当てようとなさったのは、さっきのウォール教の話のように、Revoさん的には「これは当然やるべきだろう、やれるだろう」と思われたせいですか。

Revo:そうですね。そういうことはSound Horizonでもやっていたので、すぐ想像はついたし、これはなんかいい物語音楽になるなと思ったのでやったんです。でも世間からするとやっぱりちょっと意外性はあったのかもしれないですね。アニメ1期の最初のエンディング、日笠陽子さんの「美しき残酷な世界」は、ミカサにフォーカスしたような曲だったじゃないですか。あそこをエレンのお母さんの曲にしたらどうだったのか、という話です。エレンのお母さんの曲をやってはいけないわけではないし、必要でないわけでもない。ただ、その時にアニメではお母さんにフォーカスしなかったと。

──そこは、やはり先ほどのタイミングが合うかどうかというお話ですね。ちなみに今回は特装盤のボーナストラックとして新曲「私が本当に欲しかったモノ」が収録されていますが、これは……始祖ユミルについての曲という風に考えて、いいんでしょうか?

Revo:考えてもいいと思います。もちろん自由に解釈してもらっていいんですけど。お前、アイコンも出しとるやんみたいな声が聞こえてきそうですが(笑)。



──あの曲も含めて、やはり『進撃』で母親を描くんだなと感激しました。しかし母と言わずとも、親子とか、世代について考えさせられる曲が数多くありますよね。それこそ「13の冬」もそうだし、「二ヶ月後の君へ」もそうだったし、「二千年… 若しくは… 二万年後の君へ…」などもそうでした。そのように、歴史とか、時間の移り変わりに注目する曲が多かったのは、Revoさんから見て『進撃の巨人』がそういうお話だったということなんでしょうか。

Revo:『進撃』の中にもそういう部分があるし、僕が歴史とかそういうのが好きだっていうのも、大いに関係してると思います。そして作品が長く続いてきたら、その中で描かれている歴史も俯瞰して考えられるようになった。すると始祖ユミルから始まっているような話とか、もっと描かれてない部分に目が向いたというか。僕は歴史とかに対して、エモいって思う気持ちがあって。いま目の前にあるもののことを考えられるのは当たり前の話なんです。それも語り口によっては十分エモくなるんですけど、でも今ここにないものに思いを馳せることって、その時点でエモいんですよ。歴史のことって、人の現実や現在に切実に直面してないことが多いから。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶと言うように、個人的にそれは誤りだとは思うものの。大多数の人にとって、今すぐに考える必要はない過去のことが膨大だし、未来と同列には考えづらいことでもある。下手すれば無駄な学問だと思われてる節もある。そうであるにもかかわらず、過去の何かについて思ったり、考えたり、そういう情熱の全てがエモいと思いません?

──ノスタルジーなどもそうですが、「ここにない、すでに終わってしまったこと」に対して、思いを馳せること自体がエモーショナルだということですね。

Revo:僕たちは『進撃』の世界に生きてるわけでもないから、そもそも、その物語を受け取るとか、そういうこと自体もエモい。架空の歴史を見てるのと同じだからね。だけど実際の世界と共通するものが絶対あるはずだから。僕はかなり最初の方からそうと知らずに『進撃』にコミットしてきたけれども、すべて完結した今から『進撃』に触れようという人は、この壮大な歴史書というか、一大叙事詩を読む状態になるよね。とてもエモい体験だと思います。

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