【インタビュー】Linked Horizonの物語音楽と『進撃の巨人』──ストーリーベストアルバム『進撃の記憶』に寄せて
Linked Horizonが、ベストアルバム『進撃の記憶』を発売した。
TVアニメ『進撃の巨人』関連楽曲を並べ、壮大な物語を音楽によって追体験できる本作。既存曲は新たにマスタリングを行い、新曲「私が本当に欲しかったモノ」も収録。通常盤のジャケットは漫画原作者の諫山創氏による描き下ろしフルカラーイラスト、アナログ盤サイズの特装BOXにビッグサイズの歌詞カード封入と、まさに記念碑的作品となった。
が、本作は単なる “『進撃の巨人』の曲をまとめた”ものではない。10年にわたってTVアニメ『進撃の巨人』シリーズに寄り添ってきたLinked Horizonにしか描けなかった、“ストーリー”を感じることができるはずだ。その意味について、今回Linked Horizon主宰・Revoに取材を実施。本作、そして『進撃の巨人』を振り返ってもらった。
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◼︎「音楽にしたらこういうこともできるぜ」みたいな気持ちで表現していた
──今回はこれまでにLinked Horizonで手がけられた『進撃の巨人』関連の曲を集めた、言わばベストアルバムのような内容ですが、Revoさんご自身にとっては、どんな意味を持つ作品だと言えますか?
Revo:世間的に当てはまる言葉でいえばベストアルバムなんだけど、ただ、イコールベストアルバムかって言われたら、多分コンセプトアルバムの新作とも言える。でも、世の中には適切な言葉がないと思う。ベストアルバムでありながらも、1つのコンセプトアルバムとして新作といっても過言ではないからね。
──「コンセプトアルバム」というのは、つまりこれは『進撃の巨人』という作品をトータルして音楽で表したものとして新たに作られた作品、ってことですか。
Revo:そうですね。いわゆるベストアルバムやグレイテストヒッツみたいな人気のある曲を、特にストーリーとか関係なく、まあ普通は共通のストーリーとかないんですが(笑)。ピックアップしてぶっこみましたっていうのとはちょっとノリが違う。作品としてどういう曲を求め、どういう並びで入れるべきかみたいなことを、もう少しコンセプショナルな形で考えて構成された作品ではあるかな。少なくとも売れた順とか、人気順とかではないね。出発点が。結果それに近いとしても。
──特に今回の場合はもう完全にコラボレーションというか、諫山先生の絵が入り、しかもRevoさんを描いている形になっているわけですけども、これはどうしてそういうお話になったんでしょうか。
Revo:「紅蓮の弓矢」が収録されている、1番最初のシングル「自由への進撃」を出した時に、諫山先生に通常版のジャケ写を書き下ろしてもらってたんですよね。それを経て最後にもう1回、同じ形でやるのがいいんじゃないかってなって。アニメのイラストレーターさんたちとのコラボレーションが結構あって、CD毎に色々やってもらったりとかしてたじゃないですか。でも諌山さんには最初の1回以降お願いしていなかったので、やっぱりもう1度完結させるために最初と同じ形をやることはすごいエモいし、いいんじゃないかっていうのでお願いすることになったんです。恐れ多い気持ちも大いにありましたが(笑)。諌山先生には、特にこういうものを書いてほしいとかは一切言わずにお願いしました。「こういうベストアルバムを出そうと思ってるので、それで感じられたことを何か描いていただけませんか」と。
──実際に絵が上がってきた時の率直な感想は、いかがでしたか?
Revo:もうびっくりしましたよ。なんとなく、諌山さんにお願いしたとなれば、前回のように『進撃』のキャラがいると思ってたから。だけど今回は僕がいる。でも普通に考えたら、やっぱLinked HorizonというアーティストのCDなので、本人がいることは全然間違ってはないんですけど、正直なところそのくらい『進撃』の世界にどっぷりだったから、自分が出てくるっていう想像は全然してなくて。嬉しかったんですけど、なんか笑っちゃったというか。「マジかー!」みたいな(笑)。
──Linked Horizonには「ルクセンダルク大紀行」の頃から、しばしばそういうコンセプトがありましたが、本当にRevoさんが『進撃』の世界にいるんだ!ってことですよね。
Revo:そういう気持ちで作ってはいたんですけど、実際にはあの物語に僕は出てこないじゃないですか。あれ? 出てきませんよね? うん。何か頭がおかしなこと言ってるな(笑)。でも、諌山さん的にはそう思ってくれたのかもしれないよね。Revoが実際その世界に行って見てきたものを書いてるなっていうのを、感じ取ってくれたのかもしれない。
──しかし最初と最後で諌山さんにイラストを描いてもらうということは共通していても、何年も経過したことによって、最初の頃と、今回のアルバムを出すときの想いの違いというか、この作品に関する捉え方の違いみたいなものは、あるものですか?
Revo:うんまあ、どう考えてもあるでしょうね。やっぱり最初は先の分からないものを作ってるって感覚があったので。本当に手探りというか、これが正解なのかどうか分からないけども、やるしかねえと。今やるしかねえっていう気持ちで一緒に戦っていたというか。それが良かったとも思うんですが。ライナー、やるんだな。今。ここで、というライブ感が大事なので(笑)。
──Kアリーナ横浜で行われたライブフェス<進撃の巨人10th ANNIVERSARY “ATTACKFES” DAY1>(2024年1月27日開催)の時に、Linked Horizonが披露した新規のナレーションもそうでしたが、今やっと『進撃』という物語の全貌が明らかになったからこそ、「今だからこうする」という部分も、あるわけですよね。そもそも、あのナレーションはRevoさんが考えたものなんですよね?
Revo:原作から引用してるような部分もありますけど、二次創作っぽく聞こえた部分があるとすれば、そこは僕が考えてます。
──制作するときは、アニメや映画などクリエイティブ側とのやり取りもあるんでしょうか?
Revo:そうですね、ディスカッションするような形じゃなくて、「こういうものを考えてます、やってもいいですか?」っていうお伺いを立てて、「ちょっとここの表現は良くないと思います」みたいなのがあれば直していくって感じなんですけど、ダメ出しはあんまりないですね。
──なるほど。そういう意味でも、本当にRevoさんの楽曲もまた『進撃の巨人』の一部になっているとも言えますね。
Revo:本当に自由にやらせてもらってますね。貴重な経験をありがたいです。
──自由に、という意味では、それこそ「13の冬」みたいな曲もそうですよね。あれも、当初は原作の範疇を踏み越えたものとして作っていたわけですよね。
Revo:そうですね。ほか全ての曲がそうっちゃそうなんですけど、特に「13の冬」の場合でいえば、まず主題歌を提供する際には、どうしても自由度に限りがあるじゃないですか。今はもう時代が変わって、1曲でデジタルリリースすることもありますけど、自分は“CDにするには”っていう頭でどうしても考えちゃっていたんで、そうするとカップリング曲がやっぱ必要となってくるんですよね。CDを作るにあたって「カップリングにするんだったらこの路線だな」みたいなことを、いろんな可能性がありつつも、その時々で考えてやっていたんです。必要だから作ってはいるんですけど、完全に意味のないものではないし、その作品の中に存在しないものでもないから。
──なるほど。つまり「13の冬」の場合は、「憧憬と屍の道」とあわせてエレンとミカサのカップリングを作るということですよね。“一作品が1枚に収まるように”ということをまずは考えられたと。
Revo:あのタイミングではそうだったんですかね。全てのことは曲にできるんだろうけれども、基本的には、そのタイミングで求められてるものしか作れないじゃないですか。『進撃』の世界はものすごく広がっているわけだから、作ろうと思えば色々作れる可能性はあるけれど、全然関係ない曲をカップリングするのは嫌だし。その時はそこまで求められていなかったとしても、ストーリーに関係してるものを作っていけば、『進撃』のファンの人には楽しんでもらえるかなっていう思いがあった。勝手に作ったやつなんですけど、「あながちこれ、間違ってませんよね」みたいな。
──依頼した側が想定していないような球の投げ返し方をRevoさんがして、これも間違いではないよねっていうやりとりをされてた、と。
Revo:ややこしくなりそうなので、もう一度整理しますね(笑)。依頼されたのは「憧憬と屍の道」で、「13の冬」が勝手に作ったやつです。OP主題歌というビジネスとしては必要ないものであったかもしれないけれども、クリエイティブで言うと、「先の分からない今だからこそ面白いんじゃないですか」っていうタイミングもありますからね。そういう時に寄り添える良さというのが、世の中絶対にある。そういうタイミングでの出会いというか、運命というか。依頼する側がOPで想定していなかったからといって、自分がそのタイミングでカップリングに作った曲が必要ないわけでも、価値がないわけでもないんだろうなと。そのタイミングの本編で使われることを想定してなかったとしてもね。伏線として後の「二千年… 若しくは… 二万年後の君へ…」へ繋がるわけですから。
──あとはやっぱり、Revoさんはそもそも原作ファンでいらっしゃいますから、曲を聴いてくれる人たちに「とにかくいい作品だから見てほしい」みたいな気持ちがあって、「この先どんどん面白くなるんだよ」という紹介をするような気持ちがあったのでしょうか。
Revo:布教しなきゃいけない、みたいな意識はほぼないかなあ。相手が巨大な作品だからっていうのがあるかもしれないですけど。Linked Horizonの方が、知る人ぞ知るっていう存在ですしね。これが逆だったら、もしかしたら「みんな知らないと思うけど、こんな作品があるんだぜ」って、“自分が伝道者になんなきゃ”みたいな感覚になるかもしれないけど、そういうのはなかったかな。どちらかというと、「君が今好きって言ってる『進撃』の面白さって、本当にどこまで分かってる?」っていう。それを、音楽の力で「もっともっとエモくできるぜ」「例えば、音楽にしたらこういうこともできるぜ」みたいな気持ちで表現していたのかもしれない。
──じゃあ原作のファンの人たちやアニメを見て好きになった人たちに、「この作品、いいよね。でも、もっともっと踏み込むこともできるよ」って気持ちが込められているんですね。そういう発想がやっぱり「神の御業」みたいな、“これはウォール教の曲だ”みたいなことに繋がったり、さらにはライブでの斬新な発想にも繋がるんですかね。
Revo:「神の御業」に関してはちょっと、ウォール教の伝道者みたいな、フランシスコ・ザビエルみたいな気持ちでやった部分もあるけど(笑)。ひとつの世界にダイブするっていうことは、こういうことでもあるよと。エレンがどうだ、ミカサがどうだとか、わかりやすいキャラクターに対して、コミットしていく感じっていうのはみんなあると思うけど、本当にコミットしていこうと思ったら、ウォール教にもね、入っていかないといけないぞと提示したわけです。客席を巻き込んでライブでもミサをやったからね、今思うとあの使命感は何だったんだろうね(笑)。今のご時世ちょっともう難しいけどね。『進撃の巨人』の漫画やアニメ、メインのキャラクターとかを「これいいよ」って周りに勧める人は多いだろうけど、ウォール教を広めようとしてる人は全然いないから、これはもう俺の使命なんじゃないかって。
──ウォール教を広めたのはRevoさんだけだったと(笑)
Revo:「あきらめたらそこで試合終了ですよ」って感じはちょっとあったかもしれないね(笑)。
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