【インタビュー】GLIM SPANKY、『The Goldmine』に全11曲の挑戦「誰しもが自分の中に金脈を持っている」

ポスト
no_ad_aritcle

■松尾さんにクリーンを使わせてもらえない(笑)
■けっこうハイゲインにしなきゃいけないんです


──「Innocent Eyes」と「怒りをくれよ(jon-YAKITORY Remix)」と、最後、めちゃめちゃ攻めて終わるところがカッコいいと思ったので、終わりの2曲から話を聞いてしまいましたが、改めて、『The Goldmine』は前2作の挑戦がGLIM SPANKYの血となり、肉となっていることを思わせつつ、さらなる挑戦が痛快な作品でした。それにしても前作から1年って早くないですか(笑)?

松尾:でも、このスピード感も大事ですから。

亀本:サウンドをさらにアップデイトするのに、たっぷり時間があったわけじゃなかったから、めちゃめちゃ大変でしたけどね。普通このペースだったら、前作を作って“そこから方法論を変えずに”ってなると思うんですけど、“音作りをもっとアップデイトするぞ”というテンションで臨んでたんで。

松尾:自分の中のやり方を自らかなり改革したって感じです。なので、すごく苦しんだし、大変でしたけど、自分の中の壁を壊せた部分もあったので、“やってやった”という感じです(笑)。


──具体的にはどんなところを改革して、どんなふうにGLIM SPANKYの音楽をアップデイトしていったんですか?

松尾:サウンドからいく?

亀本:サウンドは、そうですね。バンド録音で作る曲とか、打ち込みを使う曲とかいろいろあるんですけど、まずバンド録音する曲は、音像がともすれば地味になりがちというか。たとえば、ドラムの音をバンドミュージック的にラウドな感じにしても、打ち込みのタイトで、聴覚上近い音像と並べると、すごくもっさりして聴こえちゃうんです。だから、“打ち込みのポップスと並べて聴いても遜色ないようなバンドサウンドにするには、どう変えていったらいいだろうか”というふうに考えました。ドラムとベースもバンドサウンドだから生音でというところにこだわらず、叩いてもらったドラムの音と打ち込みの音を混ぜたりとか、ベースもエレキベースとシンセベースを使い分けたりとか、1曲の中でも両方使ったりとか、いろいろなことを試しながら、使える手段は徹底的に使いまくって、ロック感とバンドミュージック感を維持したまま、他の音楽と聴き比べても聴き劣りしないようなものを、そう聴こえるように作ることを目指しました。それがすごく大事なことだと思ったんですよ。『ONE PIECE』の作者の尾田栄一郎さんっているじゃないですか。

──はい。

亀本:この前、『ONE PIECE』の実写版が公開されたとき、宣伝の方法として、役者さんのビジュアルではなく、尾田さんと制作チームのやり取りの中で、尾田さんが言った言葉をポスターに使っていたんです。いかにも広告っぽいと思うんですけど、その中に“大事なのはリアルさじゃなくて、そう見えることだ”っていう言葉があって。

──あぁ、なるほど。

亀本:“本当はこうだから、こうなんだよ”じゃなくて、”そう見えるような演出が大事だ”ってことなんですけど、“マジでそれだ”と思って、ピーンときて。実際、僕らが思っているドラムって超ラウドで、ライブでドン!パン!って叩いたら、バーンって鳴るじゃないですか。でも、音源にすると、すごく後ろにいっちゃうんですよ。でも、今の打ち込みのキックやスネアの音って、音像が目の前でボンって鳴ってるみたいにクリアだったり、ステレオイメージを使ったりしていて、より広く、デカく聴こえるんです。だから、普通にマイクで録って、ダイナミクスもギュウギュウにせず、ちょうどいいナチュラルなバランスで置いて、“これが一番リアルな自然な音なんです”って言ったところで、リスナーには関係ない。リスナーがリアルかどうか判断するのに重要なのは、いかにドーン!バーン!って鳴ってるかなんです。


──聴感上ですね。

亀本:ドラムの、そのドーン!バーン!を伝えるために必要なドーン!の低音はマイクで録った音だけだと、どうしてもついてこない。低音は出てたとしても、スピードが遅いから、体感としてはキックの上の音だけが先に聴こえてきちゃうんです。生ドラムって打ち込みに比べて、低音がないって感じるじゃないですか。だったら、下のン!ってやつを一緒に鳴らすとか、スネアもエアの部分が多くなっていけばなっていくほど、聴こえ方としては打点が鳴った時の圧が後ろに下がっていくんですよ。距離感って相対的なものだから、ボーカルがドライで前にいたら、リバーブをかけたドラムはちょっと後ろに感じる。だったら、生ドラムのスネアのダーン!っていう音にシンセを混ぜて、補強する。言い方を変えれば、ズルをして。

──いや、ズルだとは思わないですけど(笑)。

亀本:でも、“リアルなものがいいんだ”と言うんだったら、それはズルじゃないですか。そんな音は実際に出てないんだから。

松尾:そうだよね。

亀本:1曲目の「The Goldmine」なんてまさにそうなんですけど、ドラムがバーン!って鳴ってるように聴かせるために敢えてドラムを叩いていないっていう。

──そう。この曲、打ち込みなんですよね。

亀本:でも、それを生でやったら“地味だね”ってなる。

松尾:“渋いね”ってなっちゃう。

亀本:そういう挑戦がありました。7曲目の「Odd Dancer」は生ドラムなんですけど、バスドラのキックはマイク3本で録った音をステレオで鳴らしているから音場が広い。“ロックはこうだから”っていう固定観念に囚われずに“ちゃんとポップスとして、こういうふうに聴かせたい”というアイデアに対してベストなものをやっていくってことを、今回はこれまで以上にやりました。コロナ禍以降のトライ&エラーの中でやってきたものなんですけど、それをさらにグレードアップさせるってことを今回、がんばってやったんです。



──それプラス、ギタリストとしても新たな挑戦があったわけですよね?

亀本:ギタリストとしてはそんなにアプローチを新しくしたいとは考えてなかったです。まずシンプルに、いいフレーズにするってことと、音も“僕はこれ”っていうのがしっかりあるんで、道具もそんなに新しいものを試したりせずにやったんですけど、打ち込みの比率が増えたので、マイクで録ってないエレキギターの比率が増えたのは、今回の発見でした。「The Goldmine」のリフはマイクで録ったギターとラインで録ったギターが両方鳴っているんです。ちゃんとマイクで録った音と、パソコンのシミュレーターで作った音では音像というか、音の性質が全然違うんですよ。同じエレキの音に聴こえるんですけど、オーディオ的に質感が全然違って、両方がいい効果を出してくれている。「Odd Dancer」でもずっとサビでボーカルとユニゾンしている派手なギターはマイクだと濁っちゃうから、ラインで作って…みたいな、そういういろいろというか、なんでもありってところで。

松尾:細かく作ってたよね。

──ギターの話をもうちょっと聞かせてください。今回、ワウペダルとスライド奏法をすごく使っていますよね?

亀本:めちゃめちゃ多用しましたね。

──それはギタリストとしてのキャラ付けを考えてのことなんですか?

亀本:いや、そういうわけじゃないです。シンプルなコードのバッキングは、そんなに必要ないと僕は感じていて。それってけっこう空間を埋めちゃうし、空間を埋めると、他の楽器…たとえばドラムのキックやスネアのリリース(余韻)や、シンセパッドのエアが失われてしまって、いわゆるロック的な壁になっちゃうから、ロック的な音壁にせずにギターを弾くためには、おのずとワウとスライド奏法になる。2曲目の「Glitter Illusion」なんてまさにそうですね。ワウを使うことによって、音色も締まるし、あと、グルーヴが出るんですよ。

松尾:うんうん。


亀本:僕、松尾さんにエレキギターのクリーントーンを使わせてもらえなくて(笑)。けっこうハイゲインにしなきゃいけないんですよ。

松尾:やっぱりダーティーな音じゃないと(笑)。しかも、いい音じゃダメなんです。

亀本:そうすると、どうしても歪みが強くなって。歪みが強いと、一辺倒な音になって、グルーヴがなくなるんです。8ビートのロックだったらそれでもいいんですけど、16ビートの曲の時は。

松尾:うん、表情がないとね。

亀本:「Innocent Eyes」がそうですね。ワウを使うと、グルーヴが損なわれない。

松尾:確かに確かに。

亀本:ワウが多いっていうのは、ノリをなくさないためにってところが大きいと思います。「The Goldmine」もワウを使ってるもんね。

松尾:そうだね。

亀本:だから、ただコードのジャーンってほとんどやってないんですよ。スライドはなんか最近、“あ、僕、スライドうまいな”って思っていて(笑)。“得意だぞ。だったら使おう”みたいな。あと、松尾さんのボーカルもメロディの動かし方がウネると言うよりは、どちらかと言うと、真っ直ぐっていうスタイルだから、そうすると楽器も音の移動が直線的になるじゃないですか。その中でスライドの流動的な音の動きってすごく耳を惹くと思うんですよ。そういう意味でもスライドって効果音的に使える。9曲目の「不幸アレ」は普通にスライドでずっと弾きつつ、効果音的にも使っていて。

松尾:サビでもね。


亀本:6曲目の「Summer Letter」もずっとスライドしているんですけど、サビの後ろでメロディをユニゾンしたり、ハモったりしているスライドがいて、その音の揺れが激しいから、音に厚みが出て、ちょっとストリングスっぽく聴こえたりもして。

──あ、あれはスライドだったんですか。

亀本:そういう使い方もできるんで、かなりスライドは使っていますね。

◆インタビュー【3】へ
◆インタビュー【1】へ戻る
この記事をポスト

この記事の関連情報