【インタビュー】見どころ満載、第65回グラミー賞授賞式®のドラマの筋書きはいかに?
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2023年2月6日(月)に開催となる第65回グラミー賞授賞式®は、2023年もWOWOWにて独占生中継&再放送され、あわせて様々な関連番組も続々登場となっている。すでに話題沸騰になっているビヨンセの累計最多ノミネート、アデルvsビヨンセという構図、そしてWOWOWの生放送では会場となるクリプトドットコム・アリーナ(旧ステープルズ・センター)にTravis Japanが登場、スペシャルゲストとして現地からその熱気を届けてくれるという。
2023年グラミー賞®からみる最新の音楽事情とその見どころを、WOWOW生放送の案内役を務めるジョン・カビラに聞いてみた。
アデル Getty Images
──今回のグラミー®は、根城会場のステープルズ・センターに戻ってきましたが、会場の名前がクリプトドットコム・アリーナに変わったんですね。
ジョン・カビラ:そうなんですよ。いわゆる仮想通貨ですが、時代を反映していますよね。いつもの会場に戻って、とにかく一番楽しみにしているのは誰がどのようなパフォーマンスを見せてくれるのか、どんなコラボを見せてくれるのか、というところですね。賞の行方もそうですけど、新人賞もほんとにバラエティに富んだ皆さんが揃っているので、新人の皆さんがどんな風にパフォーマンスに織り込まれるのか。例えばマネスキンは演ってくれるのかとか。
──マネスキンには期待したいです。貴重なロック系ですから。
マネスキン Getty Images
ジョン・カビラ:注目ですね。女性ベーシストのヴィクトリアが、デンマークの血が流れているんですけど、そのデンマーク語でムーンライトって意味らしいんですよね。
──マネスキン=ムーンライト?
ジョン・カビラ:ええ。その「ムーンライトにスポットライトが当たる」ってことで、本当に楽しみ。日本の<SUMMER SONIC 2022>でも大好評でしたし。
──ヴィクトリアにおいては、グラミー授賞式®のステージではどんな衣装なのかも注目ですね。
ジョン・カビラ:そうですね。放送コードがどうなるのか…どこまで表現できるのかっていうところですよね。あの出で立ちも、女性に対する差別とか女性に対するルッキズムとはなんぞやっていうところへの反駁を表現したものであって、断じて男性を喜ばせるためのものではないですから、そこら辺をゴールデンタイムのメインストリームのステージでどう表現できるのか。なかなかハードルは高いところですが。
──クローズドなライブ会場とオープンなグラミー賞授賞式®では、表現の自由度も変わりますね。
ジョン・カビラ:そうですよね。どういった主張が展開できるのだろうっていう楽しみです。
──デヴィッド・クロスビー、ジェフ・ベックやリサ・マリーを始めレジェンドの訃報が続いたことも、グラミー賞®当日の演目に影響を与えそうですが。
ジョン・カビラ:当然、関連した追悼のパフォーマンスがあるかもしれません。どういったプレイヤー/シンガーがどの曲をどういう風に披露してくれるのか、ここは本当に注目だと思います。個人的にはデヴィッドを悼むステージが組まれることを願っています。
──訃報というのは予定されるものではないだけに、そこへのレスポンスにはアーティストの底力や瞬発力が問われますよね。
デヴィッド・クロスビーGetty Images
ジェフ・ベック Getty Images
ジョン・カビラ:これはもう、ホイットニー・ヒューストンが前の晩に亡くなった後の、ジェニファー・ハドソンのあのパフォーマンスですよね(編集部註:2012年第54回グラミー賞授賞式®の前日にホテルのバスルームで急逝。急遽執り行われた追悼パフォーマンスで、ジェニファー・ハドソンがホイットニーの代表曲「オールウェイズ・ラヴ・ユー」を歌い捧げた)。アメリカのエンターテイメント…音楽界の懐の深さと、お互いのリスペクトがどれだけ深いものがあるのかがわかります。当然プロンプターで歌詞を見ながら歌ってるわけじゃないですから、リスペクトというものが本当に血となり肉となっている瞬間を感じますよね。グラミー®というのは、そのアーティストがどれだけ偉大だったのか愛されていたのかということを知る機会でもあります。
ジェニファー・ハドソン Getty Images
──今回の第65回グラミー賞授賞式®では、話題のひとつにビヨンセの作った記録がありますね。
ジョン・カビラ:そうなんですよ。累計88ノミネート(笑)。
──このノミネート数は、夫のジェイZと並ぶ歴代トップなんだとか?
ジョン・カビラ:そうです。考えられないほどあまりにもパワーカップル過ぎて、どんな高みに行ってしまうんですかっていうところですよね。新人賞を除く主要3部門(レコード・オブ・ザ・イヤー、アルバム・オブ・ザ・イヤー、ソング・オブ・ザ・イヤー)を含む全9ノミネートされていて、今回、2回目の主要部門受賞なるか、ですね。これまでに28もの受賞歴を持つビヨンセなんですけど、実はアリサ・フランクリンですら18ですからね。アリサより10個も獲ってるんですよ。ものすごい存在ですね。
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──まだまだ若くて現役なのに、受賞歴はすでにレジェンド級。
ジョン・カビラ:まだ41歳ですからね。全然ジャンルは違いますけど、確かゲオルク・ショルティ(ハンガリー出身のピアニスト/指揮者)の31受賞がグラミー®記録なので、そこまであと3つ。いずれ超えることは確実でしょう。そして、そこにまた、何故にアデルとビヨンセなんだ?という構図ね。
──アデル vs ビヨンセという賞レースは、世間の目が集中するところで。
ジョン・カビラ:そうなんです。2017年、アデルとビヨンセの一騎打ちでアデルが5冠を達成した際に「ビヨンセが獲るべきだった」って涙ながらにスピーチしましたよね。「貴方の音楽をずっと聴いてきたし、私の周りにいる肌が黒い人にとって貴方がどんな存在であるのかっていうことを私はずっと見てきたし、それをリスペクトしている。あなたを愛している」と、本当に胸を打つ名スピーチだった。あの時、確かビヨンセのお腹には、双子のルミちゃんとサーくんがいたんですよね。
──そうでしたか。
ジョン・カビラ:赤ちゃんがお腹にいたビヨンセに「貴方が獲るべきでした」と涙のごめんなさいを言っていたアデルが子育てで休み、その後体調も戻って賞レースに帰ってきたら、またビヨンセと?っていう。どんな筋書きなんですか、これ(笑)。2017年は、受賞した際にアデルがビヨンセの楽屋を訪れて、周りのみんなはその場を察して部屋から出てアデルとビヨンセだけにしたという、そんなビューティフル・ストーリーがあったりもしたんですよね。今回はどうなるんでしょうね。アワード予想サイトなどでは「最優秀アルバム賞か?アデルの前で」と。ドラマに期待です。
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──どんな結果になっても、ふたりとも涙を浮かべそう。リスペクトし合うミュージシャンシップが表れるところですから。
ジョン・カビラ:そうですね。また新たなストーリーがそこで紡がれていくっていう瞬間を僕らは証人としてみることができるという幸せはたまらないものがありますね。
──一方で、BTSの着実な快進撃も注目で。
ジョン・カビラ:今回で5つ目のノミネートになりました。2年前が「ダイナマイト」で、その次が「バター」で今回が「マイ・ユニバース」じゃないですか。爆発的に「ダイナマイト」がヒットして、全世界のARMY(アーミー)と音楽ファンの心をバターのように溶かして、ここから一旦休むけれども俺たちの世界がまだ続くという「マイ・ユニバース」。何なんですか、このタイトルからして出来すぎですよね(笑)。
──確かに。
BTS Getty Images
ジョン・カビラ:コールドプレイとも共演して、横断歩道ミュージカル(編集部註:Crosswalk The Musical:アメリカの人気トーク番組『レイト×2ショー with ジェームズ・コーデン』の1コーナー)にも出演、もしアルバムを獲ったとしたら凄いことですよ。
──着実にK-POPシーンが欧米音楽ビジネスに食い込んできた感じがします。
ジョン・カビラ:アメリカマーケットで成功するための方程式…じゃないですけれども、ひとつの道筋をBTSが作ってくれたのは間違いないと思います。じゃあ次のBTSは誰なのか、BTSの後を継ぐのはこのバンドだというようなインパクトと実績を継いでいくのは、それほど簡単ではないと思いますけど。
──日本のアーティストの活躍も期待するところですが、今回は、WOWOWではTravis Japanがスペシャルゲストとしてグラミー®会場に入るんですよね?
ジョン・カビラ:そうなんですよ。Travis Japanは昨年10月末にアメリカでキャピタルレコードからメジャーデビューしていますからね。もともとTravis JapanのTravisは人のお名前で、トラヴィス・ペインというマイケル・ジャクソンやレディー・ガガのコリオグラフィー(振り付け)を担当していた方で、彼がジャニーズJr.の中からダンスに注力して選別したグループなんです。実際に『アメリカズゴットタレント』でセミファイナル・ステージに到達していたり、ダンス・コンテストでもトップクラスの成績を収めたりしていますから、今後が楽しみ。今は亡きジャニー喜多川さんも、ジャニーズのメンバーにはグラミー賞®を見せてきていましたから。
──米ショービジネスを強く意識していたとのことですね。
Travis Japan
ジョン・カビラ:Travis Japanの皆さんがそういう刺激をさらに受けて、レッドカーペットやパフォーマンスを感じることができるのは、非常に価値が高いことだと思います。もちろん映像はクローズアップや様々な角度から楽しめるという魅力がありますけど、グラミー®はプロがプロを讃える現場ですから、そのステージ/会場は一体どんな空気なのか、一体どういったところで拍手・歓声が上がるのか、ステージングがどのように展開するのかをその場で目の当たりにできるのは羨ましい(笑)。僕もWOWOWでグラミー賞授賞式®をお伝えするのは18回目になりますけど、リハーサルを見ることができたのはたった1回ですからね。
──しかも本番はなし。
ジョン・カビラ:そう(笑)。この仕事をいただいている以上、生では絶対に観ることができないという宿命(笑)。
──皮肉ですね(笑)。
ジョン・カビラ:ステージングがほんとにすごいんですよ。上手と下手の距離がものすごく長くて、センターと左右が分割して成り立つくらいのスペースがあるんです。オープニングはもちろんセンターから始まりますけど、その後パフォーマンスは左右に移動するんです。その様子や作りを見ることはものすごく刺激になるんじゃないでしょうか。
──今年のグラミー賞授賞式®も、エポックな瞬間が生まれるんでしょうね。
ジョン・カビラ:そうですね。新人賞にノミネートされているマネスキンですけど、もし彼らが受賞したら、65年ぶりにイタリアのアーティストが主要4部門のグラミー賞®に輝くことになるんですね。ジョルジオ・モローダーがDaft Punkの最優秀アルバムのR.A.Mで受賞していますが、メインクレジットではないんですよね。グラミー賞®の初回の最優秀レコード賞/最優秀楽曲賞が「ボラーレ」(ドメニコ・モドゥーニョ)だったから。
──個人的にはマネスキンに獲ってほしい。いわゆる数少ないバンド系アーティストで、僕らが想像するよりもわからないことをしでかすロックな連中なので(笑)。
ジョン・カビラ:そうですね(笑)。これが多様性だろっていう。たまにはロックを勝たせてくれってね。
──彼らの存在自体、多様性の塊みたいなものだから。
ジョン・カビラ:そうですね(笑)。でもグラミー®のようなアワードってこういうトリビアが面白いんですよね。今回、なんでシルク・ソニックのアルバムが入っていないんだとか、ドレイクもいないしウィークエンドもいない。実は彼らは作品を提出していないんです。前回パフォーマンスであれだけ盛り上げてくれたにもかかわらず、え?っていう。そういう出ていない人たちのことも思い起こさせてくれるのがグラミー®ですよね。
──エントリーされないことが話題にもなりますね。
ジョン・カビラ:楽しむ術はいっぱいあります。可能であればぜひリアルタイムにWOWOWをライブで見ていただきたい。そしてもうひとつの楽しみ方として、後追いでアーティスト名をハッシュタグでツイートをリサーチすると、受賞の喜びとかバックステージの写真とかが飛び込んでくるんですよ。それを楽しみながらもう一度夜の放送を見ていただける。これ、何倍にも楽しめる珠玉のコンテンツだと思うんです。リアル、後追い、アーカイブ、さらにそのアーティストのツイート、そのパフォーマンスの後の表情とかね。実際に放送を観ると、「あ、こういうライブなんだ。だから後にこういうツイートしてたのか」っていう楽しみ方もできる。様々なテクノロジーのおかげで、いろんな楽しみ方ができる時代です。ネタバレは許さないっていう皆さんには逆に生きづらい世の中になってると思いますけど(笑)、逆手にとって遊んでいただいた方がいいのかなと思っています。
──カビラさんは、当日リアルタイムでの司会ですから、楽しんでいる場合じゃないですね。
ジョン・カビラ:いや、独特の高揚感と緊張感に身を委ねて、楽しませてもらいます(笑)。普段聴かない音楽やジャンルもあると思うんですけど、どこかで触発されたり追悼で出てきたり、あなたが好きなアーティストが必ずどこかでつながってると思うんですよね。その繋がりを知ることも、好きなアーティストに近づける機会ですから、ぜひ皆さんもグラミー®を楽しんでみてください。
──単純にかっこいいアーティストとの出会いもありますし。
ジョン・カビラ:今ではサブスクの世界でグラミー®関連のプレイリストもたくさん存在するんです。恐るべき事に全網羅するような方もいてですね、「一体何十時間聞けばいいの、このプレイリスト」っていう(笑)。「うわ、クラシックまで入ってる!素晴らしい!」っていう慈善事業のように労力をかけてプレイリストを作ってくださっている方々がいらして、もう本当に頭が下がります。放送でパフォーマーが出て来た瞬間にその名前をサブスクに入れるとすぐプレイリストが出てくる。「あ、こういう音楽なんだ。聴いたことないけど面白そう」ってこともありますから、こまめにチェックしていただいて聴いていただければいいですね。
──プレイリストを聴いて「いいな」と思ったものが、自分にとってのレコード・オブ・ザ・イヤーですから。
ジョン・カビラ:そうです。今回、例えば新人賞の10人の中には、サマラ・ジョイのような思いっきりジャズのボーカルもあったりしますし、オマー・アポロとかどんなジャンルなの?とかドミ&JD・ベックのようにどんなカテゴリーに入っちゃうんだろう?っていうアーティストもいるので、「ベスト・ニュー・アーティスト」のプレイリストもすごく楽しいです。
──いろんな音楽と、すぐに出逢えるいい時代になりましたね。
ジョン・カビラ:なってますね。新人賞にはウェット・レッグとかもノミネートされていますが、であれば L.A.のガールズバンド、ザ・リンダ・リンダズも選んで欲しいよなー、みたいな気もしますよね。そうしたらそこから米メディアがTHE BLUE HEARTSを発見して、「シティ・ポップもいいけどジャパニーズ・ロックもいいぜ」って言わせて欲しい。
──ほんとそう。日本にも素晴らしい音楽がいっぱいあるんだから、これからもグラミー®には期待ですね。ありがとうございました。
取材・文◎烏丸哲也(JMN統括編集長)
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グラミー賞授賞式®/関連番組
2月6日(月)午前9:00[WOWOWプライム][WOWOWオンデマンド]
第65回グラミー賞授賞式® ※字幕版
2月6日(月)午後10:00[WOWOWライブ][WOWOWオンデマンド]
Travis Japan meets The GRAMMY® ~グラミー賞®直前スペシャル~
2月5日(日)午後9:00[WOWOWプライム][WOWOWオンデマンド]ほか
第65回グラミー賞®の見どころ
2/4(土)午前9:45 [WOWOWライブ][WOWOWオンデマンド]ほか
WOWOWオンデマンドでアーカイブ配信中
レッド・ホット・チリ・ペッパーズ ライブ・アット・東京ドーム 2023
2月26日(日)午後5:30[WOWOWプライム][WOWOWオンデマンド]
※放送終了後~2週間アーカイブ配信あり