【インタビュー】GLIM SPANKY、アルバム『Into The Time Hole』完成「もっと音楽的に豊かな響きを」

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■'60年代的クラシックなポップ感と
■今っぽさがいい塩梅

──今回、いろいろな方へ楽曲提供もしながら、アルバムの曲を作っていったと思うんですけど、アルバムの中で、最初にできた曲というと?

松尾:最初に世に出したのは「風は呼んでいる」なんですけど、ネタとしてあったのは「ドレスを切り裂いて」だったかもしれないですね。その時はまだアルバムのことを考えずに、次の曲どうする?って作り始めたと思う。

──そこからアルバムを視野に入れて、どんな曲が必要か考えながら作っていったと?

亀本:後半はそんな感じでしたね。

松尾:けっこう急ピッチで作ったので、ギリギリまでどんな曲が必要なのか、あまりまとまらなくて。“もう1曲インパクトがある曲を作ろう”ってなったとき、“あの曲があるじゃん!”って「ドレスを切り裂いて」を思い出して、“この曲を入れよう”ってなったんだよね?

亀本:そうだね。けっこう保留にしてたんですよ。

松尾:歌詞がうまくまとまらなくて。


──「ドレスを切り裂いて」はサウンドももちろんですけど、やっぱり歌詞が強烈ですよね。

松尾:ありがとうございます。考えて考えて書きました。

──「ドレスを切り裂いて」とか「シグナルはいらない」は今の時代を切り取りながら……いや、ぶった斬りながら、惑わされずに自分の道を歩けというメッセージが伝わってきます。それと同時に松尾さんは今の時代に、とても違和感を抱いているんだなって。

松尾:そういうふうに受け取っていただけてありがたいです(笑)。

亀本:松尾さん、今、生きづらいもんね(笑)。

松尾:そうだね。生きづらい(笑)。

──え、そうなんですか(笑)?

松尾:「ドレスを切り裂いて」はSNSのことを歌っているんです。Instagramだったりとか、TikTokだったりとかで、みんなが自分を良く見せるってことをするようになって、それはそれで楽しいことだから良いと思うんですけど、そっちが当たり前になりすぎているようにも感じるんですよ。フィルターを掛けて、良く見せているものが本物だと思ってしまう状況にあると思う。だけど、それって怖くないですか? 最近、私達のファンでも友達でも、スマホのカメラで普通に撮りたくないという子が多くて。

亀本:あぁ、顔がデフォルメされるアプリを使うわけね。

松尾:そう。そういう子がかなり多くて、アプリそのものの楽しさはあるにせよ、怖いことが起きているんじゃないか?って私は思ったんです。自分っていうのが何かわからなくなる世の中なんじゃないかって。自分の選択というか、自分は何がしたいのか、自分はどういう人間なのかっていうことがわかりづらい世界になっている。「シグナルはいらない」も「ドレスを切り裂いて」も、そういうテーマで書きました。「ドレスを切り裂いて」は自分からフィルターを掛けて、着飾っている状態について歌っているんですけど、その仮面を自分から取ることってすごく難しいと思うんです。だって、誰かにそうさせられているわけじゃなくて、自分で望んでそうしているんだから。それを取っ払う勇気が必要だと思うんですけど、それにはドレスを脱ぐだけじゃなくて、心の中のナイフで切り裂いていかないと。それくらいじゃないとダメだという気持ちで書いたんです。



──なるほど。「ドレスを切り裂いて」というタイトルを最初に目にした時はかなり強烈に感じたのですが、奇抜さを狙ったというよりは、そこまでしないと、という思いから出てきた言葉だったんですね。

松尾:心の底から思ったというのもあるし、インパクトのある言葉を探していたというのもある。私はワンピースもドレスも好きだから、自分を着飾る大切なものを一回なくして考えるって覚悟のいることで、なかなかできないことだと思ったんですよね。

──ところで、亀本さんは生きづらくないですか(笑)?

亀本:あんまり生きづらくないですね。唯一生きづらいのは、今もしてますけど、マスクですね。コロナ禍の期間中、家にいる時間が長かったですけど、その時も“やばい、ずっと家にいれちゃう”と思ったくらいなんですよ(笑)。松尾さんとツアーに行けないのはイヤだけど、マジでSpotifyとNETFLIXとDAZNがあれば、50年ぐらい生きていけるんじゃないかな。だって、“そこにあるものを消化するだけで50年ぐらいかかるぞ”ぐらいの量があるじゃないですか。

松尾:でも、そういういわゆるサブスクに対して私は“信じてはいけないぞ”という気持ちがあって。それだけ見ていると、研ぎ澄まされていた自分の感覚が丸くなってしまう気がするんですよ。パソコンを開けば、同じものがオススメに出てきて、それだけ見ていたら、みんなが同じ好みになってしまう。それって怖くないですか?

亀本:でも、それに洗脳されない自信があるというか。自分の価値観とか蓄積してきたデータベースがあるから、僕は楽しめるよ。もちろん、松尾さんが言うこともわかる。確かに若い子は洗脳されちゃうかもしれないよね。今の若い子、ほんとにヤバいと思っていて。さっき松尾さんが言ってたアプリを使わないと写真を撮りたくないって話もそうだし、これはネットでたまたま見た投稿なんですけど、今の中高生って入学した時からマスクしているじゃないですか。だから、マスクしているのが普通で、「マスクを取りたい」と言うとナルシシストって思われるらしい。

松尾:えぇ~。

亀本:でも、そうだよね。顔を出すのが恥ずかしいっていうのがデフォルトだとしたら、“顔を出してもいいよ”って意見は、“おまえナルシシストなの⁉”ってなっちゃうらしい。

松尾:そっかー。

亀本:めっちゃ怖くない? 超怖いよね。

松尾:ヤバすぎる。

亀本:すみません、話が脱線しました(笑)。


▲『Into The Time Hole』初回限定盤

──いえいえ。興味深いお話でした。さて今回、その他にも新たな挑戦や、新境地を感じた曲がありました。たとえば、「HEY MY GIRL FRIEND!!」。ここまでポップな曲は新しくないですか?

松尾:ポップで気持ちよく聴ける曲を作ろうっていうのがテーマだったんです。裏の話をすると、今年、PIZZICATO FIVEの野宮真貴さんに楽曲提供をさせてもらったとき、何曲か書いた候補の中に「HEY MY GIRL FRIEND!!」」も入っていたんですよ。だから、最初に野宮さんが歌ってかわいい曲ってことで、亀本がアイデアを上げてきたんですけど、結局、「CANDY MOON」を提供することになったので、自分達でやるかって取っておいたんです。今までとテイストが違うのは、だからなんですけど、この曲は作るのが楽しかったですね。テーマ的にはラブコメの女の子のドラマみたいな感じで作りました。

──おっしゃるとおり、女の子ふたりの友情を描いた映画やドラマのような情景が思い浮かぶんですけど。でもこの曲もメッセージとしては、インディペンデントな女性像を歌っているように思えて、ポップなんだけど、そういうところにGLIM SPANKYらしい芯が感じられると思いました。

亀本:そういう歌しか作らないよね、松尾さんは(笑)。

松尾:そうだね。自然とそうなっちゃうんですよ。

亀本:なよなよした歌詞、ないもんね(笑)。

松尾:ちょっと前に、女友達が実際に失恋したことがあって。その子の話を新宿駅の外でうんうんと聞いてた時に「今、私達なんか映画みたいだよね」と言ったことが心の中に残ってたんです。映画みたいと思ったら、悲しんでいる友達がキュートに見えちゃって。今回のアルバムは短編映画集というテーマがあるから、そういう曲があってもいいんじゃないかと思って、自分の考えていることも散りばめながら、ポップなラブコメ的なストーリーを書けたら楽しいなと思って作りました。

──そんな「HEY MY GIRL FRIEND!!」のアレンジのポイントは?

松尾:キーボードじゃないの?

亀本:個人的には最初、テイラー・スウィフトの「シェイク・イット・オフ ~気にしてなんかいられないっ!!」とか、渋谷系とかをイメージしたんですけど、松尾さんと作っていく中で最終的にこういう曲に落ち着いたんですよね。普段は一緒に音楽を作っているんですけど、“思い描いているもの”とか“こういうことをやりたい”という方向とかが最初のうちは違い過ぎて、それがお互いに中和されて、この感じになっているみたいなところがあるんですよ。

松尾:そうだね。

亀本:全然違うよね。

松尾:この曲はレトロな、'60年代的なクラシックな要素もありつつ、ちゃんとポップに仕上げるという塩梅がうまくできたと思います。

亀本:そうだね。アレンジのポイントはちょっと今っぽく感じさせるところですね。コード進行とかドラムの音像とか、この曲は打ち込みなので。でも、やっぱりコード進行が大きいですね。サビは特に。

松尾:サビのメロディ感は、それこそテイラー・スウィフト、ワンダイレクション、ハリー・スタイルズ、BTSとか、そういうメインストリームのポップスの良い部分を。そういうのってこれまで自分の音楽に取り入れようと思ったことはなかったんですよ。もちろん、テイラーとかハリー・スタイルズとかは個人的に聴くんですけど、そういうポップな良いメロディ感を取り入れたいと思って。亀本がコード進行を送ってきたとき、こういうメロディが当てはまると思って、今までやらなかった言葉の当てはめ方をしてみたんです。ちょっと跳ねているというか。今までは、たとえばオアシスみたいに大きな譜割で言葉をどーんみたいな当てはめ方が好きで、そういう曲を書いていたんですね。でも、「HEY MY GIRL FRIEND!!」は、リズムが跳ねる細かい譜割に言葉を落とし込んでみようっていう挑戦をしてみました。

亀本:それもあるかもね、今っぽさっていう意味では。そういう話は、人とよくするんですよ。たとえばミスチルは1音符に1文字しか乗せていない。だから、ドラムも律儀に8ビートだったりするわけ。それに対して、ヒゲダンとか米津玄師さんとかは、1音符に2文字乗せることがあって、ドラムも跳ねている。同じく美メロのJ-POPの世界だけど、それが今っぽさに繋がる大きな要素だったりするんですよね。

松尾:もちろん米津さんとかを意識したわけじゃないけど、メロディにどう言葉を乗せるかというアプローチも含めて、'60年代的なクラシックなポップ感と今っぽさがいい塩梅ですね。

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