【インタビュー】和楽器バンド、<大新年会>アフタートーク
■「どう美しく洗練させて見せるか」をしっかり考えたい
──そんな黒流さんの見どころは?
黒流:「オキノタユウ」ですね。曲の前、僕がちょっと打ってからまっちー(町屋)がギターで入ってくる、というのは当日に決まったんですよ。ああいうとき僕は何も決めず、何も考えずに打ち始めるので、音を出してから「やばい、これまっちー入りづらいかも」って(笑)。そこからその場で色々修正して、ほどよいところでまっちーが入ってきてくれて、その空気を読んでゆう子ちゃんが出てくるっていう緊張感が面白かったですね。
町屋:何も決めずにやっていたって知ってから観ると面白いかもですよね。
──むしろ厳密に計算された曲入りかと思っていました。あとはやっぱり「ドラム和太鼓バトル 月打〜GACHIUCHI〜」も外せませんよね。
黒流:個人的には、山葵(Dr)がすごい緊張していたのが面白かったです。それと、コーナーが終わってドラムに戻ってからの顔。「終わったー!出し切ったー!」って感じで可愛いなって(笑)。
いぶくろ:黒流さんの筋肉も見どころですね! どんだけ絞ったか言ってあげたほうがいいんじゃないですか? 来年はダブル腹筋ルーレットもあるかも!?(※ツアー中、山葵が行なっていた腹筋を使った小ネタ)
黒流:いやいや、筋肉は山葵のテリトリーだから(笑)。
鈴華:たまに黒流さんの筋肉も見せる、くらいが一番ドキッとしていいですよね。
──あの特大の大太鼓は黒流さんのアイディアだったんですか?
黒流:そうですね。「ドラム和太鼓バトル」で面白いことやろうっていうのはいつも考えていて。今回は僕ら2人でしかできない、コロナ禍だから僕らだけで完結するものにしようって思って、ツアーが始まる前にもうやることは決めて準備をしてきました。山葵は筋肉もあるし、リズム感もあるし、さらにキツいのが好きっていう、大太鼓を打つのに適した逸材で。
町屋:キツいのが好きって大事ですよね!
黒流:ドM体質じゃないと、大太鼓って「ああもう疲れた嫌だ」ってなっちゃうんですよ(笑)。山葵は和太鼓に選ばれし男でした。初めて打って、40分後にはもう基本的な形ができていましたし。僕らの中ではあり得ないです。体力使うので普通はできない。あとは辛い辛いって言いながらも、何回も何回も練習していました。
──まさに才能の塊。
いぶくろ:僕は、黒流さんが見どころだと思いますよ。今回黒流さんを見上げることのできる位置にいたのでたまに見上げていたんですけど、黒流さんは和太鼓を打つ所作の中で綺麗にポーズをとったりする。その時にずっと目を合わせてるのに最後まで表情を崩さずに、ポーズが終わってから僕の方を見て「見んなよ」って顔をする。プロだな〜!って思いますよ。
黒流:「シンクロニシティ」の落ちサビだね。ニヤニヤしながらすっげー見てくる!って思ってたよ。あれほんとやめて(笑)。
いぶくろ:ははは。それはそれで、あとはやっぱり一番最初の「戦-ikusa-」。会場全体に「きたきた!」っていう気迫が満ちていった感じがしたんです。この始まりは、8周年としての<大新年会>のいいハイライトになっているんじゃないかなと思います。
──「戦-ikusa-」始まりもそうですし、今回のセットリストはセクションごとの色がわかりやすくてよかったなと。
町屋:今回はメンバーミーティングができる時間がたくさんあったので、全員で話してセトリを組めましたね。
──8年で曲も増えたから、曲を選ぶのも大変そうです。
鈴華:そうなんですよ、やりたい曲はほかにもいっぱいあります。レパートリーが増えるごとにセトリを組むのが難しいなって思ってきたけど、だからこそライブのセトリって刹那的で良いものだとも感じて。今回しか観れないものだから、私たち自身も楽しみなんです。
──今回の<大新年会>でしか観れないといえば、インストナンバーのセクションも外せないですよね。町屋さんとべにさん(蜷川べに/津軽三味線)による「河底撈魚」でのエレキシタールと津軽三味線のコラボなんて、他ではなかなか観られない。
町屋:シタールはレコーディングではもともと使用頻度が高くて、ライブだとシタールのシュミレーターを使ったりもしてましたけど、シュミレーターはシュミレーターの音でしかないので、やっぱりシタールっぽい音にしたいなってところでエレキシタールを使いました。シタールはインド北部の楽器ですけど、和楽器バンドに溶かした時に、琵琶に近い役割があると思っていて。琵琶の高音が伸びるみたいな感じでしか捉えてないから、和楽器と相性が良いんですよ。三味線と琵琶の近現代の曲も結構聴き漁ってみたんですが、それはちょっと近現代すぎて。
いぶくろ:そうなんですよね!
町屋:これはちょっと聴いてるお客さんがついてこれないなと思って。わかりやすい範囲のことをやりました。
黒流:じょんがら、かっこよかった。
町屋:じょんがら六段をベースに色々アレンジして作ってるところはあるんですけど、僕は専門じゃないのでそこまで詳しくなくて。「ここ、こうしたらいいんじゃない?」ってアイディアをべににもらって完成させました。
──このセクションは、それぞれが作曲したんですか? 「嶺上開花」はドラムと舞という組み合わせが新鮮でした。
鈴華:そうですね。私と山葵の「嶺上開花」は、山葵に先にリズムやイメージを伝えて、山葵がフレーズを作り、その後から振り付けをして映像を作ってもらった感じです。実はこれも黒流さんから「布を使って舞ってみて欲しい」というオーダーがあって。
──黒流さん、いぶくろさん、神永さんの「Nine Gates」は、いわゆる“和楽器っぽい”曲なのでしょうか。
いぶくろ:いや、全然です。和楽器の中では尖った曲ですね。異世界感というか、しっとりしないでほしいというオーダーもあったので。変拍子で、聞いている分にはあまりわからないけど、何かをやろうとすると難しい曲なんです。
黒流:僕は最初のリハの段階では「ポーン」とか「チーン」ってやるくらいでほとんど入らない予定だったんですが、次のリハでもっと入ってくださいって言われて次もう本番、みたいな感じでした(笑)。でもすごく楽しかったです。刺激のある曲だね。
鈴華:今度この曲に舞の振り付けをつけようと思ってます。
──それは素敵! ちなみに「Nine Gates(=九蓮宝燈)」「嶺上開花」「河底撈魚」と、なぜ曲名が麻雀用語だったのでしょう。
町屋:最近僕が麻雀ばかりやってるってのがまずありつつ。僕らの曲はべににアイディアをもらって最終的に曲が完成した……これは最後の捨て牌でロンあがり、「河底撈魚」だな!みたいな(笑)。
鈴華:もともとこのセクションはひとつなぎに見せたいという思いがあったんですよね。そこにまっちーが「河底撈魚」ってタイトルを出してきて(笑)。私は子どもの頃から家族で麻雀をしていたのでルールは知ってて、今回のツアーでは移動のバスの中でまっちーと山葵でアプリの麻雀をしてたんですよ。そんな思い出もあるし、山葵が字面が私っぽいねって言ってくれたので、私たちの曲タイトルは「嶺上開花」になりました。
いぶくろ:僕たちの「Nine Gates」は、もともとはこのセクションコーナーの始まりを担う曲だし、そこから別世界に入っていくような入り口のような役割の曲にしたいと思っていたので“Gate”って言葉を使いたいなって思ってたんです。でも急に「Gate」っていうのもセトリの中で浮くかなってモヤモヤしてたら、「河底撈魚」?「嶺上開花」?おやおや?って(笑)。で、色々調べていたら九蓮宝燈にNine Gatesって英語読みがあることがわかったんです。
──うまくハマりましたね!
いぶくろ:“Gate”も使いたかったし、“Nine”も、8周年が終わって9年目に向かっていく<大新年会>という伏線になるし。さらに、仏教に十界という人間の境涯を表す考え方があって。自分がその十ある境涯のどれかに属するわけなんですけど、つまり自分の精神以外に9つの境涯があるということ。それも “自分だけど自分じゃない世界”に連れて行く楽曲にぴったりだなと。
町屋:いい話になってる!
鈴華:結果的にさ、「Nine Gates」で幕が開けて「嶺上開花」を2人でやって、最後「河底撈魚」で終わるっていういい流れになったよね。
黒流:僕は麻雀は全然知らないので、字面としては綺麗だし、いいんじゃないって感じでしたが(笑)。
鈴華:黒流さんもやりましょ、麻雀できる人が4人いるととても嬉しいんですよ(笑)。
──色々と<大新年会>の裏話が聞けて、面白かったです。来年の<大新年会>も楽しみです。
黒流:メンバーそれぞれに「こうしていきたい」みたいな和楽器バンド像があって、それをうまく集約したのが今回の<大新年会>でした。今は、みんなの和楽器バンド像が一つになって構築されてきた時期なのかなと思います。今年一年活動して行く中で学びを続け、来年の<大新年会>ではまた新しいものを皆さんにお見せできたらと思います。
──最後に、2022年の目標を教えてください。
黒流:原点回帰、です。今回のようなわかりやすい大太鼓の見せ方は、これまで和太鼓奏者としてあえて避けていたんですが、自分の演奏スタイルを原点に戻して「どういう表現を自分がしたいのか」を追い求めていきたいと思っています。和楽器バンドは8年間活動してきましたが、まだまだ僕たちのことを知らない人がたくさんいらっしゃいます。そんな方達に、どうやってわかりやすく和楽器バンドを伝えるか、どういう形で和太鼓奏者として和楽器バンドの魅力を伝えるか、それを改めて考える一年にしたいですね。
いぶくろ:僕は、基礎を固めるということを今年の目標に据えています。今回すごく久々に「六兆年と一夜物語」を演奏したんですけど、自然と効率の良い弾き方に変わっていたんですよね。これまでと変わったことで音の立ち上がりが良くなったり次のフレーズへのつながりが良くなって、曲の流れが綺麗になった。音色に関しても、どうやったら箏の音がちゃんと生音のように聞こえるかという点を工夫して、<大新年会>当日の朝にまた音の作り方を変えたりして、音の鳴り方そのものを追求していたんです。こういうことを続けて、より一歩深まった、質の良い音を届けられるよう、基礎を固めていこうと思っています。
町屋:僕はですねえ、ちょっと前にBluetoothでスマホと連携して全てのデータを取れる体重計を買ったんですよ。そしたらね、体内年齢がちょうど実年齢と一緒だったんですよ。それを8歳くらい若返らせることが今年の抱負です。8年前くらいがすごい元気で、5年前くらいから体が重いなって思い始めて、これからどんどん……ね。
鈴華:(笑)。私は、美の探求です。これは見た目の話だけではなく。今って、世の中全体として美というものに意識が高まっていると感じていて。映えるって言葉が出てきたりとかもそうですよね。クリームがいっぱいのったパンケーキって、味自体が美味しいかどうかよりも、美味しそうに見えるかどうかという工夫だったり。そういう世の中の変化を感じている中で、私自身のパフォーマンスも、「どう美しく洗練させて見せるか」をしっかり考えたいなと思ったんです。それを含めて、2022年はチャレンジの年にしていきたいと思っています。和楽器バンドとしても、どう洗練させていくかというところが課題だと思っているので、音楽性だったりビジュアルだったり、今の時代に沿ってどう進んでいくかを探求していきたいと思っています。
取材・文◎服部容子(BARKS)
写真◎上溝恭香
WOWOWプラス 放送番組情報
WOWOWプラス:
https://www.wowowplus.jp/program/episode.php?prg_cd=CIIDM21066
収録日:2022年1月9日
収録場所:東京 日本武道館
◆和楽器バンド オフィシャルサイト
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