【インタビュー】ヒグチアイ、「結局どんな方法を用いてもさみしさは変わらない」

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ヒグチアイが3ヶ月連続配信リリースの第2弾「距離」をリリースした。

◆撮り下ろし画像/MV

9月に発表した第1弾「悲しい歌がある理由」は、YouTubeでミュージックビデオが公開となるや多くのコメントが書き込まれた。自身の境遇とかさね涙した人、または言葉にできなかった思いに気づかされた人、この歌を日々の糧に進んでいる人、偶然この歌にたどり着き思いを書き込まずにはいられなかった人など、その静かで強い歌は、無数の誰かの歌になり響いているようだ。


今回の「距離」は、遠距離恋愛を歌った曲だという。とはいえ、ただその距離が生む切なさや、さみしさを綴るものではないのがヒグチアイの視点である。手が届かない、不確かだけれど、確かにそこにあるもの。それを胸に日々を重ねていく、不器用で、でもしなやかな歌が愛おしい。前回に続くこのインタビューでは、3ヶ月連続リリースのテーマとなった“働く女性”から、ヒグチアイの歌の元となった思いを語ってもらった。

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■一貫してさみしいと思っている人の方が多い

──今回の3カ月連続配信リリースのテーマになっているのは、“働く女性”ということですが、このテーマになったのはどういったことからだったんですか。

ヒグチアイ:私は今、自分で雑誌を作っているんですけど。そういうものを作ろうと思った大きなテーマが“このさみしさに終わりはあるのか”だったんです。自分が30歳になったときに、あまり結婚したいと思わないなとか子どもはいらないなと思って……でもこの先も仕事を続けていって、ひとりでさみしいなと感じたときはどうしたらいいんだろう、みたいなことをふと考えたんです。自分より上の世代でもひとりで生きている女性は増えてきていますけど、例えば同じミュージシャンでも結婚して活動を辞めていく人や、子どもができたらこれまでと全然違った曲を作るようになっていく人を見ていると、やっぱり人は変わってしまうんだなと思って。じゃあ結婚をしたり、子どもがいなくても、それを正解として見せてくれている人ってどれくらいいるんだろうと思って。そこから、ひとりで働いてお金を稼いで生きていくにはということを考えはじめたのがきっかけですね。

──その雑誌が『うふふVol.01〜生き抜く力と息抜く言葉〜』ですね。ご自身でいろんな方にインタビューをしたということですが、そこでの人選はどんな感じだったのでしょうか。具体的にこんな職業の人に話を聞いてみたいというのがあったんですか?

ヒグチアイ:最初の募集では、“自分があまり普通の職業ではないと思っている人、連絡をください”っていうふうにしたんです。“さみしさを抱えている人”って募集をすると、自分でさみしいという感覚に気づいている人しかきてくれないだろうなと思って。日々働いているなかで、「あれ? これってもしかしたらさみしさかもしれないな」と思うことだったり、自分はさみしくないと思っている人の生き方でもいい気がしていたので。職種は関係なく、いろんな女性に話を聞いてみたいと思ったんです。男性からも連絡はきたんですけど、今回はごめんなさいという感じで(笑)。とにかく、“誰”というわけでもない人たちを探したかった感じでしたね。あとは、言葉を仕事にしていない人たちの言葉が、どういうものなのかが気になったのもありました。



──実際に、会って話を聞いてみてどうでした?

ヒグチアイ:難しかったですね(笑)。インタビュアーの人ってすごいです。インタビューをしていると、ここでこういう言葉がほしいなとか、相手の言ってることが甘いなって思っちゃったりするんですよね。でもそこに自分の考えは関係ないから、自分の気持ちを足すことはちがうなと思って。

──それは痛いほどわかります(笑)。こう言ってほしいなと思っちゃう自分がいたり、自分の思うストーリーにはめたくなってしまうんですよね。

ヒグチアイ:そうなんですよね。この質問をすればきっとこの答えが返ってくるから、こういうふうに言おうって。でもそれが思ったようにはまらないときとか、もっともっと深いところにある気持ちを引き出すにはどうやったらいいんだろうって。場合によっては、こちらが投げかけた質問が相手を責めることになってしまう可能性もあるなって思うと、難しい。うまくいかなかったこともたくさんありました。

──“さみしい”を無理やり引っ張り出すのはちがいますもんね。その人の喜びなり悲しみの琴線に触れるのは何なのかとか、どんなことを考えながら生きているのかとか、そのままを伝えることが難しさですね。

ヒグチアイ:一言でもいいから相手の本当の言葉みたいなものが引っ張れたらいいなって思うんですけど(笑)。そこは日々、勉強ですね。

──そういう経験もあって、自分は何を曲にするかというのが自然と芽生えてきた感覚ですか。

ヒグチアイ:それはありますね。私がもっともっと曲をたくさん書ける人だったら、聞いた話すべてを曲にしたいと思うくらい面白い人もたくさんいましたし、面白い・面白くないじゃなくても、それがその人の人生なんだなと思ったら、それを曲にしたいなって思いました。でも、起こるドラマみたいなものが、すべて素敵なわけじゃないというか。その人にとっては、こんなにひどいことがあったとか、こんなに楽しいことがあったということが、私にはあまり興味がなくて。その後に起こった普通の出来事が素敵だなって思ったりするというか。人の人生は、いっぱい聞かせてもらった気がしますけど、曲にはなかなかならないですね。


──ああ、そういうものなんですね。

ヒグチアイ:本当は曲にしたいですけどね。みんなすごくいろんなことを考えているなって思いますし。10代の子とも話をしたんですけど、すごく考えているんだけど、考えすぎて諦めちゃってる子もいたりして。いろんな人の、いろんな思考みたいなものをもらっているインタビューですね。

──10代の子との話だと、自分も通ってきた道だからこそ、一言、励ましなりアドバイスなりを言いたくなっちゃったりしませんか。

ヒグチアイ:言いたくなることもあります。でも、私はどちらかというとあまり10代の子には言いたくならないというか──本当に諦めちゃっている子が多すぎてびっくりなんですよ。

──時代背景もあるんですかね、もったいない感じですね。

ヒグチアイ:私自身も10代の頃、彼女たちのようにあれこれ考えすぎてしまってどうしようもないこともありましたけど、同時にバカみたいに夢があったから、あまりそこで諦める感覚がなかったというか。考えていることは一緒なのに、たどり着く場所が全然ちがってびっくりはしましたね。どちらかというといろいろ言いたくなっちゃうのは、自分より少し下くらいの同じ世代を生きてきた人で、そこでなんでその考えになっちゃうんだろうというのはありました(笑)。年齢が近いからこそ気になってしまうのか。

──なるほど(笑)。いろんな人の話を聞いていると、やはり人それぞれで“さみしさ”はちがう感じですか。

ヒグチアイ:その解消方法というのはなかなかちがうものだなと思いました。でも一貫してさみしいと思っている人の方が多いのかな。別にさみしくないという人もいましたけど、少なかった気がします。

──それは結婚して家庭があるかどうか、パートナーがいるかどうかに限らずですね。

ヒグチアイ:そうですね。彼氏がいても旦那がいても、さみしいっていう感覚は変わらないんですね。

◆インタビュー(2)へ
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