【プロミュージシャンのスペシャル楽器が見たい】BRADIO 大山 聡一、ハンドメイドの“育つ”ストラト・テレキャスター・ES-335
ファンキーなメンバーがプレイするファンキーな楽曲が人気の3ピースバンドBRADIO。その楽曲を、多彩なギターサウンドで彩っているのが大山聡一だ。彼のメインギターであるKanji Guitarのストラトは、ビンテージのように時間の経過によって育っていくことが大きな特徴だという。このストラトに加えてテレキャスターとES-335も使い分け、幅広い楽曲に対応しているという大山聡一に、これらのギターの詳細やよく使うエフェクターについて話を訊いてみた。
――大山さんは現在ストラトがメインギターなんですね。
大山聡一(以下、大山):はい。川畑完之さんという方がハンドメイドで作られているKanji Guitarというブランドの、トモ藤田さんのシグネチャーモデルです。ここ2年くらいメインで使っています。
――どんな経緯でこのギターを入手したんですか?
大山:最初のきっかけは、僕が大好きなトモ藤田さんのライブに行ったことです。トモさんがアンプとギターを並べて弾き比べをするという、まさにギタリストのためのライブでした。そこでトモさんと話をする機会を作ってもらって、それ以降トモさん、川畑完之さんと色々とお話をさせていただくようになりました。その中で、Kanji Guitarは宮大工からインスパイアされた技術も使ってすべて手彫りで作られていること、ビンテージのようにどんどんギターが育っていくこと、エレキギターの持つ倍音やタッチの再現性を大切にして作られていることなどを知って、すごく魅力を感じました。その年に作る予定の25台のトモ藤田モデルはすでに完売していたんですが、たまたまキャンセルが1台出たので購入できたんです。
――実際に手にしてみて、どんな印象でしたか?
大山:コードカッティングでもリードのフレーズでも、自分の意図したニュアンスがそのまま出るギターだなと思いました。ピッキングのニュアンスとかドライブさせたときのトーンとか、“そこだよね”というところがしっかり出てくれる。しかもそれが、年数とともに表情を変えていってどんどん育っていくそうなので、今後のことも楽しみなんです。
――この2年くらいで育ったと感じるところはありましたか?
大山:すでにけっこう変わってきていますね。最初はトモさんのサウンドを忠実に再現してある感じでしたが、どんどん僕の好みの音に変わってきています。ローがすごく出るギターという印象だったんですが、それがどんどん自分の好きなミッドローに寄ってきた。
――それはどうしてなんでしょう?
大山:自分のタッチがわかってきた、ということだと思います。こういうタッチをするとこういう音が出る、というのがよくわかるギターなので、通じ合えるようになってきた、というか。このギターを持つとこんなフレーズが弾きたくなるとか、このくらいのドライブの設定にしたくなる、というのもあって、自然に好みのレンジが出る弾き方になってきているんだと思います。
――Kanji Guitarの中でトモ藤田モデルを選んだのは?
大山:Kanji Guitarは好みを完之さんに細かく伝えてオーダーで作ってもらうのが基本なんですが、僕の場合はこういうギターを作りたいというよりも、まず完之さんが作っているギターを自分で体感してみたい、というのが大きかったんです。トモさんと完之さんが練り上げて作ったものを、自分がどう感じるのかを体感してみたいと。
――このモデルのどんなところに期待していましたか?
大山:トモさんのギターは、すごく歌っているような音がする。それは自分の感情を伝えやすいギターということだと思いますが、それには素材とかサウンドキャラクターの好みとかとはまた違う、自分とギターとの関係性、信頼感みたいなものが重要だと思うんです。たとえばライブならアンプの音やモニターの音、それをミックスした音も会場に鳴っている。そんな状態のとき、自分の手元でプレイしたことがいかに想像通りに鳴っているか。それによって自分のメンタリティが変わってくることがあるんです。そういう意味で、このギターはすごく信頼感があります。
――見た感じはスタンダードなストラトですね。
大山:そうですね。基本的にはフェンダータイプの普通のストラトです。ボディはアルダー、ネックはメイプル、指板はマダガスカルローズです。ピックアップについては、Kanji Guitarでよく使われているGRINNING DOG FunkmasterSTというものがついています。
――どんなピックアップなんですか?
大山:基本的にはフェンダーヴィンテージ系ですが、オーバードライブを使うとジョン・メイヤーとかスティーヴィー・レイ・ヴォーンみたいな、ちょっとミッドがブーストされたような、ドライブが乗りやすい感じがありますね。上から下までしっかり出てくれるので、ハーフトーンでカッティングしたときの抜けもすごくいいです。よく使うのは、フロントだけ、またはフロントとセンターのハーフトーンですね。フロントの甘いクリーンサウンドやつぶれたドライブサウンドは気に入っているし、ハーフトーンは抜けが良くて、ファンキーなコードカッティングがホントにカッコ良く決まります。
――裏を見るとアームのスプリングは5本きっちりついていますね。
大山:このギターではアームは使わないので、がっちりと留めています。そのほうがファンキーなサウンドが出やすくなると思うので。
――このギターの音で気に入っているところは?
大山:やはりフロントの音ですね。フロントでオーバードライブをかけて、ちょっと手元でボリュームを絞る。そのときの甘いリードトーンがすごく好きです。タッチのニュアンスが出しやすいのも良いところで、弱く弾いてもちゃんと弱いサスティンが残ります。弾き方でサウンドが変わるので、扱いが難しいとも言えるんですが、良い音が出せたときはすごく気持ちがいい。ナルシズムを感じるギターだと思います(笑)。
――今はどのくらいの割合でこのギターを使いますか?
大山:以前はテレキャスのサウンドが中心で、チューニングは半音下げだったんです。その頃の曲は今でもテレキャスを使いますが、新しい曲はストラトの比率が増えていて、今は5割以上がこのギターです。このギターを使い始めてから、ストラトの音がいい感じに聴こえる曲を作りたくなったりもしますね。フロントのリードを活かす曲とか、カッティングだけで主張が強い曲とか、作りたいと思っちゃいます。
――4月に発売されたアルバム『Joyful Style』で、とくにこのギターの良さが出たところは?
大山:まず1曲目の「Time Flies」のイントロ。これはこのギターのフロントピックアップのカッティングです。アルバムのオープニングで、僕の好きなナイル・ロジャースみたいなストラトのカッティングをやろう、と決めていたんです。あと「愛を、今」というバラードのリードは、いわゆるストラトのフロントの良い音、という感じで、これもこのギターの魅力が出せていると思います。
――では次のギターを。ファンキーなカッティングというと、イメージするのがこのテレキャスターですね。
大山:以前はハムバッカーですごく歪んだ音でやっていたんです。でもBRADIOでギターが僕一人になったときに、今までとはスタイルを変えないといけないと思って。当時は知識もなかったので、ファンキーなサウンドにするんだからフェンダーだろ(笑)、という感じで、とにかく1本買ってみようと。だからどのテレキャスが良いとかよくわからなくて(笑)、ちょうど店頭にあったテレキャスの60周年記念モデルがカッコよかったので買いました。たしか2011年です。
――ハムバッカーのギターから乗り換えたときの印象は?
大山:いやもう違和感が半端じゃなかった(笑)。こんなに歪まないんだ、こんなにハイレンジが出るんだと驚いて、どう弾けばいいのかわからなくて。フェンダーのギターだからアンプもフェンダーだろ、ってツインリバーブも買ったり(笑)。そこから試行錯誤しながら一緒に理解を深めていったという、旧友という感じの存在ですね。
――これはオリジナルのままですか?
大山:ブリッジもペグも一般的なテレキャスとは違いますが、これは買った当時のままです。フレットやナットはかなり削れたので、何度か打ち直しています。ピックアップはLINDY FRALINのBROADCASTERセットに回路ごと交換しました。
――それはなぜですか?
大山:使い始めた頃、どうしてもハイレンジが出過ぎる気がしたんです。ギラつくのはいいんですが、僕にはどうにも耐えられない帯域が出てしまって。今、ギターテックをしてくれているのが実は同級生なんですが、彼がLINDY FRALINを載せたテレキャスを持っていて、それを弾いてみたらハイレンジがすごく良かった。それで載せ替えてみたんです。僕が使っているSHIGEMORIのオーバードライブは歪みのレンジが広いんですが、それをかけてオープンコードをガツッと弾いたときの音がすごくカッコいいんです。あとこれ、ブーストみたいな機能もあるんですよ。
――どういう仕組みなんですか?
大山:トーンのつまみを引き上げると、両方のピックアップをダブルで出せるようになっていて、よりプッシュされた音を出せます。ボリュームはそう変わらないんですが、両方鳴らすのでミドルがドンと出ますね。そんなに多用しないですが、とくにライブで飛び道具的な感じで使います。普段はクリーンも歪みも、9割はセンターで使いますね。
――どんな音で弾くことが多いですか?
大山:オーバードライブで歪ませるのが基本です。シンプルにオーバードライブだけでアンプにつなぐ、というのが一番似合うギターだと思うので。ストラトに比べると少しボリュームが大きいので、ライブでストラトの甘いトーンの曲のすぐあとに、これでデカい音をダーンと出すのがカッコよくて好きですね。あと、これはLINDY FRALINの特徴かもしれないんですが、フルテンにするとトーン回路が全開になるんです。でも僕にはそれだとちょっとトーンが開き過ぎなので、トーンはちょっと絞っています。
――今はどういうときにこのギターを使っているんですか?
大山:レコーディングでは今も時々使います。ストラトには出せないハイのキラキラ感が欲しくなることがあるので。あとはライブですね。このテレキャスに関しては何年も過酷なツアーをずっと共にしてきたので、荒々しく思い切り弾けるんです。ギターを振り回したり飛び跳ねたりして弾いたときにカッコいいギターだと思うので、ここぞというとき、センターに行って盛り上げるぞ、みたいなときにはこのギターを使うことが多いです。
――そして次はセミアコ。これはギブソンのES-335ですね。
大山:これは2016年頃に買いました。レコーディングで、ハムバッカーの甘さみたいなものが欲しくなることがあって、やはりセミアコもあるといいなと思っていたんです。ES-335については詳しくなかったので、たくさん置いてある楽器屋さんに行って弾きまくって、自分の好きなトーンが出るものを選ぼうと。その中で、楽器店がメンフィスの工場に直接オーダーしたこのモデルが良かったんです。ビンテージも弾きましたけど、自分には音がちょっと丸すぎる気がしました。ジャズには良さそうなんですが、自分は歪ませるしロックサウンドでも使うし、そう考えると、このモデルのほうがバランスが良かったんです。
――普通のES-335と違うところはあるんですか?
大山:基本的にはスタンダードな335ですが、楽器店が1963年のモデルを基にして、材質とかネックジョイントの接着剤などを細かく指定したモデルなんだそうです。その接着剤だけでも、雰囲気がかなり変わるらしいです。
――セミアコの中でもES-335を選んだのは?
大山:335については見た目のカッコよさとか、使っている人への憧れもありましたから、セミアコにするなら335だと最初から決めていました。
――ピックアップはかなり使い込んだ感じになっていますね。
大山:とくにライブだとかなり汗をかくので、カバーがどんどん錆びてきました。でもそういうのも受け入れるタイプです(笑)。劣化というか、年季が入ってくるのは好きなほうなんです。もちろんサウンドに支障が出るなら気にしますけど、ビジュアル的に汚れていくだけならそのままにしちゃいます。
――このギターはどんなときに使いますか?
大山:もともとはバラードなどで甘い音を出すときに使っていたんですが、今は軽快な曲でもよく使います。アルバム『Joyful Style』では「Be Bold!」とか「幸せのシャナナ」とか。こういった軽快な曲でちょっと昔っぽいクランチ系のサウンドを出すのに、335だと雰囲気が良かったんです。最近はドラムをタイトな音にすることが多くて、そうなるとこのリアピックアップのペラペラした感じとか、センターのカチャカチャする感じがすごくカッコいいんです。フェンダー系のギターとはまた違った太いカッティングもいい感じなので、さらに出番が増えそうだと思っています。
――音でとくに気に入っているところは?
大山:クリーンが圧倒的に良い音です。ハムバッカーでしか出せないクリーンの音がすごく気に入っています。ストラトだと主張が強くなりすぎるような場面でも、いい感じに前に出すぎない。ただ、やはりハウリングしやすいので、ギターのボリュームは絞り気味にしています。でもほかのギターに比べて歪むので、ボリュームを絞っても音が埋もれることはあまりないですね。
――ストラトにテレキャスに335。この3本があれば色々な音が出せそうですね。
大山:そうですね。BRADIOは曲に合わせてギターサウンドを変えていくタイプのバンドなので、色々な音を作らないといけないんですが、僕が出したいギターサウンドはこの3本で網羅できていると思います。ライブでも、この3本があればどんな曲でもいけますね。
――ではエフェクターも見せてください。ライブ仕様ですね。
大山:これはBRADIOのときのメインボードで、ライブのときはいつもこれです。FREE THE TONEのARC-4というルーティング・コントローラーのループ回路に各エフェクターをつないでいて、曲に合わせてエフェクターのオン/オフや組み合わせをまとめて操作しています。
――とくによく使うエフェクターは?
大山:中段の“ドライブゾーン”の4台ですね。オーバードライブはVEMURAMのJan RayとSHIGEMORIのRUBY STONE、IbanezのTS10の3台。それにNoelのCornetというファズです。この4台はBRADIOには必須のエフェクターです。
――歪み系だけで4台も使うんですね。
大山:Jan Rayで作るクランチサウンドを基本に、さらに歪ませてドライブサウンドにするときにSHIGEMORIとかTS10を重ねる、という感じですね。Jan RayとSHIGEMORI、Jan RayとTS10といった組み合わせはよく使います。Jan Rayはチューブアンプのような歪みで、タッチの反応が良いので強く弾けば歪むし、弱く弾くとクリーンに近い音が出せます。それでいて音ヤセしないで存在感があるのが気に入っています。SHIGEMORIはよりゲインを上げたようなドライブサウンドがカッコいいです。解像度もすごく高くて、コードを弾いてもつぶれない。いい感じのトーンのままつぶれないので、開放コードはとくに気持ちいいです。キース・リチャーズみたいなカッコいい音を出したければ、テレキャスでこれを踏んでおけばいいという感じ(笑)。TS10はストラトと合わせると、これにしか出せない、レイ・ヴォーンみたいなミッドがブーストされた歪みが気に入っています。
――カッティングといえばコンプレッサーというイメージがありますが、やはりよく使いますか?
大山:コンプレッサーはProvidenceのVELVET COMPを使っていますが、僕はカッティングのときにいつもコンプを使うわけではないんです。カッティングそのものがメロディになっていて、ドラムとベースより前に出したい、そんなときにコンプをかけますね。ファンキーなサウンドのときにはオクターバーを使うこともあります。
――中央はボリュームペダル。その左側は?
大山:左下が都度踏みする用のディレイとリバーブの空間系で、その上にある2台のstrymonはフェイザーやトレモロなどのフィルター系エフェクターとディレイです。strymonはMIDIでコントロールしていて、テンポに合わせたディレイをかけたり、曲によってコーラス、フェイザーなどを切り替えて使っています。マルチエフェクターみたいな感じで使っていますね。
――では最後に、大山さんが楽器選びで重視することを教えてください。
大山:今の時代って、ネットにはたくさん情報があるし、動画もある。これは参考になるし便利なんだけど、それよりも実際に弾いた時の感覚が大事だと思っています。なんだかわからないけどとにかくいい感じがする、という感覚。そういった数値化できない感覚を忘れたくないと思っているので、スペックとかではなくて持った感じ、弾いた感じ、そのときの好き嫌いを重視しています。それが個性を見つけることにもつながるんじゃないかと思います。
取材・文●田澤仁
リリース情報
7/28(水)0:00より配信リリース
https://nex-tone.link/A00089552
2nd ALBUM『Joyful Style』
発売中
■初回生産限定盤A 2枚組(CD+DVD:150分強):WPZL-31859~60 ¥4,800+税
■初回生産限定盤B 2枚組(CD+DVD:90分強):WPZL-31861~62 ¥3,800+税
■通常盤 1枚組(CDのみ):WPCL-13291 ¥3,000+税
CD:収録内容(全10曲収録)※3形態共通
1. Time Flies
2. 幸せのシャナナ
3. サバイブレーション
4. Switch
5. Fitness Funk
6. 愛を、今
7. ケツイ
8. O・TE・A・GE・DA!
9. Be Bold!
10. アーモンド・アーモンド
ライブ・イベント情報
10月9日 東京都・ビルボードライブ東京
TICKET サービスエリア \8,000
カジュアルエリア \7,500(1Drink付)
※ご飲食は別途ごご精算となります。
一般予約開始日:8月16日(月)12:00~
ビルボードライブ東京:03-3405-1133
10月16日 大阪府・ビルボードライブ大阪
TICKET サービスエリア \8,000
カジュアルエリア \7,500(1Drink付)
※ご飲食は別途ごご精算となります。
一般予約開始日:8月16日(月)12:00~
ビルボードライブ大阪:06-6342-7722
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