【ライヴレポート】HYDE、美しく神秘的な平安神宮2DAYSに祈りにも似た全15曲
HYDEが7⽉31⽇(⼟)、8⽉1⽇(⽇)の2日間にわたって<20th Orchestra Concert 2021 HYDE HEIANJINGU>と題し、京都・平安神宮でスペシャルコンサートを開催した。
◆HYDE 画像 / 動画
現在、2002年に発売されたHYDEソロの原点と言える1stアルバム『ROENTGEN』をツアーという形で初めて表現するオーケストラツアー<20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021>を開催中だが、その最中に夏の京都の平安神宮を舞台に行われるコンサート (全国各地の映画館でライブビューイング、全世界に向けて生配信)でどんな景色を見せてくれるのだろうと思っていたが、2DAYS公演は想像を遥かに超えるものだった。日本の伝統芸能と最新の技術が融合しためくるめく演出はエンターテインメントでありながらアートでもあり、HYDEが放つオーラはひときわ神々しく、コロナ禍の中、平穏な世が戻ってくるように祈りを込めて歌っているかのごとく見える瞬間もあった。
初日の7月31日は局所的な豪雨に見舞われ、空に稲妻が走る中での開催となったが、激しい雨に打たれながら舞台に立ち続けて歌うHYDEの凛とした佇まいは“この世の者ではないのでは?”と思わせるほどの吸引力があった。「雨でごめんね」「おしゃれしてきたのにね」と二言だけつぶやき、レインコートを着てもびしょ濡れになる環境で見入る客席や、映画館や配信で会場を案じながら見ていたファンがその優しさに涙するなど、記憶の中に一生、刻まれるであろうコンサートとなった。
そして多くの人たちの願いが通じ、雨雲も遠ざかった8月1日。鮮やかな平安神宮の境内に集まる人たちを迎え入れるように舞台では雅楽 (天理大学雅楽部・おやさと雅楽会による16人編成での演奏)が奏でられていた。社殿の朱色と木々の緑のコントラストが美しく、まるで平安時代にタイムスリップしたかのよう。浴衣姿で来場した人たちも演出の一部となっていた。
やがて雅楽奏者の演奏に加わる形で石笛(いわぶえ)奏者である横澤和也が舞台に登場。独特の即興演奏スタイルが民族や宗教を越えた命の響きとして国内のみならず海外でも評価されているパフォーマンスには息を呑むものがある。声を響かせ、赤い布に包んでいる石笛を取り出し、全身で響かせた。オープニングアクトというより、すでにコンサートが始まっていると気づかされる演出の中、19時に中央の太極殿、両側に配された蒼龍楼、白虎楼がライトアップされ、HYDEが姿を現した。松明の火が揺れる花道をゆっくり歩いて前へと進んでいく出たちに目を奪われる。浅緑色の被衣、白と薄紫の衣装は平安時代の牛若丸をイメージさせる装いだ。
被衣を両手で持ったまま、歌い始めたのはアルバム『ROENTGEN』の幕開けの曲「UNEXPECTED」。ピアノとストリングスの音色が絡んでいき、まだ明るい空の下にたゆたうような演奏とヴォーカルが溶けていく。曲が進むにつれてHYDEは顔を半分、覆っていた被衣を少しずつ上げていった。
ダブルカルテットが奏でるイントロダクションで始まった「WHITE SONG」はオーケストラ編成ならではの優雅な響きで、奏でられる音たちを全身で感じながら、時に両手を広げて歌うHYDEの美しいファルセットが印象的。曲ごとに変わる照明が社殿をライトアップし、幻想的な景色の中、『ROENTGEN』からの楽曲が立て続けに披露されていった。「A DROP OF COLOUR」は細やかな表現で奏でられ、間奏でトランペットがフィーチャリング。一陣の風を吹かせるようなヴォーカリゼーションも素晴らしく、送られる拍手も1曲1曲がスペシャルだと伝えているかのようだ。ソロとしての1stシングル「EVERGREEN」が歌われたのはほの暗くなり始めた頃。ジャジーで豊かな演奏と色あせないメロディ。太極殿の屋根に木々の緑が映し出され、時間を旅しているような錯覚に襲われる。
ごく自然にツアーで披露されている未発表の新曲たちに移行していくセットリストは『ROENTGEN』と現在制作中の『ROENTGEN 2』が地続きにあることを物語る。ピアノとHYDEのヴォーカルから徐々にドラマティックなオーケストラアレンジに移行していく「FINAL PIECE」は“幸せを形にしたような曲を歌いたい”という想いで作られた曲で優しい歌に吸い込まれ、「SMILING」では色とりどりの光の粒が舞い落ちる演出の中、性別を超越したような美しく神秘的な歌声を響かせた。
HYDEはいくつの顔といくつの声を持っているのだろう。中盤では今年、結成30周年を迎えたL'Arc-en-Cielの「flower」を艶やかな声で届け、サックスやギターの甘やかな音色が曲に彩りを与えるAOR的なアプローチも大人な雰囲気を醸し出す。
そして平安神宮が闇に包まれる頃、HYDEのアナザーサイドが顔を覗かせた。奈落の底という意味を持つ新曲「THE ABYSS」では顔つきがガラリと変わり、エッジのあるダークな世界へといざなった。荘厳なアレンジの中、緊迫させるパフォーマンスとシャウトでそれまでの穏やかな空気を切り裂き、松明の火が燃え盛る中、「NEW DAYS DAWN」では妖しさを身にまとい、逢魔が時に連れていかれそうなアクトで圧倒した。
その非現実的な世界を引き継ぐように雅楽隊が音を奏で、新たな伝統芸能の形を表現し続けている能楽師、茂山逸平が舞台で舞うと、幽玄の世界。彼のパフォーマンスを挟み、烏帽子を被り、白装束になった陰陽師を連想させるHYDEが登場し、歌った「ZIPANG」は本公演に欠かせない1曲だったと言っていいだろう。
HYDE自身、BARKSインタビューで「「ZIPANG」のミュージックビデオを京都の東寺で撮影させていただいた頃から、いつかそういった場所でコンサートがやりたいとは思っていたんです」と語っているが、プロジェクションマッピングが日本の四季を演出し、静と動を見事に使い分けたヴォーカルと壮大なアレンジで聴かせたこの曲が日本の人々に光が注ぐことを祈っているようにも響いてきた。アルバム『ANTI』収録曲の「ANOTHER MOMENT」はコーラスとHYDEのヴォーカル、繊細なサウンドが溶け合う原曲と全く違うアプローチが新鮮。そっと寄り添い届けたあとの最新配信シングル「NOSTALGIC」は映画音楽のような優美でスケール感たっぷりのアプローチ。HYDEのヴォーカルは境内をまるごと包みこんでしまうぐらいに説得力があった。
MCを一切入れずにコンサートは終盤戦に。YOSHIKI feat. HYDE名義で2018年にリリースされた「Red Swan」を赤い羽根が舞う演出の中で歌い上げ、切ないピアノの調べから始まる『ROENTGEN』の最後を飾るナンバー「SECRET LETTERS」ではHYDEが切ない鍵盤の調べのイントロダクションで祈るように両手を合わせ、透き通る声が境内に響いた。ひとつひとつの楽器の音が丁寧に紡がれていくサウンドの中、彼はときにコンダクターに近いパフォーマンスを見せ、音を操り、緩急のあるヴォーカルでオーケストラとひとつになっていく。そんなHYDEに後光がさしているように金色のまばゆい光が背後から射す神秘的でダイナミックな演出に驚き、やがて日本の夏の象徴、花火がプロジェクションマッピングで映し出された。
最後の曲はVAMPSの「MY FIRST LAST」。HYDEの白衣にいくつもの光の粒が集まり、魂が宇宙と融合するような演出、雅楽の間合いを活かしたアヴァンギャルドなアレンジメントも素晴らしく、日本古来の歌唱法を取り入れたようなHYDEの歌にもゾクゾクさせられた。上手下手をゆっくりと指し、両手で客席を指し、床にひざまづいて頭を下げる姿は儀式の終わりを告げるかのようである。太極殿の“太極”は宇宙の本体、万物生成の根源を示す言葉でもあるそうだ。これは果たして偶然なのだろうか。
舞台に背を向け、祈るように両手の指を組み、雅楽の旋律の中、ゆっくりと去っていったHYDE。全15曲、言葉が発されることは一度もなかったが、平安神宮でコンサートを開催した意味を公演自体が雄弁に物語っていたように思う。荒天に見舞われた初日、晴天に恵まれた2日目、すべてを昇華し、浄化するHYDEという存在、やはり稀有である。
取材・文◎山本弘子
撮影◎岡田貴之/緒車寿一
■<20th Orchestra Concert 2021 HYDE HEIANJINGU>8⽉1⽇(⽇)@平安神宮特設ステージ SETLIST
02. WHITE SONG
03. A DROP OF COLOUR
04. EVERGREEN
05. FINAL PIECE ※未発表曲
06. SMILING ※未発表曲
07. flower
08. THE ABYSS ※未発表曲
09. NEW DAYS DAWN
10. ZIPANG
11. ANOTHER MOMENT
12. NOSTALGIC ※6月25日配信開始
13. Red Swan
14. SECRET LETTERS
15. MY FIRST LAST
■<20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021>
6月26日(土) 東京・中野サンプラザホール
6月30日(水) 大阪・オリックス劇場
7月01日(木) 大阪・オリックス劇場
7月21日(水) 北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru
7月25日(日) 静岡・静岡市民文化会館 大ホール
8月07日(土) 千葉・千葉県文化会館
8月09日(月・祝) 宮城・仙台サンプラザホール
8月11日(水) 埼玉・川口総合文化センター リリア メインホール
8月14日(土) 神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホール
8月15日(日) 神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホール
9月12日(日) 福岡・福岡サンパレス
9月24日(金) 愛知・名古屋国際会議場 センチュリーホール
9月26日(日) 広島・上野学園ホール
■<20th Orchestra Concert HYDE 黑ミサ 2021>
10月30日(土) 千葉・幕張メッセ国際展示場9~11ホール
10月31日(日) 千葉・幕張メッセ国際展示場9~11ホール
▼Wakayama
11月23日(火・祝) 和歌山ビッグホエール
11月24日(水) 和歌山ビッグホエール
https://kuromisa2021.hyde.com
Digital Single「NOSTALGIC」
https://hyde.lnk.to/nostalgicPR
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