【インタビュー】鈴華ゆう子が“今”表現したいもの
■音楽家として生きていく上で表現したいものがずっとあった
──そういう思いがあるからか、今回は歌い方もとても自然ですね。
鈴華:そうですね。意識しないでいるともっとビブラートをかけちゃうんですが、語るように、音程だけはめるというトライをしてみました。全部一行ずつ録ってすぐに聞いて、また録ってすぐに聞いて、を繰り返しました。直太朗さんも色々アドバイスをくださって、“歌いすぎない歌い方”というのがこの曲にも、今の私が表現したいものにも合うなと見つけられたんですよね。
──和楽器バンドでのボーカルRECではそこまでしませんよね。
鈴華:バンドはあくまでバンドだから、一行ずつ丁寧に録るのがいいってわけでもないんです。和楽器バンドは8人がそれぞれ持ち寄ったものを合わせたときに答えが見えるから、私も「この曲ならこうじゃない?」という答えを見つけてからRECに臨むし、そこから何度もトライするってことはないです。それはそれの良さがありますね。
──ソロと和楽器バンドは、そもそもの意識が違うんですね。ゆう子さんは他にも最近ではQ-MHzさんとのコラボ曲もリリースされたり、ユニット・華風月の活動、声優活動なども並行していますが。
鈴華:大きく分ければ、今の私にとっては和楽器バンドか、それ以外なんですよ。和楽器バンドという枠がしっかりできるので、バンドの中ではできない表現をソロでやっている感じです。
──どちらもあってこそ、なんですね。
鈴華:どっちも私で、和楽器バンドの私自身もすごく好きなんですよ、楽しくて。求められている役割を演じている部分もあるけど、メイクや衣装で変身してる感覚かな。変身したあとの自分だからこそ出せる自分ということもあるし。
──そういう場がありながら、今回ソロを再始動させたきっかけは?
鈴華:ずっとやりたかったんです。音楽家として生きていく上で、売れようが売れまいが表現したいものっていうのはずっとあって。今回は直太朗さんやチームの力も合わさったことで「ソロ再始動!」のようになっていますが、私自身はそういう意識ではなく、音楽家としての自然な流れとしてソロの活動を行なっているつもりです。
──多彩な活動が、相乗効果を生みそうです。
鈴華:それを願っているし、そうあるべきだと思っています。例えば声優のお仕事では、“和楽器バンドの鈴華ゆう子”だと知らない方もいると思うんですよね。そんな方達が「和楽器バンドを見てみよう」となってくれたら嬉しいですね。今はまだバンドから他の活動を知ってくださる方が多いと思うんですが、もっと鈴華ゆう子という個人力をしっかり上げて、相互作用を生みたいと思っています。
──「カンパニュラ」とQ-MHzさんとのコラボ曲「Dark spiral journey」では全く雰囲気も、お客さんの層も違いますよね。
鈴華:Q-MHzさんとの制作も面白かったですね。和楽器バンド以外のバンドの一員になったような感じでレコーディングしたんで。「Dark spiral journey」が主題歌になっているテレビアニメ『ピーチボーイリバーサイド』では声優にも挑戦させていただいていますが、こっちはめちゃくちゃ緊張する現場でした。和楽器バンドを離れた活動も、経験値として非常にありがたい機会ですね。
──この活動の幅の広さもそうですし、ゆう子さんは詩吟、剣詩舞、ピアノなどいろんなスキルを持っているんですよね。でも何を選ぶかといったら、やっぱり歌なのでしょうか。
鈴華:歌が一番好きだし、大切です。子供の頃から歌手になりたかったので。その夢が実際にかなってこうして日々生きていられるので、それはもうかけがえのない大切なもの。ボーカリストであり続けられるためにはどうすべきか、ということを常に考えています。詩吟や剣詩舞は経験値があるけど、その道でやっていこうと思ったら今のままでは全然足りない。ピアノもそうですね。歌だけは、プロだと言い切ることができます。でも実は、歌でお金をいただいていいのかなと思っていた時期もあるんですよ。
──それは意外。
鈴華:ピアノだったらずっと本気でやってきたからお金をいただけるけど、歌でもいただいていいのかなって。でも本当にボーカリストになりたいならピアノから離れる勇気を持たなきゃって思って、一度部屋からグランドピアノを撤去するということをあえてした時代がありました。ボーカリストとして人前に立ってちゃんと責任を持つ、そしてそこに応援してくれる人がいて仕事になる、ということを意識するようにしたんです。今はもう自信を持ってそうなれたと言えるようになったから、つい二週間前くらいにグランドピアノを自分の手元に戻しました。
──そもそも歌手になりたいと思ったのは?
鈴華:小学校の高学年くらいにモーニング娘。さんとかSPEEDさんとか憧れの人たちがいて、さらにKinKi Kidsさんとか会いたい人も出てきて(笑)、歌手になれたらいいなという思いが生まれてきたんです。中学生くらいからはカラオケで人気曲トップ10を全部歌えるようにしようと頑張っていたら友達が喜んでくれて、人前で歌う喜びっていうのにハマっていきましたね。親には「何言ってんの」と言われたりもしたけど、とりあえずピアノを頑張って音大に行けば東京に行けるんだから、あとはそこから自分が思うようにやればいいじゃないって言われて。
──ピアニスト志望ではなかったんですね。
鈴華:母がピアノ教室をやっていたこともあって、小さい頃からレッスンがかなり厳しくて……。音大を勧められたのも、母には「ピアノから逃げるようなことはするべきじゃない」という考えがあったみたいです。やってきたことから逃げない、という忍耐力は、母や先生に教えてもらったのかなと思いますけど。ただ、本当に辛くて苦しかったから、自分がここから脱出するためには一旦音大のピアノ科に行かなきゃいけないと思って、それだけの思いで頑張ったんです。
──それで実行できちゃう時点ですごい気もしますが。
鈴華:いやいや、逃げる術がわからなかっただけだし、逆らうのが苦手ってことです(笑)。
──そうして今、歌手としてすごくいい状態にあるわけですけど、今後のソロ活動は?
鈴華:チームでも今回のようなコラボレーションが面白いね、と話しているところなので、また次もできたら嬉しいです。個人的にはラップをやっている人と歌ってみたいんです。
──それはまた新たなゆう子さんが見られそう。
鈴華:自分の中で歌いたい曲もあるし、まだわからないですけどね。とりあえず和楽器バンドもツアーが始まるので、体ひとつでギリギリやってる感じです(笑)。でも、歌手っていう場所は本当に大切にしたいし、いい時があれば悪い時も絶対あると思うんですけど、これだけ応援してくださる方がいれば、いつかもし孤独になることがあったとしても、聴いてくれる人は死ぬまでいてくれる気がするので。ずっと歌っていようって思います。
取材・文◎服部容子(BARKS)
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■森山直太朗からのコメント
──「カンパニュラ」が始まる前の印象と、できた後の感想を一言いただけたら嬉しいです。(鈴華ゆう子より)
森山直太朗:ただ頭の中で描いてた想像の世界がゆう子ちゃんの張りつめた歌声とKan Sano君のアレンジ、須原杏さんのストリングスが入り、まぼろしみたいな音楽になって感謝と微笑みしかないです。
──依頼を受けた時の印象だと“和楽器バンドの鈴華ゆう子”が強かったと思いますが、実際時間を共にして印象は変わったのか、また、この曲が実際出来上がっての感想を教えてください。(鈴華ゆう子より)
森山直太朗:和楽器バンドの完成された世界観とは裏腹に一人の人間としてののびしろやまだ見ぬポテンシャルを曲を通して一緒に探って行きました。彼女は気さくで少女のような人で、歩んで来た音楽の遍歴も興味深かった。僕にはそれがとても新鮮だったし彼女の新しい部分を引き出すというより自分にとって知らない彼女を発見していくそんな作業の連続でした。
──楽曲制作時の印象的なエピソードがあれば教えてください。
森山直太朗:デモレコーディングは繰り返し何回もやりました。やりながら少しずつ曲の世界に近づいて行くそのプロセスには彼女の執念を感じたし楽しかった。歌の中のカンパニュラというフレーズとタイトルはデモレコーディングをして彼女の歌声に触れた時に浮かんできました。「風鈴草」というその花が彼女の名前を想起させたり、自分の誕生花だったのは実はまたその後のことで、彼女の持っている「引きの強さ」に驚きました。
──森山さんと鈴華さん、音楽家として「似ているな」と思った部分はありますか。また、反対に「ここはお互いの特徴だな」と個性を感じた部分はありますか。
森山直太朗:表現してく中で自分の歌声に対しての欲求とか葛藤とか疑いとか、そういうものを同時に持ち合わせている部分はかなり似ているんじゃないかと思いました。高音の部分の強さなんかは自分にはない部分なので自分では表現しきれないようなパワフルさがあって作っていて楽しかったです。
──「カンパニュラ」で、鈴華さんを表現するのが難しかった部分はどこでしょうか。
森山直太朗:誤解を恐れずにいうと、これからじゃないでしょうか。何度も歌う中で毎回First takeのような気持ちで歌うことは容易なことじゃありません。でも僕たちにはその記憶が鮮明に残っているし、彼女ならきっと大丈夫。
──森山さんから見て、鈴華さんはどのようなボーカリストだったでしょうか。また、今後彼女に期待することは?
森山直太朗:努力とエナジーの女(ひと)。その唯一無ニの歌声と天性の華やかさは生まれ持ったもの。音楽で価値観や人種、世界にあるいろんな“境”をなくして欲しいです。
■「カンパニュラ」配信情報
◆鈴華ゆう子 オフィシャルサイト
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