【インタビュー】鈴華ゆう子が“今”表現したいもの
和楽器バンドの鈴華ゆう子(Vo)が、6月30日(水)に配信シングル「カンパニュラ」をリリースした。
◆ミュージックビデオ
日本では風鈴草と呼ばれる花、カンパニュラの名をタイトルに冠した本作は、森山直太朗が作詞・作曲を担当、Kan Sanoがアレンジを手掛けた。凛とした雰囲気の中に優しさが潜む、美しい楽曲だ。なお、鈴華にとっては2016年以来、久々のソロアーティストとしてのリリースとなる。
本楽曲を聴いて感じたのは、鈴華の成熟。本作では和楽器バンドでの姿とは異なる、生身の鈴華に近寄れるような気がした。「カンパニュラ」は鈴華そのものをイメージしたタイトルだというが、それが理由かもしれない。では、その“鈴華そのもの”とはどういう存在なのだろうか。そこを知るために、インタビューを行った。(記事最後では、森山直太朗へのメールインタビューも掲載する。)
◆ ◆ ◆
■私が芯に秘めている思いが表現されている
──まずはどのような経緯で本作ができたのか教えてください。
鈴華ゆう子:最初のきっかけは、私が自粛期間中、何かカバーをしてみようと考えてピアノ弾き語りで「さくら(独唱)」のカバー動画を投稿してみたことでした。もともと森山直太朗さんの曲も好きだし、同じレーベルの先輩ということもあってカバーしたんですけど、それを森山直太朗さんがご自身のSNSでも拡散してくださって、ご縁が繋がりました。
──森山直太朗さんはカバーについて何とおっしゃっていましたか?
鈴華:初めて感想をお聞きしたのは電話だったのですが、「歌いすぎない感じの表現が上手くていいね」って言っていただきました。和楽器バンドでは強く歌っている印象があったけど、「さくら(独唱)」に関しては優しく語りかけてくれるみたいな感じ、ともおっしゃっていただきましたね。「ナイストライでした!ちょうどいい感じ!」ってLINEももらいました。その流れで、曲を書いてくださるという話が浮上して。
──それは嬉しいですね!
鈴華:はい。すごく楽しみにしてくださっていました。でも普通の提供曲とは違っていて。
──というと?
鈴華:私がどんな人物なのかを知りたいからと、お茶に行くことから始まったんです。少し話すくらいかと思いきや、お互いにとても熱くなって、気づけば7時間くらい語っていました。
──へぇ!
鈴華:「詩吟はいつからやってるの?」「剣詩舞は?」といった質問から、父が亡くなったことをきっかけに歌手になりたいと思ったこと、幼い頃に母親から厳しくピアノのレッスンを受けたことやクラシック界の派閥に苦しんだ話まで聞いてくれましたね。その上で、私という人物がどういう経験を経て、そしてこれからどうしたくてソロの曲を出すのか、というところまで汲み取ってくれた上で曲を書いてくださったんです。
──それはもうプロデューサーに近いですね。
鈴華:そうなんです。作詞作曲をしてくれた方だけではないと思っています。一度曲ができたあとも「なんかもっといける気がする!」ってまた曲を書いてくれたり、仮歌の段階で一緒にスタジオに入って歌い方まで練ってくれたり。普通は「曲を書きます」「お願いします」というやりとりだけで終わることが多いですし、なかなか仮歌の段階でスタジオに入ることなんてないんですよね。すごく熱い方だと思いました。アーティスト側ができることは一緒に精一杯やろう、とおっしゃっていたのも印象的です。
──曲を聴いた時の、ゆう子さんの第一印象は?
鈴華:いい感じに森山直太朗さん節も入っているし、私らしさも入っていると感じましたね。“ゆらりゆらり”みたいな擬音語がふんだんに入っているところも和楽器バンドに通じるところがあるし、旋律も和の旋律っぽいところがあったり。和楽器バンドとソロの世界観のバランスが取れてるなって感動しました。私は直太朗さんが歌ってくれたものも聴いているのですが、鳥肌が立ちましたね。
──アレンジのKan Sanoさんとはどのようなやり取りが?
鈴華:時勢柄、Kan Sanoさんとはリモートでしか会話ができてないんです。でも私と直太朗さんとウェブ会議をして、どんな感じが良いか話し合いました。私と直太朗さんの思いが熱かった上に、直太朗さんが「Kan Sanoがどう料理してくれるか次第」なんて言うから、多分すごいプレッシャーもあったと思います(笑)。でも「わかりました、やれるだけやってみます! 直太朗さんとゆう子さんの思いは受け取りました!」って。サビ前の“ジャジャッ ジャジャッ”っていうところを聴いた時には私たちもびっくりしました。
──あぁ、あの音ですごくサビの印象が強まりますよね。
鈴華:そう、「うわ、こう来るんだ!」って驚いたんです。直太朗さんも「これを自然にやっちゃうKan Sanoはやっぱり天才だよね」って言ってました。でも私の歌と直太朗さんの曲、Kan Sanoさんのアレンジにはちょっと差があって。これが面白いのかどうなのかということは悩みましたね。そこで登場してくれたのが須原杏さん。彼女の弦アレンジが加わったことで、血が通うというか、整合性が取れてとっても面白いアレンジになりました。
──歌詞に関してはどう感じましたか?
鈴華:はっきりと言っているわけではないんですけど、私が芯に秘めている思いが表現されていて。今の年齢になって、経験値が積み重なった上で表現できる今の音楽にすごく合ってるなって思いました。
──私も、ゆう子さんのイメージにぴったりな曲だと感じました。森山さんはゆう子さんをどんな風に見ていたんでしょうか。
鈴華:最初は“和楽器バンドのボーカル”と思われていたから、「いや〜すっごい売れてるよね!」「あ、そんなことないです……」って会話から始まって(笑)。でも実際にお話ししていく中で私のことを知ってもらえてからは、世の中の人には全てを見せるわけじゃない、だからこそできる表現がある、という部分は直太朗さんにキャッチしていただけたんだなと思いました。
──ミュージックビデオのテーマが“Origin = 原点”、“本来の姿を見つめ直す”、であることにも通じそうなお話ですね。
鈴華:ミュージックビデオでは曲の良さを伝える方法と、曲が抱える内面を表現する方法があると思うんですけど、その後者を表現したいと思って。で、私が最初に「黒くなろうかな」ってひとこと言っちゃったんですよね(笑)。
──この美しい曲で、まさか真っ黒になるとは思いませんでした。
鈴華:あれは、人間界で生きている上での経験……悲しみ、苦しみはもちろん黒ですけど、人間関係なども、全てが白いパレットの上に積み重なっていくことで黒になるということを表現しています。でも、黒に染まった後の私自身も美しく撮ろうと思ったんですよ。ただ黒で怖い、汚いじゃなくて。色々な経験を経て、それはそれで受け入れて、美しく変化していくというイメージです。
──なるほど。
鈴華:子どもが登場しているのは、幼き頃の自分の象徴です。純な自分と向き合いながら生きていくという意味。時間が戻って黒が取れていくところは、すべてをひっくるめて受け止めて、「よし生きていこう」という気持ちの表れです。黒いところをわざわざ表に出すのではなく内に秘めて、また白く生きていくという。
──そこにはどんな思いが?
鈴華:私もいろんな経験もしてきていますし、パッと見の印象で綺麗って言われがちなんですけど、それが結構つらい時もあるわけですよ。綺麗に見せようとしてそうなるんだったらわかるけど、私はそう見せようとしているつもりはなくて。
──自己認識と他者認識の差、ですね。
鈴華:でもそういう風に見えるのは、これまでの生き方が反映されてるからだと思うんですよ。発する言葉や表情などでトータルとして綺麗に見えているのであれば、あえて「綺麗じゃないです」って否定することもなくて。割と冷静に、自分のどこがどうなってそう見えているかということを受け止めて、これからも歩んでいきたいなと……なんかこう、客観的に自分を見たいなっていうタイミングが今なんです。
──こうして接していてもずっと笑顔で話してくれますし、私はいつもゆう子さんから気遣いを感じているから認識の乖離は感じないんですけども。
鈴華:笑顔でいることが多いというのは、小さい頃にいじめを受けていたり田舎の人間関係やクラシック界の派閥だったり色々ある中で、笑顔でいた方がいろいろすり抜けられることがあったからなんですよ(笑)。顔色を伺って、笑顔の練習をした時期とかもありますもん。でも、それって結果的に良いことだったと思うし。かといって、過去の辛いことがあったから今がある、っていうモードではないんですよ。今は今、みたいな。辛いことがあったとしても、「そういうこともあるよね、そういう日もあった」くらいな気持ちです。
──強いな、と感じます。
鈴華:結局、幸せかどうかって決めるのは人じゃなくて自分自身でしかないから。“今がいい”って思える定義は自分で作らなきゃね。今この瞬間もこうやって話を聞いてくれる人がいて幸せだな、とか今日ご飯美味しかったな、とか。昔はいっぱいいっぱいで、それが見えていなくて、過去の自分に抗いながら生きているみたいなところがあったけど、コロナの自粛期間や年齢を重ねたこともあったりして気持ちがすごく落ち着いて、今どう感じているかも自分次第かなって思うようになったんです。それがこの「カンパニュラ」の楽曲にもミュージックビデオにも現れていると思います。最後の方のシーンの明るさや笑顔は、「今をしっかり生きよう」というメッセージです。
──あー、いますごくストンと腑に落ちました。過去のすべての経験を受け入れた上で、自然と前を向く、みたいな。
鈴華:私達くらいの世代の人って、幸せは自分の考え方次第って気付いている人と気付いていない人が半々くらいで、気付いていない人はずっと何かを追い求めて苦しんでる。
──その世代として、すごくわかりますよ。
鈴華:ね(笑)。私もちょうどその狭間にいるのが自分だと思っていて。音楽を聴くのって共感を求めていたり、浄化されたい時、落ち込んでいる時が多いと思うんですけど、私は自分の歌で「私も一緒一緒、がんばろ」って伝えたい。
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