【ロングレポート】<FUJI ROCK '19>、広がりとアイデンティティ
2日目。WHITE STAGEのトップバッターを飾ったGEZANがとにかく爪痕を残した。彼らにはフジロックの直前に取材をさせてもらっていたため、フジロックに対する特別な感情や彼らの思想を理解していたが、そういった贔屓目抜きにしても、40分間のステージでバンドはこれほど自己表現できるものかと衝撃を受けた。「40分で脳をハッキングする」「俺たちは今、変わらなければいけない」といった覚醒を誘うマヒトのMCにも真実味が宿っていた。今立っているステージに来れたのは金でもコネでもなくて自分たちの想像力によるのだ、と断言もした。「BODY ODD」の演奏で、THE NOVEMBERSの小林祐介やDischarming manの蝦名啓太、鎮座DOPENESSらが次々とマイクリレーしシャウトした光景も鮮烈で、こんな時代に革命の瞬間を目にできたと思えて泣けた。有言実行の彼らが主催するフェス<全感覚祭>が楽しみでならない。
このGEZANや、GREEN STAGEに初登場しMC含め全身全霊のライブをした銀杏BOYZの模様は、YouTubeでもライブ配信され、人々を魅了し、いわゆるトレンド入りも果たした。
今年も行われたYouTubeでのライブ配信について、Googleの音楽コンテンツパートナーシップ・マネージャー、佐々木 舞氏に現地苗場で話を聞くことができた。取材場所として案内してもらったのは、アーティストのホスピタリティー・エリア内にあるYouTubeラウンジで、会期中はここのラウンジエリアでアーティストのインタビューも行われ、公式チャンネルより配信された。YouTubeが空間作りもしているこのラウンジは、フジロックが日本を代表するフェスであることから、画面を通して視覚的にも日本の文化を届けるという意味合いで、盆栽が飾られていたりと和風のテイストも盛り込まれている。
ライブ配信における今年の新しい試みについて尋ねると、“フジロック”と検索すると検索結果にライブ配信が表示されアクセスできるようにもなった。また、昨年から引き続き、GREEN STAGE、WHITE STAGE、RED MARQUEE、FIELD OF HEAVENという4つのメインステージの一部のアーティストのライブが2チャンネルで配信されたが、パフォーマンス中の画面にソーシャルの動向を連動させ、ツイート投稿などを反映させるタグボードが設けられた。さらにバックエンドでも配信に関する技術的な改善が細かくおこなわれたようで、配信を楽しんだ視聴者はお気付きかもしれないが、映像や音質の部分を冗長化することでライブ配信の視聴体験が確実に向上した。ユーザーにとっては、昨年の段階でもこれだけ大きな日本のフェスをライブ配信で視聴できることが衝撃だっただろうが、今年はさらに環境よく、スマホやPCなどマルチデバイスでスムーズな視聴が可能となったのである。
YouTubeにおけるライブ配信の機能は10年以上前にローンチされているが、その成功例は何と言っても、ライブ配信が9年目を迎えた<コーチェラ・フェスティバル>だ。配信された模様は世界的に話題となり、この間にコーチェラはよりグローバルな盛り上がりを見せていった。佐々木氏は、その実績を9年かけて着実に構築されたものと捉え、昨年の初のライブ配信の反省も踏まえながら、フジロックとより良いパートナーシップを築いていきたいという気持ちを抱いていたという。そんな想いから今年もフジロックでライブ配信は実施され、毎月20億人が視聴するYouTubeというこのグローバル・プラットホームを通じ、日本だけに限らず「より世界に」という言葉がキーワードとなった。その具体的な試みとしては、昨年スタートした音楽サービス“YouTube Music”(世界50カ国以上でローンチ)の世界中のユーザーに向けて、コンテンツ・ラインナップの箇所からフジロックのライブ配信を閲覧できるようにするなど、世界に向けた情報発信が行われたようだ。
今年のフジロックは、6月末〜7月頭には初日および2日目のチケットが完売したため、現場に来たくても来られなかった人も実際多かった。またSNS上のコメントからは、今年度の配信の視聴を機に来年以降の初参加を決意する人も見受けられた。あくまで筆者の見解であるが、今回のチケットの売り行きの良さは、昨年実施したYouTubeでのライブ配信も一つの要因になっているのではないだろうか。
3日目のWHITE STAGEに登場したKOHHも配信にちからが入っていて、ステージ映像演出をライゾマティクスが手がけた。平沢進の配信には、見事くらった人や再熱する人も多かったことがSNS上からうかがえた。
2日目の最大のトピックと言えばやはり、台風6号の影響による大雨だ。昨年のような暴風はなかったが、夕方から深夜まで雨量が多く、プログラムの中止も余儀なくされた。この悪天で露呈したのが参加者のマナーの問題である。既にSNSなどでも苦言を呈している言葉を見かけただろう。フジロック唯一の屋内ステージであるRED MARQUEEが顕著で、雨が降り続くため屋内に入ろうとする人々が多く、RED MARQUEEでは使用禁止の椅子に座ったままの人々の存在で殺伐とし、恐怖すら覚えた。ゴミ問題についても言えるが、フジロックの精神を理解しないまま参加している人々の増加は、フジロックというフェスが、フジロッカーやアウトドア好きや音楽ファン以上の、一般層にまで広がったことによる結果でもある。だが、それ以前に人としての問題だということが最大の課題で、想像力がなく、あったとしてもそれを無視して空っぽの利己主義に走るダサい人々の姿は悪い意味で都会と重なってしまった。自由を掲げるフジロックのアイデンティティに賛同する者からしたら、本当は注意するスタッフを増やしたり看板を設置せずに済ましてほしいところだが、それも致し方ないかもしれないと思うほど残念な状況だった。
だが、この雨天ならではの感動もあった。GREEN STAGEに大雨が打ち続けたMartin Garrixのライブでは、若きスーパースターを前にしたオーディエンスはむしろ水を得た魚のように得体の知れないエネルギーを放っていた。この日のヘッドライナーであるSIAは、SIA名義としては初の日本公演というだけあって注目度も高かったが、本人は終始直立したまま歌唱し、化身のMadison Zieglerがステージ上で身体的な表現を担うといったコンセプチュアルなステージを完遂。想像力をかきたてるステージと大雨との融合が実にエモーショナルだった。
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