【インタビュー】和楽器バンド、『オトノエ』に込めた思い
和楽器バンドが4月25日に5枚目のアルバム『オトノエ』をリリースする。
◆撮り下ろし画像
本作は“音のミュージアム”をテーマに制作され、これまでの和楽器バンドの作品と比べてもより一層多彩な楽曲が収録されている。また、オーケストラとのコラボレーションなど新たな試みも行われている。和楽器と洋楽器を融合させるという斬新なスタイルで活動することのみに捉われず、常に挑戦を続ける彼らの“今”が詰まったアルバムだと言えるだろう。
今回BARKSではメンバー全員にロングインタビューを実施。収録されている新曲全てについてたっぷり話を聞いてきたので、リリースに先駆けて彼らの考えと、楽曲の奥深さを味わって欲しい。
なお、BARKSでは今回の衣装についての記事(【特別企画】和楽器バンド、『オトノエ』衣装解説)も展開しているので、こちらも併せてお楽しみいただければと思う。
◆ ◆ ◆
■『オトノエ』は“計算された個性の爆発”
――昨年11月にベストアルバム『軌跡 BEST COLLECTION+』を、その後今年2018年1月に2ndシングル「雪影ぼうし」をリリース。そして今回『オトノエ』がリリースされます。かなりハイペースで制作を続けている印象ですが、いつごろからこのアルバムの構想があったのでしょうか?
鈴華ゆう子(Vo):実は『軌跡 BEST COLLECTION+』をリリースしたときからもう既に、4月にはまた新しい和楽器バンドをみせる一枚を出そうって流れは決めていました。
町屋(G):いったんベストアルバムを出したことで、いい区切りができたんですよね。ここからまた新たな僕たちの姿を打ち出していけると思っていました。
鈴華ゆう子:和楽器バンド全体をまとめる立場の私と、ライブの中心となってくれている黒流さんと、音の中心となってくれている町屋さん、そしてスタッフの人たちとの話し合いでいくつか案が上がったんですが、“音のミュージアム”というのが一番、コンセプチュアルな感じでいいなと。それをメンバーに話して決定しました。今までは入れなくてはいけない曲が決まっていた中でアルバムを作っていたんですが、今回の収録曲は「雪影ぼうし」以外は全部新曲なので、ひとつのテーマを基にアルバムを作っていくことができると思って先にコンセプトを立てました。
――『オトノエ』というタイトルも面白いです。そもそも「音」と「絵」って同じ芸術ではありますが、別物というか。
鈴華ゆう子:私は詩吟や剣詩舞とあわせてずっとクラシックピアノをやってきたんですが、その中でも特に印象派時代という、絵画と音楽が影響し合っていたころの作品が好きなんです。音楽家でいうとドビュッシー、ラヴェル、画家でいうとモネなどが印象派に挙げられます。この時代って、光や風、波などの自然のものを音にして表現したり、絵からインスピレーションを受けて音楽が作られていたりしたんですよね。それまでの芸術の枠を超えた、新しい楽典要素を取り入れた表現とも言えます。それがどんどん広がっていくんですけど、それって今の和楽器バンドにも通じるところがあるんじゃないかなと。
――確かに。
鈴華ゆう子:筝や尺八には風など自然のものを表現する技法も多いですし、和楽器バンドはアニメや海外文化とコラボすることもあるので、私たちにハマる気がしたんですよね。ちなみに印象派時代のラフマニノフという作曲家の「音の絵」というピアノソロ曲がすごく好きで、よく学生時代に弾いていました。
――「音の絵」、聴いてみます。和楽器バンドの『オトノエ』は、どんな作品になりましたか?
鈴華ゆう子:今の和楽器バンドのできるすべてを詰め込んだ一枚です。収録されている楽曲のジャンルも幅広いですし、この作品で自分たちがいいと思うものを自由に柔軟に表現することができました。
蜷川べに(津軽三味線):個性的であることに間違いはないんですけど、かといって思い思いにやりきってるだけかというとそうではなくて。誰がどういうところで出るかということに関してちゃんと構造、基礎ができてるんですよ。だから“計算された個性の爆発”って言えるかも。それはこの五年間、お互いの信頼関係を重ねてきた賜物なのかなって思います。
山葵(Dr):今、背中には「最高傑作」という文字が浮かび上がっています!
亜沙(B):和楽器バンドは1stアルバム『ボカロ三昧』から始まって、2ndアルバム『八奏絵巻』、と作品を出してきましたが、僕の中の印象だと『ボカロ三昧』と『八奏絵巻』って同じ流れを汲んでいたんですよ。で、3rdアルバム『四季彩-shikisai-』はこれまでの流れを変えようとあがいている時期というか、挑戦し始めた感じ。『オトノエ』はその一歩先で、自分たちの思い通りに挑戦できた作品かなと思います。
いぶくろ聖志(筝):『軌跡 BEST COLLECTION+』で僕らのことを知ってくれた人には、続けて『オトノエ』を聴いて欲しいですね。和楽器バンドってこれまでの歴史で試行錯誤を繰り返してきたんですが、ようやくそれが整理されて自分たちのやりたいことが明確になってきたのがこの『オトノエ』なので。
黒流(和太鼓):わかりやすく言うと、これまではそれぞれ素材のいいものを集めたバーベキューのようなものだったんです。でもいくら素材がいいからといってもバーベキュー方式は飽きてきちゃいますよね。作ってる側も飽きてきちゃう。ですが今回はそれぞれの素材をきちんと調理して、初めてフルコースの料理に仕上がったんです。この曲はスープです、この曲はデザートです、とそれぞれの楽曲の立ち位置が明確になっています。そういう新たな作り方が『オトノエ』で提示できたのかなと思います。
――とてもわかりやすいです。今回サウンドディレクションは全て町屋さんがご担当されたとか。
町屋:今までとは根本的に音の作り方を変えました。
――と、いうと?
山葵:これまでって、香港に昔あった九龍城のように増築に増築を重ねて音を作っていたんです。あと出しじゃんけんどんとこい、みたいな。
町屋:でも今回はそうじゃなくて最初に設計図と基礎を作り、その段階ですべての音の聞えがよくなるような作り方をしたんです。そのことにより、ひとりひとりの音がクリアに良く聴こえるようになりました。
黒流:和楽器バンドの弱点として、奏者が8人もいるので埋もれがちというか、誰が何を弾いているかわからないというところがありました。ですが今回は頑張って探さなくてもそれぞれの音が聴えるというのは大きな特徴ですね。
――和太鼓とドラムは特にその影響が大きかったのでは?
黒流:和太鼓に関していうと、初めて和太鼓テックを入れたのも新しい試みです。和太鼓はドラムと違ってさっとチューニングができるものではないので、曲のキーが変わっても同じ太鼓を叩かざるを得ないことがあって。それが和太鼓の良さでもあるのですが、進化が必要だと考えていたんですよね。だから今回は和太鼓テックさんにスタジオに何十個も太鼓を用意してもらって、曲ごとにぴったりキーが合う太鼓を叩きました。そのことによってドラムと和太鼓の音が違う帯域ではっきり聴こえるという効果が生まれました。打楽器が二つ存在する意味が、明確になったともいえますね。
町屋:それもこれまでこれだけ作品を出してきたからできる、というのが大きくて。この4年間で僕たちの中に自然と和楽器バンドっていうものの芯が染みついているんですよね。今までは「和楽器バンドのサウンドはこうですよ」というイメージ付けを優先してやってきたんで、『オトノエ』のようなふり幅の大きな作品はなかなか出しどころがなくて。でもベストアルバムを出したことで、本作のような和楽器バンドというものの芯を崩さない、バランスの良いものが作れました。
――オーケストラとのコラボも新しい挑戦ですよね。
鈴華ゆう子:もともと和楽器バンドにはコード感が薄いという弱点があったんです。より良い音を提示するためには、オケとコラボして音をまとめるという手法もアリなんじゃないかと考えていたんです。
町屋:実は『四季彩-shikisai-』に収録されている「オキノタユウ」の頃からオーケストラとコラボするという構想はありましたね。「オキノタユウ」って全体的にコード感が薄いんですけど、あのときは8人で「こういうサウンドです」と印象付けるためにあえて僕たちの音だけでリリースしたんですよ。
――そうだったんですね。
町屋:そして2月の<和楽器バンド Premium Symphonic Night 〜ライブ&オーケストラ〜 in大阪城ホール>で、当初予定した通りのストリングスが入ったオーケストラとのコラボができました。オーケストラが入ることによって足りなかったコード感が補強されて、ゆう子さんも歌いやすいだろうし、聴いている人もより感動できる仕上がりになったんじゃないかと思います。
町屋:CD ONLY盤に入っている「オキノタユウ」は、CDをループで聴いたときにも違和感がないようにリミックスしています。鳴っている音はLIVE映像盤と一緒なんですけど、音のバランスやマスタリングや細かい微調整を施しているので、それぞれ別のものとして楽しめます。
――工夫が凝らされていますね。
鈴華ゆう子:「どう表現するのがベストか」ということをすごく考えました。アートワークにもこだわっていて、今回、歌詞カードにも一曲一曲その世界観をメンバーが表現した写真を載せているんですよ。LIVE盤、MV盤、CD ONLY盤とすべて違うアートワークが使われていますし、歌詞カード自体を絵画のように楽しめるんです。音を聴きながらアートワークも楽しんでいただけると、まさに“音のミュージアム”をまわっているような楽しみ方ができると思います。
◆インタビュー(2)へ
この記事の関連情報
【和楽器バンドインタビュー vol.8】鈴華ゆう子「私にはバンドの火を消さない責任がある」
【和楽器バンドインタビューvol.7】町屋「貴重な機会で、すごい経験値になった」
【和楽器バンドインタビュー vol.6】神永大輔「こんなに面白いものはほかにない」
【和楽器バンドインタビュー vol.5】亜沙「この8人じゃないと意味がない」
【和楽器バンド インタビューvol.4】いぶくろ聖志「僕たちの音楽が刺さってくれる人はまだまだいる」
【和楽器バンド インタビューvol.3】蜷川べに「これからは、ありのままの自分で」
【和楽器バンド インタビューvol.2】山葵「目の前のことを一歩一歩、しっかり踏みしめて」
【和楽器バンド インタビューvol.1】黒流「自分が生きた証がここに作れた」
和楽器バンド、『和楽器バンド 大新年会 2024~八重ノ翼~』からダイジェスト映像を公開