【ライブレポート】MR.BIG、ヒット曲満載! 超絶テクとポップな楽曲で日本のファンを魅了
MR.BIGが、最新アルバム『ディファイング・グラヴィティ』を引っ提げた<JAPAN TOUR 2017>を先週よりスタートした。
東名阪はもちろん札幌、仙台、金沢、広島、福岡と日本全国をサーキットするツアー。公演数も全9回と多めだが、日本武道館は8千人の観衆を動員し、その絶大な人気を再認識させた。20年以上におよぶMR.BIGと伝説のBUDOKANの蜜月関係は、今もなお健在である。南米やメキシコを回って、メンバー全員が熱くなった状態で日本に上陸。場内が暗転し、ジェイムス・ブラウンの「アイ・キャント・スタンド・マイセルフ」イントロに乗ってステージに上がる彼らから湯気が立っているように見えるほど、最初からホットに仕上がっている。
MR.BIGはもったいぶることがない。1曲目から「ダディ、ブラザー、ラヴァー、リトル・ボーイ」で一気にフルスロットルに踏み込み、武道館の天井が抜けそうなヒートアップぶりを見せる。スクリーンにはポール・ギルバート(ギター)の描くバンドのイラストがアニメ化されて映し出される。ポールとビリー・シーン(ベース)の必殺ドリル・ソロではアニメの彼らもドリルを手にして、豪華な4大ドリル・コラボレーションを披露した。
その歌声もルックスもまるで時間に置き忘れられたような若さを保ち続けるエリック・マーティンに導かれ、「アメリカン・ビューティ」で観衆はMR.BIGワールドへと引っ張り込まれていく。パット・トーピーの代役マット・スターもタイトなドラミングで楽曲を盛り上げるが、「アンダートウ」が終わったところでエリックは「ちょっと待った。何かが足りないよな?」と問いかける。その答えはもちろん“パット・トーピー”だ。大歓声の中、そのパット自身がステージに登場。スクリーンには彼の笑顔が映し出された。
パーキンソン病を患い、最新アルバムではドラムスをプレイしていないパットはマットの隣に立って「アライヴ・アンド・キッキン」ではタンバリン、「テンパラメンタル」ではパーカッションを叩いていたが、ヴォーカル・ハーモニーをこなし、自分のポジションへの階段も上がるなど、体調は良好そうだ。さらに「ジャスト・テイク・マイ・ハート」では自らドラムスをプレイ、ただでさえ感動的なこの曲をさらにエモーショナルにしていた。それ以降も彼はライヴのほぼ全編、ステージに留まり、ショーへの貢献を惜しまなかった。
MR.BIGのメンバー達がインタビューで口を揃えて言うのは、あまりに名曲・ヒット曲が多すぎて、どんなに長いショーをやっても「どうしてあの曲をやらなかったの?」と文句を言われてしまうことだ。もちろんグレイテスト・ヒッツは聴きたいが、最新アルバムからの曲も聴きたいという貪欲なファンの要望に応えるべく、彼らは新作から「エヴリバディ・ニーズ・ア・リトル・トラブル」「フォーエヴァー・アンド・バック」をプレイ、大きな声援を勝ち取っていた。
新旧、数多くの名曲を誇るMR.BIGだが、それと同時に彼らは世界トップ・クラスのプレイヤーを擁する超絶テクニカル・バンドでもある。ポール・ギルバートはギター・キッズならずとも見入ってしまう速弾きやトリッキーなフレーズを連発。ショーの大半を白のアイバニーズ・ファイアマンで通した彼だが、ソロ・コーナーではショート・スケールのシグネチャー“PGMM31”も弾いていた。
同様にビリー・シーンのベース・ソロ・コーナーもショー後半のハイライトのひとつとなった。チョッパーありタッピングありの怒濤のスーパー・プレイを披露する。ソロから「アディクテッド・トゥ・ザット・ラッシュ」へと雪崩れ込む展開は、“ラッシュ=ゾクッとする瞬間”を感じさせた。
この曲が終わるとエリックがメンバー紹介。ポール、マット、ビリーを紹介した後、「これを見てくれ」とスクリーンにアニメ“パット・トーピー物語”を映し出す。ユーモラスなアニメ映像の中にもパットの不屈の闘志が描かれており、最後の「決してギブアップしない」という決意には多くの拍手とスタンディングオベーションが送られた。パットの目にも、我々の目にも涙があった。MR.BIGの代表曲であり、これまで何度となくライヴで聴いてきた「トゥ・ビー・ウィズ・ユー」だが、この日のヴァージョンはいつも以上に胸に迫ってくるものがあった。
ライヴ本編のラストはファンと四半世紀を共にしてきた「コロラド・ブルドッグ」、そして新作から“古き良き時代”を追憶させる「1992?MR.BIG物語」だ。後者ではスクリーンに当時のファンとの記念写真やアーティスト・ショットが次々と映し出されて、新曲であるのに関わらずすっかりノスタルジックなムードに浸ってしまった。もしかしてスクリーンに映ったオールド・ファンでこの日、武道館を訪れた人もいるかも知れない...?
アンコール1曲目はMR.BIG名物の楽器チェンジ・カヴァー曲コーナー。エリックがベース、ビリーとマットがギター、ポールがドラムス、そしてパットがヴォーカルという布陣でグランド・ファンクの「アメリカン・バンド」を演奏する。パットの声のハリ、そしてレッド・ツェッペリンの「幻惑されて」を少し歌って「おっと間違った」とボケるなど、この日のショーが復活への序章となるのでは...とファンに期待させるパフォーマンスぶりだった。
本来の担当楽器に戻って、フィナーレは新作のタイトル曲「ディファイング・グラヴィティ」。さんざん歴代の名曲をプレイしながら、ラストに新曲を持ってきてもこれだけ盛り上がってしまうのだから、現在の彼らの音楽性の充実が窺い知れるというものだ。アルバム・ジャケットを思わせるゾウの風船人形も2頭登場し、ビリーとエリックと格闘(?)していた。
1988年の結成から、もうすぐ30年。かつて海外では“一発屋”と謗られ、メンバー交替、解散、パットの病気など、その道のりは決して順風満帆ではなかった。そんなMR.BIGが世界的な再評価を得て、オリジナル・ラインアップで日本武道館のステージに立ち、大観衆をクレイジーにさせている。普通だったらあり得ない話だ。だが彼らは“ディファイング・グラヴィティ=重力を否定”して、不可能を可能にしてきた。これから はどんなドリームを現実にするか。“MR.BIG物語”の続きを追いかけたくなるライヴだった。
レポート:山崎智之
Photography:William Hames
セットリスト
1.Daddy, Brother, Lover, Little Boy
2.American Beauty
3.Undertow
4.Alive & Kickin
5.Temperamental
6.Just Take My Heart
7.Take Cover
8.Green Tinted Sixties Mind
9.Everybody Needs A Trouble
10.Price You Gotta Pay
11.PG Solo Medley:Never Say Never~CDFF Lucky This Time~Mr.Gone
12.Open Your Eyes
13.Forever & Back
14.Acoustic:Wild World~Promise Her The Moon~Damn,I’m In Love Again
15.Rock And Roll Over
16.Around The World
17.Billy Solo
18.Addicted To That Rush
19.To Be With You (Acoustic)
20.Colorado Bulldog
21.1992~MR.BIG物語
-Encore-
22.American Band (Grand Funk Railroad)
23.Defying Gravity
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