【インタビュー】上間綾乃、『魂うた』は“心からの歌”
■「さとうきび畑」はテーマが重いし悲しいし、つらいんですけど
■ それだけで終わらせたくなかった
──1曲目「命結-ぬちゆい」は、加藤登紀子さんの曲。
上間:全部つながってるよ、という意味で、これを1曲目にしました。ひとりじゃないよと言われても、“でもひとりだし”と思っちゃう世の中で、“ひとりだけど、ひとりじゃないよ”と言い切ってるのが、かっこいいじゃないですか。人間は基本、ひとりだから。でも、ひとりじゃ生きられない。「命結-ぬちゆい」は登紀子さんの造語で、“までえのいのち咲かそ”という“までえ”(真手=「丁寧に」「ゆっくり」の意)は東北の言葉みたいで、それで、(このフレーズ以外にこの歌で)使われている言葉は標準語です。登紀子さんは“いいものはいい”とはっきり言って、そういう歌を歌っている方だし、外国の歌も歌うし、全部つながってるよという心持ちが、この「命結-ぬちゆい」にも出ていて、大好きな曲です。登紀子さんが“歌ってみたら? あなたに合うと思うわよ”と言ってくれた時、素直にうれしくて。自分で表現したらどういう歌になるかな?って、想像の段階でわくわくして、ぜひやりたいと思いました。
──登紀子さんは先人ですから。
上間:“いいのよ、あなたはそのままでいいの”と言ってくれるんです。何かやろうとしなくていいのよ。そのままでいいのよって。背中を押してもらいました。
──「南風にのって」は、作曲を、綾乃さんと井上鑑さんとで共作してますね。
上間:最後にレコーディングした曲です。今の私に見えている世界とか、心境が表れた歌です。
──ここで歌っている“私だけの場所”というのは、どんなイメージですか。
上間:実在する場所だったり、歌の中だけにあったり、自分の中にあったり。自分の中は、誰にも邪魔されないので。それぞれに“私だけの場所”があると思います。
──南風にのっていく表現が、“やふぁやふぁと”。これ面白いです。そよそよ、みたいな感じですか。
▲『魂うた』ジャケット |
──そして「さとうきび畑」。誰もが知っている曲を、ここでは沖縄言葉の、ウチナーグチで歌ってます。
上間:“Green United2”というプロジェクトに参加して、去年、このシングルを出しているんですけど。この曲がウチナーグチになるのは、今までなかったことだし、すごく新鮮だと思いました。この歌が全国に広まって、また沖縄に帰ってきて、ここから発信していけるんだなと思ったので、歌ってくださいという依頼が来た時はすごくうれしかったし、使命だとも思ったし。歌わないといけない歌のひとつですね、これは。
──ウチナーグチの響きに乗せて歌われると、また違った感動がありました。
上間:もちろん歌詞を直接的に理解することも大事だと思うんですけど、聴く人のその時の状況によって、聴こえ方が違うと思うんですね。楽しい歌を聴いた時も、その人が悲しい時は悲しく聴こえるだろうし、私の歌でイメージを広げてもらえたらいいなと思って歌いました。
──この曲のアレンジを聴いていると、たとえばアイルランドの音楽とかで、伝統的なんだけどシンセサイザーや現代的な機材もいっぱい使っているみたいな、昔と今との合体みたいな、そういう感じが強くしたんですね。
上間:この曲は、テーマは重いし悲しいし、つらいんですけど、それだけで終わらせたくなかったんですよね。さわやかな風が丘を吹き抜けて、そこに立っている人がいる、というイメージを伝えて、アレンジしてもらいました。ピッコロ・トランペットが、丘に立つ人のイメージを出しているし、アコーディオンもすごくいい味を出していて、イメージ通りですね。
──このアレンジと歌のバランスは、素晴らしいと思います。
上間:悲しい歌を悲しいように歌うことも、有りなんですけど、悲しい歌を明るく歌う時に、感情の色彩がより多様になるように思うんです。そういう曲かなと思います。
──それはアルバム全体にも言えると思います。いろんな深い思いはあるけれど、さわやかに聴けるアルバムなので。最後の曲「アマレイロ」はどうですか。久々に作詞作曲を手掛けた1曲です。
上間:ポルトガル語で黄色という意味なんですけど、一行目に出てくるシンザというのが灰色で、灰色の世界から、アマレイロな世界へ、ということを歌ってます。黄色は幸せな色というふうに解釈してるんですけど。イペー・アマレイロという木があって、花が黄色いんですけど、それは沖縄にも咲いていて、ブラジルにもハワイにも咲いていて、どれも力強く鮮やかに咲いてるんですよ。シンザの世界から幸せな色を求めて旅に出る、というイメージの歌です。
──自分で曲を書くのは特別なことですか。
上間:詞も曲も、ポンポン書けるものじゃないので、すごく久しぶりで、でも書かなきゃと思ったし。ハワイに行って、力強く生きている人たちを見て、“あなたの背中に続く希望”という言葉が出てきました。その背中に続きたいし、自分もそういう背中を見せたいし、この思いは形にしなきゃいけないと思って、久々に曲を書きました。
──最後のコーラスが、すごく耳に残るんです。あれ、何て言ってるんですか。
上間:いるじゅらさ、ふきてぃよ。美しい色が、吹き渡っていく。
──あそこ、歌詞カードに載ってないんですよね。
上間:載ってないです。歌詞が全部できて、レコーディングしてる途中に、エンディングの♪らららら〜ら、というメロディに何か言葉はないかな?って言われて、“おっと、考えてなかったぞ”と(笑)。そこは歌詞じゃないから。それで少し考えて、これはどうでしょう?って。もともとこの曲は、色が吹き渡っていくというイメージがあったので、その場で言葉を作りました。そしたら“響きがいいですね。これでいきましょう”って。
──いろんな人に聴いてほしいアルバム。沖縄民謡をベースに、アイルランドや、ブラジルのムードのある曲もあるし、いわゆるワールド・ミュージックの一環としても、とてもいい作品だと思うので。
上間:うれしい。私も、ワールド・ミュージックだと思ってます。たとえばアイルランド民謡って、沖縄の言葉の旋律とちょっと似てるところがあったりとか。去年、アイルランドから来日したバンジョー・スリーというバンドと、ステージでセッションしたことがあるんですけど、ウチナーグチで歌いやすかったし、三線の運指も、運びやすいところにあったりとか。アイルランドの方とは、その前にも一度やってますし、そういうこともどんどんやっていきたいです。
──ロックやポップスなどのポピュラーミュージックよりも、その国の伝統に根差した民謡のほうが、ひょっとして、国や文化の垣根を超えやすいのかもしれない。そう思ったりもします。
上間:ここで生まれたから、ここだけのものにするんじゃなくて、いいものは垣根を超えて、どんどん飛んで行くと思います。可能性を感じますね。ジャンルレスなものを、音でどんどん表現していきたいと思います。
──アルバムが出た後、ツアーは、名古屋と大阪が8月。東京は、11月。どんなライブにしたいですか。
上間:あったかいライブにしたいです。曲もそうですけど、直接みなさんとお話しできるのが、ライブの良さだと思うので。やふぁやふぁと、話もしながら(笑)。それで、また明日からちょっと頑張ってみようかな、みたいな気持ちになってもらえるような、あったかいライブをしたいと思います。初めての方にも、楽しんでもらえると思うので。ぜひみなさん、ライブ会場でお会いしましょう。
取材・文=宮本英夫
◆ ◆ ◆
2016年7月20日発売
COCP-39647 ¥2,800+tax
日本コロムビア
[収録内容]
1.命結-ぬちゆい (作詞・作曲:加藤登紀子)
2.ミカヅキの夜に (作詞:上間綾乃/作曲:大國徹)
3.道端三世相(みちばたさんじんそう)〜創作舞踊「辻山」より (作詞:眞境名(まじきな)由(ゆう)康(こう)/作曲:沖縄民謡)※
4.南風にのって (作詞:上間綾乃/作曲:井上鑑・上間綾乃) ■NHKユアソング6月・7月
5.さとうきび畑 ウチナーグチver. (作詞・作曲:寺島尚彦/沖縄語訳:玉城 弘)※
6.懐かしき故郷(ふるさと) (作詞・作曲:普久原朝喜)※
7.アマレイロ (作詞・作曲:上間綾乃)
※ウチナーグチ
http://columbia.jp/uemaayano/
8月12日(金) 名古屋 Nagoya BlueNote
1st 開演18:30/2nd 開演21:15
■http://www.nagoya-bluenote.com/
8月15日(月) 大阪 Billboard Live OSAKA
1st 開演18:30/2nd 開演21:30
■http://www.billboard-live.com/pg/shop/index.php?mode=top&shop=2
11月26日(土) 東京 日本橋三井ホール
開演17:00
■http://www.kyodotokyo.com/uemaayano1611
◆上間綾乃 日本コロムビア サイト
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