【インタビュー】上間綾乃、『魂うた』は“心からの歌”

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美しい人、美しい声、美しい音。琉球民謡という、地と人とに根差した生命力あふれる音楽を出発点とし、ジャンルを超えて深く遠く届けることのできる、類まれなる唄うたい。上間綾乃、2年ぶりの4thアルバム『魂うた』(まぶいうた)は、名手・井上鑑がアレンジを手掛けた7曲入り。恋心、ふるさと、平和への祈りなど、等身大の心の内を描くテーマと、優れたワールド・ミュージックにも通じる、伝統とモダンとが融合した緻密なサウンドを持つ、伸びやかな傑作だ。目の前に愛用の三線(さんしん)を置き、柔らかく語る言葉が、そよ風のように耳に心地よく響く。

◆上間綾乃 画像

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■ 『魂うた』は、心からの歌。本当に素直に思うこと。

──三線、間近で初めて見ました。工芸品のようで、とてもきれい。

上間綾乃(以下、上間):持ってみますか?

──わあ、いいですか。あ、けっこう重い。

上間:この三線は、重いほうなんです。木枠で、中は空洞です。

──ありがとうございました。去年はこれを持ってハワイに行かれたりとか、しましたよね。音、変わります?

上間:音はそんなに変わらないですね。ハワイは湿気というか、海が近いので。乾燥しているところに持っていくと、ちょっと変わったりしますけど。

▲『魂うた』ジャケット

──今回のアルバムは、三線はもちろん、弦楽器や、サックス、ピッコロ・トランペットとか、いろんな音が入っていて。ルーツである民謡をベースに、とてもモダンなポップスのアレンジがされていて。

上間:歌の良さを最大限に出すのが“アレンジ”ですが、それが最大限に生かされたと思います。

──リリースは2年ぶりですか。

上間:今までも、いい作品が生まれたらリリースするというかたちでやっていました。ただ今回は、新しい作品に取り組むためには、もうちょっと新しい何かが必要だなという思いがあったので。いろんな人と共演したり、いろんな音楽を聴いたり、ハワイに行ったのもそうで、行ったからこそ生まれた曲も、この中には入ってます。

──インプットというか、充電というか。

上間:充電期間というと活動休止みたいですけど、常に充電はしてないと、アウトプットできないんですね。2年たって、今だからこそできることがあるなと思って、一歩踏み出して、また新しい作品をリリースすることができました。

──上間さん、アルバムごとに、カラーがかなり違いますね。振り返ってみると。

上間:メジャーデビュー1枚目は“決心”で、2枚目は“挑戦”で。3枚目は、2014年に東京で生活し始めて、この時は“必死”でしたね。だけど、歌は優しくありたいと思っていて、届けたい思いもありながらも、強く願望が表れた歌で、一生懸命だったと思います。音でも表れてますね。

──ああ〜。確かに。

上間:その時のベストを切り取ったのがCDだから。『魂うた』も、今の一番いいものを切り取ったものです。

──その、これまでの流れで言うと、今回の『魂うた』は、ひとことで言うとどうなりますか。

上間:『魂うた』は、心からの歌。本当に素直に思うこと。今までが嘘だったとか、そういうことではなく、本当に今素直に自分が見えてる景色、伝えたい思い、感じたこと、大切なものが、1曲1曲に乗せられて、7曲揃った時に“これが今の私です”って名刺で渡せるような1枚ですね。

──今回、アレンジが井上鑑さん。

上間:1枚目の『唄者』(うたしゃ)の時は数曲だけだったのを、今作では全体的にやっていただきました。メジャーデビュー1年目の上間と、今の上間の両方を知ってる人だから、気持ちを全部受け止めてくれるだろうなという思いがあったので。大きい胸を借りて、本当にいろんな引き出しを開けてくれたし、背中を押してくれたし、勇気をもらいました。という話をこの間したら、“いや、何もあげてないよ。もともと上間さんが持っていたものだから”って。ははあ〜って。

──かっこいい。

上間:そう言ってくれる人が近くにずっといてくれたというのが、本当にありがたいなと思います。

──音数を少なくしようとか、歌を前に出したいとか。何かリクエストはしたんですか。

上間:ううん。アレンジ面で、どの楽器を入れたいとか、リクエストはなくて。“この曲は船を走らせるイメージです”とか、“この曲は遠く離れた国でふるさとを思う曲で、淋しいけど力強く生きてる人のイメージです”とか、“この曲は悲しいけど泣かない歌です”とか。“これは黄色です”って色を言ったり、“これは夜と夜中の間です”って時間の話をしたり。言うと、音にしてくれる。何の楽器がいいとか、私は言えないんですよ。そこは鑑さんに任せて、私の頭の中にある映像を伝えると、その映像が音になって表れる。

──あ、言った通りだ、って。


上間:それ通りというか、超えてきます。“そうです、私のイメージ以上です!”って。世界がより広がる感じで。

──楽器の数は多くないのに、とても豊かに聴こえる。

上間:そうなんです。盛りだくさんな感じがするんですけど、多くないんですよ。わざとらしくしたくないねというのがあって。タイトルもそうだし、シンプルに歌を届けること。

──今回は、民謡系は、「道端三世相」(みちばたさんじんそう)「懐かしき故郷」。昔から歌いなれた曲ですか。

上間:「懐かしき故郷」は、ちいさい頃から歌ってはいたんですけど、中学1年の時に師匠についていったハワイで、ずっと私は歌っていくんだなと思うきっかけがあって、それから大事な曲としてずっと歌ってはいたんです。でも、CDには入れたことがなかったので。去年と今年久しぶりにハワイに行ったというのもあって、今のタイミングでこれを入れたいなと思いました。

──これはいい曲。

上間:ハワイに日系の方や移民の方がたくさんいて、遠く離れた故郷を思ってる──“いつか戻りたい故郷に”という歌なんです。そういうふうに解釈していた歌を、13歳の時に日系の方たちの前で歌って、故郷が沖縄の人たちが、涙ながらに私の歌を聴いてくれてるのを見て、(自分は)ずっと歌っていくんだなと、そこで決心して。

──思い出の曲。

上間:それが、ハワイに2回行って、日系の方たちに会った時に、“自分たちはハワイが故郷だけど、沖縄も故郷だ”とはっきり言ったんですよ。すごくたくましいなと思って、あらためてこの歌を歌った時に、“帰りたい故郷”じゃなくて、“行きたい故郷”なんですよね。“行ちぶさや、生(うま)り島”という言葉は、“行きたい、故郷の島へ”。これの意味は、13歳の時はわからなかったけれど、もしかしたらこの意味は、離れたこの土地が自分たちの故郷で、その状況をすべて受け入れてたくましく生きる、でも故郷は沖縄にもある、だから行きたい、という歌なのかな?という解釈ができて。

──実は、もっと深い歌だった。

上間:どこにいても、そこが自分の場所だと思えば故郷だし、自分の場所をみつけた人は強いなと思って。その思いが、「アマレイロ」とか、「南風にのって」とかにつながっていくんですけど。

──確かに。その順番で考えると、今回のアルバムに、故郷や大事な場所を歌う歌が多い理由が見えてきます。

上間:そうですね。大切な場所、大切な人とか。今回は、7曲の一つ一つにストーリーがあって、全部つながっているので。

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