【インタビュー】植田真梨恵、5thシングル完成「音楽ですべてを満たしたい」
植田真梨恵が7月6日、5thシングル「ふれたら消えてしまう」をリリースする。表題曲とカップリングナンバーの「ルーキー」はどちらもギター全開のロックサウンドが印象的だ。爽快に疾走する「ふれたら消えてしまう」はその儚げなタイトルとは裏腹に野外ステージが似つかわしい。一方の「ルーキー」は本人曰く、「夏の甲子園をイメージして制作した」というハードなロックチューンに仕上がった。
◆「ふれたら消えてしまう」ミュージックビデオ 動画
両曲ともインディーズ時代からのアレンジャーを起用したほか、両アレンジャーともにギタリストであるということが楽曲の持つロック感を増幅させる結果となったことに加え、植田自身がヴィンテージギターを新たに入手したことも制作に少なからず影響を与えたようだ。もちろんアレンジ手法は異なるゆえ、ひと口にギターロックといっても両曲のサウンドの質感や音の積み重ね方の違いも聴きどころとなっている。
3曲目にはシングル恒例のアコースティックナンバーを収録。「まわりくるもの」と題されたナンバーは自身による完全弾き語りの楽曲として、そのタイム感も音色も心に染み入るものとなった。「改めて“本物の音楽家になりたい”という思いが強くなって」という植田真梨恵に、作詞について、作曲について、ギターについて深く訊いたロングインタビューをお届けしたい。
◆ ◆ ◆
■写真を見るように思い返せたらって
■そういうことって忘れてしまうから
──ニュー・シングル「ふれたら消えてしまう」ですが、とても爽快なギター・サウンドで、それでいて胸に切なく沁みる曲ですね。資料にはこの曲へと繋がっていくような2016年5月9日のブログ(http://lineblog.me/uedamarie/archives/2016-05.html)が掲載されていますが、ふと思ったこと、日常で感じていることを、とてもシンプルに歌へと昇華したのだなということが伝わってきます。
植田:最近ずっと、何でも音楽に変えていきたいなと思っていて。考えていることやその時々の気持ちを喋って外に出していくのではなくて、曲として残していこうとすごく思ったんです。それ以降、どんな思いも曲にしようと書いているなかでの1曲が「ふれたら消えてしまう」で。
──なぜ今、そういう志向になっているんでしょう?
植田:メジャー・デビューして今回で5枚目のシングルなんです。枚数を重ねてきて、デビューして時間も経ち、ライヴも重ねてきたところで。改めて“本物の音楽家になりたい”という思いが強くなってきていて。私の夢は歌手なので、とにかく音楽ですべてを満たしたいし、そうじゃないと私の価値がないなぁと、やればやるほどに思ってきていたんですよね。
▲<植田真梨恵Live of Lazward Piano "Old-fashioned."> |
植田:そういうわけではなかったと思います。私、たまたまなんですけど、ツアー(<植田真梨恵Live of Lazward Piano "Old-fashioned.">)が終わって曲作りにシフトしていた時期に、ブログにも書いてるhideさんや、ZARDの坂井泉水さん、カート・コバーンもそうなんですけど、亡くなってしまった音楽家についてすごく考えたことがあって。亡くなってしまうことは、すごく悲しいし寂しいんだけど、楽曲自体は亡くなった後に、むしろ自分のすごく近くに入ったような気がしていて。それがすごく不思議だったんですよね。そうやって音楽になっていった人たちなんだなと思って、そんなことを考えていたらこういう曲ができたんです。
──歌詞にある、“(すでにこの世にはいない)英雄の息遣い/リップノイズすら忘れない(なぜか忘れない)”というのは、そういう人たちを思い浮かべたフレーズだったんですね。自分も言い残すことがないように、という思いも?
植田:そうですね。私、そんなに“言いたいこと”っていうのはないんです。でも、今忘れたくないなとか、今いいなぁとか、今悲しいなぁとか、今つらかったよみたいなことは、写真を見るように思い返せたら素敵だなと思うんですよね。そういうことって、忘れてしまうから。
──歌手やシンガー・ソングライターはまさにそういう瞬間を形にして閉じ込めていくことができる人ですよね。そう切り替わってから、アウトプットの仕方に変化はあるんですか?
植田:意気込まなくなりました。なるべく自然に、言葉を話すような感覚で曲を書いていこうという感じなので。0が1になった時点で、私はとっても幸せなんです(笑)。それをたくさんやりたいなと思ってからは、結構スムーズですね。
──それが最近のモードだと。
植田:そうですね。でもちょっとインディー時代を思い出したというか。18〜19歳くらいの感覚が返ってきた感じがしました。
▲「ふれたら消えてしまう」初回限定盤 |
植田:この曲はほんっとに自然にできた曲で。最初は、夏に野外でやったら気持ちいい曲が書きたいな、くらいのテンションで書いていたんです(笑)。自分でも思いがけず、メロディを書きながら歌詞がのっかってきた時に、“ああ、こんなことを思っていたのか”と後になって感じることのほうが多くて。そのくらい、何も考えずに書いた歌詞なんですよね。その一瞬一瞬で感じたことや思いはその時のもので、絶対に戻ってこないし、意識してしまった時点で、もう崩れてしまうんですよね。でも、その感覚は残っていて。だからといって、一瞬の大切さっていうものを言いたい、歌いたいわけではないんです。そういうことを思った時に、すごく切なさを感じたというか。私、子どもの頃に母親と一緒にいる時に、明日お母さんがいなくなったらどうしようって思っていたんですよ。
──子どもの頃って急にそういうことを思ってしまう瞬間ありますよね。
植田:むやみやたらに、明日いなくなったら……と思ったら、すごく悲しくて。それと似ていたというか。全然、そんなことはないし、何でそんなに不安になるのかわからないんですけど、その感じを思い出したりしていたんですよね。
──その泡のような思いだったり、感覚的なものが、聴いている側も自然に引き出されるからこそ切なさが滲んでくるんだと思います。例えば、ブログではたくさんの言葉を費やして思いを書いたり、こうしたインタビューでは1時間くらいかけて曲について語ったりもしますよね。そういう思いを3分や4分という曲に集約していくような楽しさを、植田さん自身がきっと感じているんだろうなと思いますが、どうですか。
植田:ほんとそうですね。それが、音楽のいいところだなと思うんです。別に聴き流すこともできれば、超細部まで音を大きくして聴くこともできるし、口に出して歌うこともできるし。やっぱり曲を作るのが、純粋に好きなんですよね。この曲ができて、改めて音楽をやっている時間や、そこに没頭している時間がすごく幸せだなと思いました。
──今、幸せを感じるんですね。
植田:すごく幸せです。先日、THE YELLOW MONKEYの復活ライブを観に行ったんです。すごくカッコよかったんです。もちろん復活も素晴らしいことなんですけど、復活したからこそなんだけど、なにせ楽曲がカッコよくて、美しくて。歌詞と、メロディと、演奏で、本当に美しい芸術を見せてくれるんだなと思った時に、自分自身が今、毎日音楽を作っていいよという環境に立たせてもらっていることがすごいことだなと思って。私もこうなりたい、って本当に思いました。
──いいタイミングで素敵な出会いがありましたね。サウンド・アレンジは岡崎健さんですが、今回はどういうふうにしようというのはありましたか。
植田:これはもともとエレキギターで私がデモを作っていて、シンプルなイントロのフレーズとかはデモの段階で決めていたんです。岡崎さんはインディーズ時代に、「センチメンタリズム」とか「壊して」とか「ミルキー」とか(すべて4thアルバム『センチメンタルなリズム』)、わりと華やかな曲のアレンジをやってくださっていた方なので、合うかなと思って久しぶりにお願いしたんです。最初にイメージはいろいろ伝えたんですけど、これはシンプルでいいなと。ギター2本とドラム、ベースと、軽くオルガンが入ってるくらいがいいなと思って、最初のリフからアレンジを広げてもらった感じです。岡崎さんはギタリストで、感覚的な方なんですよ。計算をしてフレーズを考えたのかなっていう部分も、「いや、こっちのほうがいいかなと思って」くらいで(笑)。でもすごく歌心があるんですよね。
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