【ライブレポート】植田真梨恵、「これが私のEuphoriaだなと思います」
植田真梨恵がアルバム『Euphoria』を掲げてツアー<植田真梨恵 LIVE TOUR 2022 [Euphoria]>を開催した。名古屋、渋谷、大阪、福岡といった全4公演で行われた同ツアーの2公演目、11月11日の東京・SHIBUYA CLUB QUATTRO公演のレポートをお届けしたい。
◆植田真梨恵 画像
構想から完成まで11年を費やした大切な作品を携えて、植田真梨恵がライブの現場に戻って来た。新作『Euphoria』は、ポップもロックも流行りも批評も何も気にせず、音楽家・植田真梨恵の本音をさらけ出した正真正銘の傑作だ。Euphoria=陶酔感溢れる歌たちと共に、1年半ぶりにバンドスタイルで臨む東京公演、楽しみしかない。
青く沈む闇の中で歪んだギターが鳴り響く、1曲目「EUPHORIA」の1音目から気迫が違う。アコースティックギターを弾く植田真梨恵とグランジなバンドサウンド、澄んだピアノの音色が絡み合って不思議な高揚感を醸し出す。スライドギターが活躍するロックなワルツ「最果てへ」、穏やかなミドルテンポが徐々に凄みを帯びて激してゆく「“シグナルはノー”」。どの曲も濃密で純粋で、ポップやロックの定型には収まらない伸びやかさが心地よい。音の表情は不愛想なほどハードなのに、なぜか心地よい。
「スペクタクル」は、いつの間にかぐっとテンポを落として凄みのある曲に進化していた。耳なじみのある曲に応え、自然に手拍子が起こり、フロアから手が上がる。そろそろエンジンが暖まってきたな、と思ったところに登場した「悪い夢」と「FRIDAY」のメドレー。これがとんでもない迫力で、ヘヴィなリフが延々と続き、バンドが一丸となって奏でるサイケデリックでオルタナティヴな音に乗り、うなるように叫ぶようにつぶやくように、奔放に歌うボーカルがすごい。スポットライトはほとんど顔に当たらない。ただ音に没頭する姿がそこにある。
「大切なアルバムができました。大事に作りました。20歳、21歳の頃の私の部屋、生活、匂いとか、死ぬまで歌えるような変わらないことを詰めた歌たちなので、みんなに好きになってもらえるかわからないですけど、今日は大事にやっていきます」──植田真梨恵
「『Euphoria』のきっかけになった曲をやります」──暑い夏、若い日々、不安と希望、恋愛。20代になったばかりの生活と心境を鮮やかに切り取った「ダラダラ」は、時を超えて胸を締めつける特別な力を持つミドルバラード。光の粒子がきらきら回る照明がとてもきれい。一転して、スキップするような軽快な足取りの「ユートピア」へ、そしてワルツのリズムがゆったり流れる「BABY BABY BABY」へ。着飾りも身構えもせず、語るようにじっくり聴かせるタイプの3曲が、『Euphoria』の性格をよく表している。
たった一人、アコースティックギターの弾き語りで歌いきった「モアザンミューズ」の、歌詞にならない“ラララ”のリフレインに込めた万感に浸っていると、そのままコーラスをループさせ、懐かしいインディーズ期の楽曲「愛と熱、溶解」へとつなげてゆく。静寂から爆音への展開がたまらなくカッコいい。「FAR」「JOURNEY」「カルカテレパシー」と続くこのセクションは、『Euphoria』のプライベートな世界観と通じ合う過去曲を選びながら、徐々にテンポを上げて突っ走る。「カルカテレパシー」の、ハンドマイクで飛び跳ねながら「カモン、カモン!」と煽る姿がカッコいい。客席の一人ずつを指しながら、あなたに向けて歌ってるんだよと伝える仕草が愛らしい。ライブはそろそろ佳境だ。
「後半戦、もっと自由に行きましょう」──植田真梨恵
賑やかなブラスバンド風のイントロに乗り、車谷啓介(Dr)、麻井寛史(B)、渡邊剣太(G)、廣瀬武雄(Key)と、頼れるバンドメンバーを紹介するこの曲は、『Euphoria』のアナログ盤のみに収録された「愛の交差点でファンファーレ」。応援団みたいに腕を振るポーズが可愛い。手拍子と手振りで明るく盛り上がる「ロマンティカ」、フライトキャップとゴーグルを装着して、観客全員を空高く飛びあがらせる「プロペラを買ったんだ最近」。果てしない想像力と創造力に溢れた楽曲たちは、明るい楽しさの中に、ぎりぎりの切なさと悲しみをくるみこんだものばかりで、心が強く揺れる。歌詞を読めばわかる。読んでほしい。
「『Euphoria』が生まれた11年前にみなさんをお連れしますね。11年前は、ララがいて、お金がなくて、なんにも足りなくて、今よりもっと心が不安定で、とげとげしてた。そんなハリネズミみたいな心の日々の歌を歌います。バニラの匂いがすると思う」──植田真梨恵
20歳の自伝ソング「HEDGEHOG SONG」は、自らクラップを求めて一体感いっぱいに。サイケデリックに歪んだグルーヴを持つ「黎明」は、ゾクゾクする緊迫感と共に。たった一人の心の中から生まれたものなのに、『Euphoria』は本当に個性豊かな曲ばかりだ。そして残すはあと1曲。
「日々を生きていく中で、当たり前のように歌を作り、それを持ってライブをして、一緒の時間を過ごせることを、普通にやってること。これが私のEuphoriaだなと思います。胃が痛い時もあるけど、音楽を仕事にしてみんなに届けていることは、私たちの幸せです。それは、こうやって聴きに来てくれている人がいるからですね」──植田真梨恵
「まだまだ旅が続いていくと思いますので、みんなも頑張ってね」──実直に、訥々と、決意の言葉を共有したあとに歌われた「エニウェアエニタイム」。どこかでいつか、思い出したり忘れたりしながら、ずっと続いている大切なもの。植田真梨恵はいつのまにか、こんなに深い歌をこんなに優しく歌える人になった。何よりもそのことが感動的だ。
「枕カバーが売れてないそうなので買ってください」──本編の緊張から解き放たれたアンコールは、笑いのあふれる賑やかな空気の中で、やりたい放題の無礼講だ。爽快感みなぎる「I JUST WANNA BE A STAR」を歌いながら、枕を客席に投げ入れる。ハンドマイクで走り回る。仰向けにひっくり返る。「枕返して」と叫ぶ。投げキッスでバイバイ。どの仕草をとっても植田真梨恵らしさが溢れ出す、ここが彼女の生きる場所だ。歌い続けることが彼女の生き方だ。
2023年は、ピアノとギターと歌だけのシリーズライブ<LAZWARD PIANO>が10周年を迎える。1月に『BEST OF LAZWARD PIANO -青い箱-』、2月にLIVE Blu-ray「LIVE of LAZWARD PIANO “Academic!”」のリリース、2月23日にZepp Haneda(TOKYO)にて<LIVE OF LAZWARD PIANO -青い旗->の開催も決まった。傑作『Euphoria』の自信を新たなエネルギーに変えて、終わらない旅は続く。植田真梨恵はここからだ。聴いてほしい。ふれてほしい。
取材・文◎宮本英夫
■<植田真梨恵 LIVE TOUR 2022 [Euphoria]>11月11日(金)@東京・SHIBUYA CLUB QUATTRO セットリスト
02. 最果てへ
03. “シグナルはノー”
04. スペクタクル
05. 悪い夢
06. FRIDAY
07. ダラダラ
08. ユートピア
09. BABY BABY BABY
10. モアザンミューズ
11. 愛と熱、溶解
12. FAR
13. JOURNEY
14. カルカテレパシー
15. 愛の交差点でファンファーレ
16. ロマンティカ
17. プロペラを買ったんだ最近
18. HEDGEHOG SONG
19. 黎明
20. エニウェアエニタイム
encore
en1. I JUST WANNA BE A STAR
▼ツアースケジュール
11月04日(金) 愛知・NAGOYA CLUB QUATTRO
11月11日(金) 東京・SHIBUYA CLUB QUATTRO
11月17日(木) 大阪・UMEDA CLUB QUATTRO
11月20日(日) 福岡・BEAT STATION
▼ツアーメンバー
車谷啓介(Dr)
麻井寛史(B)
渡邊剣太(G)
廣瀬武雄(Key)
▲<LAZWARED>10th Anniversary
■ベストアルバム『BEST OF LAZWARD PIANO -青い箱-』
【青い箱盤 (CD2枚組+Blu-ray】GZCA-5317〜5318 ¥10000 +税
※BOX仕様
(1).CD (2枚組アルバムケース)
(2).特典Blu-ray
・<live of LAZWARD piano “blue morning, blues”>2022.3.4 キリスト品川教会 礼拝堂
・LAZWARD PIANO MOVIE COLLECTION
(3).歴代ラズワルドピアノツアーのスタッフパスレプリカ(サテンステッカー)全8枚セット
【通常盤 (CD2枚組)】GZCA-5319,5320 ¥3500 +税
※全30曲収録予定 RE:RECORDING
■ライブBlu-ray『LIVE of LAZWARD PIANO “Academic!”』
【Blu-ray (1Disc)】GZXA-8041 ¥7000 +税
▼収録内容
<LIVE of LAZWARD PIANO “Academic!”>
・2020.1.26(日) メルパルクホール大阪
・2020.2.09(日) ヒューリックホール東京
上記、全2公演からセレクト収録予定
■<LIVE OF LAZWARD PIANO -青い旗->
open16:00 / start17:00
(問)H.I.P. 03-3475-9999
▼チケット
¥5,800 (税込/指定席)
※学生割引:¥1000キャッシュバック
一般発売日:2023年1月21日(土)
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