【インタビュー】Nozomu Wakai's DESTINIA、女性シンガーを起用して真っ向勝負のヘヴィ・メタルをぶつける新作『Anecdote of the Queens』
■音楽っていうのは言わんとしていることが気持ちとして伝わるかの一点だけだと思ってます
■その手段として自分ができることはメロディック・ヘヴィ・メタルだったりするんです
――そんな若井望に絶大な信頼を寄せる女性シンガー二人を起用しての『Anecdote of the Queens』ですよ。
若井:二人を据えると決めて曲を作り始めて、まずどんなことを歌いたいかってことを列挙していたんです。そこでよかったのが、女性ヴォーカルじゃないと浮かばなかっただろうなってことがいろいろあるんですよ。特に歌詞まで自分で手掛けるということも併せて、女性の立場から見た物事を曲にしようとか、そういうアイデアは今まであるようでなかったですからね。だから、自分の中でも新しい部分が常にありました。コンセプトの点で言えば、実はちょっとずつギミックもあるんです。自分の体験とかもいろいろあるんですけど、ファースト・アルバムのある曲に対して、その裏面を想定したときのストーリーといったものも、何曲かには落とし込まれてるんですよ。前作はどちらかというとものすごい男性視線で歌われているので、それの裏返しみたいな側面をイメージした曲も自然に生まれてくる。不思議なもので、暫定的にどちらに歌ってもらうか決めていたものも、作っていく中でサウンドのノリや歌詞が変わっていったりして、入れ替わることもありましたね。
Fuki:曲と歌詞はどっちが先に出てくるんですか? ここでは同時っていうことですか?
若井:曲や歌詞より、まずはテーマが先。何を伝えたいか。それなくしては、楽曲そのものが存在しない。極端なことを言ってしまえば、音楽っていうのは、言わんとしていることが気持ちとして伝わるかの一点だけだからって思ってます。その手段として、自分が一番できることは、このメロディック・ヘヴィ・メタルだったりするので、そのフィルターを通して伝えてる。その点で言うと主題が最初で、キーとなる言葉がいくつも出てきて、6割ぐらいの歌詞ができる。そこを基準にすると、何となく曲が形になって、あるときに完成するんですよ。言葉で説明すると難しいけど、彫刻とかみたいに、もう答はあるんです。それをそこから取り出すだけの作業をひたすらやる。だから、ギターを持って、カッコいいフレーズ、リフを作って、ここに歌を入れてよっていう、一般的によくある流れで作ることは全然ない。だから、絵だとか料理みたいなものなのかな。自分は音大で音楽も少し学んだけど、ああやって何かを組み立てる発想とはちょっと違って、言葉とか歌詞みたいなストーリーからイメージして、モヤモヤとしたものをひたすら彫刻を削っていくみたいな。こういう絵を描くんだっていう完成形がほぼわかっていて、描いてる感じ。
Fuki:頭の中で先に完成させてから、やっと音楽にしていくっていう感じですよね。
若井:うん、イメージとしてはそんな感じ。逆に言うと、書きたいものがなくなったら、DESTINIAというプロジェクトは終わってしまうんだろうし、言いたいことがないんだから、そもそもやる必要はない。
――結果的に彼女たちの存在も大きかったと思いますが、楽曲そのもののスタイルで言うと、明らかにデビュー・アルバムよりもヴァリエーションは広がった印象を抱くと思うんですよ。
若井:そう、私の中では意図的なところがありますね。前作もそうなんですよ。実はもっと現代的なメタルに寄った形の曲や、逆にもっとオールド・スクールな曲だったり、様々なスタイルのものがあったんですが、前回はその精度を研ぎ澄ませるために、わざと音楽性もギュッと絞ったんですよね。そういうものを作るべきだというのが頭の中にあったので。今回はまったく逆で、その主題が並んだときに、もうこれは必然的にこうなるなと。やっぱり音楽だけでは伝え切れない内容を歌ってるし、しかも、その延長線上にライヴがあることを考えると、前回と同じような速くてメロウな楽曲ばかり並んでしまうのも、私が思うものと変わってきますし。というところもあって、結果、振り幅が広がったというのはありますね。
榊原:歌という観点で言っても、この二人がまた全然違う界隈で活動しているからこその面白さは絶対にあるよね。同じ女性ヴォーカルといっても、違うじゃない、持ってる芸風が(笑)。
Fuki:うん、とはいえ、声質が離れているわけではなくて、似せようと思えば似せることもできるんですよね。二人でコーラスしてる「Until That Time」のようなマッチングのものもあるから。私からしたら、ゆいさんの歌い方は凄いなと思って。表現とかが段違いですよね。ロック・ヴォーカリストと比べると全然違う手法で歌をやっている感じがするんですよ。そこは私に真似できないところだから、レコーディング日程がかぶったとき、勉強になるなぁと思いながら、ゆいさんが歌ってるのを観てましたね。
若井:それは録ってても思ったね。Fukiさんはいわゆるロック・ヴォーカリストとしての言葉として伝えるけど、榊原さんは……言ったらお芝居みたいな伝え方なんだよね。
Fuki:歌が台詞に近いんですかねぇ。
榊原:どちらかと言えば、声芸だね(笑)。
若井:そのストーリーの主人公になりきって歌ってもらえてる。手法としては、まさに声優としてのポテンシャルが随所に出てますよね。こういうことって、ロック・ヴォーカリストではあまりないですよね。自分として常に歌ってるわけだから。
榊原:私の場合は、自分の持ち歌もそうなんですけど、タイトルとか歌に合わせちゃうんですね、歌い方とか声色を。だから、どちらかと言えば、自分というものをあまり出す機会はない仕事ですし、何かのテーマに沿って自分を変えていかなければいけない。今回のアルバムも、バラードだったり、結構ガツガツなものだったりするんだけど、ロックの世界で歌ったことはないから、言うたら、なんちゃってなんですよ。でも、その真似事も、ちょっとずつ自分の中の引き出しを開けていくんです。もちろん、若井くんに開けてもらったところもあるんだけど、何かになれる引き出しの数は持っているので(笑)。でも、本物には叶わないなって気持ちもあるんですよ。Fukiさんはそのフィールドで活動してきた子で、パワーもあって、すごくカッコよく若井くんの曲をこなせてるんですよね。テクニックというよりは、こういう歌を歌うためにこの声があるのかなっていう、天性のものがあるし、そこは羨ましいなと思いましたね。
Fuki:ありがとうございます。照れくさい(笑)。
榊原:ホントにまったく違うところで、お互いに確立して活動している中で、一緒のCDで歌う機会なんてなかなかないので、いい経験だなぁって思いますね。
若井:しかも、基本的には一つの作品だから、トータルで近く作り込んでいくんだよね。そういう中で、2つのヴォーカルが存在する。必然的にそれぞれのポテンシャルを活かす方向にはなる。二人の声に関して、自分自身がプロデューサーとして勉強になったのはすごくありましたね。
――歌に関して驚いたのは、これまで二人が聴かせてきた歌唱ではないんですよね。シンガーとしての新たな面が引き出されている。
榊原:私にしてみれば、まずこういう音楽を歌う機会がないですし、こういう歌い方を求められることもないですからね。
Fuki:それに歌詞が英語というのもありますよね。
榊原:そう、苦戦したよね(笑)。
若井:そこは逃げられないようにこっちもしたからね(笑)。でも、Fukiさんなんかは特に、今までやってきたこととは英語だけでもだいぶ違うと思うし、その点でも、Fukiさんは1曲目の「Breaking the Fire」からガラッと変えてやろうという頭はあった。まず、普段のFukiさんのキーと違うからね。
Fuki:そうですね。Aメロの出だしって、いまだに自分の声に聞こえないんですよ。自分じゃないみたいって感じがすごくして。
――それほどシンガーのFukiの新側面が出ているわけですね(笑)。
若井:あの曲は出だしだけでも何度も録ったんですよ。ぶっちゃけた話、あそこは表現云々よりも、そういうインパクトをとろうと途中で決めたので、レコーディングのときから、特に英語の発音にも気をつけてもらって。キーは下がっていて、このトーンで歌っていて、しかもネイティヴに近い発音から入る。そこがミソで、彼女を知っている人たちは驚くだろうなって。サビに入ればFukiさんだなとよくわかると思うんですけど、そこは成功しましたね。
Fuki:その狙い通りですよね(笑)。
若井:彼女が気づいていないだけで、ポテンシャルとして持っているのはわかっていましたからね。ただ、そういう部分にしても、私が思っていた以上にできたりもするんですよ。榊原さんにしても、たとえば「Rock is Gone」だったら、その筋の本職みたいな歌い方ができちゃうっていう(笑)。ライヴとかで、ゲーム・ソングやアニメ・ソングを歌うのを間近で観ていて、そういう素養があるのは何となくわかってたんですけど、それ以上のものを突っ込んできまして。
榊原:でも、すごい化学反応だよね、これ。ヘタしたら爆発しちゃうんじゃないかっていうぐらいの素材と素材の混ぜ方を、ようしたよねっていう(笑)。
若井:ははは。実は「I Miss You」は最初はFukiさん寄りだったんですよ。なんだけど、入れ替えることによって面白いものができそうだなと思ったんです。Fukiさんの声は力強さが先に立つ部分があるんだけど、榊原さんは少しキャッチーで、Fukiさんほど重くないから、軽快なノリになる部分があるんですね。それが「I Miss You」ではすごくポップな感じに伝わって。Fukiさんにはさらなる表現力を求めようと、彼女が絶対に歌わないであろうテーマの「Love to Love」を歌ってもらって(笑)。
Fuki:不倫とか、不貞の愛ですよね(笑)。
若井:Fukiさんはレコーディングのときの歌詞カードに“不貞”って書いてましたからね(笑)。
Fuki:そう。ちゃんと意味を理解したうえで歌うというのがあるから、歌うときの歌詞カードに、キーワードになる“不貞”って書いておいたんですよ。そこが大事だって(笑)。こういうシリアスなテーマでも、自分の歌詞だと力強くいっちゃうんですよ。こういう切なくて、ウィスパーで吐息混じりの歌い方みたいなことは全然やってこなかったから、すごく難しかったですね。
若井:でも、すごくいい声なんだよね。パーンと張る部分以外でも、その辺はこれからもいろんなところで武器になると思うし。逆に「No Surrender」は歌詞もFukiさんが攻め攻めになるような内容になってて。
Fuki:そうですね、歌いやすかったです(笑)。
若井:榊原さんも、かつてライブでバラードを歌っているのを聴いたときにも良いなと思って、だからこそ「Until That Time」は、ああいうAメロとかになってるし。その反面、榊原さんは「Rock is Gone」みたいな曲を歌うことはないよね。ロック好きな女の人が、好きなロックについて歌う歌なんだけど、Fukiさんの持ち味とは違って、芝居がかって歌に入るという点では、役者さんのポテンシャルを活かしてやってもらいました。
榊原:うん。ジャケットを含めたアーティスト写真の撮影のときに私は白ヅラをかぶったんですけど、その感じが「Rock is Gone」の主人公のイメージだったんですよ。撮影のほうが先だったから、レコーディングのときには「これかな」と思って歌ってましたね。ちょっと酒やけじゃないけど(笑)、路地裏でやさぐれた感じで……。
若井:でも、そこは素に近いんじゃないですか?(笑)
榊原:そこ? 私、お酒飲まないからね(笑)。でも、そのジャケットもFukiさんと私はちょっと違っているところもあり、本来の自分たちともまた違う。私の写真のほうがFukiさんだと思われたりもしたでしょ?(笑)
Fuki:どっちがどっちか、最初に公開したヴィジュアルでわかりました?
――わかりませんでした。今の話のように逆だと思いましたよ。Fuki:うちの母親が間違えたぐらいですからね。全然わからないんだって(笑)。
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