【インタビュー】究極のエルヴィス・プレスリー・トリビュート。当時の機材で録音環境も再現
エルヴィス・プレスリー生誕80周年を記念したトリビュート・アルバム『A TRIBUTE TO ELVIS』が発売された。鈴木茂(exはっぴぃえんど)、ROY(THE BAWDIES)、KOZZY IWAKAWA(THE MACKSHOW)、THE NEATBEATS、BLOODEST SAXOPHONEらルーツ・ミュージックに精通したミュージシャンたちによる歌と演奏によるこの作品。総指揮を執ったのが“SUGAR SPECTOR”なる人物。ヴィンテージ・レコーディング機材を操るエンジニアリングの第一人者として世界レベルの知識と技術を誇り、多くのミュージシャンから熱い支持を得ている知る人ぞ知る存在の彼が、この作品に込めた想いとは。
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── まず“SUGAR SPECTOR”というお名前はPhil Spectorへのオマージュとして名乗っていらっしゃることは音楽ファンの方なら察しがつくと思うのですが、SUGARさんはお生まれになってからしばらく海外にいらっしゃったんですね。その頃から音楽に親しんでいたんでしょうか?
SUGAR SPECTOR(以下SUGAR):ああ、そうだね。幼少期から14歳までベルギーにいたんだ。3歳くらいから親にピアノの英才教育をされていてね。ただ実際自分で何かを始めたのは、その頃にベルギー人の友人のお兄さんがやってるバンドに入れてもらったりしたときかな。あとは小学1年生の頃から自分でテープレコーダーを改造して多重録音みたいなことをしていたね。
── ずいぶん早熟な小学生だったんですね。
SUGAR:英会話用のテープレコーダーを何台か使って、消去ヘッドを消えないようにしてトラックを稼いで後からもう一度やると多重録音できるということを発見してやっていたんだよ。誰に教わったわけではなくて、自分で実験して身につけたんだ。
── どんなきっかけで録音に興味を持ったのか覚えています?
SUGAR:どうだろうね? 今となっては“そこにテープレコーダーがあったから”としか言いようがないよ。まあ他にやることがなかったとも言えるかな(笑)。
── その後帰国して10代の頃からミュージシャンとして活動を開始したんですか?
SUGAR:僕が帰国した当初はまだ中学2年生だったからプロの活動はなかったけれど、その頃には将来音楽で生きて行こうという事は決めていたんだ。ただ、バンドをやるような仲間は周囲にいなかったから、相変わらずひとりで多重録音をしていた。
── 今の時代ならネットを介して録音したものを人に聴かせることができますけど、当時は録ったものを発表する場はあったんですか?
SUGAR:まったくなかったね、まったく。
── そうなんですか? 友達に聴かせたりもせずに?
SUGAR:友達に聴かせたりもしなかった。ただ録ったものをひたすら自分でアーカイヴしていく、それだけだね。オリジナルの楽曲もその頃には書いていたけどね。
── SUGARさんはピアノだけじゃなく、マルチ・プレイヤーのようですが、当時から他の楽器も演奏できたんですか?
SUGAR:いや、当時はまだ鍵盤楽器しか弾けなかったんだ。ただどうしてもギターとベースを入れたかったから、その頃から他の楽器も触り始めた。今はひとりで完結できるところまでプレイできるけどね。
── その頃の音楽嗜好はどんなものだったんでしょうか。
SUGAR:ベルギーから帰国するまでは、当時のヨーロッパで流行っていた音楽を聴いていた。ただ、恐らく僕と同じ年代の多くの日本人にはまったく馴染みのない音楽ということになると思う。
── じゃあ今回の『A TRIBUTE TO ELVIS』に収録されているような音楽は聴いていなかったんですね。
SUGAR:それにはヨーロッパの音楽事情がどんなものだったかを説明した方が早いと思うんだが、まずヨーロッパには流行り廃りが基本的にはあまりないんだ。もちろんその年にヒットするものはあるけどね。ラジオでロイ・オービソンがずっとかかる週もあれば、一番新しい地元のバンドの音楽がかかるときもある。夏になれば定番の曲がかかることもある。ただ、どうしてもアメリカの音楽の影響というのが少ないんだ。そして地元では、とにかくわけのわからない一発屋的な地元ミュージシャンが大変流行っていた。そういう意味ではミックスカルチャーといえなくもないね。
── 帰国してからは日本の音楽に親しんだ時期もあったのでしょうか?
SUGAR:海外にいるときから、松田聖子やジャニーズなど、いろんな歌謡曲というのは、日本からやってくる人が持ってくるカセットテープによってもたらされてはいたんだ。だが情報源はそれしかなかったね。なぜか平山三紀の「マンダリンパレス」が好きでよく聴いていたよ。ただ日本に帰ってきたらそれを知っている人はそんなに大勢はいなかったね(笑)。
── その後プロ・ミュージシャンとしてデビューするまで、どちらかというと手広く音楽を聴くというよりは一点集中的に好きなものを掘り下げて行くような聴き方だったんですか?
SUGAR:プロ・ミュージシャンになったのはあるタレントさんのバックバンドを高校在学中に初めたのがきっかけなんだが、当時からプロデューサー的な視点で全体を俯瞰で見て判断しようという傾向が僕にはあったんだ。その音楽は全体的にはどういう流れになっているのだろうかとか、歴史的にはどういう系譜でこの音楽は作られてきたのだろう?とか、元ネタ探しや誰に影響されていたのかということに早い段階から着目して、そういう聴き方をしていたような気がする。そういう意味では純粋に音楽を聴いていたというよりは、音楽産業の構造を解明しようとしていたね。どういう人に雇われて、どこの会社に誰が所属していて、という。そういうことにまで目が行っていたんだ。
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