【月刊BARKS 浜崎貴司 vs 安藤広一 特別対談 Vol.4】真実のない時代に向けて放つ音楽~未来へ
【月刊BARKS 浜崎貴司 vs 安藤広一 特別対談 Vol.4】真実のない時代に向けて放つ音楽~未来へ
一人のアーティストを深く掘り下げて、その音楽性、個性、与えた影響などを紹介していくこの企画。1990年代に登場し時代の寵児的な存在として音楽界を賑わしたFLYING KIDSの浜崎貴司が登場。そしてその時代を二人三脚で歩んだ元The Roosters(※)のキーボーディストであり、ビクターエンタテインメントのディレクターであった安藤広一に当時の模様を語ってもらった。この組み合わせがどのようなケミストリーを生み出し、そのロック魂を爆発させていったのか。4回連載の最終回だ。
■PART4:真実のない時代に向けて放つ音楽~未来へ■
2013年、浜崎貴司ソロデビュー15年、FLYING KIDS結成25年。その長く濃厚な経験を生かしつつ、ノスタルジーに引きずられず今を生きる実感を求める浜崎の生活と音楽は、ニューアルバム『ガチダチ』で一つの理想形を見出した。そしてその向こうにある未来について、安藤は日本の音楽シーンの良き成長を願い、浜崎は「小さな商店でいいものをちゃんと売る」ことに方向性を見出す。それぞれの歩みは止まることなく未来を目指している。
──若いバンドがデビューする環境として、80年代と、今の2010年代とでは、どんな違いがあると思いますか。
安藤:僕はどデカイ音でガン!と聴いてぐっと来る、ということを経験している世代だから、詞とメロディだけで感動している人は、ちょっとかわいそうなんですよね。サウンドもないと、ぐっと来ない。できれば爆音で、体ごと鳴らしてしまうような音楽が僕は大好きだから、そう考えると淋しい思いはしてる。でも人間の体ってそんなに急に変わるわけではなくて…この前面白いなと思ったのは、いきものがかりって僕は素晴らしいなと思ってるんだけど、何かのインタビューでヴォーカルの女の子が、「最近凝ってるものは何ですか?」って聞かれて「オーディオ」って答えてたの。すごくいいなぁと思った。
──いいですね。
安藤:そういうことがこれから起こっていって、ヘッドホンだけで聴いて喜んでる人たちに、いい音で聴くことの楽しさが伝わっていったら、もう一回面白いことが起こるんじゃないかな。いいサウンド、いいメッセージ、いいメロディが全部あると、本当にいいと思う。ライヴハウスもそんなに数が減ってるわけじゃないし、音を鳴らす環境がしっかり整ってくれば、また面白い状況になるんじゃないかな。テクノロジーに寄り過ぎると面白くない。全部が小型化されて、便利になっていくだけの音楽はキツイなという気はする。すごい先輩がいっぱいいて、そういうものがCDやレコードで残ってるわけだから、これから若い人がそういうものに気がついてくれればいいと思います。
──浜崎さんは、今の時代の音楽環境について思うことはありますか。
浜崎:うーん、なんでしょうね。あんまり考えたことがない。それよりも、逆に自分自身がだんだん年をとってきて、自分の人生経験ですべてを推し量るということになってくるじゃないですか。自分のフィルターでしか良し悪しを判断できなくなる、それは問題だなと常に思いますね。
──ああ、なるほど。
浜崎:自分のノスタルジーみたいなこととどう向き合って、今を見つめるべきなのか。それは時代ではなく自分自身の問題で、時代は常に変化していくんだろうなという感想は持ってます。僕らも最初はそういうことを言われたろうし、常にそういう違和感みたいなものはあると思うんですよ。ただね、ZUCCaというブランドのデザイナーだった小野塚さんと話していた時に、最近のファッションで「あれは良かったね」というものとして、ジーンズを切ってホットパンツみたいにして、ポケットがペロッて太もものあたりから出ちゃうやつ、あの話をしたんです。オレはあれを見た時に「なんてだらしないんだ」と思ったんだけど、小野塚さんという還暦も超えた先輩が、「あれ、かわいいよね」って言った時に、すげぇなと思った。キャッチーというか、ポップというか、そういうものってどこかに違和感があるものだと思うし、違和感に対して素直に反応できる感性を自分はほしいなって最近思います。
──はい。
浜崎:それでも否定するものはきっと出てくるだろうし、その線引きですね。何をチョイスするのか、常に向き合っていかなきゃいけないと思う。それは僕の年齢という問題でもなくて、今の時代が抱えてる複雑さ、ある種のカオス的な状況に起因している気がする。何かが巡ったり、また繰り返したりして、よくわからねぇなと思う。だから自分がそこで、ノスタルジーの上にあぐらをかかない、ということだけ気にしてますけど。
安藤:でも最高級のものって、変わらないじゃん?
浜崎:そんなこともないと思うけどね。
安藤:スーツとかもさ、本当にトップのものはそんなに変わんないでしょ。それを知っていることは重要で、その上でどんどん新しくなっていくのはいいと思うけど。
浜崎:でもね、オレはそこらへんも怪しいなっていう気がする。いま伝統とかスタンダードと言われているものも、50年後にどういう評価を受けるか?なんて誰もわからない。人間が歴史を抱えるキャパシティはそんなにないと思うから、どんどん捨てられていくと思う。だから、たとえばシャネルでもルイ・ヴィトンでもいいけど、必死に今と戦って、常に新作を発表し続けて、草間彌生がルイ・ヴィトンに登場することもあるわけです。ああいうことがないと、最高級のものを維持できないという戦いに挑んでるんだと思うし、みんな必死に転がってるだけなんじゃないかな?と思う。
安藤:うん。
浜崎:今の時代は、真実がなくなっているんだと思うんですよ。真実が瞬間瞬間で変化している、そこで言葉の信頼性が失われていってる、そういう時代に突入していってると僕は思います。真実を維持できる、ゆったりとした時間が流れる時代というものがあったと思うんですけど、今はすごいスピードで進んでるから、その期間が短い。そういうことを最近感じてます。
──そこで自分なりのスピード感を見定めなきゃいけない。
浜崎:うん。でもそこですごい戦いをしてるなと思うのは、たとえばトヨタ、ユニクロだとか、世の中でメジャーと呼ばれる存在は絶対に必要だし、時代のスタンダードみたいなものは必ずあると思うし、ないと困る。そういう部分と、自分が今ソロでやっているようなことものような、本当に好きな人が集まる小さな商店も必要だと思う。
──そのたとえは、すごくわかりやすいですね。
浜崎:二極化してると思います。オレは最近クルマを買い換えて、ユニクロのウルトラライトダウンとかを着てみて思うんだけど、今までのこだわりを捨てちゃうぐらい、機能にのめり込んじゃうんですよ。便利とか、居心地がいいとか、コストが安いとか、エコだとか。そういうものにガーッとさらわれて、今までロマンを抱いていたような、たとえばスポーツカーへの憧れみたいなものを捨ててプリウスみたいなクルマに乗り換える時に、ビックリするぐらいの方向転換があったから。
安藤:へえ~。
浜崎:それを浴びてみると、大波にさらわれていくような感覚で、それを許してしまう自分がいる。「これが今のスタンダードの一つなんだろうな」と思ったりします。それは音楽の中でもそういう感じがするし、個性がうんぬんという状況ではなくて、その音楽の放つ力みたいなものが、理屈抜きに居心地の良さを感じさせるほどのパワー感を持っているものがある。それがたとえばAKB48だったり、ジャニーズだったりすると思うんだけど、そっちに行ってしまう感覚は似てるなと思ったりしますけどね。そういう感覚って一体何だろうな?って思うんですけど、何も感じずにそこに飲まれている、普通に受け入れてるという感じがします。それに対して周りが批判もしないしね。「あれはあれでいいじゃん」みたいなことになっている。AKB48も否定しないし、ユニクロも否定しないし、「あれはあれでいいよね」という感じだし、そこで小さい商店に対しての方向性も同時に芽生えている。そういう状況じゃないかと思います。
──浜崎さんの立ち位置は、今は小さな商店でいいものをちゃんと売る、ということになりますか。
浜崎:うん。簡単に言うと、ヒット曲なんてどうでもいいやと思ってる。
安藤:それでいいと思うよ。自分が好きなことを一生懸命やるのがいいんだよ。そのほうがカッコいいんだから。周りの状況を見て、あわてふためくのが一番良くない。僕も、自分が好きなことしかやらないって決めたもん。イヤなことはやらない。それで駄目だったら考えればいい。その代わり好きなことは一生懸命、誰よりも頑張っちゃう。
──最後に、「未来」ということで締めくくろうと思います。これからの自分自身の「未来」について、どんなことを思っていますか。
浜崎:つくづく思うんですけど、特に僕がやっている音楽状況はライヴが中心になっているので、そういう観点で言うと、肉体労働だなと思うんですよね。だから未来といえば、健康に気をつけること(笑)。とか言って、相変わらず酒飲んだり煙草吸ったりしてますけど。
安藤:酒もタバコもいいんですよ、元気でやってるうちは。黄色い信号点滅に気がつくか気がつかないかが重要なだけで。僕もこれからは健康でありたいのと、あとは「温故知新」、そして「世のため人のため」。みなさんちょっと、わがままになりすぎてたと思うので、どこかで神様が見てるんだよという感覚をもう一回取り戻さないと。見られていないからと言って変なことをしてはいけない、ということをちゃんとやらないと駄目だと思う。
──今日はありがとうございました。お二人の今後のご活躍をお祈りします!
司会進行・構成●宮本英夫
(※)The Roosters 1979年、北九州市で結成されたブルース色の強いロックバンド。
『ガチダチ』
2013年1月30日(水)リリース
VICL-63989 \2,400(tax in)
1.君と僕 / 浜崎貴司×奥田民生
2.デタラメ / 浜崎貴司×斉藤和義
3.セナカアワセ / 浜崎貴司×中村中
4.グローバ・リズム / 浜崎貴司×佐藤タイジ
5.ウィスキー / 浜崎貴司×おおはた雄一
6.ぼくらのX'mas-Song / 浜崎貴司×仲井戸“CHABO”麗市
7.ヒバナ / 浜崎貴司×高木完
8.ゆくえ / 浜崎貴司×曽我部恵一
1989年3月「平成名物TV・三宅裕司のいかすバンド天国」に出場、5週勝ち抜き初代グランドキングとる。1990年、シングル「幸せであるように」でメジャーデビュー。
ファンクミュージックからポップ路線まで幅広い振れ幅でスマッシュヒットを連発。1990年「幸せであるように」から1997年の「君にシャラララ」まで19枚のシングルと12枚のアルバムをリリース。
1998年2月12日解散。浜崎はソロとして活動を続ける。
2007年8月18日、<RISING SUN ROCK FESTIVAL 2007 in EZO>でオリジナルメンバー6人で再結成。
2009年9月23日、約12年振りのニューアルバム『エヴォリュ-ション』を発売。2011年9月21日、2年振りのアルバム『LIFE WORKS JOURNEY』をリリース。
【FLYING KIDS 作品年表】
●シングル
「幸せであるように」1990年4月4日
「我想うゆえに我あり」1990年8月21日
「心は言葉につつまれて」1990年11月21日
「新しい方々」1991年3月21日
「君だけに愛を」1991年10月21日
「TELEPHONE」1992年8月26日
「君とサザンとポートレート」1992年11月21日
「大きくなったら/虹を輝かせて」1993年8月21日
「恋の瞬間」1993年10月27日
「風の吹き抜ける場所へ」1994年6月22日
「君に告げよう」1994年11月9日
「とまどいの時を越えて」1995年4月24日
「暗闇でキッス ~Kiss in the darkness~」1995年8月23日
「Christmas Lovers/バンバンバン」1995年11月22日
「真夏のブリザード」1996年5月22日
「ディスカバリー」1996年10月28日
「僕であるために」1996年11月25日
「Love & Peanuts」1997年4月23日
「君にシャラララ」1997年9月4日
●アルバム
『続いてゆくのかな』1990年4月21日
『新しき魂の光と道』1990年12月16日
『青春は欲望のカタマリだ!』1991年10月21日
『GOSPEL HOUR』1992年5月21日
『DANCE NUMBER ONE』1992年8月26日
『レモネード』1992年12月16日
『ザ・バイブル』1993年12月16日
『FLYING KIDS』1993年9月22日
『Communication』1994年12月5日
『HOME TOWN』1995年11月1日
『真夜中の革命』1996年11月25日
『Down to Earth』1997年10月22日
『BESTOFTHEFLYINGKIDS』1998年2月11日
『FLYING KIDS NOW! ~THE NEW BEST OF FLYING KIDS~』2004年2月25日
『エヴォリュ-ション』2009年9月23日
『LIFE WORKS JOURNEY』2011年9月21日
【浜崎貴司 作品年表】
●シングル
「ココロの底」1998年12月2日
「どんな気持ちだい?」1999年6月23日
「誰かが誰かに」1999年10月6日
「ダンス☆ナンバー」2004年1月28日
「オリオン通り」2004年8月7日
「スーパーサマー・バイブレーション!!」2005年7月20日
「ラブ・リルカ」2005年9月28日
「Beautiful!!」2007年7月14日
「MERRY~ぬくもりだけを届けて」2007年10月24日
「モノクローム/オリオン通り」2008年2月20日
●アルバム
『新呼吸』1999年11月20日
『俺はまたいつかいなくなるから』2001年6月2日
『AIと身体のSWING』2002年3月27日
『2002』2002年12月8日
『トワイライト』2003年9月29日
『発情』2004年2月25日
『1』2008年3月26日
『NAKED』2010年9月29日
『ガチダチ』2013年1月30日
◆浜崎貴司 オフィシャルサイト
◆レーベルサイト
◆FLYING KIDS オフィシャルサイト
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