テデスキ・トラックス・バンド、初上陸のロンドンで大喝采

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「世界一ギターが上手い夫婦」デレク・トラックスとスーザン・テデスキが率いる、テデスキ・トラックス・バンドのデビューアルバム『レヴェレイター』が各所で高評価、並みいる強豪の中、全米アルバムチャートでは初登場12位を記録した。これは「現代の三大ギタリスト」のデレクと「グラミー賞ノミニー」のスーザン、それぞれのソロでの最高位を超えるものである。デレクの素晴らしいスライド・ギターが、スーザンのソウルフルな歌唱を支え、唯一無二の新しい化学反応を生んでいるようだ。また、POPS、BLUES、ROCK、FUNKなど様々なジャンルの音楽を取り入れた音楽性が高く評価され、世界三大ジャズフェスティバルの一つ、モントルー・ジャズ・フェスティバルへの7月2日に出演も決定している。

◆テデスキ・トラックス・バンド画像

そんな中、ロンドンの現地スタッフから貴重なライヴレポートが届いたので紹介したい。2010年のフジロックにはバンドの以前の名義の「デレク・トラックス&スーザン・テデスキ・バンド」での公演であったため、新生テデスキ・トラックス・バンドとしてはまだ日本ではライヴを行なっておらず、ロンドンでもこれが初ライヴとなる大変貴重なレポートである。会場のシェパーズ・ブッシュ・エンパイアは1903年に建てられ、これまでザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズ、The Who、デヴィッド・ボウイ他数多くの歴史的な公演が行なわれてきた、ロックの歴史を作り、伝説が生まれてきた場所である。

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“女性版オーティス・レディングとデュアン・オールマンの生まれ変わりのギタリストの競演”…まさにそう呼ばれる通りのマジックが生まれた夜。スーザンのソウルフルな声、デレクの超絶スライド、完璧なテクニックで支えるバンドのグル―ヴで、どんどん観る者を引き込んで、会場中が一つの到達点へ向かって盛り上がっていく様はまさにライヴのマジック。ライヴの醍醐味を感じる瞬間だった。

シェパーズ・ブッシュ・エンパイアのスタンディング・アリーナは隙間なくぎゅうぎゅうづめ。1Fから3Fまであるバルコニー席も完全にぎっしり。年齢層は高めで男性中心。2000人以上の目の肥えたロンドンの生粋のロック・ファンで超満員の中、オープニング・アクトのロバート・ランドルフのペダル・スティールの超絶技巧で温められた会場は、もう今か今かとバンドの登場を待ちわびている。その中の一人には11月にエリック・クラプトンとともに8年ぶりの来日を果たす、スティーヴ・ウィンウッドの姿も。

20:55分。会場が暗転。遂にステージにロンドン初お目見えとなる新生テデスキ・トラックス・バンドが登場。奥様のスーザンはノースリーブの白いワンピースに身を包み、グリーンのテレキャスターを抱えて登場。キラキラの高いハイヒールが印象的で、ロックというよりも、どちらかというとその辺を歩いている美しい奥様という感じ。旦那のデレクはいつものSGを抱えて登場。ブラウンのジャケットにTシャツにジーンズというなんのてらいもない、いつも通りの相変わらず質素な格好(なんと顎髭を蓄え、まだ32歳の若さにも関わらず風格はもう伝説的ギタリストな雰囲気に)。バンドはデレク、スーザンのツイン・ギターに、ツイン・ドラム、ベース、キーボード、3人のホーン、バックヴォーカルと総勢11人編成の大所帯。

まずはステージに立ったスーザンが「アメリカからイギリスへ招待してくれて、ありがとう。このメンバーで、初めてのロンドンで、この伝説的な会場に立てて光栄です。嬉しいわ。」とスピーチ。観客は大歓声で応え、オープニング・ナンバーへ突入。スーザンのMCはかわいい声で囁くように話すにもかかわらず、いざ曲がスタートすると、まさに女性版オーティスと呼ばれるほど、パワフルな声で歌うもんだから、そのギャップにみんな驚愕。デレクはちょっと伏し目がちな、いつものポーズ。目を閉じ、陶酔した雰囲気でストイックにスライド・ギターを弾き続ける、天にも昇るような素晴らしいスライドのソロが終わると大歓声。

イントロでデレクがインド的なフレーズを奏でると、そこからアルバム『レヴェレイター』の中でもどこか南の島を思い起こさせるような美しいナンバー「Midnight in Harlem」へ。ちょっとレイドバックしたようなミッドテンポのサウンドに、静かに波打つ海を思わせるような、デレクのスライドが美しい。デレクは相変わらずギターのエフェクターを一切使わず、アンプ直結で音を出している。このご時世にギター一発の音で勝負して、あんな美しい音色を奏でるなんて全く不思議、凄い。

スーザンはギターを置き、ヴォーカルに専念。ここでジョー・コッカーの「Space Captain」を演奏。この曲はハービー・ハンコックの『IMAGINE PROJECT』に夫婦二人で参加したときに共演したナンバー。ファンキーなリフをデレクが奏で、ツイン・ドラムとホーンが絡んできて、グル―ヴに包まれていくと、スーザンのソウルフルな声でガツン。ロック姐ちゃんって感じではまったくない。どちらかというと、普通な女性の格好をしているスーザンがいきなりあんな声で歌うもんだから、そのギャップにとんでもなく驚く。

4曲目でデレクとスーザンはギターをレスポールに持ち変える。曲は次のシングルとなる「Learn How To Love」。強力にリフがカッコイイこの曲でさらに会場中がヒートアップ。デレクは陶酔の表情で、ギターで自分の世界に入り込み、ある種仙人のようにも見える。これは会場中の人々のツボにドンぴしゃはまったようで一段と凄い歓声が高まる。きっと彼らの代表曲になること間違いなし。デレクは再びSGへ持ち替え、5曲目の「Until You Remember」へ。3連のソウル・バラードで、スーザンが歌い上げる様はまさに誰もがオーティス・レディングを思い浮かべたはず。

6曲目はデレク・トラックス・バンドでもおなじみのデレク&ザ・ドミノス「Anyday」。デレクという名前はデレク&ザ・ドミノスからとられたと言われており、そんな彼が2006年にはエリック・クラプトンに認められツアーに参加、日本公演でも素晴らしい演奏を聞かせてくれた。そしてオールマン・ブラザーズのギタリストとしてバンドに正式参加してデュアン・オールマンの生まれ変わりとまで言われるようになるとは、まさになるべくしてなった、ギターの神様が定めた運命ともいえるかも。ちなみにオールマンのオリジナルメンバーのブッチ・トラックスはデレクの伯父にあたるのだ。この曲ではDTBでヴォーカルをとっているマイクが登場、スーザンに代わってヴォーカルをとる。スーザンは再びグリーンのテレキャスターに持ち変え、デレクとのギター掛け合いを見せる。途中キーボードがサンタナの1970年代のようなJAZZ ROCK的テイスト溢れるフレーズへと、それに合わせてバンドの演奏も変化。たぶん、その場の雰囲気と思われるが、この即興性が曲を別の方向へ持って行って、いきなり異なるグル―ヴを作っていく。デレクは目を瞑り曲の世界に没頭、流れるような美しいギターソロ。そこにツイン・ドラムが絡み、さらにデレクのスライドが応える…曲がめぐりめぐって、そして一つの到達点へ達する…そこで何かがどんどん生まれていくというか、まさにライヴの醍醐味を感じる瞬間。

7曲目はスーザンのギタリストとしての真骨頂を見せてくれたブルース・ナンバー。スーザンはレスポールに持ち替え、ギターソロが訪れると弾きまくり。とにかく彼女、ギターの弾き方がカッコイイ。様になっているというか、堂々とした雰囲気。普通の服着た奥様がいきなりレスポール抱えて弾きまくり、チョーキングの際とか陶酔の表情なんてするもんだから、そのギャップにみんなびっくり。そして、その弾きまくっている奥様をデレクが笑ってそばで見つめてる様子がとても微笑ましい(「こりゃ、スゲーなぁ」なんて思っているような表情)。ソロが終わると大歓声、それからまたソウルフルな声がガツンとくるので、そこでまた大歓声。なりやまぬ拍手。

続く8曲目はスライ&ザ・ファミリー・ストーンの「Sing A Simple Song」。このファンク・ナンバーで、スーザンのギターがファンキーなリフを奏でるわけですが、きらきらの高いハイヒールにもかかわらず、ガッと足開いて豪快にワウワウ・ペダルを踏みまくり、これがまたカッコイイ。ギターを弾かないときはちょっとステップを踏んで踊りも見せながら、サビの“ナー、ナナ、ナーナ”を会場中に歌わせ会場中を一体にしていく様もお見事。

ここでスーザンが「彼はベースだけじゃないのよ。次は彼のヴォーカルで!」といってベースのオテイルを紹介。彼はキーボードのコーフィーの弟でオールマン・ブラザースの現ベーシスト。オールマンで共演する中、意気投合したデレクがバンドに誘ったそう。そのリズム感覚は半端じゃない。ベース・ソロ的なフレーズからジャズロック的なアプローチでその素晴らしいテクニックを存分に見せると、ジミ・ヘンドリックスの「Manic Depression」に突入。オテイルが歌い、ここではスーザンとデレクがツイン・リードを奏でる。夫婦だけあって当然息もぴったり。そこからデレクのギターとベースとの絡みが始まり、曲の様相はだんだんもの凄いことになっていく。ステージから一人減り二人減り、いつの間にかデレクとベースとツイン・ドラムだけに。フリー・ジャズ的なインプロビゼーションの嵐へ突入し、観客は茫然と食い入るようにステージを見つめている。ただただ身をゆだねるしかない。

スーザンもデレクも再びレスポールを持ち替え「Come See About Me」へ。これまたスーザンのレスポールでのギターソロが冴えまくる。ガッと開いて、ハイヒールでワウペダル踏みつけ、ギターのネックをグイっと持ち上げチョーキング&ソロ弾きまくり。いや、ホントにスーザン姐さんかっこいいわ。デレクは曲の途中でSGへ持ち替え、そしてまた夫婦ギター掛け合いツイン・リード。

ここで一風、変わった曲が登場する。

スーザンが「みんな気分はどう?楽しんでる?私たちは凄く楽しんでるわ!」と観客に問いかけると、もちろん大歓声で返す。そして興味深いお言葉を。

「このあいだ97歳になるおじいちゃんと話したら、こう言うのよ。たまにはみんながよーく知ってる曲をやんなさいよって。だからおじいちゃんのアドバイスに従って今回この曲をやってみるわ」と語ると、ドラムがモータウンでよく使われる立て乗りのタツ・タツ・タツというリズムを叩きだす。ツイン・ドラムだからこれがまたパワフル。そこにデレクのギターカッティングが絡みつき、スーザンはヴォーカルに専念。曲が始まると…これはびっくりのスティーヴィー・ワンダーの「UPTIGHT」。

これまでのデレクのライヴを考えると、これは非常に意外なナンバー。当然この曲ではホーンが大活躍。

それにしてもこのバンドは本当にうまい!本当に凄い!「UPTIGHT」もそのまま一筋縄では終わらない。途中からキーボードが不協和音的なフレーズを挟みこみ、ベースがうなりをあげて入り込み、そしてデレクのスライドが絡み合う…バンド全体のうねりがこれまた曲を違う次元に連れて行ってくれる。たぶん毎日違う演奏になるだろうからバンドもいつも新鮮だし、観ている方も楽しい。家族と見に来ていたスティーヴ・ウィンウッドも1Fバルコニー席の一番前の席で、冒頭はゆったりと見ていたものの、曲が進むに連れてどんどん身を乗り出し、一緒にノッて手拍子をしたり(ジミ・ヘンドリックスの曲ではさすがにすぐ反応。変則は手拍子で裏のリズムをとっていた)、デレクやスーザンのギターソロが終わるたびに手を挙げて大きな拍手を送っていた(隣に座ってたスティーヴの奥様はとにかく興奮して、特に同じ女性であるスーザンの一挙一動に注目していた)

そこからツイン・ドラムのソロになだれ込み、ドラムの掛け合いがまた素晴らしい。曲は「Bound For Glory」へ。ソロが終わるたび大歓声。会場中が一つの到達点へ向かっているかのよう。そこからはもうアンコールまで会場は興奮のるつぼ。テデスキ・トラックス・バンドのライヴ・パフォーマンスのマジックに完全にそこにいる誰もが取り込まれてしまった一体感。彼らのライヴはバンドと観客が毎回新たな空間を作り出していく、それが最大の魅力なのだろうと思う。

テデスキ・トラックス・バンドは、「スーザンとデレクの夫婦+バックバンド」というだけのバンドではないことがよくわかったライヴだった。スーザンの声もデレクのギターも、もちろん最大の魅力の一つだが、それぞれの個々のメンバーがすさまじいテクニックと深い音楽への愛情と情熱を持ち、彼ら一人一人の化学反応によってバンドが更なる高みへと昇っていく。まさに60年代や70年代のいくつもの伝説を作っていったロックバンドの最良の形がここにあるような気がした。

『レヴェレイター』
SICP3143 ¥2520(税込)

pix by Al Stuart

◆スーザン&デレク・アルバム紹介動画
◆テデスキ・トラックス・バンド・オフィシャルサイト(海外)
◆テデスキ・トラックス・バンド・オフィシャルサイト
◆BARKS洋楽チャンネル
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