村上春樹の最新作「1Q84」を追う、『バルトーク:管弦楽のための協奏曲/ヤナーチェク : シンフォニエッタ』

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日本文学史上最高の発行部数を記録し、社会現象となっている村上春樹の最新作「1Q84」。全国で売り切れ品薄となっている状況は皆さんご存知の通りだが、その人気を追う様に、あるCDが市場から蒸発、生産が追い付かずただ今品切れ中となっているのをご存知だろうか。

そのCDとは、ジョージ・セル指揮による『バルトーク:管弦楽のための協奏曲/ヤナーチェク : シンフォニエッタ』である。既に「1Q84」を読まれた方であれば、至極納得のところであろう。

「1Q84」では、ヤナーチェクの作品「シンフォニエッタ」が物語のモチーフとなっている。作品冒頭では同曲を聴く状況描写があり、その後も繰り返し「シンフォニエッタ」は登場、主人公がジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団の演奏による作品を購入するシーンまで出てくるのだ。その作品こそ、『バルトーク:管弦楽のための協奏曲/ヤナーチェク : シンフォニエッタ』である。

読み進んでいく中で、実在するこのCDを聴きたくなるのも至極当然、多くの人が購入衝動に駆られるものの、市場に残っていた作品はすぐに枯渇し、現在は生産待ちという状況となってしまったのである。

注目の『バルトーク:管弦楽のための協奏曲/ヤナーチェク : シンフォニエッタ』、この作品の指揮を取るジョージ・セルは、1929年から37年にかけてプラハのドイツ歌劇場(現プラハ国立歌劇場)の音楽監督を務めていたこともあり、チェコ音楽を好んで取り上げてきた。「シンフォニエッタ」は、セルが録音した唯一のヤナーチェクの作品であるが、彼の卓越した指揮能力が凝縮された名演である。クリーヴランド管も輝かしい冒頭のファンファーレに始まり全曲を通してどのセクションも明快で、同時に精緻なアンサンブルを形づくっている。

バルトークの「管弦楽のための協奏曲」は、終楽章の大胆なカット(426~555小節)とカット前に418小節のフレーズを4回繰り返すというセル独自の演奏により、音楽評論家からは黙殺されているが、とにもかくにも素晴らしい演奏である。

ジョージ・セルは1944年12月の世界初演から1年1ヶ月後の1946年1月にはすでにこの曲をクリーヴランド管とニューヨーク・フィルと演奏、以来この曲をレパートリーにしている。

※クリーヴランド管弦楽団 The Cleveland Orchestra
1918年創立のアメリカの“ビック・ファイヴ(5大)”オーケストラのひとつ。セヴェランス・ホールを拠点とし、夏季はブロッサム音楽祭のレジデントオーケストラとして活動している。歴代の音楽監督・常任指揮者は以下の通り。
ニコライ・ソコロフ(1918-33)、アルトゥール・ロジンスキ(1933-43)、エーリヒ・ラインスドルフ(1943-46)、ジョージ・セル(1946-70)、ピエール・ブーレーズ(1970-72)、ロリン・マゼール(1972-82)、クリストフ・フォン・ドホナーニ(1984-2002)、2002年からはフランツ・ウェルザー=メストが音楽監督を務める。
特に、ジョージ・セルの24年に及ぶ音楽監督時代に飛躍的にレベルを上げ、セルのヨーロッパに育まれた伝統的な美とアメリカの完全な資質が見事に溶け合った理想的な演奏を繰り広げた。正確完璧な技術に加え、室内楽的とまで評された純度の高いアンサンブル、微妙なニュアンスの表現力などが特徴とされ、世界の一流オーケストラとしての評価を決定づけた。
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