「M-SPOT」Vol.022「歌ものとはまた違う、インストゥルメンタルの世界」

2025.06.17 20:00

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ユニットにしろプロジェクトにしろバンドにしろ複数のミュージシャンが集って音楽制作をする場合、何を求めるのか何が正義なのかも全く自由なわけで、そこに正解やルールはない。イメージするアウトプットから決めるのか、メンバーというインプットリソースから決めるのか、その違いだけでもコンセプトは全く変わってくる…そんな話が繰り広げられた前回Vol.21に対し、今回はガラッとテーマを変えて、シンプルにソロ・アーティストによるインストゥルメンタル作品のご紹介だ。

歌ものとはまた違うインストの世界とはどういうものか。いつものように、ナビゲーターはTuneCore Japanの堀巧馬と野邊拓実、進行役の烏丸哲也(BARKS)である。

  ◆   ◆   ◆

──今回は、前回から趣を変えて、ちょこミカさんの「Magical Comical Charleston」という楽曲を紹介したいと思います。音だけで絵が見えるというか世界観が見えるんですよ。

堀巧馬(TuneCore Japan):「Magical Comical Charleston」というタイトルの曲ですが、ジャンルは「コメディ」となっていますね。

──そう。ジャンルがコメディーってなんだろうと思って聴いてみたんです。そしたらインストなんですよ。

堀巧馬(TuneCore Japan):インストゥルメンタルでコメディってどういうこと?気になるな。

野邊拓実(TuneCore Japan):笑点のオープニングの「笑点のテーマ」みたいな?

──聴いてみましょう。

堀巧馬(TuneCore Japan):なるほど、いやぁ、俺は好きです。

野邊拓実(TuneCore Japan):かなりいいですね。

堀巧馬(TuneCore Japan):絵や世界観が見えるって言っていましたけど、どういう情景が浮かんでいます?みんなのイメージを知りたいな(笑)。

──私は、無声映画。

野邊拓実(TuneCore Japan):僕もそういう感じですね。海外の映画ですね。

堀巧馬(TuneCore Japan):めっちゃわかる。このジャケ写のイメージに引っ張られましたけど、ひとりの女の人に対して、一緒に踊りたい男が次々と現れて来る感じ。次の男がダーンとやってきて、後ろ「バン♪」とか「ボイン♪」とか闘っている効果音がめっちゃ聞こえてくる(笑)。

「Magical Comical Charleston」

野邊拓実(TuneCore Japan):僕はインストっておもしろいなと思っていまして、歌詞がある曲よりも抽象度が高い分、受け手側がどういう情景を浮かべるか、その選択肢が広いんですよね。例えば「Magical Comical Charleston」を聴いて、基本は明るいイメージを思い浮かべると思うんですけど、場合によっては「鬱になりすぎて1周してバカになっちゃってるみたいな暗さ」を思い浮かべる人もいるかもしれないし、そういう解釈の余地がすごく残されているのがインストの面白さだなって感じますね。

──感じる情景というのは、音楽そのものが持っているストーリー/情景と、聴き手の音楽経験値によるものと、どちらの影響が大きいんでしょうね。

野邊拓実(TuneCore Japan):どっちもあるんでしょうね。音楽自体にも制作したミュージシャンからのメッセージ性が込められていることもありますし、全く込めていない可能性もありますからね。そういったメッセージって、そもそも受け手に共有できないところがいいんだと思います。だから結局は、受け手がどう取るかは受け手次第。人によって違うどころか、なんなら聴くタイミングによっても感じ方が変わったりしますから。

──現役ミュージシャンでもある野邊さんにとって、インストの最大の魅力ってどこにあると思いますか?

野邊拓実(TuneCore Japan):いや、僕はボーカリストなんで、ぶっちゃけわかんねえみたいなところがあるんですけど(笑)、でもメンバーと喋ってると、やっぱりギタリストはギターのことが大好きなんですよね。若い子のバンドとかだと、ギタリストがミックスするとギターがすげえでかかったりとかして、歌を殺しちゃってる…みたいなこともありますよね(笑)。逆に、ボーカル以外の人だったら、いい意味でも悪い意味でもボーカルにフォーカスしすぎないというか、ボーカルをいろんな数ある楽器の中の1個だと捉えられるとも思うんです。「今回は別に必要ないから、ボーカルは使わない」みたいな作品作りだとインストになる、っていうだけの話なのかなとも思います。

──インストって、楽器・音色の選択やアンサンブルによって、色彩が大きく変わりますよね。要するにボーカルに代わる楽器のセレクトによって曲調が左右されるでしょう?同じメロでもサックスとオーボエでは全く景色が変わってしまう。自ずと指揮者のような思考じゃないとこういったインストって作れないんじゃないかと思っちゃう。

野邊拓実(TuneCore Japan):そうですね、難しいですけどね。インストの中にはエレクトロニカとかもあって、何にも知らずにとりあえず「いい音だから」って自由度高くやる方もいると思うんですけど、このちょこミカさんの曲に関していえば、いわゆる管弦楽法みたいな「ストリングスってこういう形になってるからこう使う」とか「木管楽器ってこういうことは実際できない」みたいな話を知って作っている気はしますよね。知識量はすごくある方だと思いますし。これ…AIとかじゃないっすよね?

ちょこミカ

堀巧馬(TuneCore Japan):ちょこミカさんの「ちょこミカ☆ラボ」っていうサイトを見つけました。ブログでDTMを始めたことやMIDI検定1級に合格したことなどが書かれていて、普通に作曲をされてますね。

──MIDI検定なんて知りませんでした。

堀巧馬(TuneCore Japan):すごい俺の勝手なイメージなんですけど、すごく歌が上手い人がインストをやることってないと思ってるんですよ。ちょこミカさんがそうだという話じゃないんですけど。

──ひどい偏見ですね(笑)。でもわかる(笑)。

堀巧馬(TuneCore Japan):トラックメイクやってて、でも歌えないから、結果インストになったっていうパターンって多いと思っているんですよ。勝手ながら。

野邊拓実(TuneCore Japan):たしかにそういうのはよくありますね。

堀巧馬(TuneCore Japan):自分で歌わないから、ボカロPになってボーカロイドに歌わせる。

──逆に言うと、自分が歌う必要もなく、歌を歌えなくたって音楽で主張ができる手法でもあるわけですね。

野邊拓実(TuneCore Japan):そうです。インストっていうのは、そういうあり方でもあります。

堀巧馬(TuneCore Japan):全員がそうだとはいいませんけど、音楽作りがすごく楽しくて、でもシンガーの知り合いがいるわけでもないし、楽曲提供先があるわけでもない。ボーカルがやりたいわけでもない。結果、インストの曲を作りまくっていて、「せっかくだから配信しよう」と気付けばインストルメンタルのプロデューサーみたいな立ち位置になった…そんなイメージです。めっちゃ勝手なこと言いましたが(笑)。

野邊拓実(TuneCore Japan):確かに、自分が歌えたら歌いたくなっちゃうよね。僕はボーカルなんで、基本自分が歌わないと嫌だみたいなところはやっぱあるんです。「でも、これは僕が歌わないで女性が歌った方が絶対いいよな」みたいなこともあるんです。けど、やっぱり歌えるから自分で歌っちゃったりする(笑)。だから徹底してインストをやるってことは多分ないんですよね。なんて言うのかな、「多彩さを見せつけたい」みたいなモチベーションでインストを作ることはあるんですけど(笑)。

堀巧馬(TuneCore Japan):最終的に、楽曲提供とかコンポーザー的な立ち位置でキャリアを積んでいきたいと思えば、逆にそれをやり続ける、そういうことはありそうですね。

──インストひとつにも、クリエーターの色んな思いが交差している気がしました。ありがとうございました。


協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.

ちょこミカ

YouTubeのBGMになる人をひきつける勢いのある曲のほか、生活シーンに添った曲、あるいは癒しになるような様々なジャンルの曲を発表して行きます。
https://www.tunecore.co.jp/artists?id=776180

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