Dr.Dreは額の汗を拭いながら言った。5月の月曜の夜、午後5時37分、ハリウッドのパラマウントスタジオでのことだ。映画『The Wash』で彼とSnoop Doggがデート相手とパーティを繰り広げているシーンの撮影を終えたばかりだったのである。DJ Pooh監督によるコメディで、二人のヒップホップスターは同じ洗車場で働き始めたことから出世していくルームメイト同士を演じているが、DreのキャラクターはSnoopのボスという役どころとなっている。
すでに6本以上の映画に出ているSnoopとは違い、映画の世界は初めてのDreはカメラの前に立つことに不慣れなようだ。Snoopと女優たちが撮影の合間にジョークを飛ばしているのに対して、Dreは自分のセリフをリハーサルしている。彼は“オーケー、冷蔵庫に行けば、氷があるはずだって?”と訊ねながら冷蔵庫のドアを開け、ヘネシーのボトルを床に叩き付けた。
だが、制作アシスタントがチキンのボックスをキッチン・テーブルに用意するとSnoopは、Dr.Dreの秘蔵っ子R&B歌手Truth Hurtsが演じる恋人をからかい始めたのだ。
「なあ、今夜は絶対キメてやるよ。ポパイとチップス、それにタバコも買ってやっただろう!」 Snoopは誰もが大笑いするようなHarlem Shakeのコメディ版を演じながら言った。
「俺たちはこの映画をできるだけ可笑しいものにしたいから、いろんな仕掛けやギャグを盛り込んでるんだ」
トレイラーのベッドルームに落ち着いた後でSnoopはこう語る。Bad Azz、EastsidazのTray Deee、それにD.P.GのメンバーDazとKuruptといった彼の取り巻きを含む10人ほどが、Tray DeeeとBad Azzの白熱した議論で揺れる煙が充満したリヴィングルームに詰め込まれていた。
「まったくくだらないことをやっているぜ」。Snoopはセットのパブリシストに言う。「そのうち銃声が聞こえるかもな」
だが、Dreのスペースは極めて静かだ。彼は演技コーチと話をしながら、Marvin Gayeの『What’s Going On』デラックス版2枚組CDを聴いてくつろいでいる。
「俺とSnoopとPoohの3人は、まるで昔からの知り合いみたいに気心が知れているから、この映画は楽しいものになりそうだよ」とDreは初めてのコメディ出演について語った。
Dreは彼の演じたキャラクターが何度も銃口で脅されたり、バスに乗るはめになったりする“腰抜け野郎”だと不満を漏らしているものの、撮影を楽しんでいるようだ。苦手なのはダンスだけだという。午後7時14分になり、ハウス・パーティのシーンも最後のテイクとなった。芝居は終わったが、Funkadelicの「Knee Deep」はいまだに大音量で響き、カメラは回り続け、Snoopと女優陣はパーティを止めようとしない。しかし、激昂したDreが打ちきった。
「Poohのくそったれ!」 彼が叫ぶと大爆笑が巻き起こった。「カット! お疲れさま。踊り続けてほしかったんだけどな」とPoohはいたずらっぽく言う。Dreは再び額の汗を拭って、ドリンクを啜り、セットから出て行く。