【インタビュー】中島卓偉、全16曲収録アルバム『GLITTER』と革新的リリース形態に理想像「たったひとりの人生を狂わせられたほうが光栄」

2026.07.29 18:00

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■ヒーローにはなりたくない
■14歳の自分自身に嘘をつきたくないんです

──ここからはアルバム『GLITTER』の内容について詳しく伺っていきます。まず16曲入りというボリューム感に圧倒されました。

卓偉:長くてすみません、本当に(笑)。

──いえいえ、聴き応えが凄まじかったです。表題曲にして1曲目を飾る「I’M A GLITTER」は冒頭20秒以上たっぷりとコーラスワークが響き渡り、高音質で聴くにふさわしいオープニングだと感じました。それは意図的なものですか?

卓偉:1曲目としてインパクトの強さを考えた時に、もともと僕はビートルズも好きなので、多重録音のコーラスワークでドキドキさせるような、“来るぞ!来るぞ!”みたいな始まり感をイントロダクションとして付けたかったというのはありますね。実を言うと、もともとこの曲は「ロックを歌いたい」という女性シンガーへの提供曲として書いていたものなんですけど、そのプロジェクトが停滞して。そんなときに、“こんなビッグビートのシャッフルの曲、自分でも歌いたいな”と思って、曲を僕に戻してもらったんです。そうしたら“どうやらこれ、アルバムの1曲目にいいんじゃないか?”となりまして。そこから歌詞を書いて、“アルバムのタイトルもGLITTERにしよう”という流れで決まっていきました。

──こういうギラギラとしたロックンロールが、卓偉さんの今の心境にも合っていたんでしょうか、多重録音によるコーラス、ブギーのリズム、バンドサウンドを基調としてブラスや鍵盤をふんだんに使用したサウンド。聴き応えのあるベースソロやギターソロなど、アレンジにはゴージャスなグラムロック感もあります。

卓偉:ちょっと悪い感じのロックンロールで、でもサビがメロディアスで、ホーンセクションがバーッと入ってくる’70年代っぽさ。ロックがデジタルの打ち込み時代になっていく前の、ロックの良かったところを全部入れた感じの曲です。弦も入っていればピアノもオルガンも入っているし、ロックの人たちが絶対に使うような楽器を使って、ギターもベースも歪んでいる。 アルバムの1曲目で“もうこれ、ロック以外に言いようがないね”というようなスタートにした感じです。

──ハロー!プロジェクトへの提供曲のセルフカバーを含め、バリエーション豊かで、ソングライターとしての卓偉さんの幅広い作風、キャリアを網羅した集大成のような作品でもあるのかなと感じました。選曲基準やアルバムトータルでのコンセプトは最初にあったのですか?

卓偉:今も新たなアルバム制作に着手しているので、集大成というよりは通過点ではあると思うんですけれども。曲は出揃っていたので、歌詞の話になりますが、『GLITTER』というアルバムタイトルで行きたいからそういう曲を作ろう、みたいなところもあったかもしれないですね。ハロー!プロジェクトのアーティストに提供させてもらった曲のセルフカバーが6曲入っているのは、もちろん自分も好きな曲だし、いい曲なので“もっと幅広い人に聴いてもらえたら”という気持ちもありましたし。

──なるほど。

卓偉:トータル的に「カラッとした夏のアルバムだね」と言えるようなものにはしたかった。マイナー調の曲も入っているんですが、バタフライのジャケットだったり、青だったりラメだったり、タイトルも文字通りキラキラしたものですから、そういうイメージがある程度は見えていて。それで、バリエーションがあったほうがよりカラフルでいいのかな?と。

──カラフルと言えば、『JAGUAR』のメインヴィジュアルではフェンダー製ジャガーを抱えていらっしゃったように、今回は色鮮やかなピンクペイズリーが目に飛び込んできます。

卓偉:アルバムのメインイメージとなるギターを1本担ごう、とは毎回思っていて。ピンクペイズリーは“いつかほしいな”と思っていた憧れのギターだったので、撮影の少し前に購入して今もライヴで使っています。

──1曲目の「I’M A GLITTER」で華々しくアルバムが幕を開けた後、2曲目「行動弱者」以降の3曲目「自分ファースト」(宮本佳林提供曲セルフカバー)や4曲目「(ぶっ)壊したい」(アンジュルム提供曲セルフカバー)も含め、現状を自力で打破していくんだ、というメッセージ性の強い曲が続きます。

卓偉:僕はそんな曲ばっかりです(笑)。昔からラヴソングは少ないですね。ラヴソングに共感することも少なくて、自分自身の殻を破るような前向きな歌詞に心を打たれた少年時代だったなと。 結局自分が書くとなると、その気持ちを継承しているのかなというところはありますね。

──ビートルズにもラヴソングは多いですし、世の中にはラヴソングが溢れていますよね。その中において自分は異端だ、という意識もあるんでしょうか?

卓偉:いやいや、そんなふうには思わないですけど。たとえば、自分の歌詞で言うと、7曲目に「クリーニング工場」という曲がありまして。

──スローでメロディアスな曲ですね。歌詞の視点がユニークで印象的でした。

卓偉:クリーニング工場の前を通り過ぎることによって主人公は、“自分の中の汚れてしまった気持ちを洗い流してくれたらいいのに”と願いながらも、“ここまで来た以上もう真っ白に戻ることはできないと分かっている”という逆説的な言い方をしていて。おこがましいですけど、こういうことを書いている人のファンになりたいんですよ、自分は。世の中に転がっているラブソングではなくて。しかも、クリーニング工場の前を通って、俺の汚れた心が“よし、全部洗い流されて今日、真っ白になったぜ”じゃないんです。僕は、その葛藤とか迷いとか、答えにならないことを歌うシンガーでいたいんですよね。 「全部解決してあげるよ」と言ったら、それは単なるヒーローですから。

──ヒーローになりたいわけではないんですね?

卓偉:なりたくないですね。昔から正義の味方は大っ嫌いでした。語弊があるかもしれないですけど、正義のヒーローは賢くないんですよね。でもヒールって知的で実はすごく優しい、僕からすると。 話がちょっと飛びますが、最初に好きになったアニメキャラクターは『ルパン三世』だったんですよ。泥棒という設定ですけど、最終的に盗んだものをただ持っていくのは峰不二子だけで、ルパンと次元大介と石川五ェ門は悪をくじいて何にも盗らず、「あばよ」と帰ってくだけなんです。ファッションとか乗っている車も含めてトータリティが、すごいカッコいいなと。チャラチャラしているように見えて実は、真面目に生きている人を助けて見返りを求めず、何も得ない。“これこそ最高のボランティアじゃないか”と5歳ぐらいで気付いたんです。そのときに自分の中で、これがカッコいい!という考え方が磨かれてしまったんでしょうね。

──そのような原体験に根付いた“カッコ良さ”は、卓偉さんのロックスターとしての考え方の基になっていたり、イコールで結ばれていたりもするんですか?

卓偉:たとえばですが、チャリティーをセールスポイントにするアーティストは世界中にいますが、デヴィッド・ボウイやマイケル・ジャクソンが亡くなった後に「実は匿名でいろいろな支援をしていた」という話を聞くと、“こっちのほうがヒーローじゃん”と僕は思うんですよね。“こんな人がそんなことしていたんだ”というギャップがあればあるほど、僕はカッコいいと感じる。自分が憧れたロックスターを考えた時に、ヒーローっぽいロックスターもいれば、ヒール役のロックスターもいて、いい意味で汚れてもいるし、ささくれてもいつつ、痛みがすごく優しく聴こえることってありますよね。“世の中が全て正しいよ”というような歌詞よりも、僕はそのほうが好き。何と言ったらいいか……言葉にするのがちょっと難しいですけれども。

──卓偉さんが大事にされているスタンスは伝わってきます。

卓偉:カート・コバーンとかジョニー・サンダースとか、悲劇のロックスターと言われる人たちが書いてきた歌詞を見ると、やっぱりすごいなと思うんですよ。優しくないと、痛みを知った人じゃないと書けない歌詞だなと思うし、だからこそあのような短い人生だったのかもしれないですけど。若い時には“それに憧れちゃいかん”という気持ちも自分の中であったんでしょう。ただやっぱり、“世の中が正しくて”みたいなことを全員に笑顔を振りまいて歌って共感を得ようという感覚になったことは、僕はないんです。大勢に好かれるよりも、ひとりの人間を狂わせる人生のほうが本物ですから。たったひとりの人生を狂わせられたほうが光栄だし、やる意味があると思っています。

──“たったひとりの人生を狂わせられたほうが光栄”、すごく強い言葉ですね。

卓偉:もちろんポップな曲は書いているつもりなんですけど、人間はいろんな感覚を持って生きているわけじゃないですか。僕は自分がいいと思ってきたものに嘘をつきたくないし、何よりティーンエージャーだった時に涙が出るほど痛みを感じて、“最高だ!”と思った14歳の自分自身に嘘をつきたくないんです。“あの時の自分のような14歳に届けよ”と思って曲を書いているわけではないんですけど、届いてくれたらうれしいですね。