【インタビュー】TAIRIK、ソロメジャーデビューアルバム『Mother』発売「このアルバムが癒しにもなったら」

クラシックユニットTSUKEMENのリーダーで、ヴァイオリン奏者のTAIRIKが、7月29日(水)にアルバム『Mother』でソロメジャーデビューを果たした。
歌手・さだまさしの長男で、父の“ヴァイオリン奏者になりたい”という夢を受け継ぎ、TSUKEMENはもちろん、オーケストラとの共演やさまざまなユニットへの参加など、幅広く活動しているTAIRIK。
そんな彼の記念すべきソロデビューアルバム『Mother』は “マインドフルネス瞑想のような場所”と考えて作られたという。このアルバムをきっかけに、楽曲について、そしてTAIRIKのいまの心境を伺った。
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──TSUKEMENでの活動や、ソロでのオーケストラとの共演など多彩な活動を行ってきた中で、ソロでアルバムをリリースすることになったきっかけは何だったのでしょうか?
TAIRIK:2年前(2024年)に、オーケストラ・アンサンブル金沢さんとチャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲 二長調 Op.35」を弾かせていただいた時に、自分のオリジナル曲「 KIYARI」も演奏して、自身作品と向かい合って、自分の世界観を追求する時間ってすごくいいなと感じたんです。それによって自分が成長できたら、それをTSUKEMENにも持ち帰れるし。そう思って今年から、年に1回、自分でしっかりと企画したコンサートをやっていこうと進めていく中で、自分の“声”として聴いてもらえるアルバムを作りたいなと思ったのがきっかけです。
──ソロデビューアルバムには、書き下ろしの新曲「Mother」をはじめ、TSUKEMENのヒット曲を自身のソロとしてリアレンジした曲が収録されています。選曲はどのように進めていったのですか?
TAIRIK:どういうアルバムを作ろうかと考えた時に、まず自分のオリジナル曲を集めたものにしたいと思い、ではどういうコンセプトにしようかと考えたんです。クラシックは再現音楽ですが、オリジナル曲を作り世に出しているアーティストさんって、自分の今の思いや、世の中に対して感じることを表現するじゃないですか。そういった、今の時代にリンクしたものを発信していきたいと思ったんです。今年は東日本大震災から15年で、昨年に戦後80年が経ちましたが、今も世界情勢は不安定で、世の中的には必ずしもハッピーなムードではない。むしろ未来にも不安を覚えるような時代に、みんなを鼓舞したり、寄り添えるようなテーマで曲を選んでいきました。
そんな中でもう一歩進んで、今の世の中に一番邪念のない愛、無垢で無償な愛を提供したいと考えた時に、その存在は「Mother」だろうと感じたんです。子どもに対する愛は本当に普遍的。それを全世界の人々が持てば争いもなくなるのではと突き詰めて考え、「Mother」というタイトル曲を作って、そのコンセプトに沿った曲を入れたアルバムにしようと制作を進めていきました。
──だからなのか、新曲「Mother」を聴くと母子間の愛情も感じますが、もっと広い意味での人間愛を感じました。
TAIRIK:母親に対してのバラードと言うよりも、もっと引いたところからの視点は意識しましたね。
──そのうえで今回のソロデビューに対して、このアルバムは「マインドフルネス瞑想のような場所」にしたいというTAIRIKさんのコメントがあって。まさに今の時代、マインドフルネスという考え方は、より大切になってきているように思います。
TAIRIK:そうなんですよ。平安時代に人が一生で得た情報量が、今では一日で入ってくるという話を聞いたんです。それぐらい忙しい毎日だし、情報って詰め込めば詰め込むほど入ってくるので、多くの人が疲弊もしているはず。昔にはなかった疲れ方をしているので、このアルバムがそういうところの癒しにもなったらいいなと思って。なので選曲も、みんなに寄り添ったり、元気が出るように鼓舞できる曲を選んで。寄り添う、鼓舞するという二軸を、無垢な愛である「Mother」が統括するようなイメージで作っていきました。

──では、オリジナル曲の制作について話を聞かせてください。作曲は、どのように進めていくのでしょうか?
TAIRIK:移動中に「このメロディいいな」と浮かぶ時もあれば、ピアノを弾きながら作る時もあっていろいろです。「Mother」に関してはヴァイオリンを弾きながら作りました。ただ、ピアノを弾いて作った部分もありますし、移動中にフレーズを考えたりもしたので、すべての手法を使って作っていった感じでした。それでも、自分は楽器を使って曲を作ることが多いかもしれませんね。楽器を弾いていると、“手癖”と言ったりしますが、手が勝手に動いてそれが面白い音列になって「今のフレーズ、いいかも」と曲が生まれてくることもあるので、それは面白いですね。ただ「これいいな」と思っても、後から聴き直すと全然そうじゃなかったりすることもあるので、一度録音して次の日に確認したりして、夜中のテンションで書いたラブレターのようにならないようにしています(笑)。
──よくわかります(笑)。一度、何かしら客観視をして見直す作業を行うわけですね。
TAIRIK:そうなんです。1日でバーッと1曲出来てしまうこともあるんですけど、「Mother」は結構、何日も苦労して作りました。最初は別のメロディにしていたものを、途中で全部作り変えたりして。「これでいいのかな?」となって、また消して。結構、そうしたことを繰り返して完成させました。オリジナル曲って自由に作れる分、「どうしたらいいんだろうな?」みたいに悩むこともあって。今って、複雑な曲も多いじゃないですか。Aメロ、Bメロ、サビみたいなシンプルな形ではなく、DメロやEメロがあったり、歌モノでもかなり難しいメロディの曲がたくさんある中で、そういう部分も含めて(曲が)形になるまでがすごく難しかったですし、大事なメロディが最後の最後までなかなか出てこずに、とても苦労しました。
──おっしゃる通り、展開が非常に複雑だったり、転調が何度も繰り返されるような曲が多い中で、「Mother」は実に考え抜かれた、シンプルながら耳に残るメロディという、音楽の王道をまっすぐに行く楽曲だという印象を受けました。
TAIRIK:そう感じてもらえたら、とても嬉しいです。
──ちなみに、「Mother」の曲作りや他の曲のレコーディングにおいて、TSUKEMENとソロとの意識の違いはありましたか?
TAIRIK:その意識はなかったかもしれませんが、ピアノとヴァイオリンという構成が、いろんな表現ができる最小公倍数だと思っていて。もちろん、いろんな音を入れて表現するのも面白いんですけど、コード(和音)もありながら、メロディを弾けるという最もシンプルな枠の中で、いろんなイメージを膨らませて音楽を表現してみようという感覚で取り組みました。
──もうひとつ、ぜひお伺いしたいのですが、クラシックを基軸とした、いわゆる歌のないインストゥルメンタル曲ということで、「言葉がないからこそできる表現」という部分はどのように考えていらっしゃいますか?
TAIRIK:言葉ってものすごく強いと思います。やっぱり言葉の持つ力には敵わない。だからこそ、器楽らしさだったり、歌では表現できないような進行だったりを作れたらいいなと思っています。あとは世界観。曲の背景をピアノで表現したり、それがメロディと合った時に広がる心地良さを表現したいと考えていて。ですから、絵を描く感覚に近いように思います。言葉ではなく、絵を見て伝わるものを作ろうとしている感じですね。
──言い換えると、聴き手のマインドによっても、曲の聴こえ方が変わる余白があるのが、インストゥルメンタル楽曲の面白さなのかもしれませんね。
TAIRIK:そうかもしれません。例えば1曲目の「風の記憶」は、長調ですけど短調っぽい響きがあったりするので、嬉しくも聴こえれば、悲しくも聴こえるみたいな微妙なラインがあって。ですから、自分のマインドが落ちている時は寄り添ってくれるように聴こえるかもしれませんし、元気な時はまたちょっと違って聴こえるということはあるかもしれないですね。そもそもコンサートも、演奏者がどれだけいい演奏ができるかすごく大きなポイントですけど、実は聴きに行く側のマインドも大きいと思っていて。絶望的なテンションの時にコンサートに行っても楽しめないかもしれない。「今こんなことをしている場合じゃない」という時は、どこかに遊びに行っても楽しくない。それと同じで、受け手のバイオリズムやマインドによって、同じ演奏でも受け止め方は変わるような気がするんです。
──なるほど。演奏する側としても、その日、その日の自身の感情をどう演奏で表現するかという点に重きをおいているのでしょうか?
TAIRIK:そうです。もちろん、その日のベストな演奏ができるように頑張るんですけど、頑張った以上のことはできないわけで。それでも、頑張った時にいい感じの追い風のようなものが微笑んでくれる時があるんですよ。逆に、とんでもないアゲインストの状況もあるとは思いますが、その時々の風に乗ったり、あがいたりしながらやっている感じですね。

──ちなみに、アゲインストの強風には抗うタイプですか? それとも、アゲインストと言えどもその風にも乗りながら出口を見つけようとするタイプですか?
TAIRIK:そこについては……「ジーニアス(天才)」って言葉があるじゃないですか。今は個々の人に対して「この人は天才だ」とかって使いますが、古代ギリシャでは「ジーニアス」って妖精のような存在を意味していたらしいんです。妖精が自分の周りにいることで、ものすごい力を発揮できるといったように考えられていたという話を聞いたことがあって。だから自分も、本番はただひたすら楽器を弾くことに集中して、その妖精が微笑んでくれる時もあれば、微笑んでくれない時もあるというような考え方をしているんです。なので、自分がやることは常に変わらない。もちろん、それまでに積み重ねてきた努力や人間力、音楽に向き合う姿勢があるほどに微笑んでくれる回数は多くなるでしょうけど、でもそういうものであって、微笑んでくれたら嬉しいし、微笑んでくれなくても自分が今、やるべきことをやるしかないと考えています。
──よくわかりました。セルフカバー曲については、曲を書いた当時と今回とで、何か違った感触を覚えたり、新しい発見のようなものはありましたか?
TAIRIK:どれもTSUKEMENで演奏する機会も多い曲なので、まず今回のソロではTSUKEMENとはまた違う感じで、普段とは違ったエッセンスを入れようとは意識しました。それでも、ものすごく久しぶりに弾く曲というわけではありませんでしたから、時差的な面で何かが変化したような感覚はなかったですね。むしろ曲の中で(作った時から)時間がちゃんと進んでいて、今の自分とリンクするような感覚にはなりました。「この時に作った曲はこういうものだ」ではなく、ちゃんと曲の中にある時計が動いていて、その世界と今とがリンクして弾いているような気持ちになりました。
──つまりこれまで、その時々に作った曲たちが、ちゃんとご自身と共に成長していっているということなんですね。
TAIRIK:そうですね。「この曲はこの曲で、自分の世界を生きてるんだな」みたいな感じで、弾いてみると久しぶりに曲と会話をしているような感覚でした。クラシックの名曲でも、昔に弾いた時の自分と今の自分が変化していることで自然と弾き方も変わって、音の持つエネルギー、雰囲気が変わったりもしますし。自分は、オリジナル曲を一度リリースすると、後で聴き返した時に演奏の粗ばかりが気になってしまって、あまり聴けなかったりするんです。でもそこと向き合い、せめて自分が何回でも繰り返し聴ける作品にしたいという気持ちでレコーディングしました。
──ちなみに、TAIRIKさんがオリジナル曲を作るようになったのはいつ頃からですか?
TAIRIK:TSUKEMENを始めた時なので、18年前です。それまでは学生だったこともあって、作曲家というものが偉大すぎて、自分なんかがやっていいものではないと考えていたんです。そこがオリジナル曲を作り始めて一番変わった点ですね。等身大でいこう、みたいな。学生の頃は、作曲専攻と楽器の演奏専攻がはっきり別れていて。作曲技法みたいなことは作曲を専攻していないと習えないし、それに歴代の卒業生には歴史に名を連ねる偉人のような作曲家の方々がたくさんいらっしゃることもあって「自分が作曲なんておこがましい」という感覚だったんです。なので、はなから作曲するとか考えが及ばなくて。自分とはまったく別カテゴリーの、例えば野球をやってる自分がサッカーもやるくらいの違いがありました。ただ昔から、「0」から「1」を作ることは好きだったんです。例えば、小学校の頃とかって、学校にゲームとか何か私物を持っていくと怒られるじゃないですか。「じゃあ自作して遊べばいいんじゃない?」って、カードゲームを作って友達と遊んだり、画鋲の針を抜いて、それをボンドで止めてカラーリングしたものを机の上から定規で落とし合うゲームを作ったりしていたんです(笑)。
──あはは。素晴らしい発想ですね(笑)。
TAIRIK:それも考えてみれば創作の一環みたいな感じで。作曲自体は、TSUKEMENが最初に所属した事務所の社長がメンバー3人に「1人1曲ずつ書いてこい」と言われたことがきっかけです。「これからは演奏家じゃなくて、音楽家にならなきゃダメだ」って言われたんです。ただ、自分の中では作曲ってものすごく敷居の高いもので「いきなり曲を作れと言われても」と思ったんです。「何を言ってるんですか!?」って(笑)。でも、やってみると意外と面白くて。その時はほとんど素人みたいな曲しか書けませんでしたが、それでもデビュー時にいろんな曲を演奏した中で、お客さんから「オリジナル曲が一番良かった」って言っていただけたんです。そういう声がメチャクチャ多くて。拙い作品でも、自分の想いがダイレクトに伝わるからいいのかとわかって、そこで自信を持つことができました。最初の一歩を踏み出すことって、なかなかハードルが高いと思うんですが、何でもやってみた方がいいなと思っていて。曲を書いてみて上手くいかなかったとしても、それも自分の糧にはなるかなと思っています。
──やってみないとわからない、というわけですね。
TAIRIK:そうなんですよ。僕の小学校2年生の時の恩師が、教室の壁に模造紙で「やってみなくちゃわからない」と貼っていて。それが結構大きくて、何事もチャレンジだなと思っています。

──なるほど。あとひとつ、アルバムのレコーディングは横浜市の青葉台フィリアホールで行われたそうですが、このホールの響きを気に入って、ここで録音したのですか?
TAIRIK:はい、これまでいろんな会場で演奏させていただきましたが、とても好きなホールなので、ぜひここで録りたいと思って。ホール録音の音質は、スタジオ録音での限界を突破する良さがあると思っていて。もちろん曲調にもよると思いますが、特に「Mother」のようなヴァイオリンとピアノの楽曲をメインとしたアルバムを作る際には、良い響きのホールで録りたいと考えていたので、青葉台フィリアホールで収録させていただきました。そうしたことも含めて、今やれることは全部やったつもりではいるんですけど、きっと半年後、一年後とかに聴き返したら「まだまだだな」と思うはずで。それを繰り返して、もっと成長していけたらと思っています。
──8月1日に長野市芸術館、8月3日には浜離宮朝日ホールでアルバム発売記念コンサート<TAIRIKヴァイオリン&ヴィオラ2刀流リサイタル>も予定されていますね。
TAIRIK:今回は、アルバムから何曲かと、セザール・フランクの「ヴァイオリンとピアノの為のソナタ」という名曲を演奏する予定です。東京と、自分が育った長野の2公演ですが、応援してくれる方も多い場所ですし、自分の曲でも長野に縁のあるものが多いので、この2カ所でやれることを楽しみにしています。
──それでは最後に、BARKS読者へメッセージをお願いします。
TAIRIK:楽器をやっている方でしたら、ヴァイオリニストの手癖で意図せずいい感じの音列になったフレーズも生かしているので、「それってここかな?」という聴き方、楽しみ方に気付いていただけたら嬉しいですし、あとは曲から曲への移り変わり部分で、曲調が活きる残響を密かに考えてつなげたりしているので、そういう細部にも耳を傾けてもらえると嬉しいです。先ほどもお話しましたが、歌詞がない音楽なので、聴いていただいた方に自分自身と対話する時間にもなったらいいなと思っていますし、コンサートでも、来ていただいた方に「自分にとっていい時間だったな」と思ってもらえるように頑張りますので、ぜひコンサートにもお越しいただければなと思っています。

取材・文◎布施雄一郎
写真◎荒熊流星
■ソロメジャーデビューアルバム『Mother』
2026年7月29日(水)発売

【品番】CD:KICC-1656
【定価】3,300円(税込)(税抜価格3,000円)
【収録曲】
①風の記憶 (作曲:TAIRIK 編曲:阿久津健太郎)
②JONGARA (作曲:TAIRIK 編曲:木村裕)
③KIYARI (作曲:TAIRIK 編曲:萩森英明)
④旋律の彼方へ (作曲:SUGURU&KENTA 編曲:阿久津健太郎)
⑤また逢える日まで (作曲・編曲:TAIRIK&SUGURU)
⑥ROCK VIOLA (作曲:TAIRIK 編曲:阿部篤志)
⑦天の階 (作曲:TAIRIK 編曲:阿久津健太郎)
⑧Mother (作曲:TAIRIK 編曲:阿久津健太郎)
【アーティスト】
ヴァイオリン&ヴィオラ:TAIRIK
ピアノ:佐藤卓史
【購入特典】
ジャケット絵柄ステッカー
https://www.kingrecords.co.jp/cs/t/t20132/
【配信】
https://king-records.lnk.to/aWRaTQ
■<TAIRIKヴァイオリン&ヴィオラ2刀流リサイタル>
2026年8月1日(土) 長野市芸術館 昼夜2公演
https://tiget.net/events/472290
2026年8月3日(月) 浜離宮朝日ホール 昼夜2公演
https://tiget.net/events/481214