【インタビュー】“この瞬間”を生きるために。ライアン・モロイ新作アルバム『The Best Year of Our Lives』

コロナ禍に感じた孤独、人生を通り過ぎていった人々との記憶、愛と喪失、そして“今”を生きること。90年代からシンガーとして、俳優として、そしてミュージカルの舞台でも活躍を続けてきたライアン・モロイがニューアルバム『The Best Year of Our Lives』で描いたのは、華やかな成功談ではなく、人間の感情の揺らぎそのものだった。
ロックダウン中に始めたInstagramで向き合った、歌を書く意味。そこから生まれた本作には、30年来の盟友アンディ・ライトとの創作の歴史、故郷ニューキャッスルへの想い、ロンドンで過ごした年月、さらには混沌とする世界への視線までが刻まれている。本作は“今を生きること”を主題としながらも、単純なポジティヴィティに回収されることはない、さまざまな感情が描かれている。
◆ ◆ ◆
──ニューアルバム『The Best Year of Our Lives』完成おめでとうございます。アルバムをリリースしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
Ryan Molloy:ありがとう。このアルバムに取りかかったのは、ちょうどコロナ禍のロックダウンの頃なんだ。当時は家から出ることすら難しく、もちろんスタジオへ行くことも簡単なことじゃなかった。世界中の人々と同じように、自分自身も閉塞感の中にいたと思う。その頃、僕はInstagramで自宅からライヴ配信を始めたんだ。タイトルは、姉がくれたチャールズ・ブコウスキーの詩集からインスピレーションを受けて、「Broken Fingered Guitar Club」にした。そこで僕はニール・ダイヤモンドの曲を歌って、自分自身を励ましていたんだ。実は彼のギターコードブックをずっと持っていたんだけど、コロナ以前はほとんど見ていなかった。でもロックダウン中、その本に載っている曲を全部歌ってみようと思ったんだ。
その中で出会ったのが「And The Singer Sings His Song」という曲。この曲に深く心を動かされ、今回のアルバムのボーナストラックとしてカバーを収録した。そして、その古い名曲が、このアルバムを書こうという気持ちにさせてくれたんだよ。なぜならその曲を通じて、かつてアンディ・ライトと一緒に音楽を作っていた頃の感覚が蘇ったからです。僕たちは30年以上にわたる音楽的パートナーであり、人生の友人でもあるんだ。このアルバムには、彼とのそんな長い年月をかけて育んできたクリエイティブな絆が詰まってる。

──このアルバムではどんな物語を描きましたか? あなた自身の人生が投影されているようにも感じました。
Ryan Molloy:僕は曲を書くとき、いつも自分の人生の物語を書いてるんだ。もちろん、すべてがドキュメンタリーのように現実そのままというわけではないけれど、あるときは露骨なほど正直な感情を書いたり、またある時は幻想的なイメージを描いたり。共通していることは、そのときの自分の心に刻まれた”真実”を書いていることに変わらない。
たとえば「Everything Breaks」は、ロンドンで過ごした30年間についての曲だけど、人生にはたくさんの人が自分の前に現れ、そして去っていく。その出会いや別れが、自分を少しずつ変えてきたことを曲にした。若い頃に抱いていた夢がどう変化したのか、何を失い、何を得たのか……そういう感情を率直に描いているんだ。この曲は決して悲しい歌ではない。人生をここまで生きてこられたという事実だけでも、僕はそれ自体が成功だと思うから。苦しみや後悔も含めて、生きた証だからね。
──それぞれの曲について教えてください。
Ryan Molloy:「The Best Year of Our Lives」は、“今”を生きることについて歌っている。未来の不安ばかりを追いかけたり、過去に縛られて生きるのではなく、この瞬間を大切にすることをコロナ禍を経て強く感じたからね。「Silver Linings」は、僕にとって究極のラブソング。愛というものは人によって形が違うよね。でも、どんな愛の形であっても、それはとても尊いものだと思っている。「One Kind Of You」は、僕の故郷ニューキャッスルを舞台にしているんだ。19歳の頃にそこを離れた時の感情を、少し幻想的に描いた。最近“Fantastical”という言葉が気に入っている(笑)。
「No Country For Ya」は“旅”がテーマ。目的地もわからず、誰に会うかもわからない。でも不思議と胸が高鳴る。人生そのものもそういう旅。最後まで冒険心を失いたくないよね。「Storm」は、もし自分が別の人生を送っていたらという想像の歌。主人公は望んでいないのにすべてを手にしている。“When all I had was a deuce and a dream…”という歌詞は特に気に入っているよ。
──プロデューサーのアンディ・ライトとはどのような関係を築いてきましたか?
Ryan Molloy:30年間もクリエイティブな関係を続けられるというのは、本当に特別なことだと思う。アンディと僕は、「Sugar High」や「Jetson Molloy」など、数多くの作品を一緒に作ってきた。最初に一緒にレコーディングしたのは90年代初頭、BMG時代の「Lead Me Home」だった。それ以来ずっとともに、革新的でエモーショナルな音楽を目指してきたんだ。彼は単なるプロデューサーではなく、人生を一緒に探検してきた仲間。今回、日本の皆さんに僕たちの新しいコラボレーションを届けられることをとても嬉しく思っています。

──世界中を飛び回りながら曲を書いていますが、どんな時にインスピレーションを受けますか?
Ryan Molloy:長く生きて、たくさんの経験を重ねてくると、人間の感情の豊かさをより深く感じられるようになるよね。異なる文化、異なる人々、異なる人生に触れるたびに、「人間って本当に複雑で美しい存在だな」と思う。そういう感情が、自然と歌になっているんじゃないかな。
──混沌とした現代社会について、どんなことを感じていますか?
Ryan Molloy:僕たちは今、自分たちが得たものをもっと社会に返していかなければならない時代に来ていると思うんだ。現代は恐怖や欲望によって支配されがち。その結果、人々は心が空っぽになり、常に何かに怯えているように感じてやまない。だからこそ、音楽や芸術、人とのつながりが以前よりもさらに大切になってくるのではないかなと思う。
──7月に開催される日本公演について教えてください。
Ryan Molloy:Frankie & The Dreamersのショーは、僕が長年出演していた「Jersey Boys」での経験と、Frankie Goes To Hollywoodでの活動、その両方を融合させたステージをやる予定。The Four Seasonsの名曲と80年代のポップカルチャーをミックスした、とてもユニークなショーに仕上がっているよ。90年代のポップシンガーとして、今もこうしてフロントマンを続けられるのは本当に楽しいね(笑)。
──日本はあなたにとってどんな国ですか?
Ryan Molloy:日本はいつも僕に刺激を与えてくれる国。初めて行ったのは観光で、さまざまな場所を見て回ったよ。二度目は「Jetson Molloy」のライヴで東京に行った。日本には驚きや発見がたくさんある。それでインスパイアを受けたことを「Big In Japan」という曲にしてみたんだ。今回のライヴでも少し演奏する予定なので、ぜひ楽しみにしていて。
──今作をヴァイナルでリリースすると聞いています。そここだわる理由は?
Ryan Molloy:音楽は、所有する喜びがあるべきだと思うんだ。もちろんデジタルも素晴らしいけど、ヴァイナルには特別な温度がある。ジャケットを眺めたり、レコードを棚に並べたり、そういう行為も含めて音楽体験だと思うんだよね。ファンの皆さんが、思い出と一緒に持ち続けてくれる作品になれば嬉しいと思っている。
──「RM MUSIC」を設立した理由を教えてください。
Ryan Molloy:「RM MUSIC」は、単に自分の作品をリリースするだけではなく、新しい音楽やアイデアを発信していく場所にしたいと思っているんだ。将来的には、自分が影響を受けたアーティストや、新しい才能を紹介する場にもしていきたいと思っている。

──ミュージカルの魅力とは?
Ryan Molloy:母がクラシックなハリウッド・ミュージカル映画が大好きで、僕はそういう作品を観ながら育った。ニューキャッスルの田舎から見るハリウッドは、とても遠い夢の世界だったけど、でも音楽がその夢と現実をつないでくれた気がする。そして後に、憧れだったバーブラ・ストライサンドと同じ舞台に立つことができた。それは夢が現実になった瞬間だったよ。
──豪華客船でショーをやられていますが、どんな内容ですか?
Ryan Molloy:豪華客船でのライヴは、とてもユニークな体験だよ。お客さんたちは特別な旅の途中でショーを観にきている。その思い出の一部になれるというのは素晴らしいことなんだよ。毎回違う観客、違う空気があり、一瞬たりとも気を抜けない。それがライヴの醍醐味ですね。
──若手シンガーの育成をやっていると聞きました。
Ryan Molloy:「Dreamers」という若いグループをコーチしている。彼らに伝えたいのは、「無理だ」と言われても気にする必要はないということ。……ただ、僕の言うことだけは聞いてほしいけどね(笑)。
──ロンドンでの生活はどうですか?
Ryan Molloy:ロンドンは、例えるなら“慰謝料をもっと欲しがる元妻”みたいな街(笑)。騒がしくて、エネルギーに満ちていて、ときどき疲れる。でも僕はコーヒーショップが大好きだから、そこにはよく通っている。

──最後に、日本のファンへメッセージをお願いします。
Ryan Molloy:日本盤アルバム第二弾『The Best Year of Our Lives』をぜひ聴いてみてほしいな。日本の皆さんが、それぞれの曲をどう感じてくれるのかとても楽しみにしているよ。そして7月のツアーで、一緒に素晴らしい時間を過ごしましょう!
文◎吉岡加奈
スタイリング◎ミシェル・モロイ
真◎サーシャ・レッカ
『The Best Year of Our Lives』(邦題 『不透明な時代のラブストーリー』)
レーベル:RM Music
販売:ウルトラ・ヴァイヴス
*英文歌詞・和訳カード、ライナーノーツ付き
*リリース情報解禁日は4月末日から5月初めゴールデンウィークの頃
発売日:6月10日(予定)
価格:3,000円/税込3,300円)

<Ryan Molloy’s こんな時代こそ(Times like these)ツアー ~新アルバムリリースパーティー>

7月23日 京都 /磔磔
7月25日 飛騨高山/ONDO
7月27日 名古屋/TOKUZO
7月29日 東京/duo Music Exchange
コンセプト:
現代人の心の悩みに加えて、僕らは現在、戦争や不穏な社会情勢から、愛する人や小さな幸せが脅かされる毎日を送っています。人間は本当に進化してきたのだろうか? 僕たちにはあとどれぐらい時間が残されているのだろうか?そんな僕自身の問いをラブストーリーに込めて綴ったのが新アルバム「The Best Year Of Our Lives」です。*アルバムタイトルは what if this could be the best year of our lives 今が人生で一番良い(そして最後の)年だとしたらどうする?という意味になります。
このツアーでは新アルバムを皆さんとシェアーするほか、僕がミュージカルやバンドの中で長く歌ってきたハートウォーミングなオールディーズの音楽の中で、ひとときの安らぎを味わっていただけたら幸いです。







