【インタビュー】hitomi、「その人の胸に響くように歌いたい」

2026.08.07 18:30

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2024年にデビュー30周年を迎えたhitomi。さまざまなアニバーサリー企画を経て、2026年にはすでにタイアップ曲2作品をリリースするなど、いままた注目を集めている。

今回BARKSではインタビューを実施。アーティストとしても、ひとりの人間としても成熟した現在の心境を語ってもらった。

   ◆   ◆   ◆

──hitomiさんは今年デビュー32年目。30周年を機に活動期に入った印象がありますが、世の中から求められている感覚を、今どんなふうに受け止めていますか?

hitomi:先日『テレ東音楽祭』に出させていただいたとき、「久しぶりに見た」とか「えっ、50歳なんだ?!」というコメントがけっこうあったみたいで、あ、そういう感覚の方も多いんだなとフラットに知ることができました(笑)。ま、自分自身としてやるべきことは、それこそ今度60歳になったときに、「えっ、もう60歳なの?」と思ってもらえるように日々を積み重ねていくことだなと。そこは変わらないんですけど。

──若い方からの反応はいかがですか?

hitomi:映画『純愛上等!』で、M!LKの山中柔太郎くんと超特急の髙松アロハくんが、映画限定のユニット「鶴and 亀」として「LOVE 2000」をカバーしてくれこともあって、公開当時は軽いバズリみたいなことが起きてましたね。男子ふたりが歌うというその楽曲の変身ぶりがすごく新鮮でしたし、それきっかけで私のオリジナルにたどり着いてくれた方も多かったです。娘からも「ママの曲流れてたよ」と言われましたし、息子たちは息子たちで「ねぇママってM!LKの人たちに会ったことあるんでしょ?」と。だから、イベントでご一緒したときの写真を見せて自慢しました(笑)。

──次世代に伝わっていることを日常生活で実感できるなんて、素敵なことですね。

hitomi:自分の曲が別の形になると、客観的に眺めることができて、「へぇ、いいじゃん、いいじゃん」と楽しめたりもしますね。

──これまでの実績の再評価もさることながら、近々では2ヶ月連続で新曲をリリースするなど、「今」の活動も活発化しています。まず、ドラマ『鬼女の棲む家』の主題歌となった5月配信の「Tokey-Dokey」について聞かせてください。作曲のNikoんとは、今年初めにツーマンでツアーを回っていましたね。

hitomi:Nikoんはレーベルメイトなんです。ただ、面識はなくて、共通のディレクターから音を聴かされても最初は正直ピンとこなかった。ツーマンで対バンツアーをという話が持ち上がったときも、「ちょっとマニアックすぎない? 来るお客さん全然違うと思うけど大丈夫?」という受け止め方でした。でもあるとき、「やってみなきゃわからないな」と気持ちが切り替わったんです。スケジュールが合わなくてお互いずっと会えないままだったのは怖かったので、ツーマンの前にスタッフに頼み込んで一度飲む場を設けてもらいました。年齢も違うし、彼らは彼らで緊張してたと思うんですけど、すぐに打ち解けることができて、「どうせならチケット売りたいよね」と、一緒にインスタライブをやるところまで一気に進みました。なんか不思議な出会いでした。

──新たな世界が広がったという感じですか?

hitomi:今までなかなか自分と違うカルチャーの人たちと出会うきっかけがなかったので、触発されたところはすごくあります。彼らって配信リリースをしないんですよ。要はライブに行った場所でCDを売るスタイル。なんというか、すごくピュアで、自分を繕わない、今どきを生きない人たちなんです。そういう生き方があることを目の当たりにして、感じることは多かったです。

──「Tokey-Dokey」は、お互いを知るなかで生まれたんですね。

hitomi:実はすでにそのタイトルで彼らは彼らのバージョンを作っていたんですけど、「同じタイトルでhitomiはhitomiの歌詞で歌ってほしい」とディレクターからの提案されて、面白そうだなと思って取り掛かったんです。まず、「Tokey-Dokey」=「ときどき」と捉えて、「ときどき自分は何を思うだろうか?」と考えてみるところから始めました。ふと思ったのが、「人と心が通い合えてるのかどうかもよくわからないこの時代に、私は人をちゃんと愛してから死にたいと思ってる」ということ。そこから歌詞を膨らませていきました。Nikoんの曲がものすごいエネルギーをまとっていたし、ツーマンライブが私の気持ちを強くさせてくれた部分もあったので、彼らのサウンドに引っ張られて書けた歌詞だと思ってます。

──いいコラボとなりましたね。

hitomi:若い頃は、誰かとコラボすることに対して考えすぎちゃうところがあって、余裕もなく踏み込むこともできず後悔したこともあったけど、今回はそこを突破できて自信にもつながりました。もっといろんな人たちと関わってみるべきだなと思うようにもなりましたね。

──ドラマ『鬼女の棲む家』のアグレッシブさとシンクロする部分もあります。

hitomi:リンクするところが多く、自分でもびっくりしました。もちろん、ドラマは毎週観てましたよ。

──SNSに潜む怖さをあらためて思い知るドラマでした。

hitomi:たとえばインスタに、普段あまり見せてない顔を載せるときとかは、「何か言われちゃうかな?」と一瞬躊躇するし、ドキドキするんですね。でも、考えすぎると何もできなくなるので、最後は「まぁいいや。えい!」と投稿。それがたまたまニュースとして取り上げられても、そこへのコメントは一切見ないです。自分のインスタのファンの方からのコメントはもちろんちゃんと見ますけど、見ず知らずの人がそれぞれの物差しでいろんなこと言ってるのを見ても、「私の人生の何を知ってるの?」と思うだけなので。

──そういう凛とした姿勢が一番なのかもしれません。

hitomi:いい意味での開き直りは必要だと思います。たとえば、母親という立ち位置でもそうですね。「お母さんなんだから、こうでなきゃいけないでしょ」と誰かが言っても、「知らん! 私は私という母親だ」と、貫いてます。息子たちはよく冗談で、「ケチ」とか言いますよ。そんなときは、「ああケチだよ。なんなら友だちに、ウチのお母さんケチでさって言ってもいいよ」と返すだけなんですけどね(笑)。それくらい堂々と「私という母親でいよう」と思ってないとしんどいです。

──周りと比べないこと、ですかね?

hitomi:「あれがきれいなお母さん像だよね」とか、「どういう教育してるんだろう?」とか、「ウチはなんでこうじゃないんだろう?」とか、とにかく揺るがされやすい時代だと思うんです。だからこそ、「いやいや、知らん」が大事なのかなと(笑)。

──6月配信の「Choice!」は、フジテレビ『Mr.サンデー』のエンディングテーマ。こちらの作曲はFZ(sfpr/Radical hardcore Clique)さんですね。

hitomi:FZさんにはこれまでもいろいろ書いていただいてるんですよ。NHKアニメ『はなかっぱ』のOP曲「Special☆」もそうです。「Choice!」はhitomiの王道サウンドという感じなので、歌詞を書くときも歌うときも、スッとフィットしていける感覚がありました。

──「選ぶ」ということをテーマにしたのは?

hitomi:報道番組はよく見るので、普段からいろいろと思うところはいあります。特に何かが過熱報道されているときには、SNSに近い危うさを感じますね。鵜呑みにするのではなく、受け手がちゃんと取捨選択していかないと、本当のことが見えなくなるなと。軽い話でいくと、たとえば「ここのスイーツがめちゃくちゃ人気」と頻繁に取り上げられたりしてると、私は「本当にそうか?」とまず疑ってかかります(笑)。少し時間を置いてから実際食べてみて、「本当に美味しい」と思うこともあれば、「言われるほどじゃないな」と思うこともある。たくさん流れてくる情報の価値や真偽を、自分の目で選ぶことが大事だと思うんです。

──嘘くさい情報はいっぱいありますもんね。

hitomi:子供たちを見てると本当に未来が心配になりますね。選ぶべき情報と選ばなくていい情報をちゃんとチョイスすることがいかに大事かって話は、家でもよくしますよ。

──具体的に伺えたりしますか?

hitomi:電話番号ひとつとっても表に出たら怖いじゃないですか。だから、「気軽に教えちゃダメなんだよ」と何かの折に話しますし、あと、よくクイズを出します(笑)。「知らない人から、お父さんが事故に遭って病院に運ばれたから連れて行ってあげるよ、と、言われたらどうする?」みたいに。そこから、引っかかってはいけない世の中のワルいからくりを話し合うんです。防衛心は強く持っておく、ということは、私自身も仕事柄昔からよく考えていたことなので。

──何かを選ぶとき基準にしてることは?

hitomi:自分がちょうどいいと思う感覚は大事かもしれないです。たとえば、ラー油ひとつ選ぶのでも、「ウチではコレなんだよな」っていうのがあるじゃないですか(笑)。誰かがいいと言ってるものが自分にとって正解じゃないこともあるし、値段が高いものがいいってわけでもない。経験に根差した自分の感覚を信じるということなのかなと。「この情報は今の私には必要ない」という切り捨て方も大事ですよね。人間関係でもそう。50歳にもなってくるともう無理する必要もない。嫌われてもいいから断ろうってこともありますね。

──共感します(笑)。

hitomi:「嫌われる勇気を持ちなさい」と子供たちに言うこともありますね。選択を他者に預けないで生きたいという思いが、私のなかでは強いのかもしれません。でもそれは、自分が育ってきた環境によるところが大きいと思うので、この昭和生まれの人間が、時代も生き方も違う今の子供たちに何を言ってみても難しい。いろんな経験をして自分なりの道を選んでいってくれたらなと。

──hitomiさんにとって音楽を生業とすることの意味が、昔とは変わってきていますか?

hitomi:世の中がこうであってほしいと願いながら作るというところは共通してるんですけど、昔はもっと自分のために歌ってた気がしますね。今はそれだけじゃない。視点がグローバルになってきてるというか、子供たちの未来がどうあってほしいかという願いを込めて歌ってます。

──歳月がもたらした変化なんでしょうね。

hitomi:年を重ねるということに対しては、日本はまだネガティブなところがあると思うので、何歳になっても楽しく歌っていこうと思ってます。それが誰かの元気や勇気につながったらなと。自分のために歌っていた頃は、人にどう聞かれているかなんて思いもしなかったんですけど、「あの頃、勇気をもらえてたんですよ」と言ってくださる人と出会うと、昔の曲も大切に、あらためてその人の胸に響くように歌いたいなと思います。あと、最近感じているのは、年齢を重ねるとアーティスト同士が自然に会えるようになるなということ。

──そうですか!

hitomi:先日収録で、大黒摩季さんと(相川)七瀬ちゃんと一緒に歌う場面があったんです。昔だったら「そんなことある?」っていう並びですよね(笑)。活動のスタイルや道のりは違うけど、それぞれに苦労してここまできてるから、話してみると意外と思いや感覚が近いんです。みんな一緒なんだなと思えて、なんか嬉しかったんですよ。垣根のないところできる新しい表現というものもまたあるわけですし。

──表現者として、ここからが本当に面白いのかもしれません。

hitomi:昔はバチバチに火花飛ばして、喋らない者勝ちみたいなところがありましたけど、老眼で見えなくなったねとか、腰痛あるよねとか(笑)。今は話題に事欠かないので、和やかなムードから入っていけるんです(笑)。そんなように笑いながら話せるようになったのも、ここまでやってきたご褒美なのかもしれませんね。

取材・文◎藤井美保
写真◎野村雄治