「M-SPOT」Vol.046「シンガーソングライターと語ることの、光と影」

2025.12.16 20:00

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職業作家や劇伴作家・作詞家や作曲家であると標榜し、特定の音楽制作に専門特化した音楽家も多く存在するけれど、一方でプロデュースワークも含めた音楽活動全般をDIYで行うミュージシャンも少なくない。バンドという形態も「集団によって完成されたひとつのDIYの姿」であろうし、自らの作品は自己完結させるという「シンガーソングライター」も、そのスタイルのひとつであろう。

とはいえ、今やシンガーソングライターという言葉の意味も大きく変わった。かつては、楽器ひとつで自らの作詞曲を歌うというスタイルから、自ずとギターやピアノの弾き語りに代表されるような活動形態を指す言葉でもあった。が、時代が進みDIYツールが究極進化したことにより「シンガーソングライター」と語る人の活動形態は、必ずしも弾き語りを指すものでもなければ、生演奏をひとりで行うスタイルを指すものでもない。

「シンガーソングライター」という言葉は「メロも歌詞も自分で作り歌も歌う」という文字通りの意味を指すだけであり、音楽性や活動スタイルを特定するものではなくなった今、「シンガーソングライターである」と語ることの意味はどこにあるのか。どんな利点や弊害があるのか…いつもの通り、コメンテーターはナビゲーターのTuneCore Japanの堀巧馬とTuneCore Japanの菅江美津穂、進行役は烏丸哲也(BARKS)である。

   ◆   ◆   ◆

──今回はMam_i_というアーティストの「あっちゅーま!」という楽曲を紹介させてください。プロフィールによると「2019年から都内を中心にライブ活動を開始。弾き語りの枠にとらわれることなく、自身でトラックメイクした楽曲も多数配信している。2022年には男女3人組ボーカルグループ『OSTRIP』を結成し、同年に配信開始した「くちぶえ」という楽曲は総再生回数9万回を突破。」とあるミュージシャンです。


──とてもいいでしょ?曲も歌も魅力的なんですけど、自らを「ギター弾き語りシンガーソングライター」と呼んでいるんです。でもサウンド的には弾き語りではなくバンドサウンドですよね。実際バンドも組んでいる。ここで「シンガーソングライター」というプロフィールからイメージするものと、実際の作品とのギャップが生じないのかという老婆心が生まれまして。

堀巧馬(TuneCore Japan):確かに。シンプルにいい歌だと思うんですけど、シンガーソングライターって「自分で作詞作曲して、歌いもする」というだけの意味のはずなんすけど、「ギター弾き語りシンガーソングライター」って言われると、ギター1本でストリートでやっている女の子みたいなイメージがあります。

──ですよね。

堀巧馬(TuneCore Japan):でもこの「あっちゅーま!」という楽曲には、それだけじゃない要素がすごく散りばめられてるじゃないですか。もはや「シンガーソングライターってなんだっけ…」みたいな印象を持ちますね。

菅江美津穂(TuneCore Japan):確かに。

堀巧馬(TuneCore Japan):楽器ひとつだったら自ずと弾き語りスタイルになるけれど、DTMを使えば普通にバンドサウンドも表現できてしまう時代だから、このMam_i_さんも、弾き語りに限らないような引き出しがたくさんあるんだろうな、と思います。

──「ギター弾き語りシンガーソングライター」って言い切ると、良くも悪くもその枠にはまられて、これがギャップ萌えにつながるのか違和感になってしまうのか難しくないですか?いろんな素養/キャパシティがあるのであればこそ、最も主張したい自分の魅力を問いただしてみると、自分の肩書きも変わってくるかもしれない。aikoも椎名林檎も宇多田ヒカルもMIWAも「シンガーソングライター」ですけど、アーティスト像はそれぞれ違いますよね。

菅江美津穂(TuneCore Japan):調べてみると、Mam_i_さんはバンドも2つ入っているみたいです。SNSアカウントもYouTubeもちゃんとあるし、サブアカウントで「あなたの思い出を動画にしませんか」っていう新企画を立ち上げてたり、めちゃめちゃ多岐にわたって活動していますから、「何かどれかが世に広まるきっかけになれば」と思っているようにも見えます。

──できることは全部やりたいということですね。

堀巧馬(TuneCore Japan):パワフルですよね。バイタリティがすごい。

菅江美津穂(TuneCore Japan):すごいバイタリティなので、もしかしたらシンガーソングライターっていう肩書を敢えて語っているのかもしれない。

Mam_i_

堀巧馬(TuneCore Japan):確かに。でも単純にリスナー目線でみれば、シンガーソングライターっていう言葉には弾き語りのイメージが強いから、言葉を扱うアーティストだからこそ、そこには意図があるということかな。「あっちゅーま!」を聴く限りは「シンガーソングライターってなんだっけ」って思ったけど(笑)。

菅江美津穂(TuneCore Japan):様々な活動をやりすぎているので、「シンガーソングライター」と書いたことを失念している可能性もあるかも(笑)。昔の動画を見ると確かに弾き語り系なので。

堀巧馬(TuneCore Japan):活動とともに進化していった経緯はあるんでしょうね。

──やりたいことや表現の幅があればあるアーティストほど、実態とイメージに乖離が起こるかもしれないですね。例えば、古山菜の花もSSWですけど「令和のたま」という愛称の方がピンとくる。堀さんの指摘する「シンガーソングライターってなんだっけ」というように、たくさんの魅力と可能性を持っているアーティストであればこそ、どこを突破口にすれば興味を持って知ってもらえるか、しっかりと見つめたほうがいい気もするんです。

堀巧馬(TuneCore Japan):おそらく、いつまでもミュージシャンにまとわり付き続ける永遠の課題なんでしょうね。アイデンティティって、音楽そのものを指すのかアティテュードを指すのかによっても違いがあるから。

──ひとつの枠で捉えられることへの抵抗感もあると思うんです。「いや、そんだけじゃねえし」って。「名刺代わりの一曲」と言われても、100曲全部が自分だし…って思うのがアーティストの当たり前ですからね。でも一般人の我々も同じでしょ?誰しもいろんな顔と多面性を持っているけど、出会った時の第一印象から人付き合いが始まるわけで。

堀巧馬(TuneCore Japan):アーティストにもいろんな経歴もありますからね。

──そうそう。だけど受け手(リスナー)はそんなに都合よく理解してくれないよね、っていう話だと思います。

堀巧馬(TuneCore Japan):めっちゃわかります。ある意味、リスナーと自分のやりたいこととのバランス取りみたいなところもある。じゃあどうすればいいの?と言えば、もう、決めの問題ではありますけど。

──ですね。その上で「シンガーソングライターと名乗っているんだ」と言われたら、余計な話をごめんなさいとしかいいようがない(笑)。

菅江美津穂(TuneCore Japan):そんなことわかってるよって(笑)。

堀巧馬(TuneCore Japan):すみません、みたいな。

──才能豊かな人に限って、そういう悩みがつきものとも思うんです。今回「あっちゅーま!」という語感を曲タイトルにしているところにも何らかの意図を感じたところなので、自分が持っている振り幅を思いっきり振り回すのも、戦略としてアリですよね。

堀巧馬(TuneCore Japan):ありだと思います。この「あっちゅーま!」という曲も、実は、極めてJ-POP~J-ROCKらしくて、洋楽では絶対に聴けないサウンドだと思うんです。そういう「現代の日本の音楽らしさ」も魅力というか大きな武器だと思うので。

──1980年代以前の洋楽で育まれた音楽センスとは明らかに異とするものですよね。ルート+5度だけの調感のないパワーコードで殴りかかるようなロック文化ではなく、ボーカロイド文化を礎にしたようなギター単体メロのリフでしなやかに弾けるようなフレージングを選ぶ手法は、楽器プレイの指癖から脱却した証とも言えるもので、ボカロP誕生の紀元後が生んだ日本の独自文化と思うんです。

堀巧馬(TuneCore Japan):その感じって、耳で聴いているだけで感覚としてありますからね。もはや日本人の音楽DNAなのか、みたいなところかもしれない。

──音楽っていつもその時のテクノロジーと大きく関わっていて、楽器メーカーが打ち出すサウンドと時代の音楽って互いに影響し合っているんです。ここ20年でギターの歪みはより少なくなり、ベースの音域は超低域まで拡張され、基準値が変化する中でフレーズやアンサンブルも変貌を遂げる。囁くようなウィスパーボイスが登場したのも、リスニング環境がオーディオではなくイヤホン/ヘッドホンに変わったことが要因として大きいですから。

堀巧馬(TuneCore Japan):確かに音の特徴はありますね。

──欲しがる楽器も出したがる音もDNAが変わったという。Mam_i_というアーティストもそういう文化の真っ只中にいる才能豊かなミュージシャンですから、今後の活躍にも大いに注力したいと思っています。

Mam_i_

ギター弾き語りシンガーソングライター。 2019年から都内を中心にライブ活動を開始。 弾き語りの枠にとらわれることなく、自身でトラックメイクした楽曲も多数配信している。 2022年には男女3人組ボーカルグループ『OSTRIP』を結成し、同年に配信開始した「くちぶえ」という楽曲は総再生回数9万回を突破。
https://www.tunecore.co.jp/artists/mam_i_

協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.

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