「M-SPOT」Vol.044「redrawにみる、ネット時代の研ぎ澄まされたバンド形態」

2025.12.02 20:00

Share

インターネットが根付き、様々なツールが生活に不可欠となった現代、ミュージシャンの活動の仕方もその価値観もじわじわと変革を遂げ、今では文字通り「言葉の壁」も「国籍」も「時間」も「距離」も飛び越えて、自在な活動が可能となった。共通する志向と価値観、そしてそこにお互いのリスペクトがあれば、ロックバンドの形態ですらネット上での活動を容易にする。そんな現実を鏡のように映し出すバンドがredrawだ。

いつもの通り、コメンテーターはナビゲーターのTuneCore Japanの堀巧馬とTuneCore Japanの菅江美津穂、進行役は烏丸哲也(BARKS)である。

   ◆   ◆   ◆

堀巧馬(TuneCore Japan):redrawというアーティストをご存知ですか?2人組のバンドなんですけど、ひとりが日本人で、もうひとりはアメリカに住んでいる方々で、ふたりの出会いがオンライン上なんです。つまり、音楽で結ばれた地球の反対側の2人組なんですよ。すごく今の時代っぽいなって思いませんか?

──え、離れたまま活動し続けているんですか?

堀巧馬(TuneCore Japan):人種とか言語を超えて音楽性や求めるところで繋がって、作曲やボーカルレック(録音)をお互いで分担してオンライン上で完結しているという、すごく面白い活動をしている人たちなんです。

──もしかしたら、会ったこともないのかな。

菅江美津穂(TuneCore Japan):どうなんでしょう。直接は会ってないのかもしれないです。

──確かに会わなくたって完結するのであれば、「会う必要ある?」って言われると口ごもっちゃうね。

菅江美津穂(TuneCore Japan):推しとかファン文化のような「共通の趣味や価値観でつながる」のは理解できますけど、それで制作まで行なっているのは今っぽいと思いますね。


堀巧馬(TuneCore Japan):ビジネスがオンラインでも可能なのは、やりたいことや伝えるべきことが言語化しやすいからですけど、音楽制作ってものすごく言語化が難しいですよね。「こんな企画をやりましょう」とか「こういうイベントをやりましょう」とか、そういうものではないでしょう?それぞれの内側にあるもので、人によって「言語化が上手な人」もいれば「できないけど理解はできる」とかいろんなタイプがいるから、ふわっとした中で進めていると、どうしてもコミュニケーション量が増えていくことになる。オンラインでもできるけど「会ってスタジオに入ったほうが楽じゃね?」みたいな。だからこそ、オンライン上だけで曲を出し続けられるって本当にすごいなって思うんです。音楽以前に、人としての相性も奇跡的に合ったのかって思うので。

──アメリカ在住の方はアメリカ人なのかな。日本語は…。

堀巧馬(TuneCore Japan):アメリカ人のようで、日本語は今学んでいるみたいなんです。なので、バンド間でもネイティブな言語は異なっているみたいなんですよ。

──それは凄いな。

堀巧馬(TuneCore Japan):ヒップホップ・アーティストみたいに、トラックメーカーがいてそこにラップを乗せるという完全分業であれば、言語の違いも問題にならないですけど、バンドってそういう話じゃないですよね。どういう風に進めてるかは分からないですけど、メロディーの載せ方ひとつにしてもお互いにコミュニケーションを取り合っていると思うんですよ。

──キャッチボールが成り立っている時点で、ふたりの相性の良さってあるんでしょうね。

redraw

堀巧馬(TuneCore Japan):わがままが強すぎてもうまくいかないでしょうから、エゴの強さ以上にリスペクトがあるんでしょうね。イメージと違ったものが返ってきたとしても、じゃあこれをもっと良くするにはどうすればいいのか、みたいな思考なのかもしれない。

──それこそがバンドの醍醐味でもあるし。それにしても言語を超えて意思疎通が取れている点がすごいですね。日本語って「キラキラした音」「温かい音色」「重たいサウンド」とか抽象的な表現が多くて、言語への理解が乏しいと伝わるものも伝わらない(参照:「オノマトペが奏でる、J-POP/J-ROCKの魅力」)言語体系なので、日本人とアメリカ人がオンラインで疎通していることがある種の奇跡って思います。

堀巧馬(TuneCore Japan):具体的な手順よりも、抽象度が高いけど最終的な印象/雰囲気からアプローチするほうが近道になるって、音楽全体で共通しているかもしれないですね。とはいえ、使用する言葉は違うからねえ。

──「もっとふわっとした音にしたい」とか、英語ではどう表現するんでしょうね。そういうコミュニケーションがredrawのふたりの間では自然にできているような気がする。

堀巧馬(TuneCore Japan):確かに。「もうちょっとあったかく」というときに「more warm」でニュアンスは合っているのかわからない(笑)。

──直訳しても意味がないのかもしれないし。

堀巧馬(TuneCore Japan):色にしても、日本語では「暖色」「寒色」と言ったりするけど、これって概念で、実際に熱かったり冷たかったりするわけじゃないですから、伝わるのかどうかわからないですね。

──音を重ねるたびにお互いにいろんな発見があって、そこからリスペクトも重なって、それを何曲も続けて活動が続いているという奇跡ですね。音を出し合ってやり取りするたびにワクワクがあるんだろうと想像します。

堀巧馬(TuneCore Japan):本当にそうですね。活動そのものも面白いし、単純に音楽だけ聴いてもすごい高い水準にある。天賦の才を持ったふたりだからこそ、この活動形態をうまくやっているんでしょう。

──それをさりげなくやっている。ネット時代のバンドのあり方として、ひとつの成功雛形になればいいなあ。

堀巧馬(TuneCore Japan):場合によっては、直接合わないほうがうまく進むという微妙な人間関係もあるし(笑)。

──あるある(笑)。

堀巧馬(TuneCore Japan):普通に日本人同士でバンドを組んでうまくいかなかったけど、SNS上で知り合っった全然知らないアメリカ人とやった方がうまくいくとか、ちょっとありそう。この距離感だからこそいい感じでコミュニケーションも取れるしリスペクトもできるという。近くなりすぎて、見たくないものも見ちゃうってありますからね。

──redrawのおふたりの過去経歴にも興味が出てきた(笑)。

菅江美津穂(TuneCore Japan):プロフィールを調べてみたら、日本人のRuiが歌唱でアメリカ人のdroがプロデューサー。ミキシングやマスタリングなどは実績のあるプロフェッショナルの方々が携わっているみたいです。

堀巧馬(TuneCore Japan):面白いですね。作り方は本当にDIY。「droがアメリカの大学寮でトラックを制作し、Ruiは日本の小さなクローゼットで歌を録音する」って。

菅江美津穂(TuneCore Japan):すごい惹かれる文章ですね。Discordでアイディアを共有しているみたいですよ。ツールひとつとっても新しいですね。

堀巧馬(TuneCore Japan):逆に、「自分たちだけではどうしようもないところをしっかり外部にお願いしよう」みたいなところでやっていますね。

──その考え方と捉え方は、まさにプロフェッショナルですね。

堀巧馬(TuneCore Japan):自分たちが求めたものがアウトプットできれば、後はぶっちゃけなんでもいいよねっていうのが共通認識で持っていそう。


──「雨色」の8分刻みのギター&ベースサウンドも脚色のない8ビートも、引き算をさんざん経験した結果だったんですね。ボーカルを最も際立たせるアレンジとしてこのシンプルさに帰着するところにただもんじゃない感がありますよ。上から目線で勝手を言っていますが(笑)。

堀巧馬(TuneCore Japan):いや、でもわかります。削げば削ぐほどシンプルなものの方が、表現に対する技術力がめちゃくちゃ目立っちゃうんで、「シンプルだけど、結局聴ける音楽」っていうのは、そこに裏打ちされているんでしょうね。

──Ruiとdroの間で自分たちの魅力を把握している証ですね。その上での歌と声ですから、自由度が広くて今後どんな作品を出すのか全くわからない。そこも楽しみ。

堀巧馬(TuneCore Japan):超楽しみ。応援したいですね。マジで出会っちゃった感があるバンドです。

redraw

音楽で結ばれた、地球の反対側のJ-POPデュオ redraw(リドロー)は、音楽で結ばれた地球の反対側の二人組。プロデューサーのdroとボーカルのRuiによるデュオで、物理的な距離や時差を越えて感情を共有する、新しい形のグローバル・ミュージックプロジェクトとして注目を集めている。
2024年2月、SNS(X)を通じて出会った二人は、異なる国、異なる言語、異なる環境の中でも、音楽というたった一つの共通点で深く繋がった。droはアメリカの大学寮でトラックを制作し、Ruiは日本の小さなクローゼットで歌を録音する。その距離を隔てた制作環境から生まれるサウンドは、まさに“距離を越えた世代の音”を象徴している。
すべての楽曲はDTMを用い、自宅で制作される。これは単なるホームレコーディングではなく、デジタルネイティブ世代の自由な創作精神を象徴している。13時間の時差を超え、Discordでアイデアを共有し、編曲し、磨き上げていく。このリモート制作の構造は、現実的な制約よりも感情の繋がりを大切にするredrawの哲学そのものだ。
音楽的クオリティもまた、彼らの最大の武器である。Wave Yoo(IU、BLACKPINK Jennie)、Ariel Chobaz(Lil Wayne、Nicki Minaj)、Adachi Yoshinori(Mrs. GREEN APPLE)といった名エンジニアがミキシングに参加。さらに、Idania Valencia(Charlie XCX『brat』/グラミー受賞)、Chris Gehringer(Dua Lipa、Lady Gaga)がマスタリングを担当。インディーシーンでは稀に見る世界水準のサウンドを実現している。外部マネージメントに頼らず、プロダクション・A&R・ネットワーキングまですべてを自分たちで行う。自立したシステムを持ち、戦略的にクリエイティブを展開しているのも特徴だ。
redrawの音楽は、単なる“曲”ではない。 dro自身が執筆した小説やエッセイをもとに作られた物語的な作品であり、各曲が独自のテーマとメッセージを持つ。中でもシリーズプロジェクト「Midnight Therapy」は7~8曲が連なり、一つのストーリーとして展開される。音楽、映像、物語が有機的に結びつくこの構成は、redrawを“アーティスト”ではなく、“物語を創るチーム”として際立たせている。
2024年7月、デビューシングル「Mint for Two(二人のミント)」をリリース。iTunes J-POPチャートで複数の国にランクインし、鮮烈な印象を残した。その後も約1年で8曲のシングルをリリースし、各曲ごとに異なる世界観を描きながらも、一貫した美学と完成度を保っている。そして2025年後半には、オンラインでの活動からさらに踏み出し、スタジオライブ映像やリアルなパフォーマンスコンテンツの展開を予定している。リモートバンドとして培った独自性を持ちながら、現実のステージで“僕たちの世代のJ-POP”を体現していく。
redrawは、距離や時差ではなく、感情と物語で繋がる音楽の力を信じている。音楽が国境も言語も超える時代において、彼らはその中心で、新しい形のJ-POPを描き続けている。“空間を越えて、感情を共有するグローバルデュオ”それがredraw。そして、僕たちが描き続ける新しい音楽の地図だ。
redrawのメンバー:Rui & dro
https://www.tunecore.co.jp/artists/redraw

協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.

◆「M-SPOT」~Music Spotlight with BARKS~
◆BARKS「M-SPOT」まとめページ